朝 穏やかなまどろみの中、フランスはごろり、と寝返りを打つ。 同じベッドで寝ているはずの人物のぬくもりを求めて、 夢現で腕を伸ばすが、毛布の中を弄っても求めるものはなく フランスの思考を覚醒へと導いた。 ――いない? どこ行ったんだ。 ぼんやりと考えて、だけど自分が知らない間に何処かに消えてしまうのではない か、と 思わないのは大きな進歩だ。 イギリスは何故か人を遠ざけようとする。 親しくなれば為るほど、逆に離れようとするから、 一時期ずっと不安だった時期があったのだ。 そうしてまどろみの中考えていれば、ピーッという甲高い音が部屋の外から響いてきて、 フランスの目を完全に覚ます。 体を起こして、未だ霞む思考でぼんやりと部屋を眺めて、 自分が起きていること、ここにいることを確認していると、 きぃ、と軋んだ音を立てて部屋の扉が開いて イギリスが二つのカップを持って部屋に入ってくる。 すたすたとこちらに近づいてく来て、ベッドの端に腰掛ける。 それとともに仄かな紅茶の香りが二人を包んで あぁ、イギリスの匂いだ、と思う。 イギリスが自分の分まで紅茶を入れてくれて、 こうして共に穏やかな時間に居られることに酷く満ち足りた気持ちになって イギリスの朝日に輝く金髪を眺める。 自分のものより色の薄い、それこそ透けるような柔らかな髪だ。 そうして、ぼんやりと眩い光に包まれるイギリスの顔を見つめていれば、 幼く、可愛らしい顔が顰められる。 「何だよ」 酷く不機嫌そうな声。 それに思わず苦笑が漏れるが、ここでフランスに笑顔を向けるようなら それはイギリスじゃなくてアメリカの作ったロボットか何かだろう。 二人恋人になってからも、イギリスがフランスに向かって笑いかけるなんてこと は 滅多になかった。 イギリスがフランスにしょっちゅう笑いかけるなんてことになれば、 慣れないことにフランスは酷く戸惑うだろう。 だから、時々ふとイギリスを見て、その口元が引き結ばれてなければ 自分がそこにいることをイギリスが認めているということで、 それが分かればフランスには十分だった。 「いや、別に。 っていうか、そのシャツ俺のだろ」 イギリスが傍にいることが幸せだなんて、今さら恥ずかしくて言えやしなくて、 目に留まったイギリスの格好について言及する。 「あぁ、昨日着てた服は下に落ちたまんま皺になってたから、 お前のを適当に借りた」 悪びれもせずに言われた台詞に苦笑しながら、改めてイギリスの格好を見る。 フランスのシャツ一枚を羽織った格好でベッドの端に腰掛けて、 紅茶を醒ましながら飲む様子が微笑ましい。 白く、細い足がすらりと伸びている。 「…………。 ってイギリスッ、お前ズボンぐらい穿けよ」 ぼんやりしていて気付かなかったが、 改めて見ればイギリスはズボンを穿いておらず 気付いてしまえば目のやり場に困る。 昨夜、いや今朝方までの行為で自分のつけた花が 白い足にあちこちと散らばっていて、 今の和やかな空気とあまりにちぐはぐなその光景にそそられてしまう自分がいる 。 「あぁ、お前のズボンが緩すぎてすぐに下がっちまうんだよ。 お前絶対食い過ぎ、太りすぎ。 見ろよ、シャツだってこんなでかくてブカブカだ」 ほらっ、と言って掲げて見せられた腕で、確かにシャツの袖が捲くられていて イギリスの腕の細さが際立っている。 「お前、ホント細いのな。 俺とそこまで身長変わらないだろ。 なのにそんなブカブカなのって、お前痩せすぎだと思うぞ」 「だから、俺が細いんじゃなくて、お前が太ってんだよ。 フォアグラ太りだ」 自分が細いなどということは男としてあまり認めたくないらしいイギリスはそう 言うが、 断じてフランスは太ってなどいない。 自分は確かに美食を追及しているが、その分運動だってしている。 一般から見て、かなりスタイルの良い方だと自負しているのだ。 「いいや、俺は普通。お前が細すぎんの。 昔一緒に暮らしてた頃は、結構普通だったよな。 お前、俺から離れてから碌な食事取ってなかっただろう。 だからこんな細くなるんだ」 そう言いながらイギリスの体に腕を回せば、すっぽりと自分の腕の中に納まって しまう。 自分とあまり変わらない身長でこれだけ細いのだから、本当に痩せている。 イギリスの骨格が自分よりも華奢に出来ている、という部分もあるのだろうが。 イギリスは、ムッとしたような気配を漂わせているが、 フランスから逃れようとはしない。 「いつもお前が作ってくれてたから、 俺料理なんてしたことなかったんだよ。 お前から離れてからは、とにかく食えればいいか、と思ってたから あんままともに食事取ってなかったし」 その言葉にフランスは絶句するしかない。 あの時、フランスから離れようとするイギリスを 意地でも留めておければ良かったと、本気で後悔する。 「でも、これからはまたお前が毎日食事を作ってくれるんだろう」 過去の自分を悔やんでいたフランスの耳に、 イギリスの声が飛び込んでくる。 その言葉に、フランスの落ち込んでいた気分が急上昇するのが分かる。 思わず顔が緩んでしまうのが押さえられない。 だって、それはイギリスの精一杯のずっと一緒にいようという言葉。 「あぁ、もちろんだ。 毎日、俺の最高の料理を食わせてやるよ」 なんて幸せな朝。 この小さな、大切な約束をフランスはずっと守り続けるだろう。 「じゃぁ、とっとと朝食を作れ。 お前のせいで腹が減った」 つっけんどんなその言葉さえも嬉しくて堪らない。 「仰せのままに」 そう笑って、ベッドから降りながらその頬に口付ければ、 アッという間に白い肌に朱が指して、イギリスに部屋から追い出された。 fin |