偶然にご対面 〜第六章:三枚の書類〜


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「おお、ちょうど良いタイミングで戻って来たな」

 コナン達がリビングへ戻ったのを見て、優作はすぐに声を上げた。

「ちょうど良い?」

 その言葉に怪訝そうに顔をしかめるコナンだが、優作は気にせず二人の元へ歩いて来る。
その後でコナンへA4サイズの茶封筒を手渡した。

「今の悩みの種がそれで解消されるだろう」

「…………説明頼んでも良いか?」

 口調こそ穏やかだが、笑顔は気持ちの良いほどに引き攣っている。
当然、優作はコナンの言わんとすることが分かってはいるが、素知らぬ様子で首を傾げた。

「おやおや。何のことかな?」

「ふざけんな」

 おどけて答える優作を、コナンは静かに睨みつける。

「これを俺にバレないように用意するために、わざわざ自分から遠ざけたんだろ?
 真相を見抜いてるくせに、どうせ、わざわざこっちがそれに気付くまで待ってたんだろ?」

「だが捜査は必要だ。一方が捜査をしている間に、一方が証拠を見つける。
 事件解決のためには、一番効率が良い方法だとは思わんかね?」

 コナンの言葉は否定しない。
それでも、コナンの反応に驚いた様子もなく、優作は淡々とした口調で言葉を返した。
しかし、コナンとしてはその態度も気に食わないらしく、優作に封筒を突き返すとそのままリビングを後にする。

「――え? おい!」

 その行動に、快斗は慌てて声をかけるが、それすらも無視して廊下の角を曲がった。

「黒羽君、と言ったかな?」

「え? あ、はい」

 追いかけかけた快斗を優作は呼び止めると、コナンから突き返された封筒を手渡した。

「あいつに渡しといてくれ」

「え? ……でも、受け取りますかね?」

「受け取るわよ。私たちに対して怒ってるんじゃないもの、あれ」

「え?」

 戸惑いながら言った言葉だが、さらに予想外の言葉を続けられて、快斗はますます顔をしかめた。



「お。いたいた」

 リビングを出て行ったコナンの後を追いかけた先で、
快斗は、壁にもたれながら腕を組み、何から考え込んでいるコナンを見つけて声をかけた。

「ほれ、これ」

 そう言いながら、快斗は頼まれた茶封筒をコナンへと渡す。
それをしばらく忌々しげに睨んでから、封筒から目を逸らして大きく息を吐き出した。

「持っていけって頼まれたな?」

 不満げにそう言うと、コナンは快斗から茶封筒を受け取った。

「それ以外に何か言われたか?」

「聴いて来た内容に関しては訊かれたから、伝えといた。
 ……なあ、あの行動何だったわけ?」

 躊躇いがちに訊く快斗を、コナンは一瞥してから、封筒の中身を取り出す。

「腹が立っただけ。自分自身にな」

「……何で?」

 その理由の意外さに、目を丸くして首を傾げる快斗を、コナンは不機嫌そうに見てから、
封筒から取り出した用紙に目を落とした。

「さっきも言っただろ? 能力的に上なのは父さんの方だって。
 こいつを用意したのも、さっきの聴き込みでオレが違和感にぶち当たるのが分かった上でだ。
 さすがに一泡吹かせたいなんて思っちゃいねーけど、こっちの動き方が完全に読まれてて、
 しかもその予想に狂いがない、ってのが情けなかったってことだよ」

 その言葉に、快斗は不思議そうに何度か瞬きをしてから、首を傾げて天井を仰いだ。

「でもさ。父親だったらそれで良いんじゃねーの?」

「は?」

 怪訝そうに見るコナンに、快斗は楽しげに笑みを浮かべる。

「父親っていつまでたっても目標であり、いつか超えたい最大のライバルだろ?」

「…………その思考、清々しいほど羨ましいけど、言ってて恥ずかしくならねーか?」

「全然。大体それが気恥かしかったら、本心じゃねーだろ、そんなの」

 皮肉で言った言葉だったが、どうやら本人は気付いていないらしい。

「で? 結局封筒の中身は何だったわけ?」

 先程から話しながら紙切れを眺めるコナンに、快斗が訊くと、
コナンはそのまま三枚の用紙を快斗へと渡した。

「――あれ? これ……」

「見たことはあるだろ?」

「ああ。……でも、これが手がかり?」

 不思議そうに首を傾げながら、快斗は用紙をコナンへと返す。

「手がかりどころか。犯人の目星はついたぜ」



 犯人の目星はついたということで、リビングへ向かうのかと思いきや、
コナンは階段を上ると二階へと向かった。快斗はそれに驚きつつも、後ろからコナンの後をついて行く。

「犯人の目星は付いたんだろ? 何処に行くんだよ?」

「容疑者三人の部屋」

 コナンの言葉に快斗は少し目を丸くする。

「でも、さっき事情聴取は終わったんだろ?」

「聴取はな。俺が今からしたいのは、
 被害者の部屋に証拠らしいものがねーかな? と思ってよ」

「あるのかよ? 事件あってから時間結構経ってんだぜ?
 そんなもん、とっくに捨ててるんじゃ……」

「誰も『ある』なんて言ってねーだろ?」

 焦るでもなく、ただ平然とした様子で言われた言葉に、快斗は顔をしかめる。

「じゃあ、もし見つからなかったとしたら、どうすんだよ?」

「別に証拠がないわけじゃない。何とかなるさ」

 と言いながら、コナンは真衣子の部屋のドアをノックした。

「――あら!さっきの探偵さん達じゃない。まだ何かあったの?」

「ちょっとね」

「それじゃあ――」

 部屋へ促そうとする真衣子を、コナンは手で制した。

「あ。いいよ。一つだけ訊きたいだけだから。ちょっと携帯見せてくれない?」

「――え?」



 同じ質問を三人してから、コナン達はリビングへの道を戻る。

「なぁ、探偵君。あの質問ってさっきの件だろ?」

「ああ」

「でもそれじゃ、わざわざ三人に訊かなくたって良かったんじゃねーの?
 ましてや、犯人も分かってんだろ? 証拠だってあれで充分なんだと思ってたけど……」

「言っただろ? 『別に証拠がないわけじゃない』ってな」

「じゃあ、一体何のために……」

 コナンは口元に不敵な笑みを浮かべてから、快斗を見る。

「オメーは分からなかったか? 今の捜査で犯人が」

「え……?」

 そう訊かれて、快斗は目を見開くが、困った様子で頭をかいた。

「そりゃ、何となくとかは思うけどなぁ……でも俺は最初から犯人推理する気なんて――」

「んじゃあ、その『何となく』な人物はどうやって出てきた?」

「どうって……。矛盾があったからだろ? 他の二人は証言と一致しないって」

「それさ。俺が犯人も分かって、証拠もあるくせに、容疑者三人の部屋へ行ったのは。
 例の紙を見て思ったんだよ。『証言と合わない』ってな。
 で、念のため容疑者三人に確認しに行ったら案の定、ってわけさ」

 確信したように言うコナンに、快斗は不思議そうに首を傾げる。

「でも、残ってなかったんじゃねーのか?」

「残ってないからいいんだよ」

「え……?」

「そいつが、言い逃れ出来ねー証拠ってやつさ」



「あ、真衣子さーん!」

 リビングに戻る途中、ごみ袋を持った真衣子とすれ違った。
それを見つけて、コナンは真衣子に声をかける。

「あら、コナン君。どうしたの? また何か?」
「あると言えばあるんだけど。あのさ、他の二人と一緒にリビングに来てくれない?」

 コナンの言葉に、真衣子は表情を曇らせた。

「リビングか。……今すぐじゃなきゃだめかな?」

「え? あ、何か用事?」

「うん。大したことないんだけど、明日燃えないゴミの回収日なの。
 溜まりに溜まった家中のゴミを分ける作業をしてて、十分程かかりそうだから」

「最近、なかったの?」

 不思議そうに訊くコナンに、真衣子は首を左右に振った。

「あったわよ。事件起こってから一週間後に。
 でもホラ、こんな事件が起こって、家の中バタバタしてたでしょ?
 みんな、ゴミ出す暇なんてなかったのよ。だから、それが終わってからでも良いかな?」

「うん、それで良いよ。あ、そうだ。ついでに一つだけお願いしても良いかな?」

 そう言って、コナンは真衣子にこっそりと耳打ちする。

「……良いけど、それが何かあるの?」

「うん、ちょっとね」



「なぁ、キッド。一つ訊きてーんだけどな?」

「ん?」

 真衣子との会話を終わらせて、リビングの手前に来た頃、
コナンが考え込みながら快斗を見上げた。

「例えば自分の身内が亡くなって――」

「――えっ!?」

 何気なく言われたコナンの言葉に、快斗は思わず叫び声を上げる。
驚いた様子で見返され、コナンはその反応に目を見開いた。

「な、何だよ……? その反応……」

「ああ……いや……別に。――それで? 何?」

「いやな。自分の身内が亡くなってから、一週間経ったとする。
 オメーなら、その一週間後の日に、ゴミ出しって忘れると思うか?」

「…………はい?」

 先程とは打って変わって、快斗は間の抜けた声を出す。
だが、ごくごく真面目に訊いているらしいコナンの表情を見て、快斗は眉を寄せた。

「……亡くなってから一週間だろ? 数日ならバタバタしてそんな暇ねーだろうけど、
 一週間後なら、人によっちゃ出せる人もいるとは思う。
 まあ、一週間後って色々と落ち着く時期だろうから、つい忘れるって可能性もある。
 でも溜まる割には回収日の少ない燃やせないゴミとかなら、出すんじゃねーの?」

「だよな……」

 真剣に呟きながら、前を歩くコナンを、快斗は難しい顔で睨んだ。

「……なあ。オメーをライバルだって認めるの、止めて良い?」



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