Open life
伍・買出し(前編)




本日の天気は至って快晴。
運動するには絶好ともいうべき日である。
こんな気持ちの良い日に一同は揃って、バーゲンに来ていた。






まだ開店前にもかかわらず、長い列をつくっているその中の比較的最前列に陣取る中高生を、手馴れたバーゲン常連といえる人たちは物珍しそうに見ていた。
「・・・・・何もこんな早く来て並ぶこともないんじゃ」
「何言ってるんだ!これくらい早くないと、目ぼしい物は片っ端からなくなるんだぞ!!」
拳を握り締めてまでの力説に、中等部テニス部一同(一部除外)は眩暈がした。
そして心情一致で『金持ちなのにバーゲン狙いでなくても』と突っ込んでいた。
「まあ昇くんは、幾らお金があってもいつ何があるか解らないので、節約できるところは節約しようと心がけていますからね」
『それはもう主婦(?)の発想じゃないのか』とか、『昇さん完璧に主婦(?)になっちゃてるよ』とかこれまた心情一致だった。
そして『また心読んだし・・・』というもはや定例になってしまった翔への諦めの境地の突っ込みも忘れてはいない。
「う〜〜ん・・・・・・会長の読心術ってさ、どうやって習得するの?」
「ゆ、雪芽先輩?!」
さらりと爆弾発言を発する雪芽に、綾瀬は思いっきり動揺しつつ引いた。
そう、今回の買出しには中等部テニス部(一部除外)面々にとって鬼門とも言える高等部生徒会の面々も一緒であった。
そもそも今回の買出しというのが、目前に迫った旅行のための買出しらしく、「それなら一緒に行ったら」どうかということになってしまったのだ。
ただしこれを言い出したのは翔であり、中等部テニス部一同(一部除外)はもとより昇も引いていた。
そして色々な言い合い等から、結局はこうして一緒に買出しに来ているのであった。
はっきり言って中等部テニス部一同(一部除外)はずっと不安でいっぱいである。
同じく不安でいっぱいのはずであった頼みの綱の昇も、バーゲン突入直前のためかすっかりその事を頭の片隅にやってしまっているようだった。
はっきりいって中等部テニス部一同(一部除外)にとっては絶望的状況である。
「逃げられると思わないでくださいね〜〜」
楽しげな翔の声が微かな一同の希望を打ち砕いた瞬間であった。



「んっ・・・・・?」
「あっ、リョーマくん。起きた?」
朝が弱いにも関わらず、無理やり起こされて引きずれられてきたリョーマは、眠たそうに辺りを見回した後、不二の方に顔を向けて甘えるような声を出した。
「・・・・・まだ眠い」
「そう。それじゃあ、まだ開くまで時間あるみたいだから、もう少し寝てても良いよ」
「ん・・・・・・ありがとう」
そう言うと先程と同じように不二の肩に頭を乗せて瞳を閉じてまた仮眠を始めた。
不二は倒れないようにリョーマの腰に手をまわしてリョーマの身体を上機嫌に支えた。
その様子を見ながら、あそこばかり幸せそうで世の中不公平だ、と思う面々が居たのだった。
その中で現在の不二とリョーマの様子をカメラに嬉々として納めている者が2名ほどいた。






開店と同時に人がなだれ込み、とてつもない気迫がデパート中に広まっていた。
その気迫に一同多少押されながらも、まずは昇に言われた自分の分担分の買い物をすませようと担当別に散っていった。
「さ〜〜て、行くか!タカ」
「・・・・・・なんでこうなるんだろう」
まるで運命とでもいうように苦手な紅河と組まされたことに、河村は心の中でさめざめと涙を流した。
「俺達は非常食の缶詰担当だから、地下1階に」
そこまで言うと紅河は前方を見たままぴたりと言葉と動きを止めてしまった。
「どうかしたんですか?」
「・・・なあ、タカあれって」
「えっ?・・・・・・あっ!」
指差された方向をよく見てみると、そこにはよく見知った顔があった。
「タカ!行くぞ!!」
「えっ、ちょっと紅河さん!!」
にやりと笑って楽しそうに駆け出す紅河の後ろを河村は冷汗を流しながら慌てて追いかけた。



「じ〜〜ん!ゆうきちゃ〜〜ん!!」
「あらっ?あれって・・・」
「・・・・・げっ」
楽しそうにぶんぶんと手を振りながら近付いてくる紅河を確認して、優紀は目を丸くし、亜久津は嫌そうな表情と声を零した。
「2人とも久しぶり〜」
「優陽くんじゃない。久しぶりね」
「優紀ちゃん達も久しぶり!それにしても相変わらず若いな〜」
「本当に?」
「ホント、ホント!まだ高校生くらいで全然通るよ!」
「嬉しいこと言ってくれるのね。ありがとう」
紅河と優陽の2人が楽しげに会話を弾ませている横で、とても気まずそうな2人が小声で会話を交わしていた。
「・・・・・どういうことだ、河村」
「いや・・・まあ、ちょっとしたことで紅河さんと再会しちゃって」
「そんな事を聞いてるんじゃねー。てめーがこいつの関わってるのは勝手だが、俺の目の前に連れてくんじゃねーよ」
「だって紅河さんがいきなり走り出したんだから、仕方がないだろう」
強がってはいるが紅河を見ている亜久津の顔に浮かぶ青筋を見て、河村は「やっぱり亜久津もまだ紅河さんが苦手なんだな」と、自分も青筋を浮かべながら亜久津と一緒に紅河の被害にあった日々のことを走馬灯のように思い出していた。






「それじゃあ、俺はあっちに行ってくるからな」
分担分の買い物を終えた後、昇は見た目にも解るほどわくわくしながらその場を離れていった。
どうやら布地やミシン針などが相当安く、それを狙っていったようだ。
「昇さん、楽しそうっスね」
「まあ、昇さんは本当に服作り大好きだから」
「うん、うん。服のデザイン考えたり、作ったりしてる時ののぼ兄はすっごく輝いてるからね」
「そうですね〜〜」
昇が仕事している姿を見たことはないが、弟妹である翔と譲、そして幼馴染である不二が言うのだからそうなのだろうとリョーマは納得した。
そういえば『出し物大会』の時に作ってもらった衣装に関しての意気込みも凄かったなとリョーマはあの時のことを思い返した。
実際自分の恥まで思い返して後悔もしたが。
「さてと、それじゃあ僕は本を買いにいきましょうか」
「あっ!あたしも今日発売のテニス雑誌買いに行く」
「俺も」
「それじゃあ、僕達は本屋に行きましょうか」
そう行って4人は地下2Fにある本屋へと向かっていった。






本屋で買い物を終え、エレベーターホールにあったベンチに腰掛けて休憩していた。
そして早速先程買ったものを各々包み紙から取り出したのだが、リョーマは翔の出したその本に呆然とした。
「・・・・・翔さん、それ本当に読むんっスか?」
「そうですけど?何か?」
「いや・・・・・別に」
その本は大抵のものならすぐに挫折するのではないかというくらいの厚みがあり、さらに中身をちらりと覗いて見たが、文字は小さなものだった。
しかも・・・・・・
「翔さん、それって何語っスか?」
「え〜〜っと、ドイツ語ですね」
「・・・・・・何の本っか?」
「ドイツの『法律解体書』ですね」
ようするにドイツの法律の成り立ちや、詳しい効果等など、とにかくドイツの法律がどういったものが知り尽くすための本らしい。
ドイツ語はさすがに解らないリョーマだが、さすがに表紙の最後の『V』という文字は解る。
『T』や『U』も当然持ってるんだろうなと思いながら、リョーマは翔の頭の良すぎさをこの時痛感した。



「ところで次はどこに行く?」
「そうですね・・・・・周助くんは行きたいところありますか?」
先ほど1人だけ本屋で何も購入していない不二に翔は尋ねた。
「ちょっとカメラの点検したいとは思ってますけど・・・」
「あれどうかしたの?」
「うん。ちょっと調子が悪いみたいなんだよ」
そう言いながら苦笑する不二を見た翔はなにやら携帯電話をスタンバイする。
「そういうことなら、このデパートの中でしなくても、もっと腕の良い人に見てもらいましょう」
「もっと腕の良い人?」
「ああ、あの人」
リョーマが小首を傾げる中で、譲だけが翔の言っている人物に心当たりがあるようで、ぽんっと手を1つ打ってみせる。
そしてにっこりと微笑んだ翔がその『腕の良い』人物の番号を押すと電話をかけた。
このデパートに一緒に来た、綾瀬一樹のところへ。








あとがき

お久しぶりの「Open life」更新しました〜(^^;
本当に久しぶりです;
しかも前・後に分けちゃいましたし・・・・・・・・・;
あっくんと優紀ちゃんを出したのは私が出したかったからです。
何気に優陽(紅河)と優紀ちゃん名前が似たもの同士(狙ったわけではありません;)で仲良しです。
そして翔が買った本の説明に関しては突っ込まないで下さい。
自分でもいっぱい、いっぱいでした・・・・・・;
さて、後編ではプロフィールにいないキャラの登場です。
一樹(綾瀬)の某所でのお仲間さんやってる方です(^^;






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