Waking moon
四章(前)・呪創者(過去)



『・・・ね〜〜ちちうえ、ははうえ』
『ん、どうしたの?』
『んと、ふたりはたたかったことあるのぉ?』
『えっ・・・・・・・?!』
『ねぇ〜〜〜〜〜?』
『どうして・・・・・』






暗い記憶の底から、薄らと瞼を開いてアイスは意識を取り戻した。
先ほど見た夢の光景はアイスの記憶そのもの。
5歳の頃に例の能力『知るはずのないことを知る能力』に目覚めたきっかけでもある、両親達の過去を『知り』、それを両親達に本当か尋ねたときのもの。
「・・・なんで、あの時のことが・・」
それに疑問を感じていたアイスだったが、すぐに他の者たちのことを思い出し周りを見てみると、全員その場に気を失って倒れているようだった。
「アクラ!・・・テール!・・・・・お前達、しっかりしろ!!」
アイスがアクラの体を揺すりながら全員に声をかけると、次々と目を開け、各々の反応をして起きだす。
「んっ・・・アイス・・さま」
「・・・って、どこや?ここ」
「どうやら、先程の地震で足を滑らせて・・・泉に強制的に飛び込んだようですね・・・」
「・・・っ!ルシア?!」
目覚めたばかりだというのに、冷静に状況判断するウォールにむしろ感心してしまっていると、アイスの目に例の『魔窟』の少女の姿が映った。
「・・・おい、おい・・・・・まさか、地震のせいで俺らと一緒に泉ん中に飛びこんだいうんか・・・・・」
「そうとしか・・・考えられませんね」
ルシアの決意を聞いているた以上、複雑な心境の一同に対し、ルシアはきょろきょろと辺りを見渡す。
「・・・・・・・ここ、どこ?」
ルシアにそう尋ねられ、一同は少し考える。
「・・・ルシア、先程の地震で貴方も泉に自分の意志なく飛び込んだようです」
「・・・・・みたいね」
「・・・多分、ここは俺達の世界・・『奈落』だよ・・・」
この世界から感じる空気はアイス達にとって知らないものではなく、むしろよく知っているものだった。
『魔窟』にいた時、自分たちの世界とは違った空気を『世界』が纏っていた。
しかし、今感じているのは間違いなく、自分達が幼いころからよく知っている空気。
だが、アイスにはそれでも少し違和感があった。
「・・・どうすれば、元に戻れるのかしらね」
「そんなこと、言わないでください!!」
ルシアの発言にテールが慌てて叫んだ。
「戻っても、『魔窟』は虚無に還るって解ってるじゃないですか!わざわざ、死にに帰ることないじゃないですか?!」
「でも、あそこはあたしが生まれて育って・・・シェル達が死んだ場所なのよ・・・・・!」
「我々の・・・寝覚めが悪くなります」
ルシアの悲痛な叫びに、ウォールが冷たいとさえ取れる口調で淡々と語る。
「ウォール・・・!」
「だってそうでしょう?少なからず交流を持った者を死なせに行かせるなど・・・できますか?」
「それは・・・・・・・」
「それに、俺はパロからあなたのことを頼まれましたし・・・彼らのためを思うのなら、彼らのために生きることこそ、あなたがすべきことでは?」
その言葉にルシアは目を大きく見開いて、ぎゅっと胸の前で拳を握り締めた。
「・・・良いのかしら?あたしは、それで・・・」
「少なくとも・・・彼から受け継いだ、俺の魂はそう言ってます」
「僕もです!」
ウォールの言葉に賛同したテールが、ルシアが作った拳をそのてで包みこんだ。
「僕のスフレさんから受け継いだ魂も同じです・・・それに、僕自身があなたに生きていて欲しいと思ってます」
テールのその言葉を聞き、周りを見回せば、他の面々も2人の意見に賛同するように、軽く頭を縦に振っていた。
「俺も・・・ああは言ったが、できれば生きていて欲しい。当たり前のことだろう?」
アイスが微笑みながら言ったその言葉を聞いて、ルシアの今までずっと我慢していた何かが涙とともに一気に溢れ出してきた。
「・・・・・・・・・ありがとう。・・・・・ごめん」



「ルシア!あんた、死んだらだめだからね!!」
1人だけ、他よりも遅く目がさめたアクラが、起きていきなりルシアに詰め寄ってそう言った。
一瞬それを唖然と言う風に見ていた一同だったが、思わず笑い出してしまった。
「ちょっ・・・ないよぉ〜〜〜〜?!!」
「いや・・・アクラありがとう。・・・・・でも、その事に関してはもう決着ついたし」
「・・・・・へっ?」
意外なルシアの言葉に、アクラは目を点にして間の抜けた声を出す。
「あたしはあんた達とあんた達の世界で生きることにしたわ・・・それが、シェル達とここにいる全員の希望みたいだから」
「・・・・・いつ、話しついたの?」
「・・・・・・・・・お前が他より長く気を・・・いや、寝てた間だ。・・・いい加減その寝起きの悪さを直せ」
アイスのその一言にいつもなら、文句の1つも言うアクラだが、今回はさすがに何も言わず、苦笑いをして場を誤魔化した。
「で、これからどうなさいますか?」
場の空気を変えようと、冷や汗を流しながらテールはアイスに尋ねた。
「・・・どうも、おかしいんだよな」
「え?ここ、奈落じゃないの?」
「・・・・・そうなんだけど、なんだか違和感があるんだ」
アイスのその一言に小首を傾げる一同だが、アイス自身もその明確な違和感はわからないでいた。
「ちょっと待ってください」
突然、ウォールが何かに気が付いたのか、誰のほうでもない方向を見ながらそう言った。
「どうしたの?ウォール」
「・・・声がしました。あっちです」
そう言ってウォールが指差した方向に一同は目を向ける。
そして、違和感の手掛かりを何か得られるかもしれないと、その声のするほうに行くことに決めるのに、さほど時間は掛からなかった。







その光景を目前にして、ルシア以外の全員が驚愕で目を見開き、微動だにできなくなっていた。
「・・・・・?どうしたの?」
近くにいる見知らぬ人物たちに悟られぬよう、声を小さくしてルシアが一同に尋ねた。
そして、それに答えたのはアイスだった。
「父上・・・・・母上・・・・・・」
「えっ!」
アイスの言葉にルシアは驚いてそこにいる人物たちを目を大きくして見た。



「・・・う」
「痛っ・・・王子・・・っ」
「うん、上出来ですね。やっぱり素養が違うって事ですかね、プラチナ様」
「・・・・・・止めを刺しても構わないか?」



人数は4人いて、その会話からして戦った後なのであろうことが解る。
手傷を負っているのが2人とほぼ無傷なのが2人。
その4人の中の内、金髪で赤瞳の少年はアイスに、銀髪で青瞳の青年はアクラに、確かに似てはいるが2人とも男である。
そして残りの2人も男であるから、この場に『母上』と呼ばれる『女』は存在しない。
それに、どう見たって年齢が合わない。
「・・・そうか、ここは『過去』か。・・・・・どうりで、『奈落』のはずなのに違和感があったはずだ」
「今は『継承戦争』真っ只中ってことね・・・」
「・・・・・・お父さん」
各々の反応を示しているアイス達にルシアは状況がよく飲み込めず、1人でクエッションマークを展開させている。



「待てよ!」
去ろうとする今は敵の2人に金髪の少年が叫ぶ。
「・・・・・・・・・せいぜい逃げ回れ」
少年の言葉をあっさり一瞥し、2人の人物は去っていった。
「・・・・・・」
「王子・・・手当てを致しましょう」
「・・・サフィ・・・」
「・・・まだ、負けていません。・・・貴方が、生きていますから」
「・・・ごめん・・・」
「これくらい、たいした事じゃありませんよ」
「・・・あいつ、本気だったな・・・本気じゃないのは、俺だけだったんだ・・・」
「・・・王子も、本気になって頂けますか・・・?」
「・・・・・・うん」







例の戦いの現場を目撃した場所から少し離れ、アイス達は自分たちでも少し混乱している頭を整理すると、ルシアにとりあえずこの時代と『現在』の両親達の説明をして一息ついた。
「・・・しかし、『知って』はいたが・・・・・母上が男だった姿をこの眼で実際に見ることになるとはな・・・・・」
「それにしても信じられな〜〜い・・・今はあんなに、仲良いのに、本当に殺し合いしてたなんて・・・・・しかも、本当に母上のほうが昔は父上より強かったなんて・・・」
『現在』からはとても考えられない事の数々にアクラが遠い目をしている。
「・・・王妃様のほうは、最初本気じゃなかったんやな」
「でも、でも〜〜陛下も完全に本気って感じじゃなかったよぉ〜〜〜」
「さ、最後・・・とどめ・・・ささ・・なかっ・・・・・たです・・・し・・・」
「・・・お父さん、情けないです・・・・・」
「そうですね・・・・・帰ったら、サフィルスさんとジェイドさんは極刑にしましょう」
アレクを守りきれず傷を負わせてしまったサフィルスに対してのテールの息子としての意見はまだ解る。
しかし、ウォールがその直後に言った一言に一同は顔を蒼ざめさせてしまう。
「いや・・・ウォール・・・・・もう、終わったことだし、結果的に母上無事だったし・・・」
「アイス様がそう仰るなら・・・」
アイスが2人をフォローすると、相変わらずあっさりとウォールはそれを聞き入れた。
そして一同は、あの2人が命拾いしたことを素直に喜んでいた。



「それにしてもあんた達、王子と王女だったのね〜〜」
ルシアが少し驚いたように2人を交互に見ながらそう言った。
「んじゃぁ、これからは『殿下』と『姫』って呼ぼうかしら?」
「好きにすれば・・・」
先程から話した様々なことに対して驚きつづけているルシアの対応に、さすがに疲れてきていた。
「それで・・・これからどうしますか?」
「今回は泉とかから、出てきたわけじゃないしな・・・」
どうやって元の時間に帰れば良いのか解らない。
アイスの能力もまったく発動しない状態だし、すでにお手上げ状態なのだ。
そして1番の疑問は、どうして『過去』に来ることになったのかということ。
「・・・確かこの後、母上達は仲間を揃えるんだったよな?」
そのアイスの言葉に考え込んでいた一同が反応する。
「うん?・・・そうやな。んで、俺の親父とプラムさんとベリル様が王妃様側、叔父さんとロードさんとジルさんが陛下側につくんやったな?」
確認するようにブリックが言うと、一同もそれに頷く。
「それで・・・その後、確か封印に利用されているアプラサスに・・・・・」
「アイス様、どうなさいました?」
何やら考え込んでいるアイスにテールが声を掛けると、すっとアイスは立ち上がった。
「・・・父上達が仲間にする交渉をしている間、会ってみたい奴がいる」







暗い、光など一切入らないそこをアイス達は進んでいた。
周りを見渡すことはできず、そばにいる仲間の姿を確認できないのではと思うほどにそこは暗かった。
「・・・・・ねえ、魔法で灯りつけようよ〜〜」
最初に文句を言ったのは、その声からしてアクラだった。
「だめ・・・」
「どうしてよぉ〜〜〜」
「ここのアプラサスはそういう属性の奴みたいだから」
説明になってないとアクラが散々文句を言ったが、それ以降アイスは無視することでそれに抵抗した。
そんな中、ルシアのきょとんとした声が響いた。
「・・・ねえ、魔法って・・・なに?」
ルシアのその一言に一同が間の抜けた声で反応を返しそうになった時、アイス達の進行方向から声が聞こえた。
「・・・誰だ?」
その静かな声と共に、今まで暗かった空間に視界が開け彼が姿を現した。
黒で統一されたその姿、頭には黒犬の耳のようなものがついている。
その姿の人物こそ、アイスが会ってみたいと行っていた人物に他ならない。
「・・・鴉色の・・リインだな?」
「・・・なぜ、私の名を?お前は何者だ?」
「この『奈落』の王子だ・・・・・ただし、20年後の・・・っとつくがな」
「・・・・・・・・『時越えの泉』か」
アイスの言葉で全て察したように、リインはその泉の名を口にする。
「しかし・・・それなら、1つおかしなことがあるな・・・・・」
「なんだ?」
「なぜ、それを『四季の王』は察していない」
リインが『四季の王』のことを知っていたことにも驚きはしたが、確かに今まで『四季の王』の干渉がなかったことはおかしい。
以前、スノウから『天上』と『奈落』についてのことなら、全て見通せると聞いたことがある。
この時代にも『四季の王』は当然存在するし、『魔窟』にもいたはずである。
『世界』を創ってきたのは彼らとさらにその先にいる『何か』なのだから。
「『時越えの泉』を使った者がいるとなれば・・・それは『四季の王』にとって一大事だ・・・・・干渉しないはずがない」
辿り着いた時代の『四季の王』が使用者を察し、干渉してくるのは明白である。
『秋の守護王』トーンの話が本当なら、あれは相当重要な物のはずであるから。
「『世界』の決定者といえる『四季の王』が感知できない存在・・・・・お前は一体何者だ?」
「俺は・・・・・・」
その言葉にアイスは確かにおかしな事があったと自問自答を始めた。
『四季の王』が干渉してこないこともそう、なぜスノウはあの時母親よりも自分を優先して逃がしたのかも、天上で握手した時のトーンが一瞬見せた妙な反応、そして・・・なによりも幼い頃から備わっている能力。
「くぉらっ!変なこと言うなや!!」
「っ!!」
「・・・ブリック」
「アイスもしっかりせぇ!お前はお前やろ?!」
ブリックにそう一喝され、アイスは突然のことに驚いて目を見開いた。
「ええかっ?お前は『奈落』の王子!んでもって、俺らの幼馴染!!以上や」
「そ、そうですよ・・・・・」
いつものように遠慮がちではあるが、シャルトもブリックに同意して、アイスを励ますようにぎゅっとアイスの服の裾を掴む。
「そうだな・・・」
2人のその言葉に、まだ引っ掛かりを覚えながらも、アイスは救われた気持ちになってふっと微笑む。



「・・・お前たち、そうか」
突然リインが驚いたような声を上げ、アイスではなく、ブリックとシャルトの2人を見る。
「な、なんや・・・」
リインの視線に思わずブリックは身構え、シャルトはぎゅっとブリックの裾を掴んでいる。
「・・・・・・・まさか、自分の生まれ変わりに会うことになろうとはな」
「・・・・・・・・・・はっ?」
その言葉に、ブリックは間の抜けた声を発した。
「ちょ、ちょい待ち・・・・・俺が、お前の生まれ変わり?!」
「お前の魂が、自分の魂と同じ物であることくらい解る。そして・・・お前達が未来から来たというのなら・・・」
「ちょっ・・・そなら、お前の・・アプラサスの生まれ変わりやいうんか?!そんな事っ」
アプラサスの生まれ変わりであることは別に構わないのだが、まさか今現在目の前にいる人物が自分の前世とはとても信じられず、ブリックは半ば激昂したが、不意に肩をアクラに叩かれる。
「・・・妖魔の生まれ変わり。んで、自分の前世に会った経験あり」
びしっと自分の方を指差してそう言うアクラと、さらにその後ろで同じように自らを指差しているテールとウォールを見て、何も言えなくなってしまう。
「そして、お前はニーチェの生まれ変わりか・・・・・」
「・・・えっ?」
リインの視線に怯えながらも、シャルトもブリック同様にその事実が信じられないといった声を出す。
「ニーチェって・・・百合色の?!」
「あの・・・あたし・・・・・」
混乱するシャルトを同じように、目の前のリインの生まれ変わりと言われたブリックが頭を撫でて落ち着かせる。
ブリックの方は、完全に納得はしていないが、そう言われて信じられないこともないといった様子にすでになっていた。
そんな2人の様子を見つめながらも、どこか遠くを、懐かしいものを見るような瞳でリインは口を開く。
「・・・お前達に頼みがある。私はここから出ることが出来ないからな」
「知っている・・・ここから出たら消滅するんだろう?」
「私は役目に疲れた。いつ、消滅しても構わないが・・・心残りがあるゆえ、それもでいない」
自分達に頼みがあるということもそうだが、そのリインの様子にアイス達は少々驚いている。
「それが・・・頼みか?」
「そうだ・・・・・・私とニーチェの2人の生まれ変わりとその仲間であるというお前達にだからこそ・・・救って貰いたい者達がいる・・・」
「救って・・・貰いたい者達?」
「・・・・・呪いを生み出した・・・・・アプラサスのことは知っているか?」
「ああ・・・・・確か、死ぬことも許されず、独り封印されているっていう・・・」
呪いを創り出し、その呪いの力で多くの命を奪ったため、その罪で今なお封印され、孤独という地獄を味わい続けているアプラサス。
「そう・・・そして、奴は私とニーチェの昔からの友人だ・・・・・」
「えっ・・・・・・?」
「奴が呪いを生み出し、多くの魔人を殺したのも・・・・・ある意味で仕方ないこと・・・・・それは奴にとって復讐だったのだからな」
「どういうことだ?」
「・・・奴の最愛の妹が魔人に惨殺されたからだ」
その言葉に、辺り空気が冷え切っていくのが感じられた。
「魔人も天使も含めた、全ての生きる者達を慈しみ想っていた、優しく、思いやりの深い少女だった・・・・・彼女もまた我々の友人だった・・・」
「・・・・・・・・」
「だが、彼女は魔人に殺された。当時の『奈落』の支配階級であった我々を、快く思っていなかった魔人に・・・・・それでも、彼女は無抵抗を貫いて・・・殺された・・・」
アイス達はロードから、彼女(彼)がアプラサスの村を他の魔人達と襲った時の話を聞いたことがあった。
アプラサスは一切無抵抗で次々と狩られていき、その中でプラム1人だけが抗ったために、ロードは呪いを掛けられたのだと。
その時のロードは自分で「馬鹿なことをした」と言っていた、
呪いを掛けられたからでなく、どうして「同じ『奈落』生きてる、心ある者」だと判断しなかったのかということを。
「我々が元来無抵抗主義と言う以前に・・・彼女は慈しみの存在そのものだったからこそ・・・自分が抵抗して魔人を傷つけてはならないと思い、無抵抗だったのだ」
「それで・・・結局・・・・・」
「そう・・・そして、最愛の妹を殺された奴は、魔人を憎み、恨み、そして狂った・・・」
「その結果・・・生み出したんが呪い・・・」
その話に感化され、少し自分の前世であるリインと同調しているのかブリックのその口調にリインが頷いた。
「そして、奴は魔人をその呪いで数え切れぬほど惨殺した。・・・その結果、我々は奴を封印した・・・あれ以上の殺戮を防ぐために」
リインのその表情は、どこか辛そうなものがあった。
友人を自らの手で封印してしまった辛さが。
「奴は未だ魔人を憎み続けているだろう・・・そしてそれゆえ、彼女もまた救われない」
「解るのか?」
「『世界』のどこかに、未だ完全に旅立つことのできていない・・・彼女の魂を感じる」
「完全に・・・・・?」
「力のある者ほど、魂の質が良く、そして大きい。奴と彼女の力は我々の中でも相当のものだった。・・・彼女の魂の一部はすでに他の誰かになっているはず」
それだけがせめてもの救いであるようにリインは瞳を閉じる。
「奴もそろそろ限界だろう・・・そして、彼女も悲しみのまま・・・・・だから、あそこから出して・・・2人を救ってやってくれ」
リインのその言葉に一同が慎重な面持ちを見せる中、ブリックが1つ溜息をつく。
「アイス・・・ええか?」
「・・・ああ」
「引き受けるんですか?!」
ブリックの決断に、あっさり同意したアイスに、テールがぎょっとしたような反応をした。
「嘘だとは思えないし・・・それに、そいつらがそうなっているのが魔人の責任なら、俺がその責任をとるのは道理だ」
「しかし・・・・・・」
「・・・何より、ブリックとシャルトがやりたいようだし」
そう言ったアイスの視線の先にいる2人を見てみれば、本当にやる気になっている様子が伺える。
それに、仕方がないといったようにテールが溜息をつく。
そして、ここまでくれば他の者達にも異論はない。
「ただ・・・1つこっちも頼んでいいか?」
「・・・できることなら」
「数日のうちに、俺の母上になる人物・・・この時代では男で、『奈落』のこの時代の第一王子だが・・・その人がお前の持っている力も求めてやってくる・・・」
その言葉だけで、アイスが何が言いたいのか、リインには察することができた。
「お前が、戦わずに力を渡すことになるのは知っているが・・・念のために」
「なるほど・・・その程度のことなら・・・・・お前達が、私の頼みを果たしてくれれば、頼みに関係なくそうする・・・・・」
「ありがとう・・・」
「・・・なぜ、お前はここに来た?」
至極もっともなリインの問いかけに、アイスは何やら物思いにふけるような表情で、その答えを口にした。
「・・・お前達、6人の内の誰かと、ずっと話がしてみたかったんだ。だけど、まともに話が出来そうなのは、お前とニーチェくらいだし。ニーチェは話すために戦う必要がありそうだたしな」
「確かに・・・その判断は正しいかもな。・・・だが、どうして話をしようと?」
「次期奈落王として、この国を結果的に守ってきたアプラサスを直に知りたかった・・・それだけだ」
それだけが本当の事であると、確かにアイスのその瞳は語っていた。



その祠にはすでにアイス達の姿はなく、暗い祠の中には、リイン1人だけが再び存在していた。
出て行ったばかりの彼らを見送った後、リインの静かな独り言が祠に響いた。
「・・・あの者のつくる未来の『奈落』を、あの者の仲間として見るのが楽しみになったな・・・そして、これからあの者の母に会うのも・・・・・希望はまだもてるか?」
すっと、今はまだ出ることができない、祠の天井といえる部分を見つめながら、リインは未来を想う。
「・・・しかし、なぜ『四季の王』はあの者達を・・・否、あの者に干渉できなかった?」
最初のアイスに関しての疑問、絶対ありえないことに関しての疑問を再び考え始める。
「『四季の王』が干渉できない存在など・・・唯一、『あの存在』・・・」
そこである結論に行き着き、リインはけれど、もっとも可能性の低いそれに首を横に振った。
「まさか・・・まさかな・・・・・・」
暗い祠の中、その答えを返す者は、誰もいない。






あとがき

うわ〜〜〜、今回も予定よりも長い・・・・・
本当なら、もう『呪いのアプラサス』出てきてるはずなのに・・・出てない・・・;
とりあえず、過去編は次で決着つく予定ですが・・・つくのかな?
さて、鴉色のリインですが・・・・・性格や口調がイメージと違っていたらすいません;
リイン、本編じゃ戦闘もなしですぐにひっこむから、性格が掴みにくいです。
でも、六精霊の中では1番好きなのはリインですv
そのリインの生まれ変わりがブリックで、ニーチェの生まれ変わりがシャルトって・・・どうですか?;
性格が全然2人ともちが〜〜〜うっ!
とりあえず、この続きは次回で・・・・・逃げます!(すいません)





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