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コナンが真衣子に声をかけてから二十分程度経った後、リビングに全員が集まった。
今回の事件の犯人が判明したと前置きをしてから、優作は話し始めた。
「まず、事件について話させていただきますが、
亡くなった被害者の峰内友江さんの死因が、腹部を刺されたことによる出血死だということは、
みなさん、ご存知の通りです。また被害者に抵抗した様子もないので、顔見知りの犯行であると断定しました。
犯行推定時刻は、午後九時から午後十時の間でした。――ただ、気になる情報を耳にしたんです」
「真衣子さんが言ってたんだよね?
死亡推定時刻を過ぎた午後十時過ぎに、友江さんの声を聞いたって」
「え? ……ええ。電話で話してるお母さんの声でしょ?」
真衣子の言葉に、貴也が驚いた様子で真衣子を見る。
「ちょっと待ちなさい。友江が殺されたのは、午後十時以前なんだろう?
だとしたら、あいつの声が聞こえるわけが……」
「ふーん……。お父さんも、その探偵さんたちと同じこと言うんだ」
真衣子は皮肉混じりにそう返すと、コナンたちを挑戦的な目で見る。
「私がウソついてるとでも言う? 何なら逮捕したって構わないわよ。
どうせ、証拠不十分で直ぐに釈放だもの」
「それは疑っちゃいないよ。裕輔さんもその声を聞いてるって言ってたしね。
それに、貴也さんにしても電話の呼び出し音は聞いてたんでしょ?」
「ま、まあ確かに……」
コナンに言われて、貴也は躊躇いがちに頷く。
「実はですね。この件には妙な点があるんですよ」
「妙な点って……? まさか三人が共謀してるとでも?」
苦笑いして言う祐輔の言葉に、優作は笑いながら首を横に振る。
「それはないでしょう。電話する友江さんの声を聞いたのは事実でしょうからね。
ただ、誰も友江さんの姿を見ていないし、電話が鳴った時お互いの姿を見ていない。何か思いませんか?」
「隣の部屋には真衣子さんがいることを、友江さんは分かってるだろうし、
仮に分かっていなかったとしても、リビングには電話があるんだよ?
それなのに、友江さんは誰にも助けを求めなかったんだ。妙だよね?」
二人の言葉に、三人は不安そうに顔を見合わせる。
その様子にコナンと優作は視線を交わすと無言で頷いた。
「――考えられる理由は一つだけ。その部屋にいたのは友江さんともう一人。
リビングで細工をしていた犯人が傍にいたんだよ」
「でも細工って一体何を……」
それを受けて、優作は小さく咳払いをした。
「では仮に、友江さんの死亡推定時刻が午後九時から午後十時というのにも偽りはなく、
午後十時以降に、友江さんが電話をしていたというのも、間違いではないとしましょう」
「……でもそれじゃ矛盾するんじゃないんですか?」
「ええ。ただ、電話をしていたのは、友江さん本人じゃないとすればいかがでしょう?
皆さんが聞いたのは、あくまでも友江さんの声だけ。姿は確認されてないんでしたよね?」
その言葉に戸惑いがちにお互いの顔を見ると、ゆっくりと頷いた。
「恐らく犯人は事前に友江さんの電話での会話を録音し、
それを犯行後、友江さんが生きていると見せかけるためにわざと流したんですよ」
「でも、呼び鈴が鳴っていたはずです。それは――」
「便利なのがあるじゃない」
そう言うと、コナンはズボンのポケットから携帯を取り出した。
「……携帯?」
「うん。携帯から自宅の電話へ電話をかけ、自分で受話器を取ってテープを流せば、
呼び鈴は鳴るし、友江さんの声も周りに聞こえるようになるじゃない。
同じ家にいるんなら、電話応対している友江さんの声を録音しやすいだろうし、
携帯からだって電話番号を非表示にするのは、いくらでも出来るしね!」
「でも、仮にそうだとしても、受話器からは母さんの指紋が出たって……」
「必要なのが指紋だけなら、相手の手で受話器を掴ませればそれで済むし、
自分の指紋を付けない方法だって、今じゃいくらでもあるじゃない」
コナンに指摘されて、祐輔は意表を衝かれた様子で目を見開く。
「――その小細工をしてから、さらに犯人は一芝居打ちました。
頃合いを見計らって、リビングから出て風呂場横のトイレへ入ったんです。
誰かが風呂場から出て来るのを耳で聞いておいて、
いかにも、『今までトイレへ行ってました』とでも言うように、トイレから出たんです。
――ですよね? 貴也さん」
その言葉に当然、全員の視線が一点に集まる。
視線の先にいる貴也は、フンッと鼻で笑った。
「ただの想像だろう? それだけで犯人にされちゃ、たまらんな。
誰か、私がリビングから出て来るのを見たとでも言うのかね?」
「それじゃあどうして、自分の部屋からトイレに行く時、二階のトイレに行かずに一階のトイレを使ったの?」
「……え?」
コナンの言葉に、貴也は不思議そうに訊き返した。
「貴也さんの部屋も、書斎も二階でしょ?
一階から二階に行くまでの道にトイレがあるんだから、普通は二階のを使うよね?
祐輔さんはお風呂に行ってたし、真衣子さんは自分の部屋で課題をしてた。
そして、時間的に友江さんは既に殺されていた。あの時間、二階のトイレは誰も使ってなかったはずなのに、
どうして、わざわざ遠くにある一階のトイレに行く必要があったの?」
「それは……」
「――リビングから移動するには、一階のトイレの方が近かったからなんでしょ?
そして、その時身を潜めていたトイレに、友江さんの声が入っていたテープを捨てたんだよ」
「ハハ。言いがかりもいいところだな、そんなものがあったと言うのかね?」
コナンがそれに答える代わりに、真衣子が驚いた様子で目を見開いてから、慌てて貴也から目を逸らす。
そのまま何かしばらく考えると、ポケットから取り出した物を、静かにテーブルに置いた。
「おい、それ……」
テーブルの上に置かれた、ポリ袋に入ったカセットテープを見て、貴也は驚いた様子で声を上げる。
「……さっき、ゴミの回収をしてた時に、コナン君に言われたの」
真衣子は顔を伏せて言いづらそうに言葉を発する。
「回収したゴミの中に、カセットテープがあったら、ポリ袋か何かに入れて持ってきてくれって。
……でもこれが出て来たのって、確かにお風呂場の隣のトイレのゴミ箱から……」
「しかし、事件があってから一週間も――」
「バタバタしてて、それどころじゃなかったのよ……」
貴也は少しの間、真衣子の様子を窺うように見ていたが、強気な表情でコナン達の方へ向き返る。
「もし仮にだ。そのテープに私の指紋が残っていたって、
それを私が犯行に使ったという証拠もないだろう?
それに、さっき君たちは携帯から自宅に電話したと言ったが、
携帯を見せた時、私の発信履歴に、そんなものはなかったんじゃないのかい?」
コナンはニッと口元に笑みを浮かべる。
「ねぇ。本当に午後十時過ぎ、自宅に電話しなかったの?」
「そうだとも! 大体、家にいるのに何故わざわざ電話をかける必要があると言うんだ!」
反論する貴也に、コナンは優作から渡された三枚の紙を取り出した。
その内の一枚をわざとらしく、また大げさに眺めてみせる。
「あれれ〜? おっかしいなぁ? この貴也さんの携帯の通話明細には、
十二月十八日の二十二時三分に自宅に電話した、って記録が残ってあるんだけど」
「な……っ!」
貴也が驚いて目をむく。
その様子を横目で見ながら、優作はコナンの後ろから用紙を覗き込む。
「ふむ。確かにそのようだ。
しかし妙ですね。携帯会社から送られてきた通話明細が、わざわざウソを書くはずはないんですが、
貴也さん自身は電話をかけていないとおっしゃる。どういうことか説明出来ますかね?」
優作は毒気のない笑顔を貴也へ向ける。
その様に貴也は一旦ソファから立ち上がったが、諦めたように無言のまま腰を下ろす。
そして、しばらくして聞こえてきたパトカーの音に、力なくため息をつくと、ゆっくりと首を左右に振った。
――その日の夜。
コナンと快斗の二人は電車で帰るつもりだったのだが、
車で来ているからと、優作や有希子と共に帰ることとなった。
「黒羽君は何処まで送ろうか? こいつと同じ探偵事務所で下ろされても困るだろう?」
「え? ――あ、いえ適当で良いですよ! そこからは電車で帰りますから!」
車を走らせ始めて、バックミラー越しに訊いた優作に、快斗は慌てて手を振った。
「……なるほど、適当で良いんだね?」
意味ありげに呟くと、優作は視線を前に戻す。
その反応を不思議に思って首を傾げていると、隣からコナンが口を出した。
「適当でも場所は言っとけ。妙な所連れて行かれても知らねーぞ」
「妙な所……?」
その言葉に、快斗はバックミラーを覗く。
そこで優作と目が合うが、面白そうに笑われるだけで、何の反応もない。
「そう言えば有希子。京都に行きたいと言っていたね」
「え? ええ」
急に話題を変えられて、有希子も驚きながら返事を返す。
「昔はたまに行ってたけどね。最近、日本自体に戻らないないじゃない?
だから久々に行ってみたいなぁって。あ! 何!? 連れて行ってくれる気?」
パッと笑顔になった有希子に、優作は無言で頷いてから、再度バックミラーに視線を移す。
「というわけだ、黒羽君。京都でも構わないね?」
「え!?」
思わぬ提案に快斗は目をむいた。
どう返答したものか困り果てていると、隣から声を押し殺した笑い声が聞こえ出す。
「……おい」
コナンの反応に、快斗は思わず睨むが、コナンはそのままの状態で快斗を振り向いた。
「だから言ったんだよ、適当でも場所は言っとけって」
「いや、でもお前それにしたって――」
慌てた様子の快斗に、優作が運転席で笑い声を上げる。
「安心しなさい、ただの冗談だ。ちゃんとまともな場所で下ろすから心配しなくて良い」
「……お願いします」
その否定の言葉すら疑わしく聞こえたが、快斗は素直にそう頼んだ。
「ねぇ、新ちゃんに快斗君。一つ訊いていい?」
それから三十分程車を走らせた頃、有希子が助手席から顔を覗かせた。
「……良いけど、答えられるような内容にしてくれよ?」
「快斗君が新ちゃんのこと知ってるのは、新ちゃんが教えたの?」
この質問に、コナンと快斗は示し合わせたかのように、お互いを見る。
その後で、コナンは難しい顔で考え込むと、有希子へ視線を向けた。
「……教えちゃいねーよ」
「あら!じゃあ快斗君、見破ったんだ。よく分かったわね!」
素直に驚いて返す有希子に、快斗は頭を掻く。
「いや……そこまで大げさなことじゃないとは思うんですけど……」
「そんなことないわよ。新ちゃんの正体を推理で見破ったのって、後は平次君だけでしょ?
やっぱり探偵とかやってると自然と頭が切れるのね」
「え……探偵?」
しみじみ言われた言葉の一つに引っかかって、快斗は慌てて訊きなおした。
それ以上の反応が出来ず、固まる快斗を横目にコナンは可笑しそうに笑い出す。
「違うって、母さん。探偵じゃなくて、ただの一般人」
「え……? そうなの?」
コナンの言葉に、有希子は意外そうに返すが、快斗も同様の反応を示した。
「いや、一般人じゃねーだろ」
「バーロ。それ以上言ったらそっちが困るんだろうが」
企み顔で抗議した快斗を、コナンは不満そうに呆れ見る。
快斗は返された言葉に片手を左右に振った。
「いや、そうじゃねーよ。自己紹介ってのは正確に言うもんだろ? だからな、名探偵――」
快斗が言いかけたとき、車がちょうど赤信号で止まる。
それを逃さんとばかりに数字を三つ数えてから、パチンと指を鳴らす。
その瞬間、車内に鳩や紙吹雪が忙しく舞った。
「――一般人じゃなくて、マジシャンって言ってくれねーとな!」
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今回の編集作業。編集章をその都度読んで行って、その間犯人と思っていたのは長女。
書いた本人が犯人とトリック忘れてたら意味がないじゃないか、と凄く嘆いた。
原案と大きく変えてるのは、2007年度に追加したエピローグだそう。
当時エピローグのなかったご対面に「エピローグはないんですか?」と感想頂いたことで、
文字数的にも余裕があるし、書いてしまうか!となったらしいです。
で、解決章の編集度合ですが、伏線を前の章までに追加した上で、追及シーンを一部だけ追加。
犯人がその人である必要性がそこまで感じられなかったので、苦し紛れに加えてみました。
後は、全般的にエピローグ部分の話を2007年度版にプラスして色々入れてみた。
有希子はともかく、優作は絶対快斗のこと気付いてるに違いない。