殺人への誘い 〜第十八章:立場〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





「――中森警部」

 ホールに着いたコナンは、しばらく中の様子を窺ってから声をかけた。

「ん? ――ああ、コナン君かね」

「今、いいかな?」

 この言葉にキョトンとした中森だったが、すぐに首を縦に振った。

「もしかしてさっき娘が言っとった、ワシに用のある人物って言うのは……」

「うん。僕のこと。……ちょっとキッドの予告状に関して訊きたいことがあってさ」

「……奴の予告状?」

 中森は不思議そうに顔をしかめる。

「何か奇妙なことが書かれてあったかね?」

「ううん。予告状の中身はどうってことないんだ。ただ、届いた日が気になって」

「届いた日?」

 コナンの口から出る言葉に、中森はますます訳の分からない様子を見せる。

「……二枚目が届いたのって、この船が出港する前日なんでしょ?」

「ああ。それも晩にだよ。仕事から帰って郵便受けを見たら入っとたんだ。
 あまりにもいきなりのことでな。慌てて手配したんだが……」

 結果的には宝石は盗られてしまい、準備が足りなかったのかもしれない、と
苦笑い混じりに、中森は頭をかいた。

「それで、一枚目の予告状は?」

「一枚目かね? 一枚目は……大体一週間ほど前だよ。
 まあ、こっちはワシが直接奴から届けられたわけじゃなかったし、
 実物は本人が手元に持って置きたいと言ったらしく、コピーだったがな」

「コピー?」

 不思議そうに首を傾げたコナンに、中森はゆっくり頷いてみせる。

「ドイツのお偉いさんの側近とよく聞く通訳が、ワシに持ってきてね。
 だがまあ、この船に乗った時、ゲオルクさんに頼んで実物を渡してもらったから、
 これと言って問題も発生しとらんし、偽物の如何は大丈夫だろう。
 あの時はいきなりワシの所へ予告状を持ってきたんで、一瞬驚いたんだが、
 『フェリーの件を承諾された鈴木財閥の方が、貴方のお名前を出されたので』の言葉で納得させられたよ」

「……その時はテレビで、この件に関して一切流れてなかったよね?」

「そりゃそうだろう」

 中森は軽く笑いながら続ける。

「大体……二日か三日後だったんじゃないかな?
 奴が現れる、と告知してしまえば野次馬が来て厄介になりかねんかったから、
 テレビで奴のことは流さんように指示したのもワシだったからな」

「……ってことは、二枚目の予告状が届いたのは、それからさらに二、三日後……か」

 コナンは、今までの証言をまとめるように、半ば呟くように言った。

「しかし、それがどうかしたのかね?」

 中森はコナンの方へ目をやると、不思議そうに訊ねた。

「ううん。別に大したことじゃないんだけど、ちょっと確認したくてさ。――ありがとう」

 子供っぽくそう言うと、コナンはその場を後にした。



 中森から話を訊いていたホールから出て、コナンが向かったのは甲板。
容疑者に訊くことも今のところないので、自室へ戻っても良かったのだが、
不思議なことに、気が付いたときには足が甲板の方へ向かっていた。
密室である室内よりは、開放感のある甲板の方が頭を整理しやすいとでも思ったのだろうか。

 甲板に着くと、いつの間にやら空と海の境目が、薄っすらとしか見えなくなっていた。
その光景に、ふと時計に目を落とすと、いつの間にか午後七時を回っている。
コナンは舳先の方へ歩み寄ると、手すりにもたれかかった。

(やっぱり一枚目は、ゲオルクさんたちが園子の家を訪ねた時点で届いてる、か。
 船旅のニュースが流れたのが、それから二、三日後……。
 二枚目の予告状が届くのに数日かかってるし、その上届いたのが夜となると……)

 コナンは難しそうにため息をつくと、星がまばらに散る夜空を仰ぐ。

(まさか船が出港する当日に予告状を出すわけにもいかねーだろ?
 だとすると、遅くとも前日には出さないとダメなはず。
 にもかかわらず、二枚目が届いたのは前日のだった。それも夜に。
 そこまでしてギリギリだったってのは、おそらく――)

「ずっと上見てて首疲れねーか?」

 突如かけられた言葉に、コナンの思考は一旦中断された。

(――え?)

 その声に驚いて、コナンは視線を前に戻したが、目の前にある光景にしばらく言葉を失った。
視線の先に立っていたのは、真っ先に犯人もしくはその一味に、捕らえられたはずの子供達。
見たところ、大した怪我も負ってないし、犯人が追いかけてくる気配もなければ、慌てた様子もない。

無理矢理脱出してきたのではないと想像はつくが、その割には平次と快斗の姿も見当たらない。
目の前で起こった予想外の出来事に、どうにも理解が追い付かなかった。

「オメーら……何で……?」

「……逃げてきたんです」

 それは分かる。しかし、逃げたにしては平次と快斗が見当たらないのが不可解だ。
殺人犯と幾度も争ったことがあるであろう探偵と、厳重な警備体制の中あっさりと獲物を盗み、
逃げおおせてしまう怪盗ともあろうこの二人が、逃げそこなったとは考えがたい。
優先的に子供たちを逃がし、その際に自らに危険が及んだにしても、
それを回避するのは彼らにとっては造作もないだろう。

 ――いや。その理由が思いつかないわけではない。
快斗はともかく、平次の大体の性格は分かってはいるが、念のために訊ねてみた。

「……それじゃあ、あの二人は?」

「監禁されてた場所に残ってるわ。言っておくけど、逃げる際に見つかって連れ戻されたんじゃないわよ」

 哀の言葉に、コナンは目を見張る。

「ちょっと待て! ってことは、やっぱり――」

「平次お兄さんと快斗お兄さん、犯人に頼み込んで、歩美たちだけ逃がしてくれたの……」

「なっ……!」

「自分たちは構わないから、せめて子供だけでも逃がしてやれ、ってね」

 哀はそう言うと肩をすくめてため息をついた。

「死にに行くようなものよ、って言ったけど『それがどうした』ですって。
 世の中探せばいるのね。あなたみたいに後先考えずに行動する人間」

「……俺みたい、だけ余計だよ」

 不満を僅かに表しながら、コナンは探偵団三人へ目を向ける。

「おい、オメーら。ちょっとそこで待ってろ」

 そう言うと、コナンは甲板の隅の方へ歩いていき、携帯を取り出した。
最初に平次へかけるが、電源が切られていることに気付いていないのか繋がらない。
仕方がないので、先ほど快斗からかかってきた履歴を見て、快斗へかける。

『――お。やっぱりかけてきたな』

 捕まってる割には、緊張感のない口調で相手が出る。

『かけてきたってことは、そっちに――』

「どっちだ?」

『は?』

「今の状況を提案したのはどっちだって訊いてんだよ!」

 決して相手には見えるわけないのだが、コナンは携帯を睨む。
だが、最初から発言など聞く気がなかったかのように言葉を遮ったコナンの態度に、
おおよその状態は理解したらしく、快斗は真面目な口調で言葉を返した。

『……言い出したのは、西の探偵。それにノッたのが俺』

「じゃあ、服部に代われ!」

 呆れと不機嫌が交じったような言い方で怒鳴るように言う。

『――そうカッカしなて。何やねん?』

「何でこんなことした?
 わざわざ、アイツらこっちに戻さなくても良かったはずだ! 一体、何考えてんだよ!」

 そう言われ、快斗と平次は不思議そうに顔を見合わせた。

『考えるもなにもあるかいな』

『そうそう。この状況、いつ殺されたって不思議じゃねーし』

『そんな場所にガキ監禁されとんのが、気になっただけや』

『それで、食事持ってきたのを良いことに交渉したって――』

「だから言ってんだよ! オメーらが素人じゃねーのは分かってるけどな!
 何好き好んで、監視の目をきつくしたり、危険な方向に事を運ぶんだよ!
 って言うか、テメーら二人共この状況楽しんでんだろ!」

 返される言葉言葉が、実に呑気なことに対して、コナンは次第に腹が立ってきた。

『ハハ、当たり。感じで分かるだろうけど、俺たちが監禁されてる部屋に見張りはねーな。
 その辺は前と一緒。それに、縛られた縄だってほどけてるから電話出来てんだろ?
 確かに状況はさっきよりは悪いかもしれねーけど、こっちは今でも安全だぜ?』

 至って問題はないと、ケロッとした様子で話す電話口の二人。
それに安心しても良いものか、はたまた腹を立てるべきなのか。
その判断すらつきかねて、コナンは諦めたようにため息をついた。

「まあ、今更言ったってどうしようもねーけど……。
 とりあえず、これ以上事態ややこしくするなよ? 犯人だってまだ分かってない。
 下手に問題増やされると、同時に面倒も増えんだよ!」

 しかめ面で言うコナンとは裏腹に、電話口からは依然緊張感のない返答が続く。

『事件のことは心配しなや。こっちでも何か動きあったら伝えたるよって』

『そうそう。それに今度やった場合は、それ以上そっちがこっちに文句言いたくても、
 言えないっていう可能性のほうが高いだろうから?』

 何かを言い含んだ快斗の言い方に、コナンはどこか引っかかって眉をひそめる。

「――おい。ちょっと待て! おまっ……」

 コナンが最後まで言うよりも先に、ブツッと音がしたと思うと電話が切れて通話音が響いた。
すぐさま再度電話をかけ直すも、応対するのは留守番電話のアナウンスだけだ。



 ピーッと携帯から電子音がしたと思うと、携帯の電源が切れた。
それを傍から見ていた平次が、不思議そうに快斗へ訊ねる。

「……何でわざわざ電源消してん?」

「充電が終わりそうなもんで♪」

「ウソこけ。今工藤とそいつで話した時、元気に満タンやったわ」

 ニヤッと笑う快斗に、平次は呆れてため息をつく。

「まあ良いじゃん、別に。――ところで西の探偵。今度は俺の提案了承してくんない?」

「……内容によるわ」

「大丈夫。んな、無茶な提案じゃねーから」

 この快斗の言葉に、平次は少し考えてから返事を返す。

「……ホンマに無茶な提案とちゃうんやろな?」

「大丈夫、大丈夫。そっちに不利な提案ってことは一切ないから」

 ニッコリと笑う快斗を、平次は怪訝そうに見ながらため息をついた。

「まぁ……構へんけど?」



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