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空模様は、朝からなかなか優れない。
雨が降るわけでもないが、清々しく晴れるでもなく――。
「すっきりしねーな……」
学校帰りの帰り道。
馴染みのメンバーと別れて、一人で探偵事務所まで帰る途中、
何気なく見上げた空に、そんな言葉が口をついた。
別に壮大な上空に文句を言ったわけではないのだが、
言われた側は気に障ったのか、遠くの方で小さく、それでいて低い音が聞こえだす。
ゴロゴロとうねりを上げるその音に、思わず苦笑いしながら、帰路へと歩を進めた。
徐々に地上への陰りが増してきて、そろそろ雨が降りそうな気配を見せ始めると、
無意識的に進む足のスピードは速まっていく。
そんな時、不意に視線の先に留まったのは、壊れかけたダンボール。
通り過ぎる際、興味本位でその中を覗いてみれば、中から子犬が二匹顔を出した。
ハッハッと口を開けて息遣いをして、尻尾も振れば愛想良く目の前の人物へ吠える。
彼らに気付かなかったかのように、そのまま行ってしまっても良いのだが、
いくらなんでもそこまでするのも可哀想だと、コナンはその場へしゃがみこんだ。
「……悪ィな。こんな姿じゃなきゃ、飼い主見つかるまで家で預かってやれるけど、
今は、それやるにしたって、了承要るのに厄介なのが一人いるからな……」
もう一人は問題ないだろうけど、と付け足して、コナンは一匹の犬の頭をなでる。
気持ち良さそうに目を閉じた犬を見て、つい顔がほころんだ。
「さて、と」
再び腰を上げると、コナンは辺りを見渡した。
それと同時に、頭上から頭へと一滴の雫が滴り落ちる。
(降って来たな……)
――西の空が暗い。
しばらくしたら、気持ち良いほどの量の雨が、固まりとなって降ってくるのは予測できる。
コナンは事務所へと通じる道を黙って見つめた。
(走れば、せいぜい十分ちょっとってとこか。なら何とかなるだろ)
そう判断して、コナンがランドセルを開けて取り出したのは、折り畳み傘。
カバーを外して傘を開けると、犬が入ったダンボールを覆うようにそれを置いた。
「多分、そのまま雨に降られたら、衰弱しきっちまうだろうからな」
そう呟くも、人間の言葉が犬に通じるわけもない。
視界が急に暗くなったのと、コナンの話した言葉に不思議がったのか、ゆっくりと二匹の子犬は首を傾げた。
パシャパシャと、勢い良く水のはねる音が道路に響く。
さっきから数分しか経っていないのだが、思いの外天候が変わるのは早かったようで、
いつの間に出来たのか、今では四方八方に水溜りが現れている。当然、雨量も増すばかりで、コナンは家路へと急いだ。
(……まさか、さっきの言葉を引っ張ってんじゃねーだろうな)
別に文句のつもりで言ったわけじゃないのに――と心で愚痴ってみたが、
変わってしまった天候に文句を言っても仕方ない。そんなことを、つい思う自分に苦笑いしながら、一瞬身体に寒気が走る。
(さっさと行かねーと、こっちが風邪引いちまう)
びしょぬれの状態で、事務所に入ったら入ったで、
小五郎に文句を言われるのは目に見えていたが、この際どうしようもない。
それを覚悟の上で、なるべく早く事務所へ戻ろうと決めた矢先、
不意に視界が暗くなったのに気付き、それの原因を知ろうと上を見上げた。
(……傘?)
見慣れた物体が目に飛び込んできたと同時に、背後から声がする。
「大丈夫? コナン君」
「へ?」
また聞き慣れた声に、そちらを振り向くと朝に見かけたばかりの女性が一人。
「蘭姉ちゃん?」
驚きと意外が混じったような声を出して、不思議そうに蘭を見つめた。
「――そっか。やっぱりあの傘、コナン君のだったんだ」
「え? あの傘って……?」
怪訝そうに言う雨に濡れたコナンを、蘭はハンカチで拭きながら言う。
「ホラ。少し手前に、子犬の入った段ボール箱があったでしょ?
あそこに子犬が濡れないように置かれた傘。あの傘、何処かで見たことあるなー、と思ってたのよ」
そう言うと、蘭はコナンを見ると優しく微笑んだ。
「優しいね、コナン君」
「え……あ、いや……」
自分を見る蘭の表情に負けて、コナンは慌てて視線を逸らす。
「ま、周りに雨を遮れるようなものが何もなかったから……」
「――そうだ! 帰ったら、お父さんに話して貰い手見つかるまで預かろっか」
「許すかな? おじさんが」
「大丈夫よ。あれでいて、お父さん結構優しいんだから」
この言葉に、コナンは蘭の見えない所で、疑いの視線を作る。
(そうかねぇ……? 『これ以上面倒が増えてたまるか!』とか言い出しそうだけど)
心でそんなことを呟いていると、目の前に片手が差し伸べられる。
「じゃあ、帰ろう、コナン君。服を早く乾かさないと、風邪引いちゃうから」
「……うん。そうだね」
そう言って、蘭の手を取ると、そのまま家路への道を再び歩き始めた。
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割と書いた当時から気に入ってた気がする小説。
ネタとしては大分初期の頃に、多分イラストで描いてた設定。……小説版も書いてたかな。
わざわざイラストを描き直した挙句、プチ小説まで書いた辺り、捨てられなかった設定だったもよう。
企画小説として書かずとも、遅かれ早かれ短編カテゴリで書いてたようにも思う小説。
修正としては主に描写部分の微修正。
4か月前に書いたであろう快斗の誕生日小説が、それなりに修正されたのを思うと、
単純に扱いやすさの違いなのか、書き慣れの問題なのか、もしくは両方なのか。
ついでに当時はこれですら逃げたくなっていたらしい微恋愛要素。……当時の制限酷過ぎるな。