殺人への誘い 〜Epilogue:東の探偵〜


<<第1章   <<第2章   <<第3章   <<第4章   <<第5章   <<第6章   <<第7章   <<第8章

<<第9章   <<第10章   <<第11章   <<第12章   <<第13章    <<第14章   <<第15章   <<第16章

<<第17章   <<第18章   <<第19章   <<第20章   <<第21章   <<第22章   <<第23章   <<第24章

Epilogue【おまけ】: <<怪盗  <<西の探偵  *東の探偵*  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





 ウィリアムが逃げないように処理をした後、コナンと平次は医務室に向かった。
だが、船医の姿が見当たらず、とりあえず各室で一旦休養することにして、
六時を過ぎた頃、再び医務室へ出向き、つい先程手当てを終えたところだ。

 二人がいるのは、コナンの泊まっている部屋。
平次が、結構な怪我を負っているコナンを送ったついでに、事件の振り返りも兼ねて休憩することにした。

「けど、ホンマ大事に至らんで良かったわ」

 平次はベッド脇の椅子に腰掛けながら、安堵したような疲れたような口調で言う。
それを聞いて、コナンは呆れたように返した。

「バーロ。命に別状ありそうなくらいの大怪我なら、甲板で大人しくしてるよ」

 そう言いながら、コナンはベッドへ潜り込んで、半分体を起こす。

「……ちゃうんちゃうか?」

「何が?」

「お前やったら、どんだけ死にそうになってたかて、お構いなしやろ」

「……状況によるな」

 平次の指摘にコナンは苦笑いする。

「ほれ、見てみ。大体、工藤が事件現場で大人しゅうしてるっちゅう方が、おかしいわ」

 笑いながら言う平次に、コナンは不満そうに即答する。

「オメーだってそうじゃねーか!」



「――あ、せや。忘れとった」

「何を?」

 平次から出し抜けにそう言われ、コナンは不思議そうに平次を見る。

「『何を』て……。あの兄ちゃんの安否やないか。
 何やかんやで、現場見に行ってへんやろ。とりあえず無事かどうか確かめな」

 そう言って、椅子から腰を上げかける平次をコナンは止めた。

「無駄さ。行ったところで何も残っちゃいねーよ」

 この言葉に平次は驚いたようにコナンを振り返る。

「死んだっちゅうことか……?」

「いや? その逆。ほとんど無傷でいるよ。だからわざわざ行かなくたって大丈夫さ」

 軽い口調で言うコナンを見て、平次は首を傾げる。

「何でそんなんが分かんねん?」

「一回会ってるからな。――ま、とにかく食堂で朝食でも食べて来いよ。
 俺は夕方くらいまでは安静にしとくつもりだから、ルームサービスでも――」

「ちょー待て! 『一回会ってる』て一体……」

 平次が言いかけたところで、ノック音が聞こえだす。

「悪ィ、服部。ちょっと出てくれ」

 不満そうにコナンを見てから、平次がドアを開けに行くと、バタバタと四人が部屋へ入ってくる。

「あ。平次お兄さん! 良かった、助かったんだ!」

「俺たちも少しは責任感感じてんだぜ! 自分たちだけ逃げてきたからよー」

「アホ。お前らに心配されるほど、ヤワな人間に見えるか?」

 平次は笑いながらそう言った。それからコナンの方をチラッと見る。

(ま、ええか)

「――おい、ボウズ! ホンなら食堂行っとるわ。さっきの話はまた後にしといたろか」

 そう言って、平次は部屋を出て行く。

(……後で訊かれても、答えようがねーんだけどな)



「あー! コナン君、やっぱり怪我してる!」

「また一人で勝手に抜け駆けして、犯人捕まえたんですね!」

 来ると思ってなかったのか、コナンは目を丸くして哀と探偵団を見た。

「……オメーら何で、俺が昨日犯人と争ったって分かったんだよ?」

「あなたが昨日食堂で変なこと言ったからよ」

「変なこと?」

 呆れた様子で言った哀の言葉に、コナンは不思議そうに問う。

「吉田さんは『犯人分かった? 』って訊いただけなのに、『死にてーのかよ』って言ったでしょ?
 犯人と会うことに危険を感じていなければ、あんな言葉出るわけないもの」

「夜まで待っとこうと思ったんだけどよ、気付いたら寝ちまってて……」

「それで朝早くにコナン君の部屋に行ったら、怪我してるかどうかで、
 犯人と会ったかどうか分かるだろうと思ったんですよ」

「でもなぁ……。相当陰険で容赦しねー奴だったから、下手したら死んで――」

「そうだとしても、歩美達だって協力したいんだもん!」

 コナンが最後まで言い終わらないうちに、不満の声が飛ぶ。

「コナン君が、僕達を犯人との争いに巻き込ませない理由は分かってますけど、
 こっちとしても心配なんですよ!?」

「そ、そりゃな? 心配するのは分からなくはねーけど、今回は相当――」

「あら。いつもじゃないの?」

「……おい」

 皮肉交じりに言う哀の言葉に、コナンは苦笑する。
その様子に、いつものように意地悪く笑うと、歩美達の方を振り返った。

「江戸川君の安否も確かめたことだし、そろそろ食堂にでも行く?」

「そうですね。お腹も空きましたし!」

「じゃあな! コナン! ちゃんと休んどけよ!」

 四人は部屋を出かけて、哀が思い出したようにコナンの方を振り返った。

「あ、江戸川君? ドアのストッパーしといた方が良い?
 訪問者来るたびに、いちいちドア開けてたんじゃ大変でしょ?」

「……そう言や、そうか。――ああ、頼む」



(――あれ? ドア開いてんのか?)

 八時過ぎ、コナンの部屋近くまで来た快斗は、
心なしかドアが細く開いてるのを見つけて首を傾げた。

(オートロックだろ? 船内のドアって……)

 不思議に思いながら室内を覗くと、コナンがベッドに半分起き上がりながら、
のんびりと本を読んでいるのが見えた。その後、ドアの下に目をやると、ストッパーが置いてある。

(ああ……これで少し開いてるわけ)

 快斗はドアの内側を軽く二、三回叩いた。
その音にコナンが顔を上げて快斗の方を見ると、意外そうな口調で言う。

「……何だ、お前?」

 これに快斗は不満そうに返す。

「『何だ』はねーだろ。人がわざわざ様子見に来てやったってのに」

「わざわざっつーかな、別に俺は頼んでねーぞ。今も、甲板での時も」

「少しは礼言おうとか思わねーのかよ?」

 これにコナンは、呆れたように快斗を見上げた。

「俺が素直に言うと思うか? ――でもよく分かったな。俺がここにいるって」

「ああ。西の探偵に訊いたんだよ。食堂にいる気配がなかったから」

 そう言いながら、快斗は後ろ手でドアを閉める。

「服部の奴相当驚いてただろ?」

「向こうは俺が死んだって可能性捨ててなかったみたいだからな」

 快斗は笑いながら近くの椅子に腰を下ろした。

「そりゃ、あれ位の爆発音がすりゃ、そう思うのも無理ねーさ。
 でもどうやって逃げ出したんだよ? 状況かなりキツかったんだろ?」

「――ま、オメーがその状態なんじゃ早くても夕方くらいかな。
 夜の十二時位に西の探偵と甲板に来といてくれ、その時に話してやるよ。
 ただ、こいつだけは先に返しておこうと思ってさ」

 快斗の言葉に怪訝そうに首を傾げるコナンに、快斗はコナンの目の前に拳をつき出した。
何も話そうとしない快斗に眉を寄せるが、話の流れ的に何かがそこに入っているのだろうと予測して、
コナンは半信半疑でその拳の下に片手で器を作る。それを待っていたかのように、快斗は拳を開けた。

「探偵バッジ……?」

 自分の手に落ちたそれに、コナンは意外そうな口調で呟いた。

「そいつ誰かが仕掛けてたみてーだ。
 キッドの衣装に着替えた時に気付いたんでね。持ち主に返しといてくれ」

 その言葉に一応了承の生返事をするものの、コナンは不思議そうに探偵バッジを見つめた。

「……そうか。忘れてた」

 独り言のように呟いたコナンに、今度は快斗が不思議そうに顔をしかめた。

「何を?」

「灰原だ。自分達だけ先に逃がすような状態になった場合、
 せめて居場所だけでも分かるようにって、お前が気を失ってる時に仕込んでたらしい。
 これがあったら、位置把握はこいつで簡単に出来るんだよ」

 そう言うと、コナンは掛けているメガネのツルを数回叩く。

「ああ、なるほど。要は西の探偵が甲板に来た時点で確かめときゃ、
 あそこが爆破される以前に、俺が監禁場所にいるかいないかの判断はついてたってわけね」

「そういうことだな。あの時はそんなことすっかり――ってちょっと待て!
 爆破される前に、監禁場所にいるかいないかの判断がついてたって、どういうことだよ!?」

「ああ、それ?」

 目を丸くしたコナンの様子に、快斗は面白そうに笑った。

「最初からあの爆発には巻き込まれてなかったりして」

「は?」

 予想外の快斗の言葉に、コナンは目を見開いた。
コナンが何か言いかけたのを見て、快斗は腰を上げる。

「それも含めて今晩話してやろう、っつってんだよ。それじゃあな、ともかくお大事に」

「――って、おい! ちょっと待て! キッド! 今の……!」

 快斗は答えるわけでもなく、振り返るわけでもなく、
そのままドアにストッパーをしてから出て行った。

「おい……?」



<<第1章   <<第2章   <<第3章   <<第4章   <<第5章   <<第6章   <<第7章   <<第8章

<<第9章   <<第10章   <<第11章   <<第12章   <<第13章    <<第14章   <<第15章   <<第16章

<<第17章   <<第18章   <<第19章   <<第20章   <<第21章   <<第22章   <<第23章   <<第24章

Epilogue【おまけ】: <<怪盗  <<西の探偵  *東の探偵*  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及

*作品トップページへ戻る* >>あとがき(ページ下部)へ




レンタルサーバー広告: