観光案内 inイギリス

妖精が住み魔女が暮らす国、イギリス。
かの国には当然のことながらその手の伝説や逸話が多い。
だから、フランスは深く考えることなく言ってしまった。
「なあイギリス。今度お前んとこ案内してくれよ」
後日、フランスはその言葉を激しく後悔することになった――。


「・・おい。まだあるのか?」
「何言ってやがる、まだ始めたばっかりだろうが。えっと、次は・・」
こっそりため息をつきながら、フランスは横目でちらりとイギリスを見る。
イギリスは仏頂面を装ってはいるが、その口元には時折楽しそうな笑みが浮かぶ。
それに気付き慌てて唇を引き結ぶしぐさや、紅潮した頬が思いのほか可愛くて、襲ってしまいたい誘惑にかられる。
延々と続く妖精談義を聞き流してしまおうかとも考えたが、
イギリスが自分のために語ってくれているのだと思うとそれもできない。
結局フランスは、妖精や古城にまつわる伝承について無駄に詳しくなってしまった。

イギリスは、話すだけではなく実際にいろんな所へ連れて行ってくれるので、最初のうちはたしかに楽しかった。
エディンバラのミステリーツアーはいかにもな雰囲気で面白かったし、
ボブキャッスルにある魔女博物館では、おどろおどろしい魔法の道具やマンドレイクの根を見ることができた。
美しい自然や歴史を感じさせる建物には感動したし、
ファンタジー小説ゆかりの地も良かった。だが、ものには限度というものが存在する。
巨人伝説のあるスカイ島や、某ハチミツ好きクマの物語の舞台のモデルになった500エーカーの森あたりになると、
そろそろ疲れてきた。地元民しか知らないようなマイナーどころになってくると、ぐったりしてきた。
箒でやってくる魔女のための駐箒場だの、円卓を囲んで食事をする現在のイギリスの上司の写真だのに至っては、
ユーモアを楽しむより「イギリス人ってよっぽどヒマなのか?」と思ったほどだ。

それでも、イギリスがずっと自分だけを相手にしてくれるならまだ耐えることができた。
だがイギリスは、時々フランスには見えない「何か」と楽しそうに会話をする。
今だってそうだ。その姿を面白くなく思っていると、突然イギリスがくるりと振り向いた。

「なあ。おまえ・・退屈だった?」
「・・ん?急にどうしたんだよ」
「いや、エルフに『もっと一般受けするところにも連れて行ってやれ!』って怒られてさ。
・・せ、折角俺が案内してやってるんだから、文句言うなよ!でも・・どう、なんだ?」
頬を染め、上目遣いに見上げてくるイギリスを、フランスは思わず抱き締めてしまった。
「え、ちょっおま・・っ!?」
混乱しすぎているのか、イギリスから拳はとんでこなかった。
それどころか顔を真っ赤にして、子供のようにあどけなく目をぱちくりさせている。
・・くそ、反則だろ。かわいすぎるって。

「・・お前さ、俺と一緒にいてるのに他の奴とばっかり喋んなよ。
んで、いろんなトコ行き過ぎ。おにーさんいい加減疲れるって。
あと、お前無防備すぎ。・・俺がどんだけ襲うの我慢してやってると思ってんだよ」
「う・・?え、な、何言って・・」
耳まで赤くなったイギリスの額に、フランスは優しい接吻を落とす。
「・・今度は俺のとこ案内してやる。さっさと案内済ませてのんびり可愛がってやるよ」
「な、何しやがる・・っ!」
振り上げた腕は、あっさりフランスに掴まれた。
「じゃー帰るぞ」
「・・っ!ここは俺の国だ!」
「たいして変わんねーって」
「変わるだろうがっ!」
 先を歩くフランスは気付かなかったが、
手を引っ張られながら怒鳴るイギリスは、どこか嬉しそうな表情を浮かべていたのだった。


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