偶然にご対面 〜第三章:父の戦略〜


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「でもホントにどうしたのよ?」

「こっちが聞きてーよ……」

 不思議そうに訊く有希子に対し、コナンは面倒臭そうに言う。

「まあそれはともかく――」

 コナンは途中で言葉を切ってから、優作を見上げた。

「おい、父さん。いい加減降ろしてくれねーか?」

「――ん? ……ああ、スマン、スマン」

 その言葉で、ようやく気付いたらしい優作は、笑いながらコナンを床へと下ろす。
コナンは、そのまま不機嫌そうに快斗の元へと歩いて行くと、快斗の腕を引っ張って二人から距離を取った。

「――おい! 『雇ったのは探偵』っつっただろーが! 何だよ、あれ!」

 引っ張った腕を乱暴に放すと、コナンは詰め寄るように快斗へ怒鳴る。

「え……いや、何って言われても……。こっちは探偵って聞かされてただけだし……。
 つーか、何? あの人達、探偵じゃないわけ?」

「探偵なもんかよ! 確かに一人は似たようなもんだけど、
 もう一人は単純に探偵になってるつもりなだけだろ」

 コナンのその口振りに、快斗は不思議そうにコナンを見た。

「やっぱりお前、あの人達と知り合いなのか?」

「……知り合いも何も、オレの両親さ」

「親ァ!?」

 驚いて言ってから、ふと思い出したようにコナンを見て首を傾げた。

「あ? でも、それなら何で逃げんだよ? あの様子じゃ、そっちの事情知ってそうだし、
 その姿なら滅多に会わねーんだろ? 実の親子なら久々に会って普通は嬉しがらねえ?」

「ガキじゃあるめーし。大体、元から息子ほったらかして、
 海外飛び回るのは日常茶飯事だったからな、今更寂しいもねーよ。
 それに……むしろ母さんの場合会わねー方が気楽で良い。
 あのお気楽さや、口やかましさは、近くにいてりゃ疲れて仕方ねーからな」

「おい――」

 呆れて言うコナンの言葉を聞きながら、快斗が何かを言いかける。
が、それよりも早く、コナンの後ろから伸びてきた手が、コナンの頭を思いっ切り叩いた。

「――いってぇっ!!」

 思わず悲鳴を上げると、コナンは後ろを振り向いた。

「何すんだよ!?」

「自分の母親悪く言うのもいい加減にしなさいよ?」

 不満そうな視線で見下ろされて、コナンは有希子から目線を逸らすと、小さく呟いた。

「……事実じゃねーか」

「なぁんですってぇぇ?」

 怒った様子で言葉を返すと、有希子はコナンの頬を両サイドから全力で引っ張った。
有希子の表情を窺うに、怒っているというよりは単純に楽しんでいるのは間違いないのだが、
そのあまりの痛さに、コナンは有希子の手を叩いて、止めろと訴えるが、どうもその気はないらしい。

「あ、あの……?」

 今まで二人のやり取りを眺めていた裕輔が、戸惑った様子で二人を見ている。

「有希子さんとコナン君、知り合い……なんですか?」

「――え?」

 そう訊かれて、有希子はようやくコナンの頬から手を放すと、裕輔を不思議そうな表情で見る。

「あら、知ってるも何も、親子だもの。当然じゃない」

「げっ……!」

 有希子の言葉に、コナンは自分頬をさする手を止める。
慌てて有希子の腕を掴むと、コナンは激しく顔を横に振った。
そのコナンの行動を、有希子は驚いた様子で見るが、意図が分からず首を傾げる。

 ――そう。最初は快斗一人だけだと聞かされていた裕輔に、
コナンがいるのを不審がられないために話した、その場しのぎの理由。
それを信用するのであれば、両親がいるこの場所にコナンがいるのはおかしい話だ。

「あれ? でも……」

 裕輔はコナンの方にチラリと目をやる。

「コナン君はさっき、親が仕事でいないから
 隣人の黒羽君に預かってもらってるって言ってたんですが……?」

「え?」

 裕輔の言葉に、何も知らない有希子は目を丸くする。

「コナン君くらいの年齢の子だと、行き先告げると思うんですが、違うんですか?」

「えっ!? ――あ……えーっとねぇ……それは、その……」

「――何も不思議な事はないさ」

 返答に困っている有希子を見かねた優作が、口を挟んだ。

「最初は、こちらへ来る予定じゃなくてね。
 この子には、最初に行く予定だった場所の電話番号と住所は教えておいたんですよ。
 ただ、家を出た後で、急遽こちらへ来ることになって、着いてから連絡しようと思っていたんだが、
 すっかり忘れていたんだよ。――なぁ? コナン君?」

 そう言うと、コナンに同意を求めるように話を振る。

「え? あ……う、うん!」

「ああ、なるほど。そういうことですか。……すみません、余計なことを」

「いやいや。気にしなくて構わないよ」

 優作が、口元に優しげな笑みを浮かべると、裕輔は軽く会釈する。

「それでは、僕はこの辺で失礼します。後はよろしくお願いします」



 裕輔が去ったのを見て、コナンと有希子は安堵のため息をもらす。
その反応に、優作は一人面白そうに笑った。

「どうした? 二人して」

「だってー……。まさかいきなり、あんなことになるとは思わなかったんだもの」

「母さんも母さんだろ? 何だってわざわざ親子だっつーんだよ?」

 呆れたように言うコナンを、有希子はムッとした様子で睨んだ。

「なぁに? 新一? 事実を言って何が悪いわけ? 文句あるっていうの?」

「いや……そういうわけじゃ……」

 有希子の態度に、先程の頬つねりの件を思い出して、それ以上の反抗を止めた。
それでも尚、不満そうに頬を膨らませる有希子から、コナンは視線を逸らすとため息をもらす。

「そう言えば新一。お前ここにはどんな用で来たんだ?」

「ああ……。まあ、父さんと一緒だろうな」

「え? 小五郎くん抜きで新ちゃんだけ?」

 一度コナンの辺りを見渡して、コナンが一人でいることに首を傾げた。

「おっちゃんが頼まれたわけじゃねーからな」

「え? じゃあ、新ちゃんが個人的に頼まれたの?」

 その言葉に頷くコナンを見て、有希子は難しそうに眉を寄せる。

「あれ? でもそれじゃあ、新ちゃんの正体知ってる人?」

「確かにそうだな。今のお前は見かけ、子供なわけだから、
 事情を知りでもしない限り、お前に依頼するわけがないだろう?」

「ああ、まあな。……でもオレは帰るし、どうせ関係ねーだろ?」

 若干不満げに言われた言葉に、二人は不思議そうに顔を見合わせた。

「何で帰るのよ? 事件現場も見てないくせして」

「そうだぞ。お前らしくもない」

 不平を鳴らす二人の言葉に、コナンは肩をすくめる。

「父さんいるんなら、別にオレがいなくったって良いだろ?」

「……ふむ。まあ帰るのなら、無理には止めはしないが、癪じゃないのか?」

「え?」

「挫折はしたがらないお前のことだ。事件現場も見ずに帰る、というのは」

「…………」

 黙りこんだコナンを見て、優作は意地悪っぽい笑みを浮かべる。

「まあ、オレがいると言うことで怖気づいて帰る、というのなら分からなくもないが」

「誰もそこまで言ってねーだろ」

「お前が『帰る』と言い張る以上、そう考えてもおかしくないだろう? 
 仮にお前がそれを否定しても、事実は分からないしな。
 単に認めるのが癪で、それを誤魔化したいがために言ってるだけかもしれんし」

 コナンは、優作の様子を窺うように言う。

「……その手には乗らねーぞ。
 そんなこと言って、ここに留まらせようって魂胆だろ?」

「最初に言っただろう? 帰るのなら無理には止めない、とな」

「なら、帰らせてもらうぜ」

 そう言って、コナンは靴を履くと玄関に手をかける。
その際に優作が思い出したように、わざとらしくコナンへ言葉を投げかける。

「あ、そうそう。帰るのは良いが、駅のホームで凍えないよう気を付けるんだな」

「あん?」

 この期に及んで、まだ何か言う気かよと、コナンは不機嫌そうな顔で振り返った。

「元々この周辺は電車の本数が少ない場所でな。普通しか停まらん。
 その上電車も、一時間に一本というレベルの本数だ。
 毎時三十二分発車だったから、今から十分後だが、駅までの距離を考えると、次の電車になる。
 だが、徐々に雪もキツくなっているようだし、延着もしくは運転見合わせの可能性もあるな」

 独り言のようにまくしたててから、優作はわざとらしく自分の額を叩いた。

「ああ! いやぁ、スマンスマン。こんなことを言うと、またお前に文句を言われるな。
 まあ、次の電車が来るまでここにいさせてもらうといい。
 電車が来るより早く、オレが事件を解いてるかも知れんがな」

「は……?」

 優作の言い回しに、どこか嫌な予感を覚えつつ、不思議そうに優作を見るが、
優作はそれに気付いていないかのように、有希子の肩に手を置いた。

「お前が事件を解きたがらないのなら仕方ない。
 わざわざ目の前で見せ付けるかのように解くのは忍びないが――有希子。ここは二人で解くとしようか」

「――待てよ! そこまで言うならやってやろうじゃねーか!」

 コナンの言葉に、優作は子供っぽい悪戯な笑みを浮かべて胸を張る。

「ああ! そうしろ! やりたいことを我慢するのは体に悪いぞ!」

 優作の顔を見て、コナンは疲れた様子で大きなため息をついてから、優作を睨む。

「大体、いちいち手口が卑怯――」

「――プッ!」

 コナンの声を遮るように、突然笑い声が聞こえだす。
その声の主が快斗だと分かると、コナンは睨む対象を快斗へと変えた。

「何がおかしいんだよ?」

「悪ィ、悪ィ! 何かかなり意外でよ。
 いつも自信たっぷりなくせして、敵わねーもんもあるんだな、と思ってな」

「ホォー?」

 その言葉に、コナン眉を吊り上げると、快斗の元まで近づいて、思いっ切り快斗の足を蹴飛ばした。

「痛っ!! ――おい! 何……!」

「今度そんなこと言ってみろ。どうなるか知らねーぞ」

 ドスの利いた声で言うと、そのまま恨みのこもった視線で快斗を睨む。

「……新ちゃん? その子知り合い?」

 二人のやり取りを見て不思議そうに訊ねた有希子に、コナンは平然と答えた。

「ああ、依頼人だよ。さっき言ってた、な」



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