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【 ※まじ快原作設定(組織)に触れています 】
きっかけは一通の封書。
差出人不明な上、切手も貼られていなければ宛先も書かれていない。
ただ一言、『江戸川コナン様』と書かれた封書が
探偵事務所のポストに投函されたことから、すべてが始まった――。
土曜日の早朝に、警視庁へ届けられたキッドからの予告状。
久しぶりのキッドの予告状ということで、どの局のニュースもこぞってそれを取り上げていた。
そこで公開された予告状の文面に、コナンは当然のように頭を働かせる。
――その奇妙な封書が届けられたのは、そんな最中だった。
部活から帰って来た蘭が、不思議そうな顔をしてコナンに手渡したその封書。
その体裁から、少なくともまともな内容ではないと踏んで、
蘭たちのいる事務所を後にして、上の自宅へと移動した。
届いた封書をテーブルに置いて、コナンは腕を組む。
仮に脅迫状の類であれば、考えられるのは組織関係。
正体を知っていることを思えば、差出人はさしずめベルモット辺りだろうか。
もう一つの可能性としては、悪ふざけの類。
だが、こんな手法で送ってきそうなのは、自分の父親に入れ知恵された母親位なものである。
(前者だとすれば、何か仕掛けでもありそうだけど……)
封書を持ち上げてみても至って軽く、仕掛けが施されている気配はない。
振ってみても、カタカタと音を立てるだけで、
封書の半分位のサイズの紙が一枚入ってる程度に思われた。
「……考えてても仕方ねーか」
覚悟代わりに、ゆっくり息を吐き出すと、コナンは届いた封書の封を切った。
杯戸ホテルから南に10km程先へ位置する、今は使われていないビルの屋上。
そこにいつも通り、白い衣装を身にまとう怪盗の姿があった。
塔屋の上に立ちながら、キッドは宝石を月にかざして変化のないのを確かめた。
その後で杯戸ホテルの方へ目をやると、ほのかに明かりが点灯しているのを認める。
「へぇー。結構ひねったのに、警部のやつちゃんと予告状解いたか。
まあ、今回は犯行前に本物と偽物すり替えちまったけどな」
無駄な努力をすみませんね。と愉快そうに呟くと、表情を一変させる。
(……今回来るかどうかは、ただ俺の勘だけど、
ここ2〜3回の盗みの時、妙な視線感じてたからなぁ。
そろそろ来るかと思って、あんなまどろっこしい方法使ったんだが)
仕掛けてくるのなら、警察も誰もないこの状況を置いて他にない。
あえて作ったこの場所なら、誰かが潜んでいてもおかしくないはずなのだが、
辺りをくまなく見渡した限りでは、そんな気配は全く見られない。
(俺の取り越し苦労か?今日は全然そんな気配しねーし……
あ、それともあれか。俺が素直に杯戸ホテルにいると思ってそこで待――っ!)
身体の数箇所に痛みが走ったと思うと、足が力を失って地面につく。
バランスを失った身体は塔屋からそのまま屋上へと落ちた。
「……ってぇ」
やっとの思いで身体を起こして、数箇所から血が滴り落ちているのが見て取れた。
それを手当てしている暇もなく、屋上へ通じる扉が開いて、
見るからに悪人そうな人間が、数人屋上へと足を踏み入れてきた。
彼らと目を合わせたキッドは、面倒くさそう顔をしながら彼らから目をそらす。
(あー……やっぱり間違いじゃねーってわけ。嬉しいやら、そうでないやら、何か複雑……)
ため息をついてから、応戦しようとトランプ銃を出して構えた。
しかしそれも数秒の出来事で、直ぐに掌へ銃弾が当たり思わずトランプ銃を落としてしまう。
それを拾おうとして、今度は足に痛みが走り顔をしかめた。
(――ヤベッ!足撃たれたら、思うように動けねぇっ……!)
撃たれたとは言っても、全く動けないほどではない。
酷い痛みが走らない程度に、ゆっくりと足を引き寄せて立ち上がろうとする。
だが、当然相手はそんなことには構わない。
無言で目の前にいる怪盗へ照準を合わせると、その場に発砲音が響き渡った。
キッドはその音に思わず目を瞑ったが、自分には特に変化がない。
(……え?)
それが意外で目を開けると、目の前で辺りを見渡す相手方。
どうやら自分たちがキッドに対して引き金を引くより先に、誰かが発砲したようだ。
銃声が聞こえたのは細く開いたままであった、屋上へ通じるドア。
相手側の数人が開いたドアの方へ行きかけると、そのドアから聞き慣れた声が聞こえた。
「いやー。キッドがここに現れるという情報を聞いて半信半疑で来てみたが、
ここまで面白いもんが見れるとはさすがに思わんかったな。
そろそろワシの仲間も此処に着く頃だ。今からキッドもろとも、
冷たい監獄の中へ仲良くぶち込んでやるから、覚悟しとけよーっ!」
意気込んで中森が言っている内に、
ビルの後方からパトカーの音が聞こえだし、相手側に焦りの色が見え始める。
「――ちっ!」
一人が悔しそうに、そう吐き捨てると慌しく全員がキッドへ踵を返し、屋上を後にする。
一人取り残されたキッドは、その状況に唖然としながら、
手を伸ばして、飛ばされたトランプ銃を取る。
(……助かったは良いけど、これからどうする?
この状態で飛べるとも思えねーし、ビルの中には警部がいて、外にはパトカーだろ?
しかも、警部が今の俺を捕まえに来るんじゃ、逃げるに逃げらんねぇ……)
苦笑しつつも、何とか痛みに耐えて何とか身体を起こし、
軽く振り返って屋上から外を見て、ため息をつく。
(やっぱり、ここから逃げるしか策はねーよな……両腕やられてるけど、何とか)
とりあえず、屋上の手すりを掴もうとして腕を上げた。
それでもやはり痛む傷に、動作が鈍くなるが、この際そうも言ってられまい。
ようやく手すりを掴んで立ち上がりかけるが、どうにも足に力が入らない。
「――動くなよ」
追う側に突如そう言われて、動かない人もいまい。
むしろ、そう言われれば、逆に何とか逃げおおせようと策を講じる。
「痛っ!」
慌てて動いたお陰で、痛みが更に増す。
その状態を見ていたのか、ドア付近から深いため息が聞こえた。
「だから動くなって。その状態で捕まえようなんて思っちゃいねーよ」
「……は?」
聞こえた声とその言葉に、キッドは驚いて顔を上げるが、その直後に悲鳴を上げる。
「いってぇっ!」
「動くからだっつってんだろーが!何回言わせりゃ気が済むんだよ?」
そう言って相手は肩をすくめると、キッドの方へ近づいてきた。
「ちょっ、ちょっと待てよ、名探偵。何で今ここにいてんだよ?それに、警部は……」
「中森警部なら、多分杯戸ホテルにいてるんじゃねーか?」
「……はい?」
不思議そうにコナンを見るキッドの質問に、コナンはあっさりと答える。
「パトカーの音はレコーダー通してだけど、中森警部は変声機。今更驚くことか?」
「いや……俺が言ってるのはそうじゃなくて……話がさっぱり見えないんですけど?」
訳が分からなさそうに首を傾げるキッドに、コナンは呆れたようにため息をついた。
「見えないもなにも、呼び出したのはオメーじゃねーか」
――半日前の今日。
意を決して封を切った中から出てきたのは、一枚の長方形の紙。
(え……?)
つい先程テレビで見かけたものとそっくりの体裁に、コナンは顔をしかめる。
オモテ面の右下には見慣れたマーク、肝心の文面は当然のように暗号文。
どこからどう見てもキッドの予告状に他ならない。
(……何でわざわざ?)
いたずらにしてはやけに手が込みすぎている。
宛名と消印がない以上、直接郵便受けに投函したのだろう。
世間一般に公表されてるこの予告状を、わざわざ手間をかけて投函する必要もない。
仮にテレビで公開される前から投函されていたのだとしても、
遅かれ早かれテレビで騒がれるのは予想がつく。キッド本人だとすれば尚のことだ。
(誰が何のために……?)
コナンは眉を寄せて頬杖をついた。
空いた片手で届いた予告状を手に取って、黙って暗号文を最初から読んでいく。
(これ――)
コナンは読むのを中断させると、予告状を乱暴にテーブルに叩き付けた。
その直後に、先程まで事務所のテレビでついていたニュース番組にチャンネルを合わせる。
そこに映った予告状の文面を食い入るように見てから、届いた予告状へ目を落とした。
(でも、そうだとしたら、どういうことだ……?)
目的が分かったところで意図は依然として不明のまま。
何か他にヒントがないかと、コナンは予告状を裏返す。
右下に小さく書かれたコメントに気付くと、険しい表情でそれを見つめた――。
「――いや、それにしたって裏面に書いといただろ?」
「書いてたな、『明日来い』って」
「だったら――」
「バカだろ、お前」
キッドの抗議を聞かずして、コナンは呆れたように口を挟んだ。
「あんな一言書いてみろ。当日来いって言ってるようなもんじゃねーか」
「どんだけ天邪鬼なんですか……」
「天邪鬼なもんかよ。らしくないことするオメーが悪い」
「予防線が必要だったんだよ。仲間の方には無駄に心配かけたくなかったし」
そう言ってから、キッドは一度息を吐き出すと、手すりにもたれ直す。
しばらく大人しくしていた分、多少マシになったとは言え、
場所によっては、動かすと出血が始まる部位はあった。
「ここまで重傷なら、少なくとも無駄な心配ではないだろ。
つーか、お前。その状態で明日まで待ってりゃ、出血多量で下手すりゃ死んでるぞ」
「……放っといてくれますか」
ふてくされた様子で呟くとキッドはコナンから目をそらした。
その態度にコナンはため息をついて肩をすくめる。
「それで?これからどうする気だよ。その状態で空は飛べねーだろ?
かと言って、このままここにいたところで、症状は悪化の一途。
病院へ行くにしても、キッドの衣装のままじゃ行けやしない。
だが、楽に変装解けるほど怪我の程度も軽くないし、動けるとも思えない。
ということは、正体がバレる可能性がある以上、俺が車を手配しても無意味ってわけだ」
「……何が言いてーんだよ」
傍で得々と語るコナンを、キッドは恨めしそうに睨む。
「諦めて、その仲間に連絡入れろ」
「…………お断りしますー」
「おい――」
力なく言われた反論の言葉。
その強硬姿勢に、業を煮やして文句を言おうとしたが、すぐに言葉を切った。
さすがにそろそろ限界だったのか、キッドは顔面に脂汗をかいた状態で、目を閉じている。
声をかけても反応しない怪盗に、コナンは面倒くさそうにため息をついた。
「……どっちが天邪鬼だよ」
それから一時間弱。
近くから聞こえた呻き声に、コナンは視線を動かした。
「意識戻ってもしばらく動くなよ。ようやく出血も止まりかけてきてんだから」
「はい……?」
キッドは薄ら開いた目をゆっくり瞬かせながら、コナンを見る。
「止血程度だけどな。出血量が多い箇所に関しては、応急処置はしといたぜ。
意識失って何もしないのは、さすがに後々危険だろうからな。
マントに関しては、必要経費だと思って諦めろ」
「……マント?」
「臨時の包帯代わりに少し使った。服の上からだから、衛生的にはそんなに問題ねえだろ」
言われて、その被害状況を確認しようとして、体をひねりかけるが、激痛が走りかけて諦める。
「まあ……どうも」
一瞬不満を口にしようと思ったが、その言葉を引っ込めた。
代わりに言った謝辞の言葉に、コナンは面白そうに小さく笑う。
「悪いけどその発言、多分すぐに取り消すと思うぜ?」
「え?」
不思議そうに見るキッドには反応を返さず、コナンは手すり越しにビルの外を眺めた。
ビルの出入口に車が停まり、そこから運転手が出てくるのを認めると、
コナンは屋上の出入口へと向かい出してから、キッドを振り返る。
「お前が気を失ってから30分後位かな。
お前の携帯に、お仲間さんから何度も電話がかかってきたんだよ」
「え!?」
「まあ、遅かれ早かれ連絡があるとは思ってたけど。
お前が『無駄な心配させたくない』って言うくらいなら、長時間連絡なければ十中八九不審がるだろ?
帰りが遅いのをやけに心配しててな。だからお前の声で教えといたぜ、今の状況とここの場所」
「はぁっ!? ――ってえ!」
予想外のコナンの言葉に、思わず身体を起こして悲鳴を上げる。
その状況を愉快そうに笑いながら、コナンはキッドに背中を向けて手を振った。
「じゃあな。俺はそろそろ帰るわ。後は自分でどうにかするんだな」
「――って、おい!」
予想された抗議の声には耳を傾けず、コナンは屋上を後にする。
ビルを出るまでの間に、仲間と思しき人物とすれ違いこそしたものの、
あえて振り返らず、そのまま階段を駆け下りていった。
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>>あとがき(ページ下部)へ
1割はほぼそのままで、9割方は丸々書き直しという、原案何処行った状態。
説明描写で事足りるだろう事務所シーン削除し、展開順序を変えただけで何故こうなったのか。
コナンとキッド出くわしてからのシーンは、過去に1度編集済みという実は不安定なシーン。
その際の編集が、編集途中なのかと疑う程の原案と新案のツギハギすぎて、正直どうしようかと。
キッドが意識取り戻すシーン以降は、書くかどうか迷った末。
まあ、当初から重傷負った人間放っておくコナンに多少の違和感はあったとは言え、
上手く収拾つける自信がなかったので今まで書いてこなかった経緯もあり、今回初描写。
ただ、寺井さん絡ませないことには私には無理だったので、若干強引な流れなのは許してください。