<<02.公認夫婦 * 新蘭お題リストへ * >>04.蒼の瞳
「あーっ!ホラ、もうコナン君。また口の周りにご飯粒付けてるよ?」
「へ?」
言われてコナンは食事をしていた手を止めると、蘭に指差された場所を手で探る。
しかし、なかなか目的の場所へ行き渡らない。
それを見た蘭が笑いながら軽く身を乗り出すと、コナンの方へと手を伸ばした。
「――ホラ、ここ」
笑いながら米粒を取ると、そのまま自分の口へ運ぶ。
「コナン君って、こういうのは子供らしいのよね」
「……そ、そう?」
蘭の言葉にコナンはギクリとして蘭を見返す。
普段は大人びてるから、という意味合いなのは分かるのだが、
どうにも正体を勘ぐられていそうで気が抜けない。
「子供らしいとか言うより、それじゃあまるで幼稚園児だぞ」
「そうとは限らないんじゃない?」
不思議そうに言う蘭を小五郎は怪訝そうに見る。
「お前なぁ。いくら小学1年だからって、顔にご飯粒付けるってのは……」
「でも、私がまだコナン君位だった頃、あったよ?」
蘭の言葉に二人は意外そうな視線を蘭に向けた。
「――確か、遠足で東都タワーに行った時だったかな?
お昼前の自由時間の時、私あの頃あの辺り行ったことなくて、
興味本位で一人で色んな所に行ったり入ったりしてたら、途中で迷子になったのよね……」
「……何処?ココ」
狭い裏路地に入った蘭は辺りをキョロキョロと見渡して、
周りの何もない殺風景の様子を見ると途方にくれた。
右から来たか、左から来たか、その記憶すら曖昧になる。
持っていた時計に目を落とすと12時半。
「……どうしよう?先生、お弁当食べて1時に集合って言ってたのに……」
寂れた路地裏な上、人が全く通らない。
蘭はそのままペタンと地面に座り込んで、泣きそうな顔でアスファルトを睨む。
キュッと唇をかんで、どうにか泣くのをこらえてはいるが、
今にも涙がこぼれんばかりに目にたまっている。
「……もう、やだぁ」
そう言ったと同時に、涙が頬を伝った。一度流れ出せば、止めるのは難しい。
涙が流れてることに気付き、慌てて拭うが、途中でその手も止まる。
「…………」
せめてもの抵抗として、声を押し殺して泣いていると、不意に自分の目の前へ影が差す。
少し怯えながらゆっくり顔を上に上げると、見慣れた人物と目が合った。
「あ……」
「オメー、これ位で泣くなよな。――ホラ」
目の前に立っている人物からハンカチを受け取りながら、蘭は不思議そうに訊ねる。
「……新一、何でここで迷ってるって分かったの?」
渡されたハンカチで涙を拭きながら言った蘭に、新一は両手を頭の後ろで組んで得意げに言って見せた。
「気付いてなかっただろ?俺がつけてたの」
「ど、どうして?」
新一の言葉に、蘭は意外そうな顔で新一を見る。
「蘭が方向音痴なの知ってるから、一人で何処かに行きかけた時、追いかけたんだよ。
途中で迷って、集合場所に戻れなくなったら大変だろ?
まあ、途中で見失って、ようやくここに着いたんだけど」
「でも私帰り方分かんないんよ?東都タワーから随分離れちゃってるし……。新一、来た道覚えてる?」
これを聞いて、新一は少し考えた後首を振った。
「さすがに全部は覚えてねーかな」
「じゃあ……」
「でも大丈夫。前に父さんと、この辺探検してたから、
ココから東都タワーに行く道なら何個か知ってるし、戻れるよ」
「ホント!?良かったぁ……」
そう言って安堵のため息をもらす蘭を見ながら、新一は蘭の前に片手を差し出す。
「ともかく立てよ」
「うん。ありがと」
蘭は片手で涙を拭いながら、空いた片手で新一の手を掴むと、立ち上がった。
「なぁ、蘭。どうせ弁当まだだろ?」
「あ、そうだ!先生、お昼も各自で食べなさいって言ってたんだっけ!」
「それじゃあ、こっちだな」
そう言うと、新一は路地裏の横道へ入って行く。
「新一?何処行くの?」
後ろから新一の後を追いながら、蘭が不思議そうに問い掛けた。
「廃屋。かなりボロっちいけど、食べれねーことはねーから」
そう言ってから歩くこと数分。
窓のあちこちが壊れている、見るからに随分と使われていない建物。
物も何もなく、閑散としてはいるものの、外観ほど荒れていない。
二人は近くの壁にもたれながら、各自の弁当を広げる。
「でも新一。何でこんな所まで知ってるの?」
「ここか?その探検してた日、たまたま父さんが見つけたんだけど、
『今度の小説の舞台にでも使えそうだな』とか言って、中に入って行ったから、
俺もその時に入ったんだよ。それで見た目よりマシなの知ってたんだ」
「へぇ……。でもいいなぁ。新一のお父さん、色んな所連れて行ってくれるんだもん。
私のお父さんもお母さんも、危ないからってそんな探検なんてさせてくれないよ」
「俺の父さん、そういうの好きだからな!」
楽しそうに言った後、思い出したように苦笑いする。
「あー……でも、こういうのやって帰ると母さんにすっげー怒られるんだよな」
「新一のお父さんも?」
驚いて言う蘭に新一は大きく頷く。
「しかも、俺より父さんの方が怒られてんだぜ。『何させてるのよ!』って。
その時のペコペコしてる父さんが可笑しくってさー」
その状況を思い出して笑う新一につられるように蘭も笑い出す。
路地裏に迷い込んで、不安で流れていた涙もいつの間にか止まっていた。
「蘭。オメー、ご飯粒顔につけてる」
「え?」
お互いの両親について話しながらのお弁当タイム。
話の途中で呆れたように言う新一に、蘭は慌てて思い当たる所へ手を当てるが、なかなか米粒が見つからない。
「ほっぺたでも鼻でもねーよ!」
「……じゃあ、何処だって言うのよ」
笑いながら言う新一を、蘭は不満そうに見る。
「だから――」
新一は途中で言葉を切ると、蘭の唇へと手を当てる。
「――上唇の先」
言いながらついた米粒を取ってやると、そのまま自分の口へと運ぶ。
「あーっ!私のご飯なのに!」
「良いだろ?一粒や二粒」
「もーっ!お母さんがわざわざ作ってくれたのに!」
不満げに言う蘭に、新一は自分の弁当箱を蘭の方へ向けた。
「そんなに言うんなら、好きなおかず取れよ。――ただし、一つだけだからな!」
「――ちょっと待て!!」
今まで黙って蘭の回想話を聞いていた小五郎が、食事をしていた手を止めた。
「何よ、お父さん」
バンッと机を叩いた小五郎を、蘭は驚いて見る。
「そんな話、俺は一度も聞いたことないぞ!?」
「当たり前でしょ?話したの今回が初めてなんだから」
「んなこたどうでもいい!あのクソ生意気な探偵ボウズ、
一発殴ってやらねーと気が済まねぇ!――何処にいやがる!」
――ここにいます。
とも言えなくて、コナンはさり気なく小五郎から目線を離す。
「知らないわよ。新一、いくら訊いたって教えてくれないんだから。
言っときますけど電話番号だって知らないからね!あいついっつも非通知なんだから」
「…………」
連絡手段のなさに先手を打たれて、小五郎は不機嫌そうに食事の手を再開する。
「あの野郎……今度会ったらただじゃおかねーぞ」
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中盤以降、少しだけ加筆修正。それ以外は微修正。
とある理由で見直したくなかったこの小説。
その原因となった部分は、これも何かの縁ということで削除しております。
優作の場合、そこが家の近所だとしても、人通りのない裏路地とか抜け道とか、
何かの役に立つんじゃないかと、子供の頃の新一と歩き回ってたんじゃないかな、
という勝手な想像から、こんな設定を作ってみました。
……意外と有希子も好きそうな気はするんだけどな、探索系。