Open life
伍・買出し(後編)
デパートでの買い物終了後、再び集まりデパートを後にした一同が辿り着いたのは、商店街にある1件の電気屋だった。
けっして大きいとはいえない所だが、客の入りはそれなりにあるようだった。
ここにきた目的は不二のカメラの修理だった。
綾瀬曰く、直すための道具や多少部品が必要なのだという。
それは確かにその通りだったので一同はその場で直せないことに納得した。
そして、綾瀬の知り合いが店長をしているこの電気屋がちょうどデパートから近いため、道具等を調達させてもらおうという魂胆なのだという。
綾瀬はきょろきょろと店内を見回し、そしてようやく見つけた1人の人物の下に足早に近づいていった。
「未砥さ〜ん」
綾瀬の呼びかけにすぐ反応してその人物は振り返り、綾瀬の顔を見て少し驚いた後笑顔になった。
「これは一樹さん、こんにちは。よく来て下さいました」
「こんにちは、未砥さん。実は今日はお願いがあって来ました」
とても仲が良さそうに話している2人を他の面々は少し離れたところから見ていた。
その中でレギュラー陣は少し2人のことを不思議そうな表情で見ていた。
「・・・・・なんか、すっごく仲良くないっスか?」
「うん。それに、なんだか店長さんの方が年下の綾瀬さんに対して低姿勢っぽいのってどういうこと?」
レギュラー陣が満場一致で「一体どういう知り合いなんだ?」というように小首をかしげている横で、高等部生徒会メンバーは笑いをこらえたり、明後日の方向を見て冷汗を流しているものなどがいた。
そしてそのおかしな様子に当然レギュラー陣は気がついた。
「・・・皆さんは何か知っているようですね?」
「いや・・・まあ、そりゃあな・・・・・」
手塚の問いに対し、紅河がやはり目線をそらしたままで適当に誤魔化した。
さらに尋問しようとしていたところで、話の終わった綾瀬がこちらに呼びかけてきて失敗に終わった。
「不二くん、ここで修理していって良いとのことです」
「一樹さんの頼みじゃ断れませんからね。どうぞ、奥の方で好きなように直していって下さい」
やはりなぜかの低姿勢に、事情を知らない者たちは全員小首を傾げた。
そして綾瀬は不二からカメラを受け取ると、店の奥の従業員控え室に引っ込んでいってしまった。
何度もここにきたことがあるようで、慣れたように綾瀬は向かっていたのだった。
その綾瀬を見送った後、店長の未砥が一同の方に振り返っり、にっこり笑って声をかけてきた。
「一樹さんのお知りあいなら大歓迎です。どうぞ、一樹さんの作業が終わるまでゆっくりしていって下さい」
謎を残したままだが、その悪意のまったく感じられない、善意100%の笑顔に押され、一同はただこっくりと素直に頷いたのだった。
綾瀬の作業が終わるまで店内を見て回ることにした一同は、この店の品揃えの良さに感嘆の声を上げていた。
「すっげーな。海外の最新モデルとかあるぜ」
「えっ!どれっスか?・・・・・本当だ!これって、まだ国内じゃ発売されていないはずのやつスよ!!」
「ふむ・・・これだけの規模の店なのに、そこらへんの大型店以上の品質と品揃えだな」
「あははっ。お褒めに預かり光栄です」
店のことについて話をしていると、いつの間にか店長である未砥が立っていたので、一同は揃って驚いた。
「いつからいたんスか?」
「ほんの少し前からですよ」
「そうですか・・・・・・ところで、この店の商品ですが」
「ああ、国内の大型店でもまだ仕入れていないのに、どうしてこんなそれほど大きくない店にあるのか?ですか」
その言葉に対して思わず頷きそうになったが、「それほど大きくない」までは言ってないのに、誤解を受けられては困ると思ってあえて首を縦には振らなかった。
「俺は独自のネットワークを持ってましてね。そこで知り合った海外のネット仲間に頼んで買い付けて貰ってるんですよ」
「独自のって?」
「それは企業秘密ということで」
未砥の多少含みを持ったその言葉に、一同はまた首を傾げた。
「そういえば、綾瀬さんとはどこで知り合ったんですか?」
「・・・・・・ネット仲間ですよ。一樹さんとも」
未砥は確かにそう答えたのだが、そう答える前の間と、答えた時の言葉と表情がどこか遠慮がちであったことに、また新たな疑問がレギュラー陣の中で加算された。
「それにしてはなんか、綾瀬さんに対して低姿勢ですよね?」
「あははっ・・・そりゃあ、一樹さんの方が技術は上ですから。年に関係なく、自分よりも実力が上の人物に対しては、自然に敬意をはらう性分なんですよ」
「ふ〜〜ん・・・・・・」
「そうそう。うちの店の商品には、綾瀬さんが作ってくれたものもあるんですよ」
その言葉を聞いて一同は目を大きく開いて驚いた。
「なんだったら、見てみます?」
綾瀬が作ったものが商品にまでされているという事実に驚愕と興味を持った一同は、当然の如く未砥の言葉に首を縦に振った。
「いや〜〜、それにしても凄いですよね。綾瀬くんは」
「本当に。さすがは、ってとこか」
レギュラー陣とは離れた場所で、生徒会のメンバーと譲は1つのショーケースの中の品物を眺めていた。
「うっわ〜〜・・・このOSの性能って、化け物並ね・・・・・」
「それでこの値段だろ?・・・・・安すぎだな」
呆れ果てたようにいう紅河だったが、実際に呆れているのではなく、あまりの性能と安価のギャップに仰天しているのである。
「まあ、個人が作ったものだから仕方ないですよ」
「でもその気になればこれ特許取れるって・・・・・」
「そうですね・・・・これだけで相当稼げると思います」
「まあ、無理でしょう。あんまり大っぴらにできないんだし。だっていっくん・・・」
「なんで、大っぴらにできないんですか?」
予想外の所から自分の言葉に問いかけがきたため、雪芽が慌てて振り向くとそこには中等部レギュラー陣と未砥がいた。
きょとんとしているレギュラー陣に対し、生徒会メンバーは頭を抱えるものや、溜息をつくもの、しまったという表情を作っている者などが続出した。
「で、何がなんでか?」
「そ、それはね・・・・・・」
真顔で問い返されてさすがの雪芽もだらだらと冷汗を流し続ける。
その時・・・・・・
ばったり
音をたて、レギュラー陣を代表して質問していた大石が突然倒れた。
「お、大石―――――!」
慌てて駆け寄った菊丸が上半身を起こしてがくがくと揺さぶるが、顔を青くしたまま気絶し続けていた。
その騒ぎに他の客達も何が起こったのかと騒ぎ始めた。
そしてそれをにっこりと微笑んで止めたのは店長の未砥ではなく、某2人の人物であった。
「なんでもありません、皆さん。お騒がせして申し訳ありません」
「心配はいりませんから、買い物を続けてください」
外見美形2人の人の良い微笑みに見惚れた客達は、すぐその場から離れて元の買い物にすぐ戻ってくれた。
ただこの2人の本性がとてつもなく腹黒いということを仲間内の面々は全て知っていた。
そしておそらく、この2人が原因で大石がこうなったことも容易に予想が立った。
大石が倒れる直前に、2人がなにやらアイコンタクトを交わしているのを見た者が数名いることからして、まず間違いないだろうと確信がもたれていた。
不二と翔の腹黒幼馴染には何でもありだということも。
ただどうして大石がこういう目に合わされなければいけなかったのかを知っているのは、当の仕掛けた本人達と、生徒会の面々、そして譲だけだった。
他の者から見てみればあまりにも理不尽な仕打ちだった。
そしてまったく彼らがどういうものかをしらない未砥はおろおろするばかりだった。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、未砥さん。大石くんは少し最近寝不足らしいんです」
「えっ・・・でも、顔が蒼いですよ」
「大石はいつも寝る時は普通に顔が蒼くなるんですよ」
嘘八百を並び立てる元凶2人の言葉を戸惑いながらも信じかけている未砥はそれが真実かどうか確かめるため、反射的に他のレギュラー陣の方を見て答えを求める。
レギュラー陣は口をそろえて、「嘘だ」と言いそうになったが、未砥の後ろの方でとてもつもなく黒い笑顔を浮かべている、おそらく組ませたら最凶コンビであろう2人の威圧感に負け、犠牲者である大石と何も知らない未砥に心の底から謝罪しながら、真実とは正反対の言葉を口に出したのだった。
「お待たせしました〜〜・・・・・・って、何してるんですか?」
カメラの修理が終わって意気揚々と奥から出てきた綾瀬が、あまりにも妙なその光景にただ呆然としていた。
「なんでもないですよー」
にっこりと微笑んだ翔のその言葉と、本当は何か言いたそうな他の面々とのギャップに綾瀬は小首を傾げるだけだった。
帰宅後、早速修理されたカメラで不二は試し撮りを始めた。
その標的となったのは、勿論のように恋人のリョーマだった。
「リョーマくん、ちょっと首傾げてみてv」
「・・・・・っていうか、試し撮りならもう十分じゃん」
試し撮りのはずなのに彼是何枚、何分とられたか解らない。
そのうえ、妙な注文のポーズもとらされる。
リョーマはさすがにもうそろそろ疲れた状態になってきていた。
「後、もう1枚だけ。ねっ?」
「・・・・・しょうがないな」
仕方なさそうに溜息をつくリョーマに嬉しそうにお礼を言うと、不二はカメラを構えて最後の1枚を撮った。
「はい、ごくろーさま。ありがとうねv」
「どうしたしまして」
疲れきったように溜息をつくリョーマだが、内心不二がこれだけ喜んでくれているのだから良いか、というような考えになっていた。
「それにしても、綾瀬さんは凄いよ。直すどころか、前よりも良くなったかも」
「へ〜〜、そうなんだ」
「うん!おかげで、リョーマの写真の出来上がりも凄く良さそうだよ」
出来上がった写真を想像して嬉しそうに微笑んでいる不二になんだか照れたリョーマは、顔を赤くして小さくなにかを呟いていた。
暫くしてふとリョーマは思い出したように不二にあることを尋ねた。
「そういえばさ、なんで翔さんと一緒になって大石先輩にあんなことしたのさ」
「ん?あんなことってなに?」
満面の笑顔で聞き返してくる不二に、「しらばっくれるな」とリョーマが少し恨みがましそうな表情をする。
それに少し困ったような表情をした後、不二はこのまま機嫌を悪くさせてはならないと考えた。
「・・・誰にも言わないって約束できる?」
「そうしろっていうなら、そうするけど」
「そう・・・それじゃあ、ちょっと耳かして」
そう言って不二はリョーマの耳元に自分の唇を寄せる。
あまりにも近くで不二に囁かれるように喋られ、意識したのか顔を赤くしていたリョーマだったが、不二が話したその内容にみるみるその表情は驚きのものに変わっていった。
そして不二が離れた後、少しの間リョーマは信じられないというように呆然としていた。
「・・・それ、本当?」
「本当だよ。翔さんから聞いたんだ」
不二の自身満々のその表情からしてそれが真実であるということが良く理解できたリョーマはそれでもまだ少し呆然としていた。
「それが本当なら・・・・・綾瀬さんって、本当に凄いよ・・・・・・」
「そうだね」
にっこりと微笑んでその真実を普通に受け止めている不二とは対照的に、リョーマは綾瀬が予想をはるかにしのぐほど凄い人だったと思う反面、綾瀬が普通ではないという今までの認識が崩れ、どこか複雑な心境に立たされていた。
あとがき
特に意味もないと思われる、閑話休題(にもなっているのか?)な前後編でした。
一樹(綾瀬)の某所でのお仲間さんも登場でございます。
本当はもう1人登場してもらうつもりだったのですが、話の収集がつかなそうだったのでカット。
多分旅行編で出すかもです。
そうそう個人的なことでなんですが、前回腹黒2人を(あまり)出せなかった分、今回出せてとっても嬉しかったです。
ちなみに、この後編時点では昇は諸事情により皆さんと別行動です。