[時間]
「そういえば」
俺たちはこいつの決めた時間で生きているんだよな。と唐突に思った。
ロンドンのグリニッジ天文台を通る経線を基準に15°ずつ1時間の時差が生まれる。
ちなみにどうでもいいことだが、俺のところとは1時間の時差がある。
時々この1時間がとても遠く感じるときがある。
イギリスがなんだよという目で俺を見てくる。
いや、見てくるというより睨んでいるの方がしっくりくるかもしれない。
いかにも不機嫌そうな顔を俺に向ける。
「今何時?」
「は?今は、15時だが…」
「じゃあフランスは16時だな」
「だからどうした?」
いやいやそこに触れちゃいけませんよイギリス君。
と思いながらはぐらかすように笑った。
するとイギリスは気持ち悪いと眉をひそめた。
「ただ、さっき時間はお前が決めてるんだよなーって思って」
「俺が?」
「そうだろ?」
「まぁ…そういうことになるな…」
「ま、だからどうしたって感じだけどな」
さっきイギリスが入れていた紅茶を一口飲む。
やっぱり紅茶だけはうまいな、と思ったが言ったら殺されるので心の奥底で思っておくだけにする。
「ロンドンの時計が狂ったら全世界狂っちまうな」
「だからいつもロンドンのことは気にしている」
「なんか、狂わせてみたくなるよな」
1時間の時差がもどかしくなった時、いつもロンドンを狂わせてしまいたいと持っている自分がいる。
狂わせて俺と同じ時間を刻めばいい。
だけどそれは無理な話で、
狂わせようとしてもロンドンは絶対に狂わなかった。
「狂わねーよ」
そう言ったイギリスの声は妙に力強かった。
「狂わねーよ」
二回目に言われた言葉は小さくて自分自身に言い聞かせているようなものだった。
「ロンドンが狂うときはお前が」
そこまで言ってイギリスは口を閉じてしまった。
「俺がなんなんだよ?」
なんとなくわかるけど聞いてみる。
イギリスの顔がだんだん赤くなっていくのを見るのが楽しかった。
「う、うるせぇ!!知るか!!」
「イギリスさーんそんなに怒るとロンドン狂っちゃいますよー」
「だから狂わねぇ!!」
「じゃあどんな時に狂うんだよ。」
「だからお前にもしものこと…って何言わせてんだ!!」
「たまには可愛い事言ってくれるじゃねぇかよ。」
どうやら俺の考えは間違っていたらしい。
ロンドンを狂わせるかどうかは俺次第みたいだからな。
「俺、責任重大だな」
「別にお前は関係ねーよ!!」
素直じゃねぇなぁと思いながら冷めてしまった紅茶をもう一口飲んだ。
なんだかさっきより甘くなっている気がした。