Seven flames
4:Kidnap




無事音譜盤を回収し、解析結果の書類は不自然なくアッシュ達の手許に残す、という事をやってのけたシンクは、これまでばたばと動いて多少疲れのたまった身体を休ませようと、密かに取っていた宿の一室に辿り着いた。
そして扉に手をかけた瞬間、思わず固まってしまった。
「あっ、お帰り〜。シンク」
そこには何故か人の取った部屋に勝手に侵入し、勝手に寛いでいるルークの姿があった。
「・・ルーク、何やってるの?っていうか、なんでここに?ダアトに戻るはずじゃなかったの?」
多少顔を引き攣らせながらそう尋ねてみると、まるで待っていたとでも言うようにルークは勢いに任せて言葉を返す。
「それが聞いてくれよ!実はお前と別れた後、とりあえず1回ダアトに戻ろうと思ってアリエッタと港までいったら、リグレットが現れてさ」
「リグレットが?」
「うん。で、ヴァン師匠からの指令を伝えに来たって言ってさ」
「ヴァンからの指令?」
「そう!イオンの奪還だってさ」
眉を潜めるシンクに対し、ルークがはっきりと少し怒ったようにそう告げた。
ルークのその言葉にシンクの表情も少し焦ったものになる。
「ルークにイオンの奪還を・・・それは・・・」
「確実に連れ戻せって事だろ・・・実力的に俺が失敗することはないしさ」
「・・・実力ってのもあるだろうけど、イオンは君を姉のように慕ってるから、君なら油断すると思ってるんじゃない?」
「う〜〜・・それもあるか。しかもラルゴも一緒なんだぜ。絶対に誤魔かしきかねえよ」
「・・・ラルゴねえ」
確かにディストならまだしも、ラルゴなら誤魔かしなどきかないだろう。
もっとも引き合いに出されたディストはというと、今頃シンクのアッシュ達に対するささやかな意地悪のうちの1つに利用され、今頃どこかの空を飛んでいることだろう。
「あ〜〜・・連れ戻したくねえ。イオンの為には絶対あっちにいたほうが良いにきまってるからなぁ・・・」
「確かに・・モースのこともあるけど、何よりもヴァンがイオンを必要とする理由は、ダアト式封呪を解かせるためだからね」
「・・・あれやると、イオンの体調が悪化するから、あまりさせたくねえんだよな」
そう言って少し考え込むようにしながら、ルークは心底辛そうな表情をする。
そのルークの表情を見ながら、二重の意味で辛そうな表情をした後、首を振っていつもの表情に戻ると口を開いた。
「でもヴァンに僕達の事を知られないためにも、指令は聞いておくしかないと思うよ・・・」
「それは・・解ってるけど・・・」
「・・・僕も行くよ」
シンクの言葉にそれでもまだ自分自身で納得のいかないといった様子のルークに、シンクがそう短くはっきりと告げるとルークは目を丸くして顔を上げた。
「良いのか?」
「どうせ今は特に任務も入ってないし。僕に少し考えがある・・・」
「考え・・・?」
どんな考えがあるのか解らないといったように首を傾げるルークに、シンクは苦笑を漏らしながら彼女を指差した。
「こういうときの為に、フォンスロット開いたんでしょ?」
シンクのその言葉にルークは「あっ」と小さく漏らして、失念していたその事を思い出した。
「そうか・・・・・そうだよな。んじゃ!」
少し希望が持てたのか先程から一変して表情を明るくさせたルークは、何やら懐から小瓶を取り出していた。
その中には何やら怪しげな紫色のビー玉くらいの大きさの玉が幾つも入っている。
「・・・何?それ」
当然その怪しげなものにシンクは多少引くが、ルークは至って平然というよりも寧ろ自慢げにそれをシンクに見せ付ける。
「これか?これ飲むと髪と目の色が変るんだぜ。俺の場合は、髪と目の色が入れ替わってたな。効果は一週間くらいだけど」
「・・・それ飲んだことあるの?」
「うん。あっ、シンクも飲むか?ディスト特製なんだぜ。これ」
「・・・・・余計飲みたくないよ。っていうか、ルーク・・・よくそんなもの飲めるね」
その薬の製作者の名前を聞き、余計に危険物ではないかと顔を引き攣らせるシンクに対し、ルークは少し不満げな声を上げる。
「えーっ、なんでだよ?大丈夫だって。ディスト最初に自分で実験したらしいし。俺だって何度か飲んだことあるけど、特に異常なかったし」
「何度もって・・・それ以前に、なんでそんなもの飲む必要が何度もあったわけ?」
シンクのその一言にルークはぎくっと密かに冷汗を流す。
当然そのルークの様子の変化にシンクが気づかないわけはなく、じとっとした目をルークに向けながら静かに口を開く。
「・・ルーク、まさかと思うけどそれ使って抜け出した事があるわけ?」
「あ、あはははっ・・・」
ルークのその乾いた笑いは明らかに肯定の証で、シンクは深い溜息をついた。
「まあ・・・過ぎた事を今言っても仕方ないけど」
「ほ、本当か?!」
珍しいシンクの寛大な言葉に、ルークはぱああっと表情を明るくさせた。
しかし次のシンクの言葉でルークの表情はまた引き攣ることになる。
「次同じことしたら、その時は本当に長い説教お見舞いするからね」
「うっ・・・・・」
ルークのその小さな呻き声に、シンクはまたやるつもりだったなと確信し、釘をさしておいて良かったと溜息をついた。
「・・で、百歩譲ってそれが安全だと認めるとしても・・・なんで今それを取り出したわけ?」
「だってイオンを連れ戻すとしたら、バチカルにいかなきゃ行けないんだろ?さすがに俺、あそこでこのままの格好ってのはちょっとさ・・・」
ルークのその言葉にシンクは彼女の姿を改めて良く見ながら確かにと納得した。
アッシュの故郷であるバチカルともなれば、幾ら彼が軟禁されていたとはいえ、アッシュの顔を知っている人間が街中にいないとは限らない。
そんなところに性別が違うとはいえ、アッシュと瓜二つの顔をしているルークが入り込むのは非常にまずい。
あまり人目につく行動を勿論取るつもりはないが、念には念を入れておく必要がある。
「・・・解った。じゃあ、それはバチカルに入る前に飲んでね」
「うん、解った」
「じゃあ・・・ルーク。これからイオンを連れ戻した後について、僕の考えを話すよ・・・」










バチカルの屋敷に戻ってきたアッシュは、自分の部屋のベッドに腰かけて何やら考え事をしていた。
すると突然部屋の扉をノックする音が聞こえ、反射的に顔を上げて扉を見つめながら返事をした。
「・・入れ」
「失礼します」
ガイか使用人の誰かかと思いきや、アッシュの予想に反して扉を開けて現れたのはイオンだった。
予想外の人物の出現に内心少し驚きながら、しかし外面的には至って平静にアッシュはイオンに向かって口を開く。
「どうした?ジェイド達と一緒に城に戻ったんじゃねえのか?」
「少し貴方とお話がしたいと思って、皆さんには少し待っていてもらっています」
「そうか・・・で、話というのは?」
「・・それは貴方のほうでしょう」
アッシュの問いかけにイオンはまったく見当違いの言葉を口にし、その言葉にアッシュは眉を潜めた。
アッシュ自身は別にイオンに話したいことがあるとも一言も言っていないし、勿論イオンをこの部屋に招いた覚えも全くない。
イオンの方から話がある意外に彼がこの部屋を訪ねるなどありえないはずである。
そんなアッシュの心情を察したイオンは、苦笑を漏らしながら口を開いた。
「ずっと僕に聞きたい事があるといったような顔をしていましたよ」
「なに・・・?」
「・・・・・ルークのことですね」
イオンの言葉に最初はやはり解らないと言った顔をしていたアッシュだったが、次にイオンから出た言葉に大きく目を見開き、それがイオンにとっては肯定の証になった。
確かにアッシュはルークの事についてイオンに少し聞いておきたいと思っていた。
自分と瓜二つの顔をして、しかも会ったこともないのにまるで前から知っているかのようにあれほど好意的に接されれば、誰でも気になってしまっても仕方がない。
実際、先程考え込んでいたのもそのルークの事だったのだ。
そしてイオンにそれを指摘され少し考えた後、別段否定することでもないと、アッシュは口を開いていた。
「・・イオン。あのルークというのは、本当に何者だ?」
「詳しいことはお答えできせん。ルーク自身がいずれ話すでしょうから・・・ただ」
「ただ?」
「前にも言いましたが、ルークはとても優しい人です。彼女は確かに六神将ですが信用して問題はありません」
「その根拠は?」
アッシュにそう尋ねられると、イオンは何処か懐かしむように虚空を見つめた。
「・・・ルークは、僕やシンクにとって、命の恩人同然なんです」
「なに?」
イオンの口から出たその思いも知らない物騒な言葉にアッシュが目を見開いた。
そのアッシュの反応がある程度予想通りだったのか、イオンは複雑そうな笑みを浮かべていた。
「これはアニスも知らないことです。それ以降もルークは色々と僕達を気遣ってくれて・・・ともかく、そんなこともあり、ルークは僕達にとって絶対の信頼を寄せる『姉』とも呼べる相手なんです」
「成程な・・・」
「それと今回の事で彼女を信用できるもう1つの理由ですが・・・彼女はアッシュ・・貴方にとても憧れていますから」
新たにイオンが告げたその言葉にアッシュは先程までの納得したといった表情から一変、また訳が解らず不可解だといった表情になった。
「それが1番解らない・・・フーブラス川以前に、俺は奴に会ったことはまるでないぞ・・・」
アッシュのその言葉を聞くと、イオンは何処か複雑そうな表情になった。
「・・・それも答えられません。でもルークの事、信じてあげてください」
そのどこか優しさを含んで真剣に言うイオンを見て、アッシュはこれ以上の追及は無理だと悟り、それ以上は何も聞き返すことは出来なかった。










昨日、アッシュと交わした会話を思い出しながら、イオンは少し困ったように笑っていた。
アッシュにルークを信用してほしいと言ったその翌日の朝、彼はその当のルークによって見事に連れ出されていたからだ。
もっともルークが自分に危害を加えないことは解っているのだが、これでルークがアッシュから信用をなくしてしまったらどうしようかと、彼女以上に彼女の気持ちに気づいているイオンとしては複雑な心境だった。
そんなイオンの考えに気づく様子もなく、バチカルに侵入するにあたって髪の色と目の色が入れ替わり、更に念のために眼鏡をかけていつも後ろで結んでいる髪を解いているルークは、不思議そうな表情でイオンを見ていた。
「どうかしたのか?イオン」
「・・いえ、なんでもありません」
「・・・悪いな、こんなことして。でも出来るだけ早くにあいつ等のところに帰してやるから」
そう言って自分を安心させようとにっこり微笑むルークを見ながらも、イオンはアッシュとの事を考えるとやはり少々複雑な心境だった。
ルークとイオンの考え事がまったく別のものである中、2人にとって良く聞きなれた声が聞こえてきた。
「2人とも、無事みたいだね」
「あっ、シンク」
「ご苦労様です。シンク」
ルークはともかく、気心の知れた仲とはいえ、自分を攫った相手に対し、あんな場違い同然の言葉を口にできるイオンに、シンクは自然を苦笑を漏らしていた。
「・・イオン、それ攫った相手に言う台詞じゃないよ」
「2人が僕に危害を加えないことは解っていますから」
「それはそうだけどさ。けど、これからタルタロスが来てラルゴと合流する予定だから・・・・・奴が着たら余計なことは言わないように」
「はい」
「シンク、首尾はどう?」
「予想通り、海はヴァンの用意した神託の盾騎士団の船で危険だから、アッシュ達は陸路を進むはずだよ。正規のルートは僕がわざと邪魔して通らないようにしておいたから・・・何かの間違いでもなければ、廃工場を抜けてここに来るはずだよ」
シンクからそう報告を聞いたルークは満面の笑顔を浮かべて手を高々と上げる、するとその意図に気づいたシンクも笑みを浮かべ、ルークの掲げた手に自分の手を合わせ、2人の手はぱんっと音をたてた
「よしっ!とりあえずこれで一安心だな。後はアッシュ達にイオンの姿確認させればここでの作戦は終わり」
「アッシュ達がこっちの思惑に上手く乗ってくれればね」
「・・・シンク、やっぱりアッシュに対しては辛口ですよね」
にっこりとしながらそんなことをシンクに聞こえるだけの声で告げたイオンのその言葉に、シンクの表情が少しだけ引き攣ったような気がした。
イオンにしてみれば全く悪気はないのだが、逆にシンクはそれが解っているうえ、ましてやルークの前なので、何も言い返すことが出来ずになんともいえない気持ちを抱えることになってしまった。
そんなシンクの心境になどまったく気づかないルークは、呑気に明るい声で2人に話しかける。
「それにしても・・こうしてイオンといるのは本当に久しぶりだよな」
「そうですね・・・最近、導師の仕事等でろくに会えませんでしたからね」
「モースの邪魔も大分あったしね・・・」
シンクのここにはいない人物に対しての皮肉に、イオンは苦笑を漏らすだけで応えた。
「確かにモースは鬱陶しかったよな・・・あ〜あ、折角そんな余計な邪魔が入らないんだから、どうせならアリエッタもいれば良かったのにな」
「確か、アリエッタはダアトに帰ったんだったよね?」
「うん。それもヴァン師匠の指示・・・」
「僕も残念です。アリエッタには、2人から良く伝えておいてください」
「勿論。任せておけって!」
それから3人はアッシュ達が自分達の思惑通りここに現れるのを待つ間、これまでにあった互いの出来事を色々と反し始めていた。
ルーク達の方からは、今は任務の妨げになるという理由でこの場にはいないが、チーグルの森で会った子供のチーグルがルークについてきたということには、イオンは少し驚いていたがルークの取った行動には納得して微笑んでいたが、逆にアリエッタの母親の件は、もうアリエッタはアッシュ達に復讐する気はないと教えてもどこか複雑そうな表情だった。
イオンの方はというと、無事にシンクがわざと取り逃した音譜盤の解析結果の書類をジェイドが全て目を通したということを聞き、ルークとシンクは上手くいったと悪戯が成功した子供のように笑っていた。
それ以外にもあまり重要でない旅先でのちょっとした話など、3人が笑いあってはなしていると、ふとルークの方を見たシンクが彼女に思い出したかのように声をかけた。
「ところで、ルーク。その髪と目の色・・・効果は一週間らしいけど・・本当に一週間も元に戻らないの?」
口には出さないがシンクはルークの焔のような髪と、木々の葉のような緑の瞳が好きだった。
自分達と同じ緑色の髪を良いが、やはりルークにはあの『七焔』の名の由来にもなった赤い髪が似合うと思っている。
しかもこの間見かけたアッシュの髪は、ルークの被験者であるがゆえにルークと全く同じ色と思っていたが、多少アッシュの方が色素が濃いように思えた。
そんな多少のアッシュとルークとの相違点が、叶わない想いを抱えているしかないシンクにとっては、なんとなく嬉しく感じていたのだ。
そう思いながらシンクがルークに尋ねてみると、ルークは「んーん」と首を横に振った。
「いや、解毒剤飲めば一週間待たなくても元に戻るぜ」
「・・・解毒剤って・・・それ、やっぱ毒なの?」
「・・・じゃあ、他にどんな言い方すればいいんだよ?」
「いや、それはそうだけど・・・でも、ディストの作ったものだから、なんていうかさ・・・」
2人がそんな会話を交わす中、くすくすとイオンは少し堪えつつも笑っていた。
そんなイオンの様子に気づかないまま、ルークは懐から小瓶を取り出した。
そこに入っているのは紫の玉ではなく、同じくらいの大きさの白い玉。
これが髪と目の色を変化させる薬の解毒剤なのだろう。
ルークは瓶の蓋を開けるとそれを迷うことなく口に含む、ごくりと喉を鳴らしてそれを飲み込むと、暫くして彼女の髪と目の色は元通りになり、どれと同時にルークはかけていた眼鏡を取った。
「・・・やはり、ルークはその姿が1番ですね」
「そうか?」
「はい。そうですよね?シンク」
「まあ、ね・・・」
はっきりと微笑んで告げるイオンに対し、シンクはルークから目線を逸らし、少し素直になりきれずそう言葉を零したが、内心かなり照れてルークに向かって言わせたイオンに文句を言っていた。
「そっか・・・ありがとな」
2人の言葉に満面の笑みを浮かべて喜び照れるルークは浮かべた。
そしていつも通りの髪型に戻そうと髪を結ぼうとした時、彼女の頬にぽたりと水滴が落ちてきた。
「あ、雨・・」
ルークがそう言うとぽつ、ぽつと徐々に滴の数が増していき、やがてそれは完全に雨となって降り始めた。
するとほぼ同時に後ろの方から大きな音がこちらに近づいてくる音がして、3人がそちらを振り返ってみると、そこにはタルタロスの姿があった。
「タルタロス・・?!うそっ!ちょっと早くないか?」
「まずいね・・・まだアッシュ達は着てないって言うのに」
「あっ・・・ルーク・・」
指定の場所に到着して中から兵士が下りてくるその姿に、ルークとさすがのシンクも少し焦りを見せたとき、彼等とは反対の方向を見ていたイオンが声を上げた。
その声に反射的に振り返ってみると、そこには驚いた顔でこちらを見ている彼等の待ち人が佇んでいた。
「アッシュ・・・」
ルークが目を見開いてそう呟いた瞬間、表情を厳しいものしたアッシュが剣を抜いてこちらに向かって斬りかかってきた。
六神将としての経験上、ルークはそれを反射的に剣を抜いて瞬時に受け止め、彼の目を覗き見てみると、明らかに怒りを含んで自分を見る目を視線が絡んだ。
そして次の瞬間、彼の口から怒りに震えた言葉が紡ぎだされた。
「・・・どうやらイオンの言うとおり、信じようとした俺が馬鹿だったようだな」
「えっ・・・」
「あれだけてめえを信じて庇いだてしていたイオンを、良く攫うなんてできたもんだな!」
そう言って1度鍔迫り合いをしていた剣をアッシュは引いたが、またすぐに勢いをつけて斬りかかってきたそれをルークはまた受け止める。
「イオンは、返してもらうぞ」
「・・・・・うん、そうだな」
はっきりと宣言したアッシュの言葉に、しかしルークがぽつりと返したのは彼の予想とは全く正反対の言葉だった。
「・・無理は絶対にさせないし、近いうちすぐに返す。今は・・こっちも見張られてるような形だから・・・・・ごめん」
そう言って暗く顔を落としていたルークが、次にその顔を上げてアッシュに向けた表情は、声と同じようにとても辛そうなもので、アッシュは一瞬思わず目を見開いて呆然とする。
その瞬間、今度はルークが鍔迫り合っていた剣を離すと、先程のアッシュとは違い大きく後退して彼から距離を置く。
そして少しの後じっとアッシュの方を見ていたが、シンクの声が聞こえてそちらに反応した。
「ルーク!今はイオンが優先だ。・・・これ以上はラルゴ達に怪しまれる」
「・・・解ってる」
シンクが最後の方に告げたルークとイオンにしか聞こえない言葉に、ルークは短く返事をすると、イオンを連れて先を行くシンクと共にその場を去ろうと踵を返した。
一瞬だけアッシュ達の方を振り返ってみたが、すぐに申し訳なさそうな表情をしながら前を向くと、急いでシンク達の後を追っていた。
その後ろ姿を何も出来ぬままアッシュはそれを見送っていた。
脳裏には先程のとてもイオンを攫った者が言うはずのない、心底申し訳なさそうなルークの言葉と、彼女が最後に見せた悲壮とも取れる表情だけが焼きついていた。
特に彼女が最後に見せたその表情は、雨で濡れていたために、まるで泣いているようにも見えた。
否、先程の表情と声からして、ひょっとしたら本当に泣いていたのかもしれない。
それは自分と瓜二つの顔だと解っているのに、その時はまるで自分とは全くの別物に見えた。
その時の表情、姿がとても艶やかしく綺麗なもので、自分は思わず魅了されていたなどと、自分自身でも信じられないのに一体他の誰が信じるのだろうか。
それでも先程の彼女の立ち去る間際の姿が忘れられず、呆然としたアッシュはその場に立ち尽くしたまま、先程から呼びかける仲間達の声も、暫く彼の耳に届くことはなかったのだった。













あとがき

意外に難産でした・・・;
あの雨のイベントは絶対に入れたかったのですが、ザオ遺跡とか入れると変な場面の飛び方するし、かといって入れなかったら短くなるしで・・・
アッシュとイオンの会話を入れることでなんとか落ち着きました;
結構この2人はこの作品内では仲良いかもしれません。
まあ、それ以上にここのイオンはルークとシンクとは不滅的に仲が良いですが。(後アリエッタともか)
うちのサイトのイオンは基本、白属性ですので。
で、シンクは灰色でしょうか?;
ルークとアリエッタは天然属性・・・;
ちなみにイオン、シンク、アリエッタは一部からダアトのシスコントリオと呼ばれていたり・・・;(主にディストとか)
作中に出てきたディストの作った怪しげな(?)薬ですが、これは今後の展開上ちょっと出しておきたかったので・・・
いえ、別にこの「Seven flames」自体にまた登場するかは解らないんですが・・・;
ちょっと・・・・・(何か企んでいる)






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