Seven flames
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ザオ遺跡は入り口は当然地上だが、その主要部分は全て砂漠の地下にある。
中には石畳で整地されている場所もある事はあるが、砂に埋もれている場所が殆どで足場がかなり悪い。
しかしこんな場所にまでタルタロスで入ってくることなど出来るはずもなく、徒歩の移動となっているため体力の少ないイオンにはかなり辛いものになっていた。
「大丈夫か?イオン」
「はい・・・大丈夫です」
「ばればれな嘘はよしなよ。顔色が悪いよ・・・」
「イオンさん、具合悪いですの?心配ですの」
明らかに歩き疲れているイオンを心配する2人と1匹に、イオンはそれでも笑顔を作って2人と1匹を心配させないように気を使っていた。
「ありがとうございます・・・本当に、大丈夫ですから」
「だけどさ・・・ちょっとラルゴ!少し休むとかできないのか?!」
無理をしていると解るその笑顔に、逆に痛々しそうな表情をした後、ルークは目の前を歩くラルゴを睨みつけて抗議の言葉を送っていた。
するとラルゴはこちらを振り返り、少し困ったような表情をしながら答えた。
「休ませてやりたい気持ちは解るがな・・・・・先程の連中がここに来るかもしれないのだ。出来るだけ急がねばならん」
「・・・なんで連中が来ると思うのさ?」
ラルゴの言葉にシンクは内心少し焦りながらも、ポーカーフェイスに常備の仮面も手伝い、ラルゴには少し動揺していると悟られないままその質問をすることが出来た。
「・・・先程奴らに我々が行く方向を見られたようだからな。なんらかの情報を得てここに辿り着く恐れもある。もっとも・・かなり低い確率だとは思うが・・・」
ラルゴのその言葉にシンクが内心ほっとしていると、今度はルークがやはり不満そうにしながら反論の言葉を告げた。
「確立が低いなら休んでもいいじゃねえかよ!」
「念には念を、というだろ。後、少しのはずだ・・・導師にはもう少し辛抱してもらう」
「ルーク・・・僕なら大丈夫ですから。ありがとうございます」
ラルゴの言葉にそれでもまだルークは反論しようとしたが、辛いはずなのに耐えて笑顔で礼を言うイオンの姿に、何も言うことが出来なくなってしまいそのまま黙りこんだ。
それはシンクも同様のようで、ルークが黙ると同時に彼も黙り込んだ。
それを見たラルゴも前に向き直り、先程同様黙ったままの歩きを再会した。
そのラルゴの後姿を見ながらやはり不満そうな顔で歩くルークに、シンクは周りに聞こえないくらいの声で彼女に話しかけた。
「・・・ルーク、少し落ち着きなよ」
「けどさ・・・」
「僕だって気持ちは解るけど・・・・・・一応、アッシュにここの事は伝えたんでしょ?」
「ああ・・・ここに入る時に回線繋げて・・・」
「じゃあ、後はアッシュ達が来るのを待つしかない。イオンが無理して頑張ってるのに僕達がどうこう言ってラルゴに怪しまれたら元も子もないじゃないか」
「・・・解った」
解ったと言いながらまだ少し不満そうなルークにシンクは溜息が出た。
しかし完全に機嫌が直らないのはイオンを心配するあまりの彼女の優しさだとシンクは解っているので、別段悪い気はしなかった。
そんな事を考えながら歩いていると、ぴたりとラルゴの歩みが止まったのに気づいた。
そして目の前を見てみると、そこにはダアト式封呪の施された扉が目に入った。
「どうやら、付いたようだな。ルーク・・・導師にダアト式封呪を解かせてくれ」
「・・・イオン」
「僕なら大丈夫ですから」
ラルゴの言葉にイオンの体調を考え、扉の前に連れて行くことを戸惑っているルークに、イオンはまたにっこりと微笑んでそう告げた。
イオンのその笑顔を見ても、やはり少し戸惑っていたルークだったが、決心したようにイオンの手を掴むと、彼を連れて扉の前まで連れて行く。
その中で、イオンがダアト式封呪を解く前に、アッシュ達が現れてくれないだろうかとルークが考えていた。
そしてイオンを扉の前まで連れて行き、ダアト式封呪の解呪に取り掛かろうとした時だった。
後ろの方から聞こえてきた足音に振り返ってみれば、そこにはこちらに走って近づいてくる見知った顔があった。
ルークはその姿に目を見張って何かを言おうとしたが、それは彼等の目の前に立ちはだかったラルゴとシンクの姿で阻まれてしまう。
そしてシンクの方を見てみれば、1度だけこちらに振り返り、仮面に隠れた目でこちらに何か合図を送っていた。
その意味が解らないほどルークはシンクと付き合いが浅くはなく、彼の考えを察して頷いてその場でイオンと共に大人しくしていることにした。
「導師イオンは儀式の真っ最中だ。おとなしくしていてもらおう」
近づいてくる人物達にラルゴがそう言って半ば牽制すると、当然彼等からは厳しい表情と声が返ってきた。
「六神将・・!」
「なんです、おまえたちは!仕えるべき方をかどわかしておきながら。ふてぶてしい」
「シンク!ラルゴ!イオン様を返してっ!」
「そうはいかない。導師にはまだ働いてもう事がある」
シンクの冷たいこの言葉が当然嘘であると解ったのは、ルークとイオンの2人だけだった。
そしてこうでも言わないとラルゴから怪しまれるであろうということも解っていたし、何よりもアッシュ達を挑発してある意味彼らにイオンを取り返しさせやすい状況を作るためのものだとも解っていた。
そのシンクの思惑の通り、アッシュ達はイオンを取り返そうと徐に武器を構えた。
「なら力づくでも・・・」
そう言いながらアッシュの視線がちらりとこちらに向いたことにルークは気づいたが、自分が動く気がないと思ったのかすぐにその視線はシンクとラルゴに戻る。
それをルークは自分でもそのわけが解らないまま少し残念に思っていると、そのアッシュの視線の移動に気づいたのか気づかなかったのか、ラルゴがアッシュに向かって面白そうに口を開いていた。
「こいつは面白い。タルタロスの時からどれだけ成長したか見せてもらおうか」
「・・・ジェイドに負けて死にかけた奴の台詞とは思えんな」
「わはははっ、違いない!だが今回はそう簡単には負けぬぞ。小僧・・・・」
「六神将烈風のシンク。・・・本気で行くよ」
「同じく黒獅子ラルゴ。いざ、尋常に勝負!」
そうして戦闘は始まった。
六神将2人に対して、相手はアッシュも入れて6人になる。
本来なら数で不利なのだろうが、こちらは六神将という肩書きを持つ2人であるため数の問題ではない。
アッシュ達も魔物との戦闘で強くなっているようで、なんとか2人とやりあってはいるが、まだ本気で戦った2人の敵ではないとルークは正直考えていた。
しかし勝敗は明らかにアッシュ達の方に傾きつつあった。
その最大の原因はシンクである。
先程本気を出すと言ったシンクの言葉が、ルークには当然嘘だと解っていたし、その上彼はアッシュ達にもラルゴにも気づかれないように、さりげなくラルゴの戦いをそれとは解らないように邪魔していた。
ラルゴも気づいていないだろうが、そのシンクのさりげない邪魔によって何時もよりも調子が出ていないのは、ルークの目には明白だった。
しかしそれが戦闘をしてそちらに神経を集中している本人達には解るはずもなく、これならアッシュ達の勝ちで終わるだろうとルークは安心していた。
ただ本気でないとはいえ、やけにシンクのアッシュに対する攻撃回数が他に比べて多いように思えた。
それに関してはルークは戦闘の状況上仕方ないのかもしれないと、完全にシンクを信じきって疑いもしていなかったのだが、その隣にいるイオンはシンクの意図が解ったため、少し苦笑を浮かべてその光景を見つめていた。





シンクの巧みな行動でルークの予想通り勝敗は確実にアッシュ達の勝ちの方向にいっていた。
ラルゴは肩膝をついてそれ以上は動けない様子で、シンクも力を抑えて応戦していたうえ、ラルゴの邪魔も行なうという二重の行動をしていたため、通常の戦闘よりも体力の消費が激しいようだった。
これで勝負は決まったなとルークがほっと胸をなで下ろしているのも束の間、まだ戦闘の意志ありとみたのかどうかしれないが、アッシュがシンクに斬りかかる光景が目に映った。
何時ものシンクなら間違いなく防ぐか避けるかして問題はないあろうが、今の消耗しきった状態でまともに反応できるとはルークには思えなかった。
そう思った瞬間、ルークはとっさにその場から動き、アッシュとシンクとの間に割って入り、アッシュの連続の攻撃をまるで鏡のように同様の攻撃と技とで相殺していた。
そしてそのルークと間合いを開けながら、驚いたようにアッシュは目を見開いていた。
「今の・・・今のはヴァンの・・アルバート流の技だ!どうしてそれをお前が使えるんだ?!」
アッシュのその驚いたような声に、ルークが一瞬きょとんとしたような表情になる。
「どうしてって・・・同じ流派だからにきまってるだろ。俺は・・・」
「ルーク!」
思わず今は余計な事を口走りそうになったルークを、シンクが慌てた様子で名前を呼んで止める。
そのシンクの声にはっと気づいたルークは、それ以上何も言わずに黙り込み、その様子を見て内心ほっとしたシンクは、気を取り直してアッシュ達に向き直って冷静に口を開いた。
「取引だ。こちらは導師を引き渡す。その代わりここでの戦いは打ち切りたい」
「このままおまえらをぶっ潰せばそんな取引、成り立たないよな」
「ここが砂漠の下だってことを忘れないでよね。アンタたちを生き埋めにすることもできるんだよ」
勿論シンクにとってこれははったりだが、これにのってくれなければ意味がなかった。
そして案の定シンクの言葉にアッシュ達の間に動揺が生まれ、それを都合良く後押しするかのように告げられたラルゴの言葉も手伝い、この場での戦いは打ち切られてイオンはアッシュ達のもとに帰ることになった。
「・・・イオン、無理するなよ」
「はい・・ルーク達も気をつけて」
アッシュ達のもとに歩いていく途中、小さく小声で話しかけてきたルークに、イオンは微笑んでこちらも小声で言葉を返した。
そしてイオンが彼等の元に辿り着いた後、心配そうに声をかけている光景を一通り見た後、シンクはルークと目線を合わせて互いに頷きあった後、またわざと冷たく彼等に声をかけた。
「そのまま先に外へ出ろ。もしも引き返してきたら、そのときは本当に生き埋めにするよ」
その言葉にアッシュ達が悔しそうな表情でこちらを見ているのが解り、ルークは少し辛そうな表情をしていたが、歩き出した彼等の中でちらりとこちらを振り返ってシンクを見ているガイに気づいた。
しかしそのガイも何やら横でこちらを見て腹立たしげな表情と声で悪態をつくナタリアをなだめると、そのままナタリアを連れて先に歩き出したアッシュ達に追いつこうと足を進めようとしたが、ナタリアの名を聞いたラルゴの驚いたような声によってそれは阻まれた。
そしてナタリアは自分の名前を驚いたように呼ぶラルゴに、後ろを向いたまま怪訝そうに尋ねていた。
「なんですの?」
「ナタリア、ガイ!行くぞ!」
「え、ええっ・・・」
しかしラルゴからの返答が返ってくるよりも早く、先を行くアッシュに呼ばれ、ナタリアはガイと共に慌てて彼等に追いつくべく歩を進めていた。
その様子を一通り眺めた後、シンクは少し考える素振りをしてから動揺しているであろうラルゴに話しかけた。
「あれがナタリア王女か・・・因縁だね、ラルゴ」
「ナタリアって・・・確かアッシュの婚約者・・だろ?ラルゴ何か関係があるのか?」
ラルゴに尋ねるルークの言葉が途中「アッシュの婚約者」という部分で本人にも知らず知らず小さくなっていた。
その事に気づいたシンクは少しだけ複雑そうな表情をしていたが、そんな2人の様子に気づいているかいないのか、ラルゴは普通にとぼけて答えてみせる。
「・・・さて、昔のことだ。忘れてしまった」
「ルーク・・・妙な詮索は良くないと思うよ」
「・・・でも、シンクは知ってるんだろ?」
「まあ、一応・・・」
自分は知らないのに弟のような存在であるシンクが知っていることが不満なのか、少し眉を吊り上げてそう言ってくるルークに、シンクは視線を逸らせながら答えていた。
そのシンクの様子にルークはやはり不満ながらも、これ以上聞いても答える気は2人ともないだろうと、溜息をついてそのことはここではとりあえず諦めることにした。
「まあ・・それよりもシンク・・・あいつ・・・」
少し深刻な表情をしてシンクに意味ありげな言葉を口にするルークに、その意図をすぐに察したシンクは目線をルークに戻してこちらも深刻そうに口を開く。
「ああ・・あのガイって奴・・気づいたな」












正確に何時だったかは思い出せないが、幼い頃のある時を境に妙な頭痛と声が聞こえ始めた。
そしてそれからまた数年後、おそらく自分の誘拐事件が起こったという10歳の時。
そう言っても何故かその時の記憶は自分には一切ないのだが、ともかくその頃から頭痛と声に加えて妙な夢を見るようになっていた。
それは見知らぬ花畑のようなところに自分が立っていて、少し離れたところから1人の少女が自分を嬉しそうに呼んでいるというものだった。
呼ばれていたと言っても、自分がなんと言う名前で呼ばれているのか解らない。
その少女の声すらも聞こえない。
しかし呼ばれているという事ははっきりと解っていた。
呼んでいる少女の名前も顔も解らない。
ただ解るのは、その少女の髪の色が赤いということだけだった。
自分と同じ赤い、赤い髪の色だけだった。
その夢も頭痛も聞こえてくる声も、最近は特に頻繁になってきたなと思いながら、アッシュはゆっくりと目を覚ました。
最初に目にしたのは天井で、自分が寝ているのは明らかにベッドで、ここが宿屋であるということがまず解った。
そして記憶を辿り、自分がケセドニアに着いた途端倒れた事や、倒れた後最初に起きた時心配そうに周りに着いていた仲間達に、1人にしてくれと頼んで部屋から追い出した後、また眠りについてそして今に至るという事を思い出した。
「・・・今、何時だ?」
天井を見つめながらそんな事を言っても返ってくる言葉など当然ないはずだった。
「え〜〜っと・・・夕方の5時くらい?」
しかし返ってくるはずのない言葉が返ってきた瞬間、アッシュは大きく目を見開き、勢い良く起き上がって声のした方向を見てみると、そこには見たことのない緑の髪に眼鏡をかけた赤い目の女性がいた。
「誰だ?!」
警戒の色を強めて近くに置いてあった剣に手をかけそう声を上げてみれば、相手は慌てた様子を見せていた。
「わー、待てってば!俺だよ、俺」
そう言って相手が眼鏡をとって自分の顔をさす相手の顔を良く見てみれば、それが自分と同じ顔の作りである事に目を見張った。
そして髪の色と目の色は違うが、まさかと思いその名前を口にして見せた。
「・・・『七焔のルーク』?」
「正解!」
アッシュに名前を呼ばれて嬉しそうにルークが答えたのも束の間、アッシュが剣を鞘から抜いて臨戦態勢を取ってたため、またルークは慌てることになってしまった。
「って、なんで正体解ったのに剣を抜くんだよ?!」
「敵なのだから当然だろう!」
髪と目の色が変っていることも気になるが、今1番重要である事をアッシュは口に出した。
するとそれを聞いたルークは大きく目を見開き、やがて悲しそうに俯いてしまった。
その姿を見たアッシュは、あの雨の降る中での対峙の後のルークの表情を思い出し、思わず剣を握る手の力が少し緩み、そのまま臨戦態勢を解除して剣を下ろしていた。
「別に・・俺だって好きでお前達の敵になってるわけじゃない・・・」
「なに・・・?」
悲しそうに告げたルークのその言葉はアッシュにとっては勿論不可解なものだった。
今まで散々自分達の邪魔をしたり、イオンを攫ってきたのは彼女達六神将だ。
しかしその反面、ルークは自分達を気遣う言葉を口にしたり、オアシスでは彼女からの回線があったからこそ、イオンがザオ遺跡にいると解ったのだ。
相反することを散々行なっている彼女に、その真意を問いただしたいとも思ったが、とてもそんな雰囲気ではないと、少し落ち着きを取り戻しながら考えたアッシュは、仕方ないといったように警戒を解いて剣を鞘に収め、溜息をついて目の前で未だ俯いているルークにわざと別の話題をふった。
「・・・で、何故お前がここにいる?」
そう尋ねれば俯いていた顔をすぐさまぱっと上げ、何時も通りの調子に戻ってルークは答え始める。
「えっと・・・ザオ遺跡から無事にケセドニアまで行けたか心配になってさ。それで回線繋げようとしたんだけど、繋がらなくて・・・・・それで、お前に何かあったのかと思ってここまで来たんだよ」
「・・・それだけで?」
「それだけ、じゃないだろ!俺は本気で心配したんだぞ!文句を言うシンクを宥めて、また髪と目の色変えて変装してさ。ケセドニアまで着てみればお前らしき奴が宿屋の前で倒れたとかで、心配になってたら本当に寝込んでたし・・・」
「・・・それはなんだ?」
何が気に入らなかったのかそうぶつぶつというルークに、アッシュはなんとなく溜息をつくと、ふと目に付いたそれに怪訝な表情をしながら尋ねた。
すると先程まで不満げな声を上げていたルークが一変、きょとんとした表情をして、フォークにさしたそれをアッシュに差し出した。
それは所謂りんごをウサギに見立てて切って剥いたあれだった。
「何って、うさりんご」
「・・・そういうことではなく、なんでそんなものがここにある」
「なんでって・・・病人の看病っていったらこれだろ?俺が作ったんだよ」
「・・・お前が?」
その知識もどうかと思ったが、アッシュはルークがそんな器用な事が出来るとは思っていなかったので怪訝そうな声を上げる。
そしてそれを察したルークは、また不機嫌そうに文句を言った。
「なんだよ、その言い方!こんなの出来るに決まってるだろ。シンクとかイオンとかアリエッタが熱出してた時とか、良く作ってやってたし」
「イオンとアリエッタは解るが・・・シンク・・・?」
また怪訝そうなアッシュの言葉に、ルークは少ししまったと思った。
何しろガイがザオ遺跡で本格的に気づいたようなので、アッシュ達にその事を言っていてもおかしくはない。
しかしアッシュの思考はルークの心配する、シンクとイオンの2人の関係に気づいたか否かではなく、シンクがうさりんごなどを大人しく食べるという行為が、彼のイメージとは結びつかないという事にいっていたのだった。
そんな事をアッシュが考えているなどしらないルークは、暫くしてもアッシュが何も言ってこないことから、別に2人の関係が知られたわけではないということに胸を撫で下ろしていると、ようやく考えるのを止めたアッシュが不意にルークに尋ねてきた。
「で、お前はなんでそれを俺に向けているんだ?」
なんとなく解る、というよりは理由は1つしかないのだが、アッシュが念のためと思って聞いてみると、これまたきょとんした様子のルークから帰ってきたのは予想通りの答えだった。
「えっ?なんでって・・・アッシュに食べさせるために決まってるだろ」
当たってほしくない予想は的中で、アッシュが拒否の反応をしめそうとしたが、それよりもルークから言葉が出るほうが早かった。
「はい、アッシュ。あ〜〜ん」
「・・・・・・・・」
そう言われて暫しの静寂の後、何故自分でもそのような行動に出たのか解らないが、アッシュは大人しくルークが差し出したりんごをそのまま食べていた。
自分のその行動にはっとした時にはすでに遅く、自分のしてしまった失態にアッシュがルークから顔を背けると、彼女から呑気且つ嬉しそうな声が聞こえてきた。
「でも良かった〜。倒れたとか聞いた時はどうしようかと思ったけど、思ったより元気そうで」
そう言うルークに思わずアッシュが視線を彼女の方に戻した瞬間、アッシュは思わず目を見張ってしまった。
そこにあったのは確かに今言った彼女の言葉を裏付ける、本当に心底安心して嬉しそうな、そして思わず息を呑むほど見とれてしまうような微笑だった。
その自分と同じだ顔だが、自分とは全く違う表情に見惚れたままの状態で、アッシュは思わず自然に彼女の名前を口にしていた。
「・・・ルーク」
「ん?なに?」
「・・・髪と目の色、次に会う時までに直しておけ」
「えっ?アッし・・・」
アッシュのその言葉の意図が良く解らずルークが尋ねようと口を開きかけた時、いきなりルークの頬にアッシュの手が触れ、気づいた時には口付けられていた。
思わずそれに目を見開いたルークに気づくことなく、アッシュは遠慮なくいっそう深く重ね、ルークが息苦しくなって暫くした頃ようやく離してやると、ルークは息苦しさから力が抜けて椅子からずり落ちた身体は床に座りこんでいた。
そしてそのまま息を整えるルークの髪を一房掴むと、その髪の色とルークの様子を交互に見ながらアッシュは呟いた。
「お前の笑顔には、俺と同じ赤い髪と緑の目が1番良く似合う・・・」
そう告げられた真意はおそらく、告げたアッシュ本人にさえその時はまだ解らないものだった。










あとがき

アシュルク初のまともな会話・・・だと思います。
ここまで2人が長い会話をしているのは初めてです・・・(おいっ)
それも前半結構ギャグ入ってましたが、最後の方はまあああいうことになりました・・・;
アッシュの変貌ぶりにはまあ・・理由があるといえばありますが・・・・・
それはまた今度ということで・・・
それよりも書いてる本人の私自身、この事を知った場合のシンクの反応が非常に気になりますが(おいっ)
とりあえず管理人が今回ある重要な伏線と、ある意味読み手様に対して意地の悪い事を仕掛けたことだけお伝えしておきます・・・(えっ;)
ちなみにルークは宿屋には堂々と知人を偽って潜入しました;
もちろん仲間がいないことは確認済みです。
次はいよいよアクゼリュスです・・・・・・
おそらく未だどの原作沿いを書かれているサイト様でもやったことがないであろう(多分)とんでもない展開になる予定です・・・;







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