Open life
七:「旅行2日目」




ついに訪れた、訪れてしまったその日・・・
昇曰く、鬼達は(一部を除き)意気揚々とやってきたのだった。
「かけ兄〜〜♪」
嬉しそうに下の兄に飛びついてまで喜んでいるのは譲くらい。
平然というよりもむしろこれから起こってしまうことにむしろ楽しそうにしているのは不二くらい。
あとは今後起きる事態を危惧してげっそりと頭を抱え込んでいる。
「あははは〜〜、失礼です、皆さん」
そしてまた笑顔の翔に心を読まれたことが、今回の旅行の凶兆を決定付ける最初の証拠となってしまった。






生徒会メンバーが荷物を各々の泊まる部屋に荷物を置きに行っている間、リビングには不穏な空気が渦巻いていた。
「・・・・・俺達、生きて帰れるかな・・・?」
「さあ・・・・・」
「あの中でまともなのって、綾瀬さんと森根さんくらいだしな・・・」
誰かがそんな一言を不意に口にした瞬間、がしゃんっと陶器が床に落ちて割れた音がした。
驚いて一斉にそちらを見てみると、そこにはお皿を持っていた状態のまま動けず、しかし少し体が震えている明らかに動揺した昇の姿だった。
「の、昇さん・・・」
なにがあったのだろうかと心配して尋ねてみると、こちらを振り返った昇の表情は引きつっていた。
「・・・今、綾瀬がまともっていったのか?」
「えっ・・・?そうですけど」
何をそんなに驚いているのだろうかと多少呆然とまでしてしまう。
昇の表情はより引きつっていた。
「言っておくが、あいつは全然まともじゃないぞ!あの中でまともなのは唯一森根だ」
「えっ・・・どういうことですか?」
「・・・知らないなら、知らないでおいたほうが良い。世の中知らないでおいた方が良いこともあるからな。知らないでいられるならそれにこしたことはない」
そしてこくこくと頷くような動作をして、1人だけ納得している昇の姿を一同は逆に納得できないまま、それ以上の詮索もできないようなので、ただ呆然と見ているだけだった。







荷物を置き終え、リビングに続々と生徒会のメンバーがやってきた。
つまりこのリビングには現在、夕食の仕込みなどで抜けた昇以外の全員が揃っていることになる。
そして翔の手には長方形のものが握られている。
「さて、これはなんでしょう?」
「・・・トランプっスね」
「確かにトランプだ」
そう、それはどこからどう見てもただのトランプであった。
しかし翔の場合何か仕掛けてでもしているのではないだろうかと、一同は緊張して喉を鳴らした。
「それどういう意味です?正真正銘ただのトランプですよ」
そしてまた心を読まれたことに一同ぐったりとした。
「・・・で、そのトランプで何するんですか?」
「それはですね〜、昇くん1人ではこの人数の家事が大変なので、その手伝いの割り振りを決めようと思うんですよ」
この時、「それならこの人数で来なければよかたのでは?」という突込みは思いはしたがあえて口にはしない。
もっとも翔のこと、読まれている可能性はあるが。
「はい、その通りです」
満面の笑みでそう言った翔に涙をのんだ。
「何日にどの家事を手伝うかを神経衰弱で決めようと思います」
「・・・なんで神経衰弱なんですか?」
「面白そうなので」
ある程度予想はしていたがやっぱりなその台詞に溜息をつきたい衝動にかられた。
しかしついた瞬間に笑顔で瞬殺されそうなのでぐっと耐えたのだった。



通常の倍、つまりトランプ2組使用の異質である意味熾烈を極める神経衰弱が始まった。
家事は、調理、皿洗い、洗濯、掃除、風呂洗いの計5つである。
この中で1番きついのがおそらく皿洗い(人数分の食器や調理器具等)か、掃除(別荘ほぼ全部)であろう。
できるだけこの2つには多く当たらないようにしたいと全員思っていた。
上位順に手伝いをする日や分担を選べる。
同じ分担ばかりを選べないが、上位になればできる限り1番きついのを少なくすることはできる。
そういうわけで始められた神経衰弱だったのだが、それが始められる前に落とし穴に気がついておくべきだった。
否、気づけたはすなのだが、翔に逆らってはいけないという思考が働き、全員他のことにまで頭が回らなかったのだ。
その結果・・・・・
「・・・よくよく考えれば、解ってたことだよな」
「そうっスね・・・・・・」
負け組みは今更の自分達の落ち度に心の中だ泣いていた。
全国模試常に1位の記憶力を誇る翔は当然だんとつだった。
というよりも、表になったカードの位置と種類の全てを見事にまるまる暗記していたため、殆ど独壇場と言ってもいい状態だった。
次に優秀だったのが、普段からカードを使い慣れている森根だった。
長年の慣れでカードの位置と種類を覚えるのは簡単だし、そのコツもすっかりみについているらしい。
そして翔ほどとはいかないが記憶力の良い綾瀬や、何か妙な力でも働いているのか異常に運の良い依鈴も上位だった。
その他高等部生徒会のメンバーはかなり好成績である。
考えてみれば、高等部生徒会のメンバーは全員が学年トップクラスの成績である。
頭を使うゲームはかなり得意なのだろう。
負け組みは完全に謀られたと思った。
ひょっとしたら翔の無言の圧力もこの事を誤魔化すためだったのかもしれない。
もっとも高等部のメンバーだけでなく、中等部側にも優秀な者はいる。
翔の妹だけあって譲もそれなりに優秀であるし、学年トップの手塚はさすがというところ。
そして頭の良さと依鈴と似たような事、2つの理由があるであろう不二も優秀だ。
後はテニスでも普段から頭を使っている乾などが優秀だ。
リョーマもそれなりの成績。
そしてもう1人・・・・・・
「森根さんが前にコツ教えてくれたおかげです!」
「そんなことないですよ。菊丸くんが良い集中力でコツを覚えていたからですよ」
どうやら前に森根に覚え方のコツを教わっていたらしい菊丸だった。
「・・・・・英二の奴、いつの間に」
「英二先輩・・・ずるいっス・・・・・・」
なんだか負け組みは他にも勝者はいるはずなのに、むしょうに菊丸1人だけが憎らしく思えてきた。



「・・・お前達何してるんだ?」
騒ぎに気づいた昇がキッチンの方から現れ、不思議そうな表情をしている。
「あ、昇くん。旅行中の昇くんのお手伝いの分担を決めていたんですよ」
「へ〜〜・・・そりゃあ、助かるけど・・・どうやって決めたんだ?」
「神経衰弱です」
にっこりと微笑んでそう言った翔の言葉に、一瞬昇は呆気にとられるが、すぐさま気づいたことに対して翔に反論した。
「お前な〜〜〜!それじゃあ、お前はもちろん、高等部の連中に明らかに有利だろうが!!」
昇のその言葉に、負け組みはぱぁ〜〜っと表情を明るくさせた。
その瞬間負け組み全員の頭の中に浮かんだ言葉は、「やぱりこの人はまともだ」だった。
「え〜〜・・・でも、もう決まりましたし」
「『決まりましたし』じゃないっ!とにかく、手伝う気があるなら、やり直せ!!」
昇の言葉になおも翔は食い下がろうとするが、昇は1歩も引かないどころか勢いに任せて優勢にことを運んだ。



結局、昇の言葉に翔始め勝ち組み一同はしぶしぶ折れ、昇が1人1人普段の生活状況等をもとにし、さらに公正な方法で誰がどの手伝いをするのかを割り振ったのだった。
昇曰く、「下手な相手に手伝いされてもむしろ足手まといだ」らしい。








あとがき

本当に久しぶり〜〜です。
テニスSS書くの事態が本当にお久しぶりですいません。
鬼達が参上いたしました。
これからテニス部ご一同様(1部除く)は大変です;
神経衰弱で本当に全て決めてしまう予定でした。
でもそれじゃあ、あんまりにも・・・と思いまして、急遽昇に止めてもらおうと思いました。
なんだかんだ言いつつ翔は昇の言う事聞きますので(笑)
次は・・・一樹の正体を一同に知ってもらいましょうか(^^;








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