天使出張所〜獄巡期〜
Comison:2「消失」
1日の始まるを告げる日の出から仕事を始め
1日の終わりを告げる日没で仕事を終える
そんな平凡で平和な毎日・・・
だが、今ここにはそれはない・・・・・
神王山第5層の1フロア・・・
神王山全ての医療を一手に担う保健管理所・・・通称保管所の前を今回の舞台として、ある意味名物と化した争いが繰り広げられていた。
周りにいる者たちを巻き込み、飛び交うのは攻撃術と・・・それを上回る数の罵詈雑言の数々・・・
「てめーはいちいち口出しすんな〜〜〜!!」
「うるさいわね・・・あんたこそ偉そうにするんじゃないわよ!」
「実際にお前よりも位は上だろうが!」
「仕事もしない能無しが言ったって通用しないわよ」
「全然してないわけじゃね〜〜!!」
「でも良くサボるでしょうが!周りが良い迷惑よ」
低レベルな争いが続く中、早く終わって欲しいと願いを込めて保管所の所員と秋継は遠巻きに見守る事しか出来ないでいた。
その中嬉々として作業するものが1人だけいた。
「・・こほん・・・え〜〜、今あたしは間もなく保健管理所跡地になるであろう場所に来ております」
「東さん!!呑気に実況なんかしないで下さい〜〜〜!!!」
マイク片手に楽しそうに実況を始めるその名のとおり、神王山の情報機関である情報所の所員東に半泣き常態で突っ込みを入れる。
「あら〜、秋継様。実況も大切なあたしの仕事です。この光景を神王山中にお届けする義務があたしには・・・」
「なくて良いです〜〜〜!!」
「何をしているの?」
秋継ぐが悲鳴に近い声を上げた時、この光景にか、秋継の様子になのか、呆れたような、それでいて聞きなれた声が後ろからした。
「き、姫浪さ〜」
その聞きなれた声がこの事態を収拾できる数少ない人物であると判断し、期待に満ちた眼差しで振り返ると、そこには予想外の人物も2人いた。
そして、秋継は一瞬固まってしまった・・・
「ゆ・・結芽ちゃん!それに神威様まで!!」
意外な2人の人物の登場に秋継は瞳を円くして指まで指してしまう。
「「神威様!!」」
秋継の声を聞き、今までけんか真っ只中だった2人がその名の人物の方を見る。
2人だけでなく、その場にいる全ての者が神威に驚愕の視線を向けている。
そしてにっこり微笑んだ神威がけんかをしていた2人言った言葉は・・・
「咲賀、朝魏・・・けんかは良くないよ。仲良くね♪」
「「・・・・・はい」」
先程までの殺気に近い状態が嘘のように、2人はその一言であっさりと大人しくなった。
それだけ神威の偉大さが現れているという事にもなる。
現にその辺りにいる一般の天使たちは、この争いを終結させてくれた感謝とは別の意味で神威にかなりの低姿勢で頭を下げている。
頭を下げているというよりは、崇めているといった方が正しい。
「秋継・・・・・あたし『三審塔』に行ってくるから」
「へ?またどうして?」
結芽との感想の再会を果たし、瓦礫の山を片付けに入ろうとしていた秋継は素頓狂な声で姫浪に尋ね返す。
「・・・少し気になる事があって」
簡単に告げると姫浪は秋継の解答も聞かず、さっさと歩き出していた。
その後ろ姿を呆然と見送る秋継はポツリと一言もらした。
「せめて・・・ここの片付け手伝っていって欲しかったんですが・・・」
そんな言葉はもう姿の見えなくなった姫浪には当然届くはずもなかった。
死者を裁く『審判の門』と『あの世』と『この世』の境である『三途の川』に挟まれた『三審塔』は、死者の管理をする場所である。
ここには黄泉と地獄の統治者である閻魔大王の下級士・霊審と呼ばれるものたちが暮らし、働いていた。
霊審は種族であり、役職の名でもある。
「は〜〜・・・理床の奴どこに行ったんだよ」
ぽつりと言葉を零してみたのは単に気を紛らわせようとしただけで、実際には仲の良い同僚は見つかりはしない。
「このままじゃ俺までリーダーに怒られるのに・・・」
深い溜息をつき、よく知った廊下を曲がろうとした時、何かにぶつかりその場に座り込む形になってしまった。
「な、なんだ?」
「よそ見していると危ないわよ・・・」
目の前で倒れこんだ人物に向かって姫浪は冷静に告げた。
ぶつかり、今だに座ったままの人物は呆然と姫浪を見上げていた。
「なに?」
視線が少し癪に触ったのか姫浪は多少ではあるが、表情を普段よりも堅くする。
すると慌てて黒髪の人物は弁解する。
「い、いや・・・綺麗だなと思って・・・・・俺が知る中じゃ2番目くらいに」
「そう」
純粋なのか、特に恥ずかしげもなくそんな言葉を言う黒髪の人物も黒髪の人物だが、姫浪も綺麗といわれても特に興味もなく淡々としている。
しかしそれ以降、何の会話もなく静かな空気が漂うのを黒髪の人物は少し息苦しいと感じたのか、喋ろうかどうか迷っている様子だった。
喋りたいが、姫浪の空気がそれを邪魔しているような気がした。
「えっと・・・」
「姫浪〜〜〜〜〜!!」
思い切って黒髪の人物が話し掛けようとした時、勢いよく誰かが姫浪を押し倒してきた。
多少驚いたが、押し倒した相手に心当たりのある姫浪はすぐ冷静に戻って目の前を見ると、なおも自分を押し倒している茶色の髪の良く知る人物がやはりいた。
この時のその人物の様子はとても嬉しそうで・・・例えるならば犬が尻尾をばたばた振っている状態である。
「豊、ひさしぶ・・・」
「あああああ〜〜〜!理床〜〜〜〜〜〜!!!」
姫浪にしては珍しく、嬉しいというのを表すように表情を柔らかくして挨拶をしていたその途中、黒髪の人物が姫浪の声をさえぎった。
その叫び声でそちらを見た茶色の髪の人物・・もとい理床豊は今気がついたような表情で同僚である黒髪の人物を見た。
実際、今気がついたのだが・・・
「御影じゃないか。どうかしたのか?」
「『どうかしたのか?』じゃなくて!リーダーが呼んでたぞ!!」
ご丁寧に声真似までして御影と呼ばれた黒髪の人物はこちらにまで迷惑がかかっているという思惑も兼ねて叫んで訴えた。
「げっ・・・それやばい」
「・・・豊」
「ん?どうした?姫浪」
「そろそろどいて・・・それと、こいつは誰?」
起き上がりたいという意思表明で豊にそう言うと、少し残念というように豊は姫浪からどいて立ち上がり、続いて姫浪も立ち上がる。
それにつられ、実は今の今まで立ち上がるのを忘れていた彼も立ち上がった。
「じゃ、2人にそれぞれ紹介するか。こっちは俺の同僚で御影架月」
少しばかり先程の「こいつ」という発言が気になりながらも一応架月は姫浪に軽く会釈して見せた。
「で、御影。こっちは前々から話してた俺の彼女で天澄姫浪」
豊に面と向かって彼女という言い方で自分を紹介されて、姫浪は多少顔を赤くする。
神王山の誰かがいたら、姫浪の珍しいもののオンパレードだというほど、姫浪は豊が出てきてから彼女にしては表情が豊かになってきている。
姫浪のことを紹介された後、少し架月は思考を巡らせていたようだった。
「理床の彼女って事は・・・つまり、例の天使の最高幹部様・・・」
自分の思考の終着点に着いた後、今度は志向を一時中断させた架月はその後、三審塔全てに響き渡りそうな盛大な叫び声を上げる。
「ええぇぇえええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
架月が叫び声を上げた瞬間・・・
横を何か光る鋭いものが通過した。
「・・・・・・・・」
恐る恐る架月がそれの通り過ぎた先を追いかけてみてみると、そこには1本のナイフが深く壁に突き刺さっていた。
それを見て顔を青くさせ、開いた口が塞がらなくなった架月に姫浪は静かに、低い声でゆっくりと告げた。
「いま・・・豊のことばかにしたような気がしたわよ?」
「えっ・・いや、おれ・・ただ理床の彼女にはもったいない美人だ・・・うわあああ」
またしてもナイフがものすごい勢いでかづきの横を通り過ぎていた。
「・・・それがばかにしているというのよ」
「・・・・・・っていうか、なんでナイフなんか持ってるんですか?」
「護身用に決まってるでしょ」
なんとか話題をそらそうとする架月だが、姫浪は淡々とした口調と一切変わらぬ真顔でもってそれをあっさり無に帰す。
ちなみに騒ぎの原因となっているところの豊はというと・・・
姫浪の行動にかなり照れていた。
・・・・・バカップル・・・・・・・・・
「ところで姫浪。今日はどうしたんだ?来てくれて嬉しいけどv」
息の上がっている同僚素無視し、豊は何事もなかったように真顔になって姫浪に尋ねる。
ただ、姫浪が自分に会うため、というだけで来るはずがないと言う事を知っているのだ。
しかも彼女にとっては大事な・・・はたさなければならない仕事の途中で・・・・・
「ちょっと、訊きたい事があって・・・」
「解った・・・といっても、俺もこれ以上リーダー待たせるわけには行かないから、歩きながらで良いか?」
「ええ・・・」
豊の言葉に姫浪は静かにこくんと首を縦に振った。
「よし!それじゃ御影も行くか」
「あっ・・・俺は別に行くところあるから」
「そうなのか?じゃ、俺たちは行くからな」
「うん・・・」
そう言って、歩き出した2人の背中をなぜか複雑そうな表情で架月が見送っていた事を2人は知らない。
「で、何か分けありか?」
暫くして、豊が口を開き姫浪に尋ねた。
すると姫浪は素直に首を縦に振って返事をする。
「・・・この間、結芽の手伝いである場所に行ったの」
「結芽・・・確か、お前と同じ四大天使のお1人だよな」
「ええ・・・それで、結芽とその場所を調べていたら・・・」
「調べていたら?」
「七大悪魔の1人・・・ベリアルが現れたの」
「べ・・・・ア・・・?!!」
豊は姫浪の唐突な発言にまともに驚いたと言うように目を見開いて冷や汗までたらしている。
「ちょ・・・そんな、悪魔の大物が・・・しかも、ベリアルって確か、今の七大悪魔の長で、帝王サタンの最高代理人じゃないか・・・それがんなんで?!」
「解らないわ・・・ただ、『調べる事がある』と言っていただけ。そのまま帰ったけど・・・」
ただし、正確には神威が現れたために半ば逃げたような形ではあったような気がするが・・・
「その時・・ベリアルが言ったのよ。『閻魔大王』に気をつけろ」
「!」
「あたし達天使と閻魔様は確かにあまり仲がよくないけど・・・それにしてもあの言葉は・・・それで、閻魔様の直系の配下にあたる霊審の豊なら何か知ってると思って・・・」
姫浪の言葉に先程とは別の意味で驚いていた豊だったが、暫くすると額に手を当てて、考え込むように言葉を出し始めた。
「さすがに・・・俺たちも配下といっても下っ端の下っ端だし・・・・・」
「そう・・・」
「しかし、その言葉確かに気になるな・・・」
「ええ・・あの悪魔、閻魔様に対して何かの恨みのようなものがあるように見えたわ・・・」
あの時のベリアルの表情を今だ姫浪は忘れられない。
恨み、憎しみを一心に向けるようなその表情と、そこから見え隠れする何かに対する悲しみの表情・・・
一体、ベリアルと閻魔大王の間にはなにがあり、ベリアルは何を知っているのか・・・
そして、あの時の言葉・・・
『こいつが・・・思兼神が出現した以上・・・奴は何か仕掛けてくる』
その言葉が何を意味するのか、この時知りえた者は本当に数少ない・・・
はあ、と深い溜息が実行所内に漏れた。
「結芽・・・大丈夫?」
「あ〜〜〜う〜〜、姫浪ちゃん。長い間どっかいけないと調子狂うね〜〜」
「・・・それは貴女だけよ」
結芽が帰って来たのは昨日、つまり1日しかたっていないのに長いと言うのだから、結芽の旅行症候群(?)も凄いものである。
結局昨日は豊から何の手がかりも得られずに神王山に帰ってきた。
とりあえず調べてみるという豊の言葉を救いに、姫浪は今日は普段の仕事の片手間、調べていたりする。
「こっちは特に今のところ何も解っていないけど・・・」
「あたしも〜〜〜」
一応、情報所の方にも頼んで調べてもらっているのだが、さすがの情報所も何も掴めていないようだ。
「その悪魔のはったりじゃにないのか?」
珍しく秋継に休憩の許可を貰った咲賀が不意に告げるが姫浪は首を横に振る。
「あの表情は・・・嘘を言っているようなものではありませんでした」
「ふ〜〜ん・・・お前がそういうなら」
「姫浪!!」
咲賀の言葉を遮り、勢い良く開かれた扉と共にした声に姫浪がまともに驚いたと言う表情でそちらを見る。
「豊?!」
そこに立っていたのは息を切らした自分の恋人だった。
「豊って・・・確かお前の恋人だったよな?」
咲賀の言葉に各々事務処理をしていた実行所所員一同の視線が豊に集中する。
全員噂の姫浪の恋人に興味津々と言った様子である。
「はい・・・って、皆何見てるの?」
姫浪の低い声に豊を見ていた所員は慌てて、視線をそらして仕事に戻る。
暫く、所員達の方を睨んでいた姫浪だったが、溜息をついて豊かの方に向き直る。
「で、慌てて何の用?」
ひょっとして何かわかったのかと姫浪は少しばかりの期待を寄せた。
しかし、それは次の豊の言葉で無残にも消え失せてしまった。
「御影が・・・御影の奴が行方不明になったんだ!!」
その一言にあたりの空気が低くなっていくのがそのの場にいた全員に感じ取れた・・・
あとがき
今回のサブタイトルは、ラストで架月が行方不明になった事がつけた理由ですね(←単純)
とりあえず今回、架月、豊、朝魏、東が出せました。
これであとは、プロフィールに出しててまだ作中に出てきてないのは西夏だけです。
出たら出たで煩いんですけどね・・・東と組んで。
次回はプロフィールに出してない新キャラや今回出してないキャラが再登場します。
それにしても今回序盤はギャグ一遍です・・・(いや、ほぼ全体?)
朝魏出すと必ずと言って良いくらい咲賀とけんかするから・・・・・・(汗)