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学生は、冬休み真っ只中。
今日の東京は雪が時折顔を覗かせるほど、外が冷え込んでいる。
街行く人の足取りが自然と早くなっているのも、寒さが原因なのかもしれない。
暖かさを求め、近くのレストランや喫茶店に入る人達も少なくなかった。
喫茶店では、温かい紅茶やコーヒーなどが絶えず運ばれてくる。
とある店の奥の一つのテーブルには、コーヒーの入ったカップが二つ置かれていた。
そのテーブルは、外の景色が見える窓際に位置しており、少年が二人、向かい合うように座っていた。
とは言え、明らかに暖かさを求めて来店したのではないことは、そこに漂う雰囲気から分かる。
最初は少年が一人くつろいでいたのだが、しばらくしてからその少年を一人の別の少年が訪ねて来た。
その後やって来た従業員に注文を頼んでから、二人は何やら話し込む。
後から来た少年の顔が徐々に険しくなってきた頃、注文の品を従業員が持ってきた。
その従業員が去るのを確認した上で、少年は話の続きを促したらしい。
先に来ていた少年が再び話し出した数分後、後から来た少年は眉を上げた。
その直後、両手でテーブルを叩くと、その反動で椅子から立ち上がる。
「――はぁ? 何だって!?」
その勢いの良さから、テーブルに置いてあったコーヒーカップが音を立てる。
当然のように、周囲の客は驚いてその二人に注目する。
一方、相手の少年は慌てた様子で、立ち上がった少年に小声で話しかけた。
「お、おいっ! んなにデカイ声出さなくったって……」
「バーロ! いきなり、んなこと言われて、驚かねーやつがいるかよ!?」
立ち上がった少年は、尚もしかめっ面で相手に文句を言う。
だが、相手の少年は、とりあえずこの場をおさめようと、
立ち上がった少年の両肩を抑えて座らせようと試みる。
「分かったって! 分かったから落ち着け! ともかく座れ! 目立ってるから!」
尚も小声で続けると、そのまま周囲を見渡した。
二人に注目していた客たちは慌てた様子で目を逸らす。
その状態を見ても、まだ不満が残るのか、不服そうに向かいの少年を睨みながら、しぶしぶ腰を落とす。
「呼びつけて何かと思えば……。お前何考えてんだよ?」
呆れた様子で言う少年に、相手の少年は平然とした様子で少年を見る。
「ふーん。殺人事件専門の探偵に、事件の依頼をして何か間違ってます?」
「それとこれとは、話が別だろーが!」
「そうか? オレは変わらねーと思うんですけどね」
ごく自然とそう言うと、探偵と呼ばれた少年は不満そうに相手を睨む。
「なら、言わせてもらうけどな!」
「どうぞご自由に?」
澄まして言う相手を、待っていましたと言わんばかりに指を差した。
「人を指差しちゃいけません、ってお母さんから習わなかった?」
相手の皮肉には目もくれず、少年は勢いよく怒鳴る。
「何処の世界に、互いにライバル視してる奴に依頼する人間がいるんだよ!?
聞いたことねーぞ? 自分を捕まえようとしてる探偵に、事件の依頼する怪盗なんて、一度も!」
「いるじゃんか」
「あん?」
「目の前に♪」
怒鳴るコナンの剣幕にも動じず、ニッコリ笑ってそう言うと、
テーブルに置かれたコーヒーカップをのんびりと口に運ぶ。
予想外の返答に唖然としたのか、コナンは一瞬その場で固まった。
だが、すぐに我に返ると、勢いよく快斗のカップを引っ手繰る。
「――うわっ!危ねっ!」
カップを取られた勢いで、中身の一部が零れ落ちた。
まともに熱いコーヒーをかぶる寸前で、快斗は慌てて身をそらす。
何とか被害を免れた後、テーブルに飛んだコーヒーをお手拭で拭いた。
「おいおい。もっと穏便な行動出来ねーのかよ。店に迷惑だぜ、店に」
「だったら人をからかうんじゃねーよ」
「からかってなんかいねーだろ。ただ事実を言ったまで」
楽しそうにニッと笑う快斗に、コナンは眉を上げた。
「テメー以外にいるかよ、っつったんだろうが!」
「お前、そんなに短気な性格してたら、彼女から愛想尽かされない?」
「何の話だよ!」
怪訝そうに訊く快斗に対し、コナンはしかめ面で言葉を返した。
この二人が揃ってこの喫茶店にいる理由。
それは、昼間に探偵事務所へかかってきた一通の電話によるものだった――。
時は遡り今日の昼間。探偵事務所に電話音が鳴り響いた。
いつものように机に突っ伏して寝ていた小五郎が、眠たそうに受話器を取ると、
すぐにソファに座っているコナンへ声をかける。
「おい、コナン。博士からだ」
「へ? 博士?」
「何か、急ぐ用事みたいだぞ。早く出てやれ」
「あ、うん……」
コナンはソファを下りて小五郎の方へと歩いていきながら眉を寄せる。
(昨日博士ん家行ったけど……。そんなこと言ってたっけな?)
小五郎から受話器を受け取ると、怪訝そうに応対する。
「あ、博士? 急な用事って一体――はぁ!? ちょっ、い、今何て……」
コナンは受話器に手を軽く当て、小五郎の方にチラリと目をやった。
小五郎は眠たそうに欠伸をしながら、新聞に目をやっている。
コナンは少し考えてから、早口に言葉をまくし立てた。
「――うん!分かった。じゃあ、その人の電話番号教えてよ。
――え? あ、だから後でこっちからかけてみるからさ。――は?」
小五郎が近くにいる手前、子供っぽく話していたコナンだが、
受話器から聞こえて来た言葉に、不機嫌そうに顔をしかめた。
「良いから、とっと言えよ!」
小声でありつつも、ドスの利いた声で、半ば相手を脅しつけるように言う。
相手が言う番号を、コナンは近くにあった紙にメモした。
「じゃあ、またそっちに寄るよ。博士!」
そうしてまた子供っぽく言うと、一方的に電話を切った。
その後で、コナンは小五郎に一言声をかけてから、メモを持ち二階へ上がった。
コナンも蘭も冬休みで、学校は休みなのだが、
蘭は空手部の練習で留守にしているため、夕方までは小五郎と二人だ。
もちろん、二階には誰もいない。コナンは玄関の扉を閉めてから息をついた。
「……ったく、こっちの状況も考えろよな」
文句を言いながら、電話の前に座ると、先程の紙を取り出し、
そこに書かれた番号通りに、ダイヤルを回した。受話器奥でコール音が鳴り響く。
『――もしもし?』
「『もしもし』じゃねーよ! こっちは博士のつもりで電話に出たって言うのに、
何でいきなり相手が変わってんだよ!大体、コソ泥が探偵事務所に何の用――」
『ああ、それね。電話でも良いんだけど、今から出て来らんねえ?』
「はぁっ!? ちょっと待て! 今雪降ってんだぞ!? わざわざ出て来いっつーのか?」
『天候に文句言ったって仕方ないと思いますけど?』
「……立てつくんなら行かねーぞ?」
相手の皮肉に、コナンは冷淡に突き放す。
『ほー。なら出てくる気はあるってわけ?
ならありがたい。色々込み入った話になりそうなんでね。
今、米花駅前の喫茶店に来てるんですが、そこまで来てもらえます?』
かくして、コナンは快斗に呼び出され、喫茶店まで出向いたのである。
着いてしばらくは、呼び出されたことに対しての不満を並び立てていたが、
このままでは埒が明かないと、本題の事件内容を快斗へ訊いた。
「リビングで人が死んだぁ?」
「ああ」
コナンは口に運びかけていたコーヒーカップを机に戻し、首を傾げる。
「でも変じゃねーか? そんなニュース、一度も聞いてないけどな」
「そりゃそうさ」
コナンの言葉に、快斗は軽く笑った。
「そこの家族、警察が大嫌いで通報もしてねーんだから」
「はぁっ!? ちょっと待て! 嫌いとか、そういう問題かよ!?」
「オレに怒鳴るなよ……」
驚いて言うコナンに、快斗は顔をしかめる。
「――でも探偵は雇ったって話だ。妙だろ?」
「別に、探偵を呼んだことに関しては、妙とは思わねーけど。
むしろ嫌いだからって警察呼ばねーの方が妙だろうが」
呆れたようにそう言ってから、コナンはようやくコーヒーを一口飲んだ。
「……で? その探偵はどうしてんだよ?」
「何が?」
「まさか、死体そのままで放置してるとか……」
コナンは、半ば真面目くさった顔で言う。
その口調と表情に、快斗は飲みかけていたコーヒーをこぼしかける。
「あのなぁっ!んなはずあるわけねーだろ!」
「ハハ……だよな?」
「でも、やっぱり警察には連絡してねーみたいだけど」
「ふーん……」
コナンは、コーヒーを口にしながら、天井を見上げる。
(まさかその探偵……。服部とかねーよな……?
ここ関東だし。服部に連絡する前におっちゃんに来るだろうし、大丈夫だよな?)
ほとんど自分に納得させるように、コナンは心の中でそう呟いた。
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2007年度の編集作業では、2章の冒頭を1章の終わりに組み込んだ程度で、
後はセリフと展開の微修正程度という、そこまで大きな編集はなかったもよう。
シーンの削除と追加に関しては、今回の編集の方が度合としては多いのかもしれない。
冒頭部分の状況描写部分に、割と手を加えてるかと思います。後はセリフも若干修正入れてます。
コナンが電話番号を教えろ、と言って快斗が教えた電話番号。
当時、どの電話番号を教えたつもりだったのかは、記録がないので分かりませんが、
一応今回の編集で、携帯もしくは喫茶店の電話番号のどちらかを教えた、
と解釈できるようにしております。……後々の作品を思うと、携帯でも良いんだけどな。