Waking moon
三章(後)・行末(魔窟)
アイス達が魔窟に来て翌日の昼・・・・・
ただし、この世界では昼はルシアの前情報のように、やはり昼は月のである暗闇の世界の方らしい。
大部分の生命が活動を活発にさせるのが昼というのなら、今現在の街の賑わいを見てもそうなのであろう。
特別に何かあるわけでもない、普通に妖魔たちは今を昼と認識しているようだった。
太陽が輝く青の空がみえる世界を昼としているアイス達にとっては不思議な感覚に他ならなかった。
「いっ・・・いてぇ〜〜〜〜!!んな・・もっと優しく出来ねぇ〜〜のかよ?!」
「自業自得でしょう?ったく、不注意で瓦礫の下敷きになるなんて・・・」
「おかげでこっちもいい迷惑だ・・・」
「あっ!そういう事いうかぁ?パロぉ」
「もう!少し落ち着いてよ!!」
余り広いとは言い難いルシアの家に、家の主であるルシアとアイス達7人、それにルシアの幼馴染だという3人が入り込んでいた。
おかげで家の中はさらに狭く感じられる。
ルシアに紹介されたところによると、家に突然飛び込んできたオレンジの髪の少女がシェル、どこかの街に行っていたという少年2人のうち、赤紫の髪にダークグリーンの瞳の少年がスフレ、黒髪でディープバイオレットの瞳の少年がパロらしい。
それそれ、シェルは人魚、スフレは透人、パロが狼人らしい。
そして現在、スフレとパロはルシアとシェルによって怪我の手当ての真っ最中だ。
それというのも、おとされたという街に事実確認に行ったのだが、スフレが誤って瓦礫を崩してしまい、それをとっさに助けようとしたパロ共々下敷きになったらしい。
運良く特に大した大怪我はなかったから良いものの、下手をしたらどうなかった。
ルシアとシェルがスフレとパロの怪我の手当てをしている間、どうも唸っている3人がいた。
「やっぱりねぇ・・・・・」
「そうですね・・・・・・」
「始めてあった気がしませんね・・・」
そういって唸っているのはアクラ、テール、ウォールの3人。
アクラはシェル、テールはスフレ、ウォールはパロに、それぞれあり得ない話ではあるが、初めて会った気がとてもではないがしないらしい。
とても身近に知っている気がすると、他の者の言葉が聞こえないのか、話しかけても3人で唸りっぱなしである。
「・・・だめだな・・・・・・あの3人」
「そやな・・・」
「完全に馬の耳に念仏モードに突入だねぇ〜〜」
アクラやテールならまだしも、ウォールがアイスの言葉に反応しないというのは、多少なりとも3人が感じ取っているものには何か在るという事であろう。
普段のウォールなら、どんな考え事をしていようと、王族の言葉はまず聞き取れ、即座に反応しているはずである。
そのウォールすらああいう状態という事は、余程の重症なのだろう。
一通りのことが終わった後でルシアからこっそり聞いたこの『魔窟』の現状・・・・・
この『魔窟』には全体的な統治者など存在せず、各々の街や村の住人たち自身が各々の代表を選び、それぞれの街や村は他からは完全に独立して生活する。
もちろんそうは言っても、旅人を受け入れもするし、街や村を移りたいというものは遠慮なく受け入れる。
しかし、あくまで全てを決めるのは自分自身で、身分は常に皆同等のもの。
『奈落』や『天上』とは明らかに違うシステムである。
ただ、ここ最近はその『魔窟』の『無言の掟』を破る者たちが現れた。
その者達は、自分たちが全ての街や村、世界そのものを手にいれ、絶対的な立場に君臨しようとしているらしい。
彼らは圧倒的に強く、誰も太刀打ちできず、そのために幾つもの街や村が落とされ続けている。
そして、逆らうものは老若男女関係なしに殺す・・・・・・・・・
「・・・・・酷いな」
「やっぱりそう思うわよね?・・・この街もいつそうなってもおかしくないのよ」
例のティアーユという街とこのルシア達の住んでいる街はそれなりに近いらしい。
ならば、ルシアの言うと通りいつ狙われてもおかしくない。
「なあなあ!何の話?!」
突然話に割って入ってきたスフレに一同は驚いき、びくっと体を少し震わせた。
「いや・・・・・その・・・」
「スフレ・・・詮索するな。悪いな、思慮に欠けたやつで」
「・・・・・それ、どういう意味だよ?パロぉ」
パロの言葉にわなわなと拳を震わせて怒りを露にするスフレだが、パロはいつものこととでもいうようにさらりと受け流している。
先程少し挨拶をして、お互いルシアから一通りの説明を受けただけの間柄だというのに、すでに馴染みという対応を彼らはアイスたちにしていた。
正体不明の自分たちを助けたルシアといい、この世界の者たちはどうも、知らない相手にもすぐ打ち解けようとする性質があるようだ。
「・・・・・もう、2人ともいいかげ」
シェルの言葉を遮りルシアの家が、否、世界が揺れた。
「なっ・・・・・地震!!」
「あ〜〜〜・・・最近多いのよねぇ〜〜〜」
少しあわてた様子のアイス達を尻目にルシア達は冷静に対処している。
「どういうこと?!」
「なんか、最近あっちこっちで頻発してるのよ。地震とか、落雷とか、津波とかの自然災害が」
もう慣れたというような言い方で、特に気にもしてないというようにルシアはそう言った。
妖魔というのは、全員がこんなにたくましい考えを持っていっるのか、と疑いたくなるような言い方だ。
その自然災害の話で盛り上がりそうになっていると、突然パロが何かに反応したように体を震わせた。
「どうかした?」
「・・・・・来てる・・・聞こえた」
「・・・パ・・・ろ?」
「奴らが来てる!異質な声がした!!」
その言葉に一同の間に緊張が走る。
奴ら・・・・・・とはおそらく、先ほど説明された『無言の掟』を破っている者達。
アイス達には何も聞こえていないのだが、パロは多少体を震わせ、スフレは瞬時に窓の傍に移動すると、外から自分の姿が見えないよう、伺うように外の様子を見ている。
「なにも・・・・・きこえないけど?」
「・・・・・狼人のパロの耳や鼻は多種族の数倍良いのよ」
「悲鳴が・・・・・1つ、2つ・・・・・」
パロが声を震わせながらそう言った瞬間、窓の外が赤い色で明るくなった。
それを窓から外を覗き見ているスフレが舌打ちをした。
「奴らの中に、竜人がいるというのは本当だったんだな・・・・・街門に近い家が全部燃えちまってる!!」
どんっと強く壁を叩きつけ、悔しそうに顔を俯かせる。
「・・・・・ここも、すぐにやられるわね」
「どうする?・・・・・一応、俺は覚悟はできてたぜ」
「あたしも・・・・・できれば、こうならないことを願ってたけど」
「そうだな・・・何もしないで、死ぬよりましか」
4人が何かを、それも不吉な何かを覚悟しているようで、アイス達の間に緊張を不安が走った。
そして、4人は顔を見合わせると、一斉に家の扉に走った。
「お、お前ら?!」
「出来るだけの人を助けにいくわ!」
「お前らもすぐ逃げろよ」
そのままこちらの静止も聞かず、4人はまさに殺戮と破壊が繰り広げられているであろう街の中に出て行ってしまった。
取り残されたアイス達は呆然と彼女たちが出て行った扉を見ているだけだった。
そして暫く経ち、ようやく正気に戻る。
「って!この状況で逃げれるわけないじゃない」
「僕たちも助けに行きましょう」
「そうですね」
アクラとテールとウォールの3人の意見に、他の面々も同調し、首を縦に振り急いで後を追おうとする。
「・・・・・待て」
しかし、ここでこういう場面でもっとも意外な人物の一言にとめられる。
「待てって、どういうことですか?!アイス様」
「そうよ!このままじゃこの街もあいつらも!!」
「いいから、黙って俺の話を聞け」
尋常ではないアイスの様子に、一同はびくっと肩を震わせそのまま黙り込んで話に耳を傾ける。
「この世界に頻繁に起こっている自然災害だが・・・・・どう思う?」
「えっ・・・・・?」
「この世界は俺たちの世界の前に存在した世界。その後に俺たちの世界が出来た」
「そうですけど・・・・・」
「じゃあ、俺たちの世界が出来ている以上・・・・・この世界は今後どうなる?」
アイスのその言葉で一同は思い至った考えたくもないが、しかしそれが実情であろう結論に息を呑む。
「・・・・・『虚無』に還る?」
「ああ・・・・・そして、自然現象を起こすことなんて、あの『四季の王』にとっては容易いはずだ」
現にかつてスノウは、アレクのためにすでに春になっているというのに、一晩で雪を降り積もらせたくらいなのだから。
「今この世界に起こっている自然災害は・・・・・『四季の王』がもたらしている、この世界の行末・・・『虚無』に還る前兆・・・」
すでに街の大半の人たちがその命を奪われ、ほとんどの建物が焼き払われている。
アイス達はそれぞれが別れて街の人達の救出、及びルシア達を探すことにした。
先ほどの話でこの世界がもうすぐ無くなるということは全員理解した。
いずれは世界そのものが消え去る以上、この街だけ助けても意味があるのかと、アイスは一同に尋ねた。
その瞳と口調、溢れる雰囲気は、彼が『奈落』の次期王位継承者であるということを改めて認識させる崇高なもので、妹のアクラでさえ威圧感を感じた。
しかし、その威圧感に耐えながらも、「それでも最期の時まで生きる権利はある」と主張した。
そしてそんな一同に、アイスは笑って「それでこそお前らだ」と言い、その後に一斉にルシアの家を出た。
ようするに、アクラたちはアイスに、『助けたものが次の日にはいないかもしれないことに耐えられるか』という覚悟を試されたわけだ。
「んっとうに、遠まわしよね・・・・・兄上」
「でも、さすが王子って気がするけどぉ〜〜」
「・・・・・それでも、この『四季の王』達の件が起こってからの兄上・・・・・少し」
アクラが普段からは信じられない神妙な面持ちで何かを言おうとした時、目の前に信じられない光景があった。
「・・・・・シェルっ?!」
そこには、崩れた建物の残害の下敷きになり、血を大量に流したシェルがいた。
ぐさっりと突き刺さったナイフ。
それを見て目を大きく見開いたテールは一瞬思考を停止させた。
目の前に横たわっているのは、ナイフを深々と突き刺され、力なく横たわっているスフレの姿。
「ちょっ・・・・・しっかりして下さい!スフレさん」
思考が戻ったテールは慌ててスフレの傍に駆け寄る。
テールが呼ぶとスフレはうっすらと瞼を持ち上げ、ようやく焦点がかすかに合わさった瞳でテールの顔を見る。
「あっ・・・・・おまえ・・・か。・・・・・ちょっと、ゆだ・・んして・・・・・このざま」
「しっかりして下さい!すぐにシャルト呼んで治療を」
そう言いつつもこの場を離れるわけには行かないと思い、どうするべきかとテールが右往左往しているをじっと見ていたスフレがなぜか儚げに微笑んだ。
「そっか・・・・・そぅ・・・おまえ・・・・・が」
「・・・・・かなり傷が深いですね」
パロ深手を負いながらも敵と戦っていたのを発見したウォールは、パロを援護しその敵を倒したが、パロのほうもダメージが深くほとんど虫の息だ。
「この場にシャルトか・・・・・アイス様でもいらっしゃれば良かったのですが」
あいにくも、治療系の魔法を取得しているのは、アイスとシャルトの2人だけだった。
「とりあえず、応急手当だけでも・・・・・」
そう言って実行しようとした瞬間、その手を傷を負っている相手がしているとは思えないほどの力で、パロに握られた。
「い、いんだ・・・・・それ、よ、り・・・・・きい・・・・・て、ほしい・・・・・」
「治療がいらないって!どういうことよ!!」
瓦礫の下敷きからようやく助け出したシェルに言われた言葉に、アクラは怒りにも似た思いで講義の声をぶつけた。
しかし、シェルは儚く微笑んで見せた。
「どうせ・・・・・たすからない・・・・・から」
「そんなの今から、諦めたどうするのよ!」
「・・・・・解るのよ・・・・・だって・・・・・あなた、が」
「おまえが・・・・・おれ、なん・・・・・だよ」
微笑んだままそう告げるスフレの言葉を呆然とテールがただ聞いているだけだった。
「おれの・・・・・たまし・・・おまえ・・・・・がもってる」
「きみが、おれの・・・・・うまれ・・・・・かわり・・・・・」
スフレの弱々しいがどこか希望を含んでいる声にウォールは静かに彼に従って耳を寄せいた。
「だから・・・・・きぼうが、もて・・・る」
「あなた・・・・・はとおい、みら・・・・・のあた、し」
「わかるさ・・・・・おなじ・・・・・たましい、なん・・・だから」
「かつての・・・・・『俺』のぶんまで・・・・・『君』がいき、てくれ・・・・・」
「しあわせ・・・・・なって・・・あたしは・・・・・うれし・・・わ」
「『お前』が・・・・・『俺』で・・・・・・・・・・」
「『君』として・・・・・いきる、みらいが・・・・・たのしみ、だ・・・・・」
「ただ・・・・・おねがい・・・・・あのこ・・・・・をよろ、しくね」
「あいつは・・・・・ちがう・・・・・・・・・・から」
「そのまま・・・・・で、みら・・・・・へ」
燃え盛る業火の中をアイスはルシアたちを探して走り回っていた。
「っ!ルシア!!」
そこでようやくルシアを見つけたが、敵と応戦しているようだった。
しかも、背中には見慣れない黒い蝙蝠のような翼を生やし、手にはとても武器とは思えない、むしろ見たまま楽器に分類されるフルートを持っていた。
あれでどうやって戦っているのかと思ったその時、ルシアがフルートを吹いた瞬間一斉に目の前の敵が倒れた。
「?!ルシア!」
「あっ・・・・・あんたか」
何か少し、浮かない顔をしたようにも思えるが、すぐにアイスの知っているルシアの表情をする。
「大丈夫か?!」
「うん・・・・・まあねっ」
「・・・・・今、何したんだ?」
「ふっふ〜〜ん♪あたし達吸血鬼は、空気を振動させることによって、動植物に色々な影響を与える能力を持ってるのよ。もっとも、あたしはまだ力のセーブが完全にできないから、このフルートを通してやってるんだけど」
それで先ほど敵がいきなり倒れたわけかと納得する。
「アイス!!」
当然聞こえた良く知った声に、アイスが反応すると、そこには呼んだ張本人であるブリックとシャルト、そしてどこで合流したのかテールの姿もあった。
ただ、どことなく3人の雰囲気が・・・とくにテールのものが暗いことがわかった。
「・・・・・何かあったのか?」
「なに、か・・・・・あったのも!」
「す、すいま・・・・・せん」
がたがた震えるシャルトが涙を流しながらルシアか、あるいは別の誰かに謝罪しているようだった。
「シャルトのせいやない!」
「そ、うです・・・・・僕がっ」
俯いてずっと黙っていたテールが突然、ばっと動いてルシアに向かって土下座する。
「テール?!」
「すいません、ルシアさん・・・・・スフレさんが・・・・・」
「!!スフレが、どうかした・・・?」
ルシアの中ではすでにある考えが浮かんでいた。
最悪のケースを想定すれば簡単に至ることなのだが、それを信じたくなくて、覆して欲しいというかすかな希望を持って、あえてテールの言葉を待った。
「・・・・・僕が、僕が目の前にいたのに・・・何も出来なかったから・・・・・」
「テールだけが、誤ることないわ・・・・・」
いつもの明るい声とは正反対の無気力な声で現れたのは、アクラだった。
傍らにいるシエナもいつもの元気はなく、悲しげな表情だった。
「アクラさ・・・・・」
「シェルも・・・・・さっき死んだわ・・・あたし達の目の前で」
「っ!!」
「そんな・・・・・っ!」
「パロも、です・・・・・」
最後の1人であるウォールまでが突然現れてその言葉を口にした途端、ルシアの体の震えはさらに大きくなり、外れてほしかった予感が当たってしまったことに対する絶望に打ち震えていた。
ぐらり、と何の前触れもなくまたしても突然世界が揺れた。
「こんな時に、またっ!」
ちっとアイスは舌打ちをして苦々しそうにそう呟いた。
「・・・・・あんた、たちのせいじゃない」
突然ルシアが掠れるように言ったその言葉に全員が目を見張った。
涙を流しているのか、いないのか、俯いたままで顔が見ることが出来ないが、掠れている中にどこか強いものが秘められていた。
「だから、気にすることない」
立ち上がり、ぐいっと俯かせている顔を袖で拭いたということは、やはり泣いていたのだろう。
「ルシア・・・・・・」
「それより、あんた達はさっさと元の世界に帰りなさい」
何の前ぶりもなく突然言われたその言葉に、アイス達は戸惑う。
ルシアが何を考えているのかが読めないのだ。
「戻れって・・・どうやって戻るかも・・・・・・」
「あの、泉だ・・・・・・」
アイスがポツリと漏らしたその一言に一同が一斉にアイスのほうを見る。
「泉って・・・・・この世界に来た時の?!」
「ああ・・・あそこにまた飛び込めば・・・・・良いみたいだ・・・」
おそらく例の能力が発動したために『知った』のであろうが、アイスはどこか複雑そうな表情をして額に手を当てている。
「なんで・・・・・・こんなにタイミングよく・・・・・・」
「なんだか、解らないけど・・・・・行くわよ!」
「え・・・・・でも・・・」
「・・・・・この街の、ことならもう良いから!」
切羽詰まった様子のルシアが1番近くにいたシエナの手をアクラの手を引っ張っていったために、他の面々も否応なくその後に続くことになった。
例の泉は月明かりに照らされ、光を反射してここがまるで特別とでもいうような、一種の神々しさがあるように見えた。
「ここでさ・・・よく、シェルたちと遊んだのよ。シェルは人魚だから、泳ぐの得意でね・・・」
「ルシア・・・・・・」
今はもういない幼馴染達のことを思いながら泉を見つめるルシアの姿がとても哀れに思えた。
「・・・もうすぐ、この世界なくなるんだってね」
「なっ・・・!どうして・・・」
「シェルたちと家飛び出したすぐ後、1回家に戻ったら聞いちゃってね・・・盗み聞きしてごめん・・・・・」
あの時かと、ことが事だったとはいえ、アイスは自分の警戒の怠りようを悔いた。
「でも、ルシア!この世界は・・・」
「あんた達はこの世界の跡にできた世界に生きてるんでしょう?だったら、どっちみて無くなる・・・・・それに・・・」
くるりと振りかえったその表情は何かが吹っ切れているかのようなものだった。
「例え、この世界がそれでも助かる道があったとしても・・・私は、この跡にできるであろう世界の存在を断ってまで、この世界を存続させようとするほど、傲慢じゃない」
「ルシア・・・・・」
「あんた達と・・・・出会えてよかったわ」
「ルシアさん・・・あなたも、きませんか?」
テールが突然漏らしたその言葉に、ルシアはあまりにも意外すぎたのか、これでもかというほどに目を見開いて驚く。
「僕は・・・スフレさんに頼まれました。・・・あなたのことをよろしく頼むと・・・僕は。彼の生まれ変わりだそうです」
その言葉に、ルシアだけでなく、アイス、ブリック、シャルトの3人が目を見張って驚く。
「あたしも・・・シェルの生まれ変わりみたい・・・・・それで、スフレがテールに言ったのと同じこと言われた・・・」
「俺もパロの生まれ変わりで、同じ言葉を・・・・・俺たち3人が彼らそれぞれに対して感じていた、『知っている気がする』というのは、こういう事だったようです・・・」
アクラとウォール、2人までもがテールと同調する。
当事者の3人以外で、アクラと一緒にシェルの言葉を聞いたシエナは深く首を縦に振って頷いていた。
「でも・・・あたしはここに残る」
「ちょっ!何いって・・・・・」
「だって、ここはあたしの生まれて育った世界。あたしが死ぬ場所はここ以外ない。・・・シェル達も、ここで死んだんだし」
「ルシア・・・・・・・」
「あたし1人だけ助かるのも、寝覚め悪いし・・・それに」
すっと、ルシアはアクラの頬に右手を添え、にっこりと微笑む。
「あんた達は・・・あの子たちじゃないわよ・・・例え、魂は同じでも・・・」
「ルシア・・・・・」
「声も違う、性格も違う、色も違う、種族も違う・・・何より心の持ちようがね・・・・・」
そう言うと、ルシアはアクラの頬から手を引いた。
「あんた達は、あんた達でしょう・・・シェル達の代わりじゃないし、あの子達の代わりも誰にもできない・・・」
「ですがっ!」
「・・・・・あの子達の最期の言葉、届けてくれただけで十分よ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・それで、お前は本当に良いんだな?」
「兄上?!」
「「アイス様っ?!」」
アイスの淡々とした口調で言った言葉に、一同は彼の方を驚愕しながら呆然と見る。
「・・・ええ」
「解った・・・・・それじゃあ、俺達は行くから」
「ちょっ・・・兄上!それはないでしょう?」
「そうですよ・・・・・アイス様・・・」
「こいつが本気で覚悟して言っていることを、無理やり覆す権利は、俺たちにはないはずだろう?!」
アイスの強い言葉にびくりと一同は体を震わせる。
ただ、言っているアイス自身も、先程から体が震えていた。
「サンキュ・・・・・・」
「いや・・・・・・」
礼を言われはしたが、アイスは心の底から辛そうな表情をする。
それを見た瞬間、一同はやはりアイスも辛いのだということと、ルシアの事を1番考えていたのは、アイスであったということを知った。
「それじゃあ・・・」
「うん・・・元気で・・・・」
アイス達とルシアが最後の別れを済ませようとした瞬間、またも世界が揺れ、アイス達は強制的にまた、時間と空間の旅に誘われていた。
あとがき
予想より長くなってしまいました。
しかし、今回回想とか出なく、現在進行形で初めて作中で死者を出してしまいました(−□−|||
今回だけのキャラにして、ごめんよ・・・シェル、スフレ、パロ・・・・・・
でも魂はあの3人組に受け継がれているからね・・・・・;
ただ、性格は全然3人とも違いますが・・・(^^;(特にアクラの前世が人魚って・・;)
ちなみに、この時代(世界)のスノウは、例の冷徹性格です;
さて、次回の舞台はどこでしょう?