Lost Mise 〜失われし約束〜
三章



いかないで・・・・
いかないで・・・・・・
おいていかないで・・・・・・
そばにいてよ
ねえ、やくそくしたよね?
ずっとそばにいてくれるっていったじゃない
まもってくれなくていいから・・・・・
きずつけたっていいから・・・・・・
ただそばにいてくれるだけでいいから・・・・・
おねがい・・・・・
いかないで


ひたひたと裸足のまま中庭の土の上に降り立つ。
そのままある場所を目指して一直線に進む。
途中にある池も裂けようとせずそのまま水の中に浸り服の裾をぬらして突き進む。
やがて池の端、その木に触れられる所まで来ると足を止める。
そしてその木を愛しそうに撫でてやる。
それはまるで自分の子供にでもするような感じだった。
彼女の目はすでに虚ろで自分がそこで何をしているのかということもわかっていないのだろう。
ただ心の奥底にあるそれにだけ突き動かされている。
そして、まるで縋り付くようにその木に身を預けるとまるで糸の切れた人形のようにずるずるとその場に倒れ伏してしまった。
その椿の木に見守られながら。


プラチナが目を覚ましたのは寝てからほんの1時間足らずであった。
それは単に寝付けなくて起きたのではなく、何かを予感して起きた。
そんな感覚だった。
半身を起こして部屋を見回し、あることに気づいて一瞬思考が止まった。
「姉・・・上?」
部屋のソファで寝ているはずのアレクの姿がなかった。
単に自分の部屋に戻った等の考えもあるのだがこの時のプラチナには何か嫌な予感がしていた。
大分楽になった体をすべて起こし床に足をつける。
夏とはいえ高地のため気温の低くなる夜の空気で冷たくなった床から足に冷たさが伝わってくるのも気にならなかった。
それよりも今は言い知れぬ不安に突き動かされていた。
部屋を出て向かうのは確認のためにまずアレクの部屋へ。
もしかしたら本当に部屋に戻っているかもしれないと不安をかき消すため一種の気体をそこに向ける。
アレクの部屋に続く階段付近の廊下を通り過ぎよとした時、誰かの声がした。
「ちょ・・・こんな所で・・・・・だめ、んっ!」
「別に良いだろ?こんな夜中に誰も来ないって」
「で、でも・・・あっ・・・」
「お前達、何をしてるんだ?」
少し気になって声の主を確認しに行ったプラチナが見たのはジェイドと壁を背に追い込まれているサフィルスの2人だった。
ジェイドの方は一瞬驚くがすぐいつもの調子に戻ったのに対し、サフィルスの方は顔を真っ赤にしてはだけた襟元を必死に直している。
「こんな夜中にどうなさったんですか?」
2人がここで何をしていたかも気になるがアレクの行方の方が優先されたプラチナ素直には2人にそのことを尋ねた。
それを聞きジェイドは暫く考えて。
「アレク様かは解りませんが先程いっかいに降りていく足音を聞きましたけど」
「そうか・・・取り込み中悪かったな」
そう言って早々と一階に続く階段に向かう主を見送るとジェイドは先程に続きを始めたのだった。


ガチャリとへなの扉の鍵が開く音がした。
そのまま扉を開け部屋に入るとアレクを彼女自身の部屋のベッドに横たわらせた。
「熱があるな・・・」
アレクを発見したのは中庭に差し掛かる渡り廊下だった。
何かに惹かれるように渡り廊下に出て数歩言った先で中庭を見ると見事な椿の木の下に半身を池の水に浸したままの彼女が倒れていた。
慌てて抱き起こし、何度も声をかけたりしたが起きない。
仕方なく、昨日ジェイドから彼女の部屋の合鍵をもらったことを思い出しここまで運んできたのだ。
「・・・医者を呼ばないとな」
部屋の中を見渡し内線のみ使用可な電話を見つけそれに近寄ろうとした。
だが何かに引っ張られる感覚と共にそれ以上先には進めなかった。
目線をやると虚ろな瞳のアレクが必死にプラチナの袖を引っ張り引き止めていた。
そして彼女の唇は何かの言葉を形作っていた。
「・・・姉上?」
「いかないで・・・・・いかないで・・・・・」
今度はプラチナの耳にはっきりと聞こえた。
そんなアレクに困ったように、けれどどこか嬉しそうな笑みをプラチナは返す。
「少し電話をするだけだ。どこにも行かないから・・・」
安心させようと優しく言ってもアレクには届いていなかった。
ただ壊れたからくり人形のように、古いレコードのように、同じ事を繰り返すだけ。
その様子からアレクが正気でないことをプラチナはようやく悟った。
よろよろとアレクはベッドの上で上半身を起こしてプラチナと向かい合う。
そして今までよりプラチナの袖を引っ張る力を強める。
引っ張られた反動でプラチナの体勢が崩れた。
「!!!」
「・・・・・・・・」
体勢が崩れ自分の方に近づいたプラチナの唇にアレクは自ら口付けた。
その瞳はやはり虚ろなままであったが今までの彼女からはとても考えられない行動だった。
プラチナが呆然としている中、ゆっくりと名残惜しそうに唇を離すとぎゅっと力をこめてアレクはプラチナに抱きつき、またあの言葉を繰り返し始めた。
もうプラチナは電話をすることを諦めたのか、ただアレクの望むとおりにしていた。
片方の腕はアレクの背に回し自分の方により引き寄せるようにし、もう片方の腕・・・というよりも手はアレクの頭を撫でていた。
頭を撫でられるのがとても気持ち良いのか、はたまた嬉しいのか、アレクは正気でないながらもどこか幸せそうな表情を作りそのまま眠りについた。
プラチナはアレクをベッドに寝かせ直すと再び電話に向かおうとしたが眠った状態でもアレクはしっかりとプラチナの袖を握っていた。
振りほどこうかと迷っていたがそれも気がひけるので朝早くに報告すると決め、自分もその傍らに座った状態で眠りについたのだった。



あとがき

・・・・・え〜〜と(汗)
なんだかまた謎が深まっただけ(?)な気がします・・・
とりあえず、ネタばらしすると1章でも出てきた例の椿はこの話の鍵です。
次回4章で急展開・・・するかもしれません(汗)
ああ〜・・・段々とアレクが壊れていってる気がする・・・・・
すいません、すいません、すいません、すいません、すいません(以下無限)
それでは今回はこれで(待て!)


BACK    NEXT