Quintet
5:Goal




はっきりいってこの戦いではエドは傍観を決め込むしかなかった。
対する相手はぱたぱたと空を自由自在に飛んでいる。
そうこれは空中戦なのだ。
よって戦いの主流は叶と現在見たまま鳥のラスの2人(1人と1匹)だけだった。
ちなみにケルベロスは未だ背中でメリィが寝息をたてているため、参戦不可を言い渡されていた。
「・・・・・なあ、ケルベロス。暇だよな」
『ソウダナ・・・・・』
「いつになったら終わるのかなぁ?」
『アノ娘も見タ目ヨリ随分トヤルヨウダカラナ・・・・・マダ少々カカルダロウ』
「そっかぁ〜〜〜・・・・・」
ケルベロスの言葉に納得しながらエドは首を縦に振る。
気分を立て直そうと眠るメリィの頭を撫でてやると幸せそうな笑顔をしてくれた。
「うにぃ・・・」
「・・・・・和むな〜〜」
メリィの幸せそうな寝顔はその辺りの空間に穏やかな空気を作り出していた。
その外の、それもすぐ傍の空間で戦いが繰り広げられていることなど忘れてしまうくらいに。
その戦いも普通の戦いと違い、はっきり言って一種の漫才みたいなものかもしれないが・・・



「だぁ〜〜!もういい加減にしろ!鳥小娘!!」
実年齢は小娘どころじゃないですけどね。
「なによ〜〜!!あんたの方こそ今まさに鳥そのものじゃない!」
まあ見たまま見れば誰でもそう言いますね。
「どっちもどっちね〜〜」
いやまったく仰るとおりです。
技や術といった類のものよりも、口による攻撃の方が激しい鳥2人組に対し、叶はそんな2人を戦いの中観察しつつ、のほほんと呟いていた。
ちなみに当の2人はそんな事は聞いてはおらず、鳥vs鳥という構図で本人達には自覚のないまま白熱していた。
「負けてたまるか・・・セレス様の使兼メリィのお付の名にかけて〜〜!」
「ふんっだ。あたしなんて麗しゃまの霊従だもん!絶対に負けないもん!!」
それぞれの意地と意地が完全に変な方向に向きながらぶつかり合っていた。
そんな2人(2匹?)を戦いの手を止めて、楽しそうに傍観しながら叶は。
「SUMMON CALL オルトロス」
オルトロスを召喚していたりした。
「2人の戦いが終わってから突撃ね」
『・・・召喚主・・・・・今スグ仕掛ケタホウガ良イノデハ?』
「え〜〜、それじゃあ面白くないし」
『・・・・・・・・・・・・・』
本当に楽しそうに笑う叶を無言で見た後、振り返った先を見てオルトスは一瞬固まった。
寝ている小さな子供を背に乗せ、和み系の空間にエドと共にいある兄の姿があったからだ。
しかもその瞳はどこか虚ろに見えた。
『・・・・・・・・・・・・・』
オルトロスはとりあえずそのまままた前を向き、そして何も見なかったことにした。



「ぐぁっ!」
突如ラスの呻き声があがった。
そして地面に落ちていくラスと、対称的に高らかに勝利のポーズをする天里の姿があった。
「やった〜〜!さっすがは桔風若頭領様の作った毒薬〜〜。麗しゃまありがとう〜〜」
どうやら麗があらかじめ天里に渡していたようだ。
「お、の、れ・・・・・」
がくっとそのまま倒れ付したラスの姿を、その場にこの世界の中の誰か(メリィは除く)がいて見ていれば、あのキャルとの一件を思い起こしたことだろう。
そしてたった1つの勝利で油断している天里に、オルトロスが向かっていった。
油断して周りを気にかけていなかった天里は、先程までの善戦が嘘のように、あっさりと捕まってしまった。
「ちょっと〜〜放してよ〜〜〜」
じたばたともがいても自分の服の襟を咥えているオルトロスからは逃れられない。
鳥娘なのに現在の体勢ははまるで猫のようである。
「グッジョブ!オルトロス」
オルトロスを褒め称えると叶は勝利で満面の笑みで天里に近づいていく。
一方の天里はというと、勝利から一瞬のうちに敗北に変わってしまったため、頬を膨らませて不機嫌そのものだった。
「む〜〜〜っ」
「それじゃあ、彼女の居場所教えてくれる?」
「やっ!」
「嫌だって言っても、あなた負けたんだし」
「嫌だったら、いや〜〜〜!本気だったら絶対負けないもん!!麗しゃま、麗しゃま〜〜〜!!」
じたばたと往生際悪く主人の名前を叫びながら天里は依然抵抗する。
なんだかその天里の様子が逆にむしょうに楽しい叶は、気分を悪くするどころか楽しげにもう1度同じことを言った。
「ね、教えて?」
「だから嫌〜〜〜・・・」
天里が何度目かの同じ言葉を言おうとした時、蔓のようなもの、というよりも明らかに蔓がオルトロスの胴と叶の手首を捕まえ、そしてオルトロスに捕まっていた天里を奪取する。
突然の蔓の出現に1人だけぱっと明るい表情をしていた天里は、新たに現れた人物の腕の中にぽすんと収まった。
「大丈夫ですか?天里。遅くなってすいません」
「茗峯お兄ちゃん!」
突然なら現れた人物に、天里の表情から彼も麗の霊従の1人だと全員が悟る。
しかしそれ以上に全員が心を一致させて驚いたことがあった。
「お兄ちゃんってことは・・・・・女じゃなくて男?」
全員の心の中を代表して言った叶の言葉に、茗峯は明らかに激しいショックを受けていた。
「僕は正真正銘男です〜〜!」
「いや、だって顔といい、体格といい、着てるものといい・・・」
「・・・・・酷い」
「ところでこれどうにかしてくれない?」
ショックを未だ受けつづけている茗峯をさらりと無視し、叶は自分とオルトロスに巻きついている蔓を指差した。
茗峯の登場とほぼ同じくらいのタイミングで蔓が絡み付いてきたことから、間違いなくこれは彼の仕業であると断言していい。
するとはっとした茗峯が表情を真剣なものに直して首を横に振る。
「駄目です」
「どうして?」
「僕達がここから立ち去るまでの間、大人しくしていてもらうためです」
ふわりと微笑んで言った茗峯の言葉に、叶達はもちろん、天里も大きく目を見開く。
「どういうこと?茗峯お兄ちゃん」
「麗様から引き上げるようにとてのお達しです」
茗峯のその言葉を聞き、天里もぱっと表情を明るくさせる。
「麗しゃまから?!」
「はい。ですから、引き上げますよ」
「は〜〜い」
「それは僕達がいなくなって暫くして外れますので。では・・・」
「ばいば〜〜い」
そう言って2人はあっさりと姿を消していった。



あっさりと去っていった2人を暫し呆然と見つめながら、はっとしてすぐに追いかけようにも蔓がとても邪魔だった。
「姉さん、オルトロス。大丈夫?」
「ん〜〜・・・なんか妙な力が込められてるみたいで、斬ろうとしても斬れないのよね・・・」
『火デ焼コウニモ、ソレデハ我々自身モ火ニマカレル』
厄介な置き土産をしていってくれたものだと全員は思った。
しかしこの状況から脱して、今すぐ追いかければ麗の居場所に近づける。
「うにぃぃ?」
全員が試行錯誤していると、可愛らしい声をあげてメリィが起きた。
目をごしごしとこするなんとも愛らしい姿に、一同少しの間現状を忘れた。
「メリィおはよう」
「うにぃvおねえしゃまたちおはよう」
にこっと微笑んで挨拶をしたメリィだったが、すぐにオルトロスの姿を捉えてうれしそうな笑顔をした。
「うわ〜〜vあたらしいおっきいにゃんにゃん」
『にゃ・・・・・』
その言葉に呆然とするオルトロスに対し、瞬時にケルベロスは目線を遠くにそらした。
「・・・おねえしゃまたちどうしたの?」
嬉しそうにしていたメリィだったが、すぐに叶達の現状に気がついて小首を傾げる。
「あ・・・これはね・・・」
どう説明するべきかと困ったような表情をする叶達のすぐ傍に行くと、メリィは座りこんで口を開いた。
「つるくんたち。おねえしゃまたちこまってるみたいだから、はなしてあげて」
メリィがそう言うと、茗峯の力を受けていた蔓はあっさりと叶達を放れた。
その事実に少し呆然とする一同。
「・・・メリィ、お前何したんだ?」
「んとね。めりぃはおはなやくさやきとおはなしできるの。おはなしできるだけじゃなくておともだちなの」
そう言ってにこやかに話すメリィの意外な能力に一同は驚く。
「・・・まあ、とりあえずメリィのおかげで助かったわ。ありがとね」
「うにぃv」
叶に頭撫で撫でされたうえにお礼を言われてメリィは至極ご満悦のようだ。
「それじゃあ、追いかけるわよ!」
もちろん未だ痺れて役立たずになったラスは荷物扱いして。











アルとキャルははっきり言って大ピンチだった。
それというのも、剣恙が麗の命令と言う理由で、あっさりと勝負途中でいなくなったからである。
よって勝負をないがしろにされたアイスは、剣恙と出会うよりも前の時よりも機嫌が悪い。
はっきりいってアルとキャルの心地はこの空間に生きた心地がしない。
「こうなったら、何があっても真っ先に見つけてやる。そうでなくても、負けたらあいつの弟に・・・・・」
ぶつぶつと怒り事を呟くアイスのその姿は、アクラやブリックの言う通りとても国民に見せられるようなものではないなと、彼の世界に実際に行ったことのない2人でさえ思うことだった。
「それにしても先ほどは凄まじい戦いでしたね」
「ああ、あの剣恙とやら、並の使い手どころの話ではないな。『四精絶華』を持ったアイスと互角以上とは・・・」
「ところでその『四精絶華』って、いったい・・・・・」
「お前ら早くしろ〜〜!」
後ろの方で話していると、どんどん先に進んでいくアイスに怒鳴られた。
確か剣恙に会う前にもこのパターンがあったと思う。
はあっと2人は溜息をついて早足でアイスを追いかける。
「確かこっちに剣恙は言ったと・・・」



はっきり言ってアイスは硬直した。
それは硬直しても仕方がないことだと思う。
草の根を分けて開けた視界の目の前には、今アイスの怒りの主な原因となる人物が居たからだ。
にっこりと微笑む相手に対して、顔を引きつらせるアイス。
「叶・・・・・」
「あら、奇遇ねアイス。それにアルにキャルも」
「あっ、姉さん達?!」
合流に叶達もアルとキャルも嬉しそうだが、ただ1人未だ顔が引きつっているのはアイスだった。
「アイス!賭け忘れてないわね?」
「むしろ忘れたいぞ・・・・・」
どう考えても叶とアイスの心情は正反対だった。
その時、メリィが可愛らしい声で全員に告げた。
「あのね〜〜。きくんたちがもうちかくだって」
「本当か?メリィ」
「うん!」
叶とアイスはその言葉を聞いた瞬間、同時にスタートダッシュする。
「姉さん・・・・・」
「そこまで嫌か。アイス・・・」
他の面々はその後姿を暫く呆然と見てから後を追った。










誰がこんな所にいると思うのだろうか。
普通かくれんぼというのは、見つかりにくく、しかも隠れる場所が多々あるような場所こそ隠れる側には格好の場所とされている。
しかしこの人物はその裏をかいたつもりなのか、それとも最初からまともに隠れる気がなかったのか、どこまでも広がる空と広い野原のど真ん中にいた。
それもござなど広げ、呑気にお茶をしてである。
そこには尋ね人宜しくの麗はもちろん、先程まで会っていた霊従達、そしてよく見知った人物3人までもいた。
「あ、やっと来た」
「遅いで〜アイス」
「お疲れさま」
なんでお前達までこの場で呑気にお茶会してるんだよと、彼らよりも早くスタートし、今の今まで散々探し回っていた全員が思ったことだった。
「それはね。彼らを哀れに思った幻覇が、麗様に頼んで連れてきたから」
「師匠・・・・・」
自分の『知詠』とそっくりな能力、しかし自分と違い世界という制限のない彼女の言葉に、アイスは引きつった表情を知由に向けた。
「だってさ〜〜。あまりにも巻き込まれた3人が可哀想だったんだよね」
「そうそう。で、このグループ勝たせたら、貴方達の賭けはドローってことになるでしょう」
楽しげにそう告げる麗に対し、感謝したかったが、しかしアイスにはそれ以上に、「じゃあ、もっと早くに教えろよ」という気持ちが勝っていた。
ちなみに他の面々も同じである。
「だってそれじゃあ、面白みがないって麗様は仰ったしね」
いつも自分がやっていることとはいえ、他人にやられるとこうも嫌なのかとアイスは思った。



「まあ、まあ。とりあえずこっちにきてお茶飲みなさいよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
麗の言葉にあっさりと叶は頷いてござに座る。
賭けがドローになったというのにあまり悔しそうでもなさそうだ。
「ほら、エド達も」
「あ、うん・・・」
叶に呼ばれてエド達もござの上に座る。
すると黒髪黒目に眼鏡をかけた見たことのない人物がお茶を入れてくれた。
「ありがとう・・・」
「どうも」
「貴方も霊従なんですか?」
「・・・そいつは麗と同じ一族の奴だぞ」
もう諦めたような口調で言いながらも、とりあえず叶の義弟を回避できたことの安堵感からアイスは言われた通り座る。
「久しぶりだな・・・颯」
「そうだな・・・アイス」
「相変わらず苦労してるみたいだな・・・」
「お互い様だろう・・・」
黒髪黒目の相手が苦手だと言っていたアイスだが、妙に颯とは分かり合っていた。
その時一同の頭の中に「同類」という言葉が浮かんだ。
それは正しい。
「このお茶おいしいわね」
「そりゃあ、颯の家からパクってきた茶葉だからね〜」
パクったという言葉自体驚いたが、それよりも目の前に当事者がいるのに良いのかと全員が突っ込みを入れた。
しかし当の颯は特に気にしていないようなので、ひょっとしていつものことなのかと、一同の間に冷汗が落ちた。
「それにしてもやってくれるわね。賭けをドローにしてくれるなんて」
「まあ、悪いけど今回は幻覇のお願いだったしね。それに・・・」
「解ってるわ・・・ドローということは・・・」
叶と麗はきらりと目を互いに光らせて示し合わせた。
「「勝敗が決まってないため、賭け続行が可能!!」」
「ちょっと待て〜〜!」
アイスは2人の楽しげなその声にかなり焦った。
叶が賭けがドローにされたのに冷静だったのはそういうことだったのだ。
この時ほどアイスは自分の能力が別世界の人間に及ばないということを悔やんだ。
しかもよりいっそう危ないのは、なにやら叶と麗の2人が意気投合してしまっていること。
その予感を裏付けるかのように、2人はがしっと互いの手を握り合っていた。
「麗・・・あなたとは仲良くやっていけそうだわ」
「そうね、叶・・・・・あたし達良い友達になれそうだわ」
全員(一部呆然と)が見守る中、異様にテンションの高い2人の間で新たな友情が成立した。
それはある種の人物達にとってはとんでもないことになる友情の成立だった。



後日、無事全員は元の世界に帰れ、一先ず今回の珍事件は幕を閉じた。
例の賭けはこれから先も続き、アイスの悩みも続く。
そして一部の人物達にとっての受難増大は始まったばかりである。








あとがき

楽しかった〜〜♪
本当に書いてて楽しかったですv
まだ座談会があるんですけどね・・・・・・(^^)
前回の姉さんの出番があんまりなかったため、今回はお返しというくらい登場してもらいました。
その代わり他のグループの面々が極端に出番が少なくてすいません・・・
ついでに麗との友情を成立してもらいました。
っていうか、オルトロスまで「おっきいにゃんにゃん」に・・・・・(ごめんなさい・・・)
賭けのことなんですが・・・
麻耶さんには某所のチャットで言っておいたとおり・・・
鳶(アクラ、ブリック、ロイ)が、油揚げ(勝利)を、見事に掻っ攫っていきました;
1番やる気がない(?)連中がお情けで勝利をゲットです!
まあ、その為に幻覇を当てたんですけど・・・
あいつはまともでまじめな思考ですから・・・・・
では次は座談会で!
メインは姉さんと麗ののほほん茶しながらの恐ろしい会話です!(えっ;)






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