Open life
四・試験勉強
某宅の某部屋にて、ガラスとガラスが微かにぶつかり合う音が響いた。
そこに集まっているのは6人の人物であった。
「周助、おめでとう〜〜」
「くすっ、ありがとう姉さん」
「譲ちゃんもありがとうね♪」
「お礼なんて良いよ〜〜。これは元々運命みたいなものだし」
「昇くんと、翔くんもありがとうね」
「お気になさらずに由美子さん。僕たちとっても周助くんは弟のようなものですし。ね?昇くん」
楽しげな4人の会話の風景を横に、昇は完全に呆けてしまっている。
否、昇だけではなく、わざわざ寮から呼び出された裕太も同じくだった。
突然家に帰ってくるように言われ、何かあったのかと心配していたら、その事実は実家での兄の恋愛成就の祝勝祝いだった。
すぐさま帰ろうとした所を、昇を除く全員に捕まってしまい、問答無用で完全にホールドアップだった。
昇も色々な理由で来たくはなかったのだが、譲にお願いされてしまえば、他に選択肢などシスコンである彼には存在していなかった。
そんな2人に気づいていないのか、気づいていてあえて放っておいているのか、他の4人は楽しげに話を続けている。
「依鈴くんの占いで、周助くんの将来の相手が彼だって解ってたから、特に心配してませんでしたけどね」
「本当に良くあたるのね、その子の占い。あたしも今度教えて貰いにいこうかな」
「ゆみおねえちゃん、占い好きだもんね」
「ええ、自分で占うのも、占ってもらうのも」
「姉さんのも結構当たるけどね」
「それじゃあ今度、依鈴くんに話してみますね」
「ふふっ・・・ありがとう」
「で、これからのことなんだけど・・・」
さらに今後の事でなにか企んでいる様子のある4人を見て、昇と裕太はその遠い目をしていたのをお互いに向ける。
「・・・・・裕」
「・・・・・・昇さん」
「強く、強く生きていこうな・・・・・」
「そうですね・・・強く生きていきましょう・・・・」
まさに2人は互いの今後の健闘を称えるように、強く手を握り合い、そして互いに涙を流しながら誓い合っていた。
そんなある明暗の別れている日の不二宅であった。
かりかりかり・・・・・・・
その音は幾つも重なって室内に響いていた。
「翔さん・・・ここなんですけど・・・・・」
「はい?・・・・・ああ、そこはXに代入して」
西条家の広いリビングで、ついに明日に迫ったテストのため、翔教師役での勉強会が催されていた。
普段は『肘をついて食べるな』とか、『食べている時に他のことをするな』と多少なりと行儀に厳しい昇も、明日がテストということで、今日は食事をとりながら勉強することを許している。
「・・・昇さんって、『お母さん』の才能があるとおもっ」
「何かいったか?」
失礼なことを言ってのけた桃城の頭をお盆で叩く。
「そんなこと言うってことは・・・デザートは抜きで良いのか?」
「い、いります。もちろんいるっス!」
目の前に見えているガトーショコラを前にお預けを食らうのは嫌だと懸命に桃城は訴えていた。
「くすっ・・・この家で昇くんに下手に逆らうと、生活できませんよ」
「確かにそうですね」
腹黒幼馴染がさも楽しそうにそう語っていた。
しかし、それは確かに実際そうなのである。
昇はこの家の家事全般を、現在12人もいるこの家の家事を全て1人でこなしていると言っても過言ではない。
食事の支度はもちろん、洗濯に共同(現在使用中)の場所の掃除、自分以外の者達の弁当作りまでやっている。
さらにこの片手間に彼は自分の仕事もしているのだから、ここに暮らしている以上は下手に彼に頭があがらない。
もとっも、平気で色々言っている人物と、何を言っても実害をこうむらない人物が1名ずついるが、それは一重に彼らが昇の弟と妹だからだ。
「下らないこと言ってないで、さっさと明日の科目の勉強しろ」
「へ〜〜い・・・それにしても、良いよな越前は」
悠々とソファに座って本を読んでいる後輩を恨めしそうな目で見る。
「今更する必要ないですから」
「・・・・・・・・・・まさか、『対策ノート』が個人MVP賞1名だけのだったとは・・・」
「迂闊だったな・・・」
そう、例の全員がやる気になっていた1番の原因である『テスト対策・予想問題集ノート』は、『出し物大会』で1番受けの良かった1名のみの個人賞品だったのだ。
そしてMVPを獲得したのは白雪姫役を演じたリョーマだった。
もっとも、賞品は嬉しいのだが、女装と引き換えに得たようなものなのでその心中は複雑だった。
「・・・まっ、がんばってください」
ひらひらと先輩達に手を振り、生意気さを際立たせて健闘を祈る言葉を一応口にする。
すでに一通り目を通しているため、すでにリョーマは特にしなくても良いのである。
あれだけで少なくとも平均点以上取れるのは確実らしい。
その余裕の後輩の姿に、1部の先輩陣が机を叩くほど悔しそうにしている姿があった。
「ですが、翔さん・・・自分の勉強は良いのですか?」
中等部だけでなく、高等部も明日からテストがある、ここで自分達の勉強を見ていて本当に良いのか、と手塚は不意に思い翔に尋ねた。
しかし、翔は余裕でにっこりと微笑んで答えた。
「良いんですよ。僕は別に何もしなくても毎回満点取れてますから」
その一言はただの本当の事で、別に嫌味ではなかったのだろうが、必死に勉強している者達にとっては悔しいことこの上ない台詞だった。
「・・・・・・世の中不公平だよな」
「・・・まったくにゃ」
「・・・・・まあ、翔さんや今回は越前もともかくとして、譲ちゃんは・・・」
リョーマと同じく、特に何もしないでのんびりしていた譲に向かって大石がそう言うと、譲は少しだけ首を傾けた。
「えっ?だって・・・普段の授業を普通に受けてたら、事前に勉強しなくてもできるじゃないですか?」
その言葉に、程度は違ってもやはり兄妹だなっと思い、心の中で涙を流した者が数名いた。
「ん〜〜でも、暇だし・・・英語ならあたしも教えられますよ?これでも海外生活ながいですから」
「それじゃあ譲さん。菊丸くんの英語見てあげてください」
「は〜い、かけ兄」
兄の言い付けで楽しそうに菊丸の傍に行くと早速英語を教え始める。
一方の菊丸はまさか年下から教わるはめなるとは思っていなかったので、少し自分情けなさに涙が流れてきた。
その譲に英語を教わっている菊丸の構図を少し見ていた不二が、次の瞬間にっこりと裏のある微笑でリョーマを見つめた。
「・・・・・・・・なに?」
「僕に英語教えてくれないかな?」
右手で英語の教科書を見せ付け、左手で手招きする不二に、リョーマは何か企んでいると感じた。
「嫌・・・・・」
「いいじゃない。リョーマ、英語は得意でしょう?」
「・・・周助なら、俺が教えなくてもできると思うけど」
「そんなことないよ♪」
「・・・・・それに俺に教えてもらうよりも、翔さんか・・・そこに西条もいるんだし・・・」
「あっ、こっちは菊丸先輩で手一杯」
「僕も他の皆を教えなくてはいけませんので。越前くん、ここは1つ」
そう言いつつも何やら不二、譲、翔の3人の間に強い結託のようなものが見えるリョーマは、ここ不二と付き合いだしたここ数日のうちに見抜けるようになっていた。
そして辺りを探してもまるで逃げたかのように昇の姿はなかった。
実際逃げたのだが、それも仕方がないことだと、やはりリョーマはここ数日の内に悟ってしまった。
「・・・解ったけど、変なことしないでよ」
「やだな〜。僕がそんなことすると思う?」
やはり付き合いだしたここ数日の経験から、「思うから言ってるんじゃん」と言いたくなったが、言ったら言ったでさらに何があるか解らないのでその言葉は飲み込んだ。
「・・・・・で?」
「ん?」
「・・・この体勢はなに?」
リョーマがいきなり不満の声を発したのに対し、不二はわざとらしく小首を傾げてみせる。
不二の所まで歩み寄ったリョーマの腕を、不二がいきなりひっぱり、そのままの勢いでリョーマは現在不二の膝の上に座らされている。
「えっ?だって教えてくれるんでしょう?」
「教えるけど、この体勢は関係ないじゃん!」
頬を朱に染めてもがくリョーマを不二はやんわりと押さえ込んで耳元で囁きかける。
「いいじゃない。この方が僕としては教えて貰いやすいんだけどな」
「絶対嘘!・・・仮に本当だとしても、その・・・皆の前で・・・・・」
最後の方になるにつれてリョーマの声は小さくなって聞き取りずらいものだったが、部屋の中の全員が何とか聞き取れていた、というよりも一部のものにとっては聞こえてしまったと言ったほうが良い。
それはようするに、「他に誰かいなければ良い」と解釈できる。
2人が付き合だしてすぐに不二、譲、翔の計略により、その事実はすでに一部関係者にはほぼ公になっている。
テニス部のレギュラー陣は牽制の意味も込めて当然知る機会を無理やり与えられたのだが、中には未だそれを完全には受けいられない者もいる。
ゆえに現在各々の反応でもって、2人のいちゃついている様を見せられ、撃沈している者はほぼ全員であった。
その一同の様子を見て、不二と翔は確信犯のように笑みを浮かべていた。
譲の方は他の面々は眼中にないらしく、何やらカメラをリョーマから見えないよう隠しながら、シャッターを楽しそうに押してリョーマと不二の現在の姿を撮っていた。
「・・・画になるわ〜」
そんな楽しそうに呟いた譲の一言を1番近くにいた菊丸は聞いてしまったため、彼は他の面々よりも2倍のダメージを受けることになってしまった。
「・・・リョーマくんは嫌なの?」
唐突に寂しそうにそう言われてしまい、それが嘘だと解っていてもリョーマには無視することはできなかった。
「・・・・・今回は騙されといてあげる」
「ありがとう」
赤くした頬を少し膨らませながら、照れたように顔を逸らすリョーマに、変わり身に速さで上機嫌になった不二はぎゅっと抱きしめる。
リョーマはその行動に溜息をつきながら「やはり騙されるべきじゃなかった」と少し後悔し、人目を気にしてどこか恥ずかしそうにしながらも、どこか嬉しそうでもあった。
それを見てさらに沈んでいく人間と、喜ぶ人間と、影に隠れて平誤りする人間がいた。
「さっ、皆さん。勉強しましょうね」
この状況下の中まとも勉強できるわけないと解っていて言っているだろう翔の一言と現在における状況で、今後の西条家での生活は今まで以上に受難になると不二とリョーマを除くレギュラー陣は予想し、昇はそんな一同に泣きながら同情していた。
テストが全て終了した数日後の成績発表日。
レギュラー陣の成績は学年トップの手塚はそのままの成績をキープ、他メンバーも通常よりもずっと良い成績で、全員が各学年で成績上位になっていた。
もっとも、中にはあんな目にあってこれで成績も上がっていなかったら踏んだり蹴ったりだという者もいた。
『予想・対策ノート』を使用したリョーマはというと、学年1位の成績になってはいたが、何故か譲と同点同着だった。
「ほら、あたしってかけ兄の妹だし」
それが譲の言い分だったが、そう言われても納得できないのが普通だが、妙に納得できてしまう辺りがこの兄妹の恐ろしいところだと一同は再確認しのだった。
あとがき
くっついた途端にバカップル全開で〜す(^^;
はい、申し訳ありません(いや・・・むしろ良いのか?)
これからレギュラー陣+昇は大変になってきますね・・・
とりあえず、この「Open life」は不二リョでリョーマさんアイドル状態なのですが、乾海だけはどの不二リョ話でも固定ですので。
というわけで、これから撃沈していくのは乾海以外のレギュラー陣と昇、場合によっては裕太もです・・・
それにしても昇のキャラが変わってきてるような・・・・・・;
あっ、↓に台詞だけの短いおまけがありますので。
リョ「・・・・・で、何?」
不「だから、成績上がったご褒美が欲しいな〜〜、ってv」
リョ「・・・そんなもんない」
不「え〜〜〜〜」
リョ「第一、英語に関しては俺が教えて上げたんだから、上がって当然じゃん」
不「うん。だから、ちゃんと上がったんだからご褒美も欲しいなv」
リョ「だから、なんで!?」
不「なんでも♪さ〜〜、僕の部屋に行こうね〜」
リョ「行って何するつもりだよ?!」
不「そんなの、ご褒美を貰うに決まってるじゃない」
リョ「っ!誰か助けて〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
もちろん(?)助けに来るものは誰もいなかった・・・・・・・・