殺人への誘い 〜第二十四章:助力〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





 ウィリアムは、手に持っていたスイッチを床へ落とすと、そのまま足で踏み潰す。

「さて、これからはどうするかな?」

 この状況を楽しんでいるとしか思えないウィリアムの態度に、
コナンと平次は不満感を露わにして、ウィリアムを睨み返す。

「何が『どうする』や! 何考えとんねん!」

 怒鳴る平次に、ウィリアムは可笑しげに笑いながら肩をすくめた。

「考えるまでもない。人質が死んだことは君たちにも分かるはずだろう?」

「でも、実際に死んだかどうかなんて――」

「確認せずとも分かるさ」

 ウィリアムは自信有り気に言い放つ。

「せやけど、手首と足首を縛っただけやったら、逃げよ思たら、いくらでも……」

「それは、その状況のままだったら、の話だ」

 意味ありげな言葉を口にするウィリアムに、コナンと平次は厳しい表情で顔を見合わせる。

「お前を殴って気絶させた後、監禁場所に戻って俺がしたことを話してやろうか。
 とりあえず、監禁場所に残った奴にも気絶しておいてもらったんだよ。
 その間に、隣の部屋にあった椅子を持ってきて、それを釘で壁へ固定し、
 その状態で、気絶させてた奴を椅子へ縛りつけた状態で部屋を出てきたのさ」

「……そうだとしても、それでどうして死んだと言い切れる?」

「分かるさ。縛りつけた縄が、多少動けば爆弾のスイッチが入るように仕掛けておいたからな。
 もし、あの縄が解けたんであれば、俺があのスイッチを押す前に監禁場所は爆発してるはずだ」

 そう言うとウィリアムは、コナンと平次の方へ銃口を向ける。

「どの道、俺が犯人だと分かっているお前たち二人は、都合が悪いんだ。
 ついさっき、爆風と共に死んでいった奴を可哀想に思うんなら、
 今すぐにでもそいつの元へ送ってやっても良いが、どっちが先が良い?
 拳銃は一つしかない。二人同時に、というのはさすがに無理でね」

 あざ笑うように言うウィリアムを、コナン達は忌々しそうに睨みつける。

「――ふざけんじゃねぇ!!
 あんたみたいに、人の命を何とも思えねー奴に『はい、そうですか』って素直に殺されてたまるかよ!」

「それにや! 仮に、あの兄ちゃんがホンマに死んどったとしても、
 せやから言うて『後追いかけるから、殺してくれ』っちゅう言葉、誰が言うか!」

「なるほど。普通に殺すしかないってわけだな?
 ――面白い。どうせなら、思う存分楽しませてもらおうか」

 ウィリアムはその言葉を言い終わるか終わらないかの内に、拳銃の引き金を引く。
だが、最初から撃たれると分かっていれば、避けることは造作もない。
コナンの場合、足を撃たれているため動きは鈍いものの、避けるだけなら何とかなる。

 特に示し合わせたわけではないが、コナンは右に、平次は左にそれぞれ避けた。
ターゲットが散らばれば、同時に発砲は出来ない。当然どちらかに絞る必要がある。
躊躇うことなく自分へ向けられた銃口に、コナンは驚きもしなかった。

(……そりゃまあ、そうだよな)

 足を撃たれて動きが鈍くなっている人間がいれば、誰しもそちらを先に狙う。
コナンは苦笑いすると、壁で身体を押さえつつ、ゆっくりと立ち上がる。
さすがに両足で立ってしまうと、先ほど撃たれた右足に痛みが走って顔をしかめた。

(下手な動きはしねー方が良さそうだな)

 ウィリアムはコナンが立ち上がったのを見ると、間髪入れずに三発発砲する。
最初こそ簡単に避けられたが、続けざまに撃たれる銃弾全てをかわすことなど不可能だ。
二発目は辛うじて肩をかする程度で済んだが、三発目はそうはいかなかった。右の脇腹へまともにくらう。

(くそっ……!)

 撃たれた反動で、後ろの壁へ背中から激突する。さすがに体勢を保てるほどの力は残っていない。
コナンは傷口に手を当てた状態で、そのまま壁にもたれながらずり落ちる。
その状態にウィリアムは怪しく笑うと、床へ倒れ込んだコナンへ銃口を向けた。

「まあ、最初はお前が一番先に殺されるはずだったんだからな。順番的にはこれが適当だろう」

 ウィリアムが引き金を引きかけた瞬間、ウィリアムの頭に何かが当たった。
不満そうに振り向いたウィリアムの視線の先に落ちていたのは携帯電話。

「――少しはこっちも構ってくれるか?」

 その声に顔を上げたウィリアムのみぞおちを、平次は力強く殴りつけた。
そのまま気を失ったウィリアムを、床へ横たえてから、呆れた視線をコナンへ向ける。

「お前いっつもそうやけど、無茶しすぎなんとちゃうか?」

「ほっとけ……」

 苦笑いしながら言うが、すぐに痛みに顔を歪ませる。

「……大丈夫か?」

「動かなきゃな。――それより服部。その拳銃持っとくか、どっか遠くの方に蹴飛ばしといてくれ」

 そう言いながら、コナンは近くに転がった拳銃を指差した。
その言葉に、平次は傍に落ちている拳銃を手に取るが、しばらく何か考えてからコナンへ渡す。

「……え?」

「お前が持っとけや。そんだけ怪我負っとったら、あった方が安全やわ」

 コナンはとりあえず拳銃を受け取るも、複雑そうに顔をしかめた。

(場合によっちゃ、逆に危ねー気もするが……)

 平次はため息交じりにウィリアムの方へ目を向けてから、爆発があった方向へと目を向けた。

「問題は、あの兄ちゃんやな。――どう思う?」

「さあな……。
 ただ一つ言えるとしたら、縄と爆弾の関係に気付いていたのなら、恐らく逃げてる。
 その代わり、気付いてなきゃ運が良くない限り死んでる可能性が高いってことだな」

「俺も同感や。――おっしゃ、ホンならとりあえず俺は様子見てくるわ。
 安否考えんのは、現場確認してからで十分やろ。『一緒に来るか?』て言いたいトコやけど……」

「この状態じゃな……」

 顔を歪ませて言ったコナンの返事に頷くと、平次は床へ落ちた携帯を拾う。

「ま、何かあったら連絡せえや。今、電源つけといたし」

「『今』ね」

 苦笑いするコナンに、平次は手を振って歩き出す。
どこか呑気に監禁場所の方へ向かう平次を見ながら、コナンは呆れたようにため息をつく。

(緊張感がないっつーか、楽天的――)

「服部!伏せろ!!」

 ふと横を見て目を丸くすると、コナンはその場で平次に向かって怒鳴りつける。

「何や? えらい大声出し――」

 振り返りかけた平次の行動が途中で止まった。
背中の上部――ほとんど左肩に近いが、そこへナイフが刺さっている。

(しもた……。行く前にもう一発殴っとくんやったな)

 ウィリアムは苛立たしそうに平次を見るだけで、すぐ傍にいるコナンには目を向けない。
コナンにしてみれば有り難いが、身体が動かない以上、平次を助けるのは不可能だ。
せめてウィリアムの動きだけは把握しようと、ウィリアムの行動を注視していると、
ズボンの後ろポケットに光る何かを見つけた。それがナイフと分かって、コナンは再び声を上げた。

「……服部! こいつもう一つ――」

 そう言った瞬間、コナンは自分の首の周りへ変な違和感を覚えた。
確認しようと首の方を見ようとするや否や、予告なしに首が絞めつけられる。

(――このっ!)

 解こうと首へ手をやるが、首へ巻かれてるのはワイヤーかピアノ線の様な細い糸。
解くのが難しい上に、糸が細いので奥へ食い込むのが早い。
平次が背中に刺さったままのナイフを抜いて、コナンの方へ行こうとするが、
ウィリアムはすかさず平次の方へ別のナイフを投げつけた。
ナイフは平次の足を掠めて、床へと突き刺さる。

 平次がうずくまっているのを確かめてから、ウィリアムは力を入れて糸を引っ張り出した。
息苦しさにコナンが顔を歪めるのを見ると、ウィリアムは嘲笑して言う。

「拳銃があれば、すぐにでも殺してやったんだが、何処かに行ってしまったみたいでね。
 だがまあ、今までのことを思えば、ここまでやっても足りないくらいだ」

(こいつ……!)

 文句を言おうとも、ここまで絞めつけられていては声が出ない。
首に食い込む糸を何とかしようと、首と糸との間に手を入れようとするもどうにもならない。
意識が次第に朦朧としてきた時、いきなり不思議と首が軽くなった。
それと同時に、後ろでウィリアムが尻餅をつく音が聞こえる。
コナンがむせ返りながら首へ手をやると、糸の跡が残っているのが分かるが、もう糸はない。

 周りを見渡して、ワイヤーのようなものが落ちているのに、ようやく気が付いた。
力を入れすぎて切れたのか。――いや、今までのウィリアムの行動を見れば、そんなことはありえない。
あそこまで抜け目のない男なら、このような失態が起こるような物は使わないはずだ。
不思議そうにさらに辺りを見渡すと、床に何かが刺さってるのに気付いた。

(……あれか?)

 壁伝いにそこまで行くと、平次が先にそれを引っこ抜いた。
平次の方は大分痛みが引いてきたようで、ある程度普通に動いている。

「……何や、これ?」

 首を傾げながら言う平次に、コナンは訊ねた。

「何なんだ? それ?」

 その言葉に、平次は床から抜いたものをコナンへ見せた。
その瞬間コナンは驚いて目を見張る。

「見てみ、トランプや。……何でこんなとにこんなもんがあるんや?
 それ以前に、普通トランプが床に突き刺さるか?」

 それを見た瞬間、コナンはバネにでも弾かれたように、キョロキョロと周りを見渡す。
目を留めたのは船の一角。手すりの上に、悠然と構えている人間が一人立っていた。
昨晩会った時と同じ、白い衣をまとった人物が――。

「キッ――!」

「武器を持った相手に背中を見せるのは、『殺してくれ』と言っているようなものですよ」

 ひどく驚いた様子で自分を見るコナンを面白そうに笑うと、キッドは重ねて言った。

「――まあ、背中を見せる時は背後に注意してないのなら、
 命を落としてもおかしくはありませんからね。……そう、こんな風に」

 そう言うと、キッドはコナンの方へトランプ銃を向けて撃つ。

(え……?)

 予想外のキッドの動きに、コナンはその場に立ちすくむ。
発射されたトランプは、コナンの真横をかすめて、
その背後からナイフを振りかざしていたウィリアムの手首に当たる。
ナイフが床に落ちる音で、コナンは我に返ったように後ろを振り返ると、
素早くウィリアムへ麻酔銃を撃ち込んだ。当然、ウィリアムはその場へ倒れ込む。

「これで当分は目ェ覚まさんな」

 ホッとしたように呟いて、平次はキッドの方へ不思議そうに目をやった。

「おい、工藤。何でまだ、ここにキッドがおるんや?」

「……俺は、逃げたとも逃げてないとも言ってないはずだけど?」

「そ、そらそうやけどなァ……」

 当然な返事をしたコナンに、平次は苦笑いする。

「――おい! アンタ、昨日の内に用済んどったんやろ? せやのに何で……」

「人には色々事情もありますから。機会があればいつかお話させていただきますよ」

 そう言うと、キッドはコナンの方を見やる。

「さて。それでは名探偵。色々と訊きたいことや言いたいことがお有りでしょうから、
 後日、改めて機会を作らせていただくとして、今日はこれで失礼しましょうか。
 ――あ、お二人とも。怪我は早めに治すのが最良ですから、無理はされないように」



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