天使出張所〜獄巡期〜
Comison4:「血脈」
かちゃかちゃと、速いスピードでパソコンのキーボードを叩く音が室内に響き渡る。
ここは神王山の資料類の全てをを保管、管理する資料管理所室。
現在この室内に存在する無数のパソコンの内の1台に集まる一同の視線を一身に浴びながら、データを引き出しているのは1人の少女・・・とその格好から誤解をしてしまう人物。
「出ました・・・・・」
全てのパスワード作業を終え、Enterキーを押して出てきたデータを一度全員に見せ、データがきちんと正常に存在していることを全員に確認させる。
そして更にそこからまたパスワードを追加し、再びEnterキーを押して出てきたデータは・・・
「・・・・・間違いないのね?西夏」
「間違いないと・・確認済みです」
「御影の本当のデータが・・・白紙?!」
西夏が作業をして、調べていたのは人間、霊審、天使・・・果ては現在死亡している者達にまで到る帳簿で、その中の御影架月に関するデータであった。
「つまり・・・御影の霊審としてのデータは偽造だったわけね」
「じゃあ・・・あいつ一体何者なんだよ?!」
「それ以前の問題として・・・誰が彼のデータを白紙にしたのか、ですね」
「・・・偽造データは閻魔様が行ったものとしても・・・この白紙データのプロテクト・・・かなりのものですよ」
姫浪、豊、秋継、西夏の順である。
神威に連れられて神王山にベリアルも成り行き上含め、帰ってきた姫浪たちは自称『架月』と名乗ったあの人物に負わされた傷の治療のため保管所室にいると東が現れ、西夏が気になるデータを見つけたというので急いでここに来たのだが・・・
「このデータのプロテクト・・・相当のものですよ・・・・・・それこそ、上級クラスの神族の方でなければかけられないような・・・」
「・・・そういえば、ベリアル。彼のことを『闇の眷属』っていってだけど」
結芽の発したその一言に『闇の眷属』の事を知る全員が目を見開いて驚く。
ベリアルはその言葉にぴくりと反応すると怒りを溢れさすように肩を小刻みに震わせる。
ただ1人解っていないのは霊審の豊だけだ。
「・・・・・姫浪、霊審って?」
「・・・・・魔族の子孫よ」
姫浪が苦々しそうな口調でそういった。
そして、その一言で豊もそれが何を意味するのかが良くわかって蒼ざめた。
魔族・・・・・
1人あたりが神族十数人に匹敵するほどの強力な種族。
破壊趣向の性質のため、己たちの世界を自らの手で滅ぼし、そして行き場を失い、かつて悪魔界を植民地のようにし、悪魔を奴隷のように扱い、そして天照神王の要する全ての世界をも滅ぼそうとしたもの達。
魔族達の横暴に耐えかねた当時のサタンが密かに結託し、神族と悪魔の連合により魔族と全面的に戦いを行ったのが今から約9000年ほど昔。
だが、魔族の力は圧倒的なもので、まともに戦っていたのは神王の2人の弟だけで、あとは神族にしろ、悪魔にしろ厳しい劣勢を強いられていた。
しかも、神にしろ悪魔にしろ、魔族の魂を完全に消滅させる術を誰も持っていなかったので長い時がたてば復活してしまう。
しかし魔族が疲弊した瞬間をついて神王が持っていた魔族を封印する術により、魔族を封印し、悪魔は解放され自分達の生活を取り戻し、神族は己たちの要する世界を護ったのである。
ただし、それによって払われた代償は多く、数多数の戦死者がで、現在のサタンの父にあたる当時のサタンはその戦いの時についた傷が原因で亡くなったという。
『闇の眷属』というのは、その魔族の血を受け継ぐ人間の事である。
身体の造り等は完全に人間のそれであるが、力は完全に魔族の属性を持っていて、魔族よりも弱いとはいえ、並の天使なら楽に倒せてしまう。
本来、長い年月をかけて血が薄れれば、『闇の眷属』としての特性はなくなるのだが・・・
「遺伝子覚醒・・・というやつだろうな、おそらく」
「確証は?!」
「・・奴の瞳の奥、血のような紅であっただろう?あれは『闇の眷属』の証しだ」
「・・・よく知ってるな」
「・・・・・・・・・・昔、『闇の眷属』に会った事がある、だけだ」
ベリアルのその言葉に一同は少し驚いたが、それ以上に驚いたのは彼女がそれを口にした瞬間、本当に辛そうな表情になった事だった。
「・・・それはとりあえず、置くとして・・・これどうするよ」
頭をかきながら咲賀はパソコンのモニタを指差す。
しかし、西夏がお手上げという以上ここにいる誰にもどうする事も出来ないのは明白である。
と、その時・・・
「おじゃましま〜〜す」
「か、神威様!!」
突然現れたいつもの笑顔の神威に驚く一同。
ただし、ベリアルだけは例外ですぐにでも逃げ出せる体勢に入っていた。
「神威様・・・あのですね、今・・・」
「はい、これ」
秋継の言葉を遮って神威が何かを西夏の前に差し出す。
それは透明なケースに入った1枚のディスクで、表面に何か暗号のように数字とアルファベットが数個並んで書かれていた。
「・・・これは?」
「・・・それをいれて、そこに書かれているパスワードをいれてみて」
いつもとは違う真剣な・・・そう、『審判の門』で見せたようなあの表情に一同はまた驚く。
そして、西夏はとりあえず言われたように謎のディスクを入れて、文字を入力する。
しばらくして、今まで白紙であったはずの御影のデータが正常なデータに書き換わる。
「!!神威様・・・これって」
「・・・俺が前、天照様に頼んで、架月のデータにプロテクトかけて貰ったの」
「・・・えっ、ていうか・・神威様が陛下に頼んでやってもらたんですか?!」
咲賀を言葉に肯定するように、神威がにっこりと微笑む。
神威が頼んで、最高神である天照神王がかけたプロテクト・・・
たしかに、一回の天使風情が解けるパスワードな訳がない。
「でも、何でそんなことを?」
「・・・・・・・・・・」
「!!・・・・」
姫浪の問いかけに神威は何も答えず、ただ遠くを見つめるような、それでいて何か大切なものを見るような瞳で架月のデータを見る。
そして、ベリアルだけはそれがどういうことを意味するのか気がついた・・・
先代の魅神と関わりを持っている彼女だからこそ・・・・・
「人間・・・だったんですね」
西夏のその言葉に神威に注目していた全員の目がモニタに釘付けになる。
そこに出ていたデータにはこう書かれていた。
御影架月
種族:人間
血液型:B型
享年:18歳
etc
架月が既に死亡している人間であったという事実にその場にいる全員はなぜかあまり動じてはいなかった。
むしろ内心、やはりという人物もいたりするくらいである・・・
おそらく、閻魔大王が何らかの目論見があって彼を霊審としたのであろう。
「えっと・・・家族の情報とかもありますけど?」
「・・・お願い」
姫浪の言葉を聞くと、了解というように西夏は次々と架月の家族のデータを、とりあえずざっと見程度で上げていく。
そしてその中で、姫浪はふと何かひっかかりを覚えてしまった。
「もう1度、全員のデータ見せて!」
姫浪に言われて西夏はもう1度全員のデータを見せる。
そこで、姫浪は感じていたひっかかりに気がついてしまった。
「・・・・・姫浪ちゃん?」
「おかしいわ・・・」
「えっ?なにがおかし・・・」
「血液型よ!架月はB型なのに、両親は!!」
「・・・・・O型と・・・A型?!」
保管所所長の朝魏もようやくことの事実に気がついたようだ。
「えっ?え?なんなんですか?」
「解らないの?!血液型の組み合わせ上、A型とO型の両親からは、B型の子供は絶対に生まれないのよ!」
姫浪のその一言で、今まで全く気がついていなかった面々もことの重要性に気がつく。
彼がこの家族と血が繋がっていないのだとすれば、本当の親は誰なのか。
そして、その『本当の親』こそが魔族の血脈に関係している。
更に姫浪たちはデータ上架月の姉となっている人物、御影瑠架のデータを見ていると更に驚く事があった。
「地獄に・・・堕とされていますね・・・」
「それも、1番の厳罰とされる最下層の最深部・・・」
地獄にはいくつかの階層が存在し、下に行けば行くほどに罪の重いものを裁く厳しい場所となっている。
更に、各階層もいくつかの区画に分かれており、奥に行くほどにその階層で厳しい場所になっている。
そして、最も過酷とされる最下層最深部は、堕とされるものが0%に近いというほど、絶対の確立でそこに堕とされるほどの罪を背負うようなものはいないとされるほどの場所である。
しかし・・・
「親殺しに・・・自殺・・・・・」
「なんか・・凄惨とするな・・・」
「でも変だよね?確かに『親殺し』も『自殺』も罪の中でも最も重いものに数えられているけど・・・それでもこの2つだけで、最下層の最深部に堕とされないと思うけど・・・」
「せいぜい、その2つ前の階層止まりですよね」
西夏、咲賀、結芽、東の順である。
一同がそのデータを見て各々ではあるが似たような反応を示している中で、例外が3人だけいた。
そのうちの1人である姫浪は、この瑠架のデータのある1つを見た時から、唇を噛み締めて厳しい表情を作っていた。
そして、踵を返して室内から出て行こうとしたのを豊が気がつく。
「姫浪、どこに行くんだ?」
「・・・に・・くの」
「えっ?」
「地獄の最下層最深部・・・その御影瑠架に行くの?」
姫浪のその一言に一同は目を見開いてまともに驚く。
その中で1人、冷静な反応をベリアルは示していた。
「なるほど。直接会って聞けば早いな・・・」
「・・・それに、個人的に言いたい事もあるしね」
姫浪のその言葉にさすがにベリアルも小首を傾げるが、今度は豊が姫浪の今考えている事を察し、罰の悪そうな表情になりながらパソコンのモニタを見る。
「とにかく行くわよ・・・地獄へ」
暗い、暗いその場所で・・・
じゃらじゃらという無数の鉄の戒めの音に混じり、虚ろいのその瞳に見つめながら、丸いそれは、楽しげな音を奏でていた・・・
あとがき
もう・・・なにがなんだかわかりません・・・・・・(汗)
本当は、今回で地獄に行ってるはずなんですけど・・・
データが思わぬほど長引いてしまって次回に持ち越しに・・・
絶対に5話で終わらなくなってしまいました。
6話で完結に変更になってしまい、もう今回訳がわからないのオンパレード(汗)
とりあえず、架月の正体の1部が明らかに・・・
まだ、あるのかと聞かれると・・・あるとしか言いようがありません!
これで終わるほど甘くありませんので(←そうか?)
とりあえず、次回天然ぼけ娘(笑)のご登場です。