ひき逃げ事件〜狙われた標的〜:Epilogue


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「――ったく!何が大丈夫だ!」

 肩の手当てが終わり、医師が出て行った瞬間、小五郎は不満げに声を上げた。
今にも掴みかかりそうな小五郎を、目暮が慌てて制する。

「まあまあ、毛利君。命に別条はなかったんだ、良かったじゃないか」

「しかしですなぁ……」

 目暮にたしなめられて、小五郎は納得が行かない様子で顔をしかめる。
あれからしばらくして、車の調査から戻って来た目暮と合流し、
小五郎から事情を聴かされた目暮は、森中を署まで連行するよう高木に指示を出した。

 小五郎に言われた通りに駐車場を捜したところ、事故車と思しき車が見つかった。
車種や色は、子供たちの目撃証言と一致したことで、目暮はこの車が事故車両だと断定した。
そのことを後で森中に問い詰めると、ようやく犯行を認め、女性を故意に轢こうとしたこと、
また、振り向いてもらうためのストーカー行為に関しても認める供述を始めた。

 森中本人によると、数年前に付き合っていた彼女に振られ、
傷心しきっていた時に出会った被害者に一目惚れし、何とか付き合ってくれるよう頼んだらしい。
だが、それをことごとく断られたことで、森中自身の中にあった愛情が憎しみへと変わり、
自分を受け入れてくれないことに腹を立て、ついには殺そうと考えたそうだ。

 態度の変化に、被害者は気付いていたものの、確たる証拠がなかったため、
警察も動いてくれないのではないかと、最初の事情聴取の際に言葉を渋ったらしい。
しかし、警察側が森中の名前を出したことで枷が外れ、事情を話すことを決めたんだとか。
森中の逮捕を伝えると、彼女は安堵した様子で警察へ感謝を述べた。

 一連の事件の犯人が、現行犯で逮捕されたということで、事件の方は落ち着いたのだが、
一部、無事に終わらなかったコナンに対し、小五郎の文句が止まらない。
いい加減面倒になってきて、コナンは掛け布団を頭からすっぽりかぶった。

「――おいこら!聞いてんのか!」

 コナンのその態度に、小五郎は荒々しく布団をはぐりとばす。

「……聞いてるよ」

 ため息交じりに、ようやく返事を返すが、露骨に眉を寄せて小五郎を睨む。

「怒ったって仕方ないじゃない。
 こっちだって、まさか女性よりも先に殺しに来るなんて思わなかったんだから」

「そういうこと言ってんじゃねえだろ。何で助けを呼ばなかったか、って言ってんだよ!」

「呼んだところで人質増えるだけでしょ?
 大体、あの状況下で下手に動いたらそっちの方が危なかったと思うけど」

 ナースコールを呼ぶにしても、その瞬間は隙が出来る。
だとすれば、森中の動きに注意を向けて隙を作らない方が得策だろう。

「じゃあ、どうして森中はお前のことを二回も刺そうとしてたんだ」

「え?」

 小五郎の言葉の意図が分かりかねて、コナンは首を傾げた。

「騒ぎを起こしたかっただけなんだとしたら、素直に叫び声上げりゃ済む話だっただろ。
 にもかかわらず、お前の肩を刺した後も、森中はお前に対して敵意を持っていた。
 ってことは、お前はあの時叫び声を上げていない。しかも敵意も消えてないってことは、
 どうせまた、変に煽るようなこと言ったんじゃねえのか?」

「…………」

 図星を突かれて、コナンは黙り込む。
何故その洞察力が普段の殺人事件では働かないのか。
その沈黙を肯定と取ると、小五郎は呆れた様子でため息をついた。

「歯向かうなっつっといただろ」

「……楯突いただけだよ」

「同じだろうが」

 不満そうに出た反論に、小五郎は即座に返すと、コナンの頭に手を置いた。

「まあ、もう無理すんじゃねえぞ」

「……うんって言いたいんだけど、多分無理なんじゃないかなぁ」

 物腰が柔らかくなった小五郎の態度に、コナンはやりづらそうに目を逸らす。
次に苦笑いしながら出た言葉に、一転して小五郎は眉を上げるとコナンの頬を思いっ切り引っ張った。

「――痛い痛い!!」

 予想外の行動に悲鳴を上げると、コナンは慌てて小五郎の手を叩いた。
だが、それでも引っ張る動作は止めないで、小五郎は呆れた様子でコナンを睨む。

「分かったのか!」

「分かって……ないな」

 尚も強情に言い張るコナンに、小五郎は頬を引っ張っていた手を放すと、間髪入れずにコナンの頭を殴る。
その痛みに、声にならない叫び声を上げると、忌々しそうに小五郎を見上げた。

「おじさん!脳震盪起こしてたって知ってるよね!?」

「だったら一生起こしてろ!」

 悲鳴に近い口調で言うコナンに対し、負けじと小五郎も声を荒げて応酬した。



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