街道沿い 〜日常的な10題より〜


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「おい、服部。ホントにこの辺なのかよ?」

 半ば投げやりにそう言うと、コナンは近くの木にもたれかかる。
とある夏の昼下がり。コナンがいるのは木々が多い茂る街道沿いの森の中。
止まない陽射しを一瞥すると、コナンは深いため息をもらした。

 ――時をさかのぼること1日。
探偵事務所でコナンや蘭が、遊びに来ていた平次と和葉と話している時に一人の依頼人が現れる。
4人は当然のように、小五郎と共に依頼主の自宅へと向かい、事件の捜査に加わった。

 事件自体は今朝方に解決して、5人は探偵事務所へと戻ったわけだが、
帰ってきてから平次が、途中の森の中で落し物をしたと言い出して、
無理やりコナンも引っ張って、ここへやって来たのだ。

「――ったく、何でこの炎天下の中、俺まで借り出されて
 オメーの落し物探さねーとダメなんだよ?しかも、何探してるか教えねーし……」

 不満そうに言うコナンに、平次は愛想笑いをするようにニッコリ笑う。

「ええやんけ、コナン君。親友やろ?」

「……悪友の間違いだろ?」

 やけに高い声で行った平次をコナンは呆れたように見た。

「――けど、おかしいなァ……この辺に落とした思たんやけど……」

 平次はかがめていた腰を起こすと、軽く体を反る。

「場所が違うんじゃねーか?昨日、ここで証拠品を捜索し始めたの夕方だっただろ?
 そりゃ夏の今は日が高いけど、黄昏時って一番見づらい時間帯だし、
 場所を取り違えてるってことだって、可能性としては――」

「いや」

 コナンの推論に、平次は首を横に振りながら即答した。

「この辺なんは間違いあらへん」

 自信満々で答えた平次に、コナンは思わず顔をしかめて訊ねる。

「どういう根拠で?」

「俺の勘や!」

 意気込んで発せられた言葉に対して、コナンは目を丸くして平次を見た。

(……ただの勘?)



 一息入れてから、“落し物”を探し始めた平次を見て、コナンは不思議そうに言う。

「服部。一つ訊いていいか?」

「何や?」

 コナンの言葉に、平次は手を止めて振り返る。

「その“落し物” ここまでして見つけたいってことは、よっぽど大事な物なんだろ?」

「…………」

 これを聞くと、平次はコナンの方を何とも言いがたい複雑そうな顔で見た。

「何っつーんやろなァ……大事っちゅうたら大事かもしれへんけど、
 大事やない言うたら、そない大事なもんでもないし……、
 でもまぁ、あった方が気持ち的に楽なような気ィもせんこともあらへんしやな……
 せやからて、別に無いからどうっちゅうこともあらへんで……」

「どっちだよ……」

 段々言い訳じみてきた平次の回答に、コナンは呆れ返る。

「でも見つけるに越したことはねーんだろ?」

「そら……まぁ、せやわな」

「だったら、蘭たち呼んだ方が見つかりやすいんじゃねーか?
 このままじゃ、日も暮れて探すに探せ――」

「アカン!」

 突如、怒鳴るように言われたコナンは、驚いて平次を見返した。

「それが出来ひんから、わざわざ工藤に来てもろたんや!」

「……何で出来ないんだよ?」

 理由が分からないコナンとしては、そう訊ねるのも最もだが、平次は明確な答えを出さない。

「何でもや」

 少しすねたような口調で言ってから、その場から逃げるように捜索を再開する。
それをしばらく見ていたコナンは、もたれていた木から離れ再び探し出す。

 それから10分ほど経っただろうか。
丁度、先程まで平次が捜していた付近に見慣れたものを見つけて、コナンは平次を呼んだ。

「服部ー!“落し物”探してる最中に、別の物落としてるぜ?」

「別のモン?」

 怪訝そうに首を傾げてやって来た平次に、コナンは拾ったものを見せる。

「ホラ、これ。オメーのだろ?手錠の鎖のかけらが入ってるとかいうお守り。
 大事なものなんだろ?探し物探すのも良いけど、二次被害出ねーように――」

 言いかけて、コナンは言葉を止めた。
コナンの手の中で振り子のように揺れている物を、平次が凝視していたことに逆に驚いたのだ。

「服部?」

 呆然として何も話さない平次に、コナンが不思議そうに声をかける。

「何処や!何処にあってん!?」

「え……ど、何処って……」

「場所や場所!そいつが落ちとった場所や!」

「ば、場所っつったって……ここに決まってんだろ?他に何処が――」

 言いかけてコナンは何かを思いついたように言葉を切った。

「な、何やねん……」

「もしかして“落し物”って、オメーがいつも持ち歩いてるこのお守りか?」

 この言葉に、平次は一瞬腕をピクッと震わせる。それを見てコナンは、面白そうに続けた。

「蘭たちを呼ばないのは、彼女にお守りを落としたことで
 必死になってる姿を見られたくないからで、
 俺に何を探しているかを言わないのは、からかわれるのが嫌だから、ってとこか?
 それに、もしそうなら、さっきのオメーの言い訳に近い説明の仕方に納得も行くしな」

「いらんっちゅーねん、そんな推理」

 しかめ面をした平次に、コナンは追い討ちをかけるかのように呟いた。

「事実言わないんなら、彼女にそうだって言ってもいいんだけど?」

「……工藤」

 平次はゆっくりと振り返ると、コナンの方を恨めしそうに見る。

「思いっきり、からかっとるやろ」

「他にどう聞こえるんだよ?」

 笑いながら言い返したコナンに、平次は疲れたようにため息をついた。

「何でお前が見つけんねや……ここ、さっき俺が探しとった所やで?」

「探し方が不十分だったんだろ?」

 呆れて言ったコナンを、平次は不満そうに睨んだ。

「……まあ、ええわ。見つからんよりマシやしな」

 平次はコナンからお守りを受け取ると、腰を上げて伸びをした。

「おっしゃ、ホンなら帰ろか!」

 そう言って歩道の方へ行きかけた平次はコナンの方を振り返る。

「おい、工藤!」

「あん?」

「言うとくけどな!別に、俺が気になってお守り探しに来たんとちゃうからな!」

「は……?」

 予想外の言葉にコナンは目を点にした。

「あ、あれや!俺がお守り失くした言うたら、あのアホが何やうるそーて、やかましいし
 毎日毎日、それ言われんのがかなんから、わざわざ探しに来たんや!せやから――!」

 慌てふためいて、必死で弁明する平次の横を、コナンは無言で通り過ぎる。

「心配すんな。別に本人にバラそうとか思ってね――」

「ちゃう言うとるやろ!?」

 振り返りざまに言った、コナンの言葉が全てを言い切られる前に、平次の抗議が入る。
これに対して、コナンは呆れたように平次を見た後、肩をすくめた。

「ヘイヘイ。そういうことにしといてやるよ」

 そう言いながら、スタスタと先を行くコナンに、平次の抗議は続いた。

「コラ!工藤!変に悟ったように言うなや!――工藤!!」



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