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長々喋っていても仕方ない、と公園を後に被害者宅へ向かった二人。
その道中で、快斗が思い出したようにコナンへ訊く。
「……なぁ。半信半疑とは言え、こっちの無実を晴らすついでもある、
ってのは、専門外の人間からしてみりゃ、ありがたいけど、
被害者の家行ったところで、どう訪問理由つける気?」
「ああ、それか。まあ気にすんな」
意味ありげに呟くだけで、明確な答えは返ってこない。
「――ところでオメー。何で公園で道化師みたいなことしてたんだよ?」
「道化師ってピエロじゃねーんだぞ。マジシャンだよ、マジシャン!」
「似たようなもんじゃねーか。手先使った芸で人を楽しませるのは同じだろ」
しかめっ面で言ったコナンの言葉に、快斗は小さく目を見開く。
快斗の反応は気にせずに先を進むコナンを見て、快斗は面白げに笑みを浮かべた。
「『騙す』じゃなくて『楽しませる』なんだ」
「はぁ?」
「ああ、いや。冷静なんだか、皮肉なんだか知らねーけど、
そっちは、マジックのトリックなんて、すぐ見破って、茶化す方だろ?
だから『楽しむ』なんて言葉が出てくるのが意外でさ」
「まぁ、一般的にはマジックなんてのは、娯楽の一つだろうからな」
快斗の疑問を受けて、コナンは言葉を返すと繰り返した。
「……一般論はな」
「何、皮肉?」
「そう聞こえてりゃ、否定はしねーよ」
涼しげに言ってのけるコナンを、快斗は物言いたげに見る。
(コイツ、対峙してる時だけじゃなく日常もノリ悪ィよなぁ。いや。っつーより、感情なさすぎ?
これじゃあ、幸運の女神もビビって寄って来ても逃げそうな……)
「――で? こっちの質問の答えは?」
「あ? ……ああ。何でマジック披露してたかってやつね。
木の上から話してる時も一応言ったんだけどな。
平たく言うと、そっちがオレを見つけやすいようにするため、かな?
マジックやって目立ってりゃ、目星くらいつくかなと思ってよ。
そっちは普段のオレを知らないわけで。普通は探しようがねえからな」
そこまで言って、快斗はその時を思い出したかのように、面白そうに呟く。
「でも、こっちとしたらつまらなかったぜ?
仮にオメーが気付かなかったとしても、そっちが何かしらの興味を持って
近くに来てりゃ、こっちが気付くだろうから、大丈夫とは思ってたけど。
十時回っても姿見えねーし、言いだしっぺのくせに帰るのは考えづらいし。
それで、ちょっと遠目に辺り見渡したら目が合ったってわけ。
どうせ見るんなら、もっと近くで見ようとか思わなかったのかよ?」
「興味ねーよ」
即効返された言葉に、快斗は一瞬眉を上げる。
「……何か、すっげー腹が立つんですけど?」
皮肉をたっぷり込めて言う快斗に、コナンは表情一つ変えずに言い返した。
「今更だろ」
待ち合わせた公園を出て二十分程度。事件現場である林野邸に着くと、
コナンは特に何も考える様子もなくインターホンを押した。
「――はい」
インターホンから聞こえてきたのは、若い女性の声。
コナンは、大人びた口調で言うでもなく、あくまでも子供っぽさを繕った。
「あ、こんにちは。探偵の毛利小五郎の――」
「あぁ!警察の方からお話は聞いてます。ちょっとお待ち下さい」
全てを言うより先に相手が反応を返したことと、相手から言われた言葉に快斗は目を丸くする。
その理由をコナンに訊こうと口を開きかけた時、玄関の扉が開いた。
「――お待たせしました!私、娘の千夏と申し……あら?
連絡下さった警部さんからは、探偵の毛利小五郎さんの代わりが来るので宜しく、
と聞いてたんですけど、こんなに若い方だったんですか」
コナンと快斗を交互に見ながら、驚きと関心が入り混じったように言う。
事態を全く理解できてない快斗は、その行動に不思議そうに首を傾げた。
「あの……?」
「あ!ゴメンなさい。――私は、亡くなった林野正輝の娘で千夏と言います」
「僕は江戸川コナン。今は色々あって、毛利のおじさんの家に住んでるんだ。
えーっと……。それから、このお兄ちゃんは知り合いの――」
コナンは、快斗のことを紹介しかけて言葉を詰まらせる。
紹介しようにも、怪盗キッドだと言えなければ、本名も知らずじまい。
突然に会話が止まって、コナンは困ったように唸るが、誤魔化しにもならない。
それを少しの間、堅い表情で半ば睨んでいた快斗が口を開いた。
「――黒羽快斗です」
ごく簡単な自己紹介の後、千夏は二人を自宅内へと招き入れた。
――林野家は殺された家主も含めて、妻と子供三人の五人家族。
被害者の妻の名前が貴美香。コナン達を案内したのが長女の千夏で、その下に次女の優、長男の清がいる。
そんな家族構成を話しながら、千夏はコナン達を現場である被害者の部屋へと案内した。
「警察の方は『一通りの捜査は終わったから、部屋は使ってくれて構わない』
とは言ってたんだけど、家族の全員が近づくの嫌がってね……。
結局は警察の捜査が終わってから、誰も入ってないの」
「じゃあ、この部屋って……」
「ええ。当時のままよ。……それに証拠品がまだあったとしたら大変でしょ?
犯人が捕まったわけじゃないから、解決するまではそのままにしておこう、って」
言いながら部屋のドアを開けると、
千夏はどこか物悲しげな表情で部屋を見渡してから、無言のままコナン達へ視線を戻す。
「それじゃあ、私は奥のリビングにいるから、何かあったら声をかけてね」
「うん」
ぎこちなく返事をしながら、二人は千夏の後ろ姿を黙って見送る。
「……やっぱり、まだショックから立ち直ってないって感じだな」
「そりゃオメー……。自分の父親殺されて、数日で立ち直れるかっての」
思いついたように呟いたコナンの言葉に、快斗はしかめっ面で言葉を返した。
「――なあ、キッド。何か気付いたか?」
一通り部屋を見て回ったところで、コナンは快斗を振り返る。
その問いかけが、さも当然とでも言わんばかりの口振りに、快斗は眉を寄せた。
「お前、オレのこと勘違いしてねーか?
こっちは事件専門の探偵じゃなくて、世間を賑わす大怪盗。
殺人事件の現場に来て、何に気付けって言うんだよ?」
「バーロ、犯人の手がかりになる物があるかないかを訊いてんじゃねーよ。
大体、そんなものをオメーに訊いたところで何になるんだよ?
遺体が発見された時、オメーも現場を見てたんだろ? しかも、上の方から。
事件当時と何か変わったことはねーか? って訊いてんだよ」
「また無茶なこと……。事件起こってから時間経ってるってのに、
そんなこと、いちいち覚えてると思うなよ?」
驚いて答える快斗に、コナンはため息混じりに首を横に振る。
「自分に容疑がかかってんだろ? 覚えてて普通じゃねーか」
「だから、こっちは探偵じゃねーっつーの。着眼点は違ってて当たり前だろ。
そもそも事件が起こったのは夜だ。いくら部屋の明かりが点いてたとしても、見落としだってありえるだろ。
第一、普通自分に容疑かけられることを前提に行動なんてしません。
――それで? こっちに情報求める程度には、お気付きの点はおありですか、探偵君?」
皮肉たっぷりに言われた言葉に、眉を上げるコナンだが、黙って肩をすくめた。
「自分が情報提供する程の働き見せろってか? ――上等じゃねーか。
一通り現場見て大体予想出来るのは……犯人像と、テメーが容疑者にされた理由だな」
「ホォー? その内容と根拠は?」
快斗は半信半疑でそう訊くが、コナンは気にせずにテーブル付近を顎でしゃくった。
「考えられる犯人像は、被害者と顔見知りの人間。
見てみろよ。被害者が亡くなっていた付近にしか血痕は残っていない。
それは要するに、被害者が抵抗することなく、犯人に殺されたということ。
もし被害者が、侵入者に驚いて逃げ回ったり、抵抗したとするなら、
室内についてる血痕は、ここまで一箇所には固まらないはずさ」
「なるほど? 部屋に侵入してきた人間が、初対面だったり、敵対する相手なら
予告なしに部屋へ入ってきた時点で警戒する、ってわけね。
でも、顔見知りでも、そうでなくても、足音忍ばして背後から襲えば――」
「無理だな。被害者は腹部を刺されてんだぜ?
発見当時の状況だと、被害者はパソコンに向かって倒れている。
仮に、被害者が振り向いた瞬間に刺したにしたら、パソコンを背に倒れるはずさ」
「なら犯人がわざとパソコン側に――」
「いや。それもねーな」
「……何だよ? さっきから。
こっちはこっちで、少し手伝ってやろうかと思って、言ってやってんのに」
不満そうに文句を言う快斗を、コナンは冷たく一瞥する。
「発展させられるような提案してくれるんなら、それ相応に対応するけどな。
せめて、何か提案するんなら、室内くまなく見渡してから言えよ」
「だからオレは探偵じゃないんですー。室内くまなく見渡す習慣なんてありません」
投げやりになって言う快斗を、コナンは面倒くさそうに見る。
ため息交じりに肩をすくめると、そのまま置いてあるパソコンへ近付いた。
コンコンと手で軽くパソコンのディスプレイを叩いてから、視線を下に落とす。
「見ろよ、このパソコンとキーボード」
そう言われて、快斗はパソコンのディスプレイとキーボードを覗く。
ディスプレイには【・】――つまり中黒が表示されている。同様に、三つのキーボードに血が付着していた。
「【ぬ】と【ふ】と【う】か?」
「ああ。あるいは【1】か【2】か【4】だろうな。
ついでに言うと、これがオメーが重要参考人にされた最大の理由だろ」
「え……?」
「キッドのシークレットナンバーだよ。【1412】なんだろ?
当然、警察はそれを知ってるだろうし、おまけに殺人当日、
キッドからの予告状が届いている。警察が疑っても無理はないさ」
カラッとした口調で言うコナンに、快斗は少し顔をしかめた。
「……なぁ。オメー、今はどっちの味方?」
その言葉に、コナンは不思議そうに快斗を見返した。
「どっちって、今は普通に警察だろ」
「は?」
躊躇いなく言われた言葉に、快斗は思わず目を見開いた。
「何で?」
「何でって……。そりゃお前、味方前提だったら要は冤罪だって認めてるってことだろ?
最初に言ったよな?『冤罪かどうかは信じてない』って」
威圧的な口調ではない。
単純に快斗の反応が意外だったらしく、コナンは首を傾げながらそう言った。
「まあでも、今回の件だけで言えば、敵でもないだろうけどな。
ただ、少なくとも、野放しで味方とはさすがに言えない」
「……そうですか」
拗ねるでもないが、若干不服そうに言うと、小さくため息をついた。
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2007年度改変部分。被害者宅に行くまでの経緯と、被害者宅に事前に連絡を取ってるか否か。
原案は、電車で向かってたのを徒歩に、被害者宅に行くまでの途中ですれ違ったパトカーを見て、
捜査のし忘れがあったから代わりに来た、という口実で被害者宅に出向いたという部分を変更。
原案はグダグダ感否めなかったらしく、ゴソッと変えたらしい。
後は、相変わらず若干の文字数の少なさに、微々たるシーンを追加。
今回は途中に加えられそうな場面がなかったので、最後の会話を膨らませてみた。
それ以外は基本的には原案の設定のまま微修正加えてる程度。
快斗が自分の名前告げるところは、それなりに気合入れてた気がするな。