天使出張所〜獄巡期〜
Comison3:「潜入」
消えてしまおう・・・
僕なんてはいなくても良い・・・
いてはいけないはず・・・
地獄が・・・
悪夢が・・・
僕に・・・
誰かに・・・
愛しい人に訪れる・・・
全ては僕のせい・・・
だから、僕はいなくてもいい・・・
最初から・・・
いなくても良かったのに・・・
生まれてこなくても良かったに・・・
生まれてきてはいけなかったのに・・・
数知れない僕の罪・・・
生まれてきたことが何よりの・・・
僕の罪・・・・・・・・・・
長い、長い回廊を足音を殺して歩く者が数名・・・
俗に言う、『不法侵入者』だった。
そして、そのうちの2人はその『不法侵入』を行ってしまった事に対して、激しい苦悩を抱えていた。
「「・・・・・・・・」」
「2人とも・・・もういい加減にしなよ」
潜入してから、何度目かの溜息を漏らした2人に結芽は極力押し殺した声で告げる。
そして、同様に押し殺し、それに苦悩の色を浮かべたというのを加え、返答する2つの声。
否、片方はタイミングが良かっただけでそれに対する返答ではなく、むしろ話しそのものを聞いていなかった。
「だって・・・結芽様。いくら御影がいるかどうかを確かめるためとはいえ・・・俺、一応閻魔様の配下の霊審なわけですし・・」
「陛下・・・非常事態とはいえ『不法侵入』などしてしまったあたしをどうかお許しください・・・」
げっそりとしたように言う豊が前者、尊敬してやまない神王に祈るように詫びている後者が姫浪。
「・・・だめだ、こりゃ」
2人のその様子に結芽は肩をすくめ、現在の子供の姿に似つかわしくない溜息をついた。
現在姫浪を始め、結芽、豊の3人で閻魔大王のいる『黄泉』の最高峰『審判の門』の中にいた。
『門』といっても、実際は一種の要塞を思わせるものである。
どうして彼女達がここにいるのかというと、それは1時間ほど前に遡る・・・・
「御影って、豊の同僚の?!」
姫浪はつい昨日あったばかりの黒髪の人物を思い浮かべた。
姫浪の言葉に豊は神妙な面持ちでこくりと頷いてみせる。
「あいつ・・・今朝、遅刻したんだ。・・・でも、あいつの遅刻はいつもの事だから皆・・もちろん俺も気にしてなかった。けど・・あいついつまでたっても来る気配がなかったんだ。あいつは、遅刻はあっても無断で休む事は絶対にない・・・それで、あいつの部屋まで見に行ったら・・・」
「誰もいなかった?」
察しのいい姫浪の言葉に豊がまた1つこくりと頷いてみせる。
その後、何名かで架月を捜したらしい。
『三審塔』のあちらこちらをくまなく・・・
『三審塔』の近辺も、である。
しかし、架月はいっこうに見つからない・・・
まるで初めからそこにいなかったように、忽然と姿が消失してしまっていた。
「しかも・・・昨日俺たちを話した後・・・誰もあいつの姿を見ていないらしい・・・」
「誰も?」
怪訝そうに姫浪は眉を少し跳ね上げる。
それは絶対にありえないはずのことだという事は天使である姫浪でも良く知っていた。
あの『三審塔』・・・
広いことは広いが、それに比例して霊審たちの需要もそれなりにある。
しかも、あの時刻はまだ仕事が続く時間であり、とすれば、廊下を歩くにしろ、どこかの部屋に入るにしろ、絶対に誰かと顔を合わせないはずにはいかないはずである。
「・・・架月は、『転移法』できるの?」
『転移法』とは、文字通り別の場所に瞬時に転移・・移動するための術であり、テレポートとも言われる。
空間に見えない歪を人為的に発生させ、その歪を自分の望む場所に繋げて瞬時に移動する。
この術は、神族や天使、中位以上の悪魔なら誰にでもできるものだが、霊審は特別に訓練したものでしか出来ない。
ちなみに目の前にいる豊かは出来ない。
しかし、豊は姫浪に対して首を横に振る。
「いいや・・あいつは、『転移法』なんて出来ないぞ。初めて会ったときから」
「・・・そいえば、豊はあいつとどうやって知り合ったの?霊審は数が少ないというわけではないから顔見知りがいなくても当然でしょ?」
いきなり話の趣旨を切り替えられて思わず豊は目を丸くしてきょとんとする。
しかし、特に何もいわず素直に答える。
「え〜と・・・50年・・・正確には覚えてないけど、まあそれくらい前に俺が働き出した時にだな。リーダーが言うには『お前と同期だから仲良くしろ、色々教えてやれって』って・・・どうもあいつ、勝手がわからないらしくて・・・」
「ちょっと待って!勝手が解らないって・・・霊審は仕事内容のカリキュラムは済ませてあるはずでしょ?!」
「ん〜〜・・あいつ、元々『三審塔』にはいなかった奴だから・・」
豊のその言葉に姫浪だけでなくその場にいる全員の間に旋律が走った。
気がついていないのは、当の話している豊本人のみ。
それは絶対ありえないことであったから・・・
天使が・・人間出身の天使以外の全ての天使が『神王山』を仕事場であり、故郷としているように、霊審全てにとっても『三審塔』は仕事場であると同時に故郷である。
そして霊審には、部外から霊審になるというパターンは存在しない。
「リーダーは『閻魔様が来させた』って、言ってたけど・・」
その言葉に、姫浪と結芽の2人は誰よりも衝撃を受けた。
この間の悪魔が言っていたのも、閻魔大王・・・
そして、今回豊の話の中でも閻魔大王の名があげられた・・・
これは偶然といえるのか・・・?
「・・・・・・・行ってみようか?『審判の門』」
突然信じられないような言葉を漏らしたのは、真剣そのものの表情を浮かべた結芽だった。
そして現在、3人で『審判の門』に潜入中。
一連の事もここに来て調べるのが1番手っ取り早いし、もしもここに架月がいるのならそれはそれで見つけられてよし。
多少の危険性はあるものの、確かに1番簡単な作業ではある。
無論これに反対したものもいたが、結局押し切られてしまったらしい。
子供の姿を形度っていてもやるときはやるのが、大天使結芽である。
2人の苦悩はさて置いて、柱などに隠れながら先に進む一行。
『審判の門』は入ってきた時から、不気味で不自然なまでの静かさだった。
まるで、誰もいないような・・・
気配がしない・・・
その瞬間、豊の方に軽い感触がした。
「ぎゃ・・・」
「ばかっ!」
驚いて大声を上げようとした豊の口をとっさに謎の人物が極力押し殺した声で、低く呟くとその手で塞ぎにかかる。
間一髪、豊が叫んで気が疲れるということはなかったが・・・
「ふ〜〜・・まったく」
安心したように深い溜息をつくその人物に、姫浪と結芽の両名は見覚えがあった。
「「ベリアル!!」」
「・・・また、しかもこんな所であうとはな」
皮肉交じりに姫浪と結芽の声に答えてそう言ったのは、以前あの屋敷であった七大悪魔の1人・ベリアルだった。
「どうして・・あんたがここに」
「それは、こっちの台詞・・・といいたいところだが、お前達と目的は同じと言っておこう」
「む〜〜、む〜〜〜〜!!」
「・・・あっ、すまん」
ベリアルは特に悪気もないように誤って、今の今まで豊の口を塞いで彼を窒息死させかけていた手をようやく解く。
「・・・はぁ、はぁ、死ぬかと思った」
「豊か大丈夫?」
心配して豊に近寄って、背中をさする姫浪とそれに大人しく身を任せている豊を見て、ベリアルは真顔で結芽に尋ねる。
「誰だ?あの・・霊審は?」
「姫浪ちゃんの彼氏♪」
実に的確で、実に正確なご意見をいって下さった結芽嬢と今だ例の状態の続く2人を本気で驚いたような表情を浮かべながらベリアルは交互に見た。
とりあえず一悶着(?)終えてから、一同は再び歩みを再会しながら、お互いの状況を話し合った。
姫浪たちは御影架月失踪にともない、閻魔大王に対して即座に調べをつけるため。
ベリアルのほうはというと・・・
「ようやく潜入のめどが立ったのでな・・・」
ということは、前々から潜入しようとしていたらしい。
しかし・・・
「ねえ・・ベリアル・・」
「ん?」
「あなたが・・そこまで閻魔様を敵視す・・」
「詰めが甘いな・・・お前達・・・」
そこで、会話と共に記憶も一時とんだ・・・
『彼』を知る人物達は思案する・・・
今の声は、聞き間違えか・・・
確かに今の声は『彼』のもので・・・
では、なぜ『彼』が・・・
『彼』こんな事できるはずが・・・
するはずがない!
最後の言葉は片方の思案・・・
『彼』良く知るからこそいえることであり、『彼』がどういう人物か熟知しているはずだからこそ思い浮かぶ絶対の事・・・
しかし、確かに今自分達を攻撃し、あまつさえ楽しげに笑っているのその人物の顔は・・・
自分達が捜していた・・・
御影架月に他ならない・・・
ただし、異なる個所が2つ・・・
1日で伸びたとは思えないほど、長くなった1つにくくられた髪と・・・
黒の奥に血のような紅が不思議な感覚でみえる瞳・・・
そして、その瞳を見てベリアルは驚愕の声を上げる。
痛み身体を抑えながら・・・
「魔族の・・・『闇の眷属』?!」
「ピーポーン!大正解♪」
ベリアルの言葉に楽しげに答えを返す。
魔族という言葉・・そして『闇の眷属』という言葉に姫浪と結芽は反応した。
すなわち、それはここにあってはならない存在・・・
「お前・・一体、御影は?!」
「だから、俺が『御影架月』だよ」
その言葉に、その1言に言葉を失う豊に代わって、姫浪がきっと反論する。
「少なくとも・・顔が同じであることは認めるけど、髪が1日でそんなに伸びるはずないでしょ?」
「ああ・・『あいつ』より俺のが強いから、力の容量を増やすために伸びたって言ってやがったぜ」
「それをそのまま信じるとでも・・・」
「疑りぶかいな・・なんなら、昨日お前と話した会話といわず、そこにいる・・豊だったか?そいつとあってからの『思い出』でも話してやろうか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
まさかそんな反論が返ってくるとは思っていなかった姫浪は言葉に窮する。
豊は今だ呆然とし、結芽はどうしようかと思案し、そしてベリアルは、明らかな敵意をこの人物に向けていた。
「さて・・・それじゃ、思兼神を殺す準備運動ってことで、死んでもらおうかな」
まるで遊びに行くかような感覚で言われたその言葉に・・
4人の中の誰かの何かが・・・
きれた。
「貴様!!」
その人物は天使であり、殺すと宣言された人物の部下でもある姫浪でも、結芽でもなく、もっとも以外なべリアルだった。
何かを思い出したかのように・・・
ただひたすら先程まで向けていた敵意とは明らかに違う、憎悪を余す所なく全身から溢れ出し、完全に我を忘れているかのように、ベリアルは無意識化で攻撃を放っていた。
まるで何かを思い出したかのように・・・
そしてその瞬間、ベリアルの攻撃は同時に発せられた自称・架月の攻撃であっさり粉砕され、4人は先程よりもさらに激しい攻撃を受ける事になった。
爆炎で上がった煙が辺りに蹂躙する。
辺りを派出に、派出すぎるほどに破壊したその攻撃に満足していた。
しかし、その満足は次の瞬間逆転する事になる。
あの攻撃を直撃して生きていた4人・・・
そして、その理由・・・
「「「神威(様)!!」」」
そう、攻撃が直撃する直前になぜか神威が現れ、4人を結界で護ったのだった。
彼を知る3人は一斉に声を上げて、彼の名前を驚きとしか表現できない言葉で呼ぶ。
神威にあった事のなかった豊は別の意味で驚いていたが・・
しかし、そんな4人それぞれの驚きを粉砕するがごとく、神威はいつもの笑顔で4人を見てこう告げた。
「みんな大丈夫〜〜?」
その言葉にはと我に帰った4人のうち、3人がこの状況下でありながら声を上げて神威に詰め寄る。
「どうしてここにらっしゃるんですか?」
「そうですよ!危ないんですよ!!」
「・・お前は、ほんっとうに自分の立場を分かっていないな!!」
「・・・・・・・みんな、酷いよ」
3人に詰め寄られ、神威は目に大粒の涙をためる。
それを見て、うっと、姫浪と結芽だけでなくベリアルまでもがひるんでいた。
「はははっははーー!」
突然大きな笑い声が響いた。
それは言うまでもなく、あの自称・架月のものだった。
「これは、飛んで火にいる・・・だな。狙いがわざわざきてくれるとは」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼の言葉に神威は黙ったままだった。
そして、いつもからは信じられないほど真剣な表情だった。
「姫浪、結芽、豊、ベリアー」
呼ばれ方に反論したい気分だったが、場合が場合であるし、この真剣な表情に気圧されてベリアルはぐっと耐えていた。
「帰るよ」
「「「「えっ?!」」」」
「!!逃げるきか?!」
神威のその一言にまるで拍子抜けしてような声と表情を見せる4人と、対照的に逃がしてたまるかというように声を荒げる彼。
「・・・・・・・・・・・・ごめんね」
そういって、その場を去る間際に告げた神威の言葉とそれと同時に作った表情は、それこそ普段殻は信じられないようなとても辛そうで、とても苦しそうなものだった。
それが、誰に対してのものなのか・・・
どういった理由で言ったものなのか解らないまま・・
その場から5人の姿はなくなっていた。
残ったのは、瓦礫の山と・・・
それを創り上げた人物のどれともつかぬ表情だった・・・
あとがき
・・・・・少し、5話でおさまりきるのかと不安になってます。
次回どうなる事か・・・
とりあえず、まだ出てきていない1名出る予定です。(ひょとしたらまた新キャラも)
それにしても・・・悪党だな・・・あいつ(しみじみ)
とりあえず、今回ぼけ役(?)のくせにぼけっぷりの少なかった神威には次回期待しましょう(?)