ヴァイオレット奇譚「Chapter25・"ナルシス・クライシス[2]"」
――「自分の人生を、高みから見物してるだけじゃ、すぐに飽きちまう」
細い目を真っ直ぐにこちらへ向けて、リンが言う。
達観しているわけじゃないと、言い返したかった。傍観者を、気取っているわけでもない。
言えなかったのは、必要が無いと思ったからだ。言うまでもないからだ。それを見越しているはずの彼がなおもそう告げるのならば、
やはり、もっと向き合うべきなのか。見つめなおすべきなのか。自分と。他人と。人生と?
でももう心は動かない。腐っている。
長く生きすぎた一番の弊害だ。
色んなものを、ずっと長いこと眺めてきた。疲れてはいないさ。まだ大丈夫。
だけど、いいじゃないか。
俺の人生だ。
俺だけのために、生きたっていいだろう。
目を背けてはいないさ。
ただこの目に映るもの全てが鈍い。
こうも色褪せていくものだろうか。
アンジェリア。
血や肉でないものが、俺たちの間にはあったんだと、今でも信じてる。
だけどもう上手く思い出せない。
それが、とても悲しいんだ。
「あなたの背が一センチ伸びるたびに、私の心は死んでいく」
君がそう呟くたびに。
「どうして、私を置いていくの」
俺の心が死んでいく。
「行かないで」
行かないよ。
「嘘をつかないで」
そう死ぬまで繰り返したって。
「裏切らないで」
耳を塞いでいる君には届かない。
「これでずっと一緒」
さよならアンジェリア。
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