殺人への誘い 〜第六章:二つの捜査網〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





「おい、工藤。ほっといて構へんのか?」

 再び現場を見て回り出した三人を止めようとしないコナンに、平次は戸惑いがちに声をかける。

「勝手にやらせとけよ。あいつらも何回か現場には行ってるし、
 そこまで荒らすようなことはしねーだろ」

 面倒くさそうに言うコナンを哀は意外そうに見る。

「あら。さっきはあれだけ注意してたのに、今は何も言わないのね」

 哀の言葉に、コナンはしばらく無言で哀を見つめた後で、
ゆっくりと首を動かし探偵団の三人へと視線を向ける。

「あそこまで言ったのは、もしものことを思ってのこと。
 俺だって事件の捜査はするけど、常にあいつらの傍にいるわけじゃない。
 もしあいつらが犯人に繋がる物を見つけ、それが犯人にバレて、
 殺されそうになってるところに、必ず俺がいるとも限らねーだろ?」

「何やえらい慎重やな」

「……暗闇の中で目的の人物へ発砲するなんて、目印があったとしても相当の腕がいる。
 しかも犯人は、執拗に同じ人物に発砲してんだ。
 そんな人物が誰かに証拠を見つけられてみろ。それがたとえ子供だろうとなんだろうと、
 口封じのために、その人物を殺害することくらい目に見えてるよ」

「でもそれなら、あなた達が証拠見つける確率の方が高いんじゃない?」

 皮肉交じりに言う哀に、コナンは勝気に笑ってみせた。

「まあ確かに、俺達の方が証拠らしい証拠は見つけやすいだろうけど、
 俺も服部も簡単に殺される程、ヤワじゃねーよ。そういう状況は慣れてるからな。
 でもあいつらは根っからのガキだ。いくら三人で束になって犯人に食ってかかっても、
 怪我一つしないで、ってのは無理だろ。だから言ってんだよ」

「でも、その発砲をしたのがキッドだとしたら、そこまで心配しなくても良いんじゃない?」

 哀のその言葉に、コナンは意外そうに目を見開いてから、首を横に振った。

「いや……あの時聞こえた発砲音が、何らかのカモフラージュでない限り、
 少なくとも発砲事件の犯人は奴じゃない。宝石の件はどうだか知らねーけどな。
 ただ、何にせよあいつらの行動は注意しておいた方が良いに越したことはない」

 言いながら、コナンは再び探偵団三人へと目を向けた。

「おい、オメーら!」

「何ですか? コナン君」

 コナンは出入り口の方を親指で差す。

「今からちょっとここから離れるけど、ホール離れて捜査する時は、灰原か、こいつと一緒にいろ」

「……別にそれは構いませんけど、一体何の用なんですか?」

「単なるヤボ用だよ」

 そう言って、三人に手を振ると、コナンはホールを後にした。
それを不思議そうに見送った平次と哀だが、平次は首を傾げながら哀に訊く。

「工藤の奴、このタイミングで何の用なんや?」

「気になるんだったら、彼がいなくなる前に本人から聞きなさいよ」



 ホールを去って、コナンは何処に向かったかと言うと、ロビーにあるカウンター。
カウンターに手を乗せて、顔だけヒョイッと覗かせて、目の前のスタッフに声をかけた。

「すみません」

「どうしたの? ボウヤ。船の中で迷子でもなっちゃったかな?」

「ううん。そうじゃないんだ。ちょっと教えてほしいことがあって……」

「え?」



「――あ、中森警部」

 受付を去り、船内の廊下を歩いていると、前からやって来た中森と出くわした。

「おぉ、コナン君。船内を探検かね?」

「……うん、まあ……そんなところかな」

 それを聞くと、中森は腕時計に目を落とす。

「探検も子供らしくて良いが、もう夜の十一時を回っとる。
 珍しい船旅にワクワクするのも構わんが、ほどほどにして早く部屋に戻るんだよ?」

「はーい。――あ、そうだ。さっきホールで大変だったみたいだね」

「そうなんだよ。だが幸い、死者が出なかっただけでも救いだ」

「でもさ、中森警部。フリーダーさん襲った犯人って船内にいるんでしょ?」

「そりゃそうだろう。この船は出港しとるし、
 逃げれると言えば、キッドがよく使うハンググライダーみたいな飛行物位――」

 そこまで言って、中森は言葉を切って何やら考え込むが、すぐに首を横に振った。

「いやいや。いくらなんでもそれはないな」

 一人で言っては納得させるように首を振る中森警部を見て、
コナンは思い出したようにズボンのポケットに手を突っ込んだ。

「そうだ! キッドから頼まれてたんだ!」

 そう言うとコナンは、キッドから渡された宝石を取り出した。

「これ返しといてくれって」

 取り出したまま、それを中森へ手渡すと、中森は自分の手の中で赤く光る宝石を凝視する。

「……これは奴が盗むと予告したルビー・ローズじゃないか! 会ったのかね!?」

「うん。『もう必要ないから』って。
 ……でも渡されたのはそれだけで、もう一つの方には全然触れなかったんだけど」

「どうせ本来の目的はそっちだったんだろう!
 わざわざ二枚予告状よこしたのは、捜査を撹乱させるためだな!
 奴め! ワシら警察をなめるのもいい加減にしろってんだ!」

 憤然として言ってから、中森はコナン礼を告げてその場を去っていく。
その背中をしばらく見送ってから、コナンは目的地まで歩きかけるが、途中で腕時計に目を落とした。
時計の針が差しているのは午後十一時四十分。さすがに今から行くのは迷惑かと考えて、コナンは来た道を戻った。



「あら、思ったより早かったのね」

 コナンがホールに戻ってきたのを見つけて哀が声をかける。
周りやホール内を見渡すが、哀以外の人物がいる気配はない。

「あの三人なら、今頃自分の部屋へ戻ってるわよ。西の探偵さんはそれの付き添い」

「じゃあ、何でオメーは一緒に部屋に戻らないで、ここにいるんだよ?」

 怪訝そうに訊ねるコナンを、哀は面倒臭そうに睨む。

「あなたが戻って来た時に、ここに誰もいないんじゃ捜すでしょ?
 それこそ『犯人に捕まった』か何か思って。それの伝言係よ、こっちは」

「あ、そう……」

 ――コナンも戻って来たというのと、時間も時間だということで、
お互いに自室へ戻ることになり、二人はそこへ通じる廊下を歩いていた。

「それで? あなたの言う『用事』って何だったのよ?」

「何って、事件の捜査だよ」

 サラリと答えたコナンの言葉に、哀は意外そうに目を丸くした。

「でもそれなら西の探偵さん連れてったって良いんじゃないの?」

 そう言われて、コナンは苦笑いすると頬をかく。

「いや……。アイツ連れてったら、事がややこしくなるんだよ。
 こっちもおいそれと説明も出来ねーしな。それであいつらを頼んだってわけさ」

「ややこしくねえ……。でも事件の捜査にしちゃ、戻ってくるのが早いんじゃない?」

「そりゃそうさ。途中で引き返してきただけだからな。
 さすがに、時間も時間だ。今から行ったって、向こうも迷惑だろ」

「そんなにのんびりしてて、事件が解決できるの?」

 哀は呆れたように返事を返す。

「大丈夫。何とかなるさ。――じゃあな」

 分かれ道まで来ると、コナンは一言声をかけてから部屋へ戻る。
それを見ながら、哀は深々とため息をつくと自室へと向かった。

(あんな楽天家に探偵がよく務まるわね……)



 ――次の朝。
八時頃には全員が食堂へ集まり、
用意されたバイキング形式の食事を思い思いに楽しんでいる。

 しかし、食堂へ集まっているのは、日本人ばかりで、ドイツからの客の姿は見えない。
聞くところによると、昨夜の騒ぎのために、本人が外へ出るのを自粛して、
朝食にルームサービスを取ったらしい。

 テーブルに座っているメンバーの顔合わせは、昨日の夕飯時と同じである。
皿いっぱいに料理を取って来ている元太が、料理を口にしつつ言った。

「おーしっ! これが終わったら捜査の開始だぞ!」

「そうですね! 昨日は時間的に、ホールの中しか見れませんでしたけど、
 今日は時間もたっぷりありますから、色々な所見て回れますよ!」

「今日は容疑者の人にも話を聴いてみようよ!」

 命に支障はないとは言え、人が撃たれた事件に対して、はしゃぐ三人。
横でそれを聞いていたコナンは、呆れたように呟いた。

「……話を聴くのは勝手だが、フリーダーさんと、ゲオルクさん以外、言葉通じねーんだぞ?
 まさか通訳の人に頼むわけにもいかねーし、そう簡単に話聞けるとも思えねーけど?」

「大丈夫ですよ! 先に日本語話せる二人に話を訊いて、
 後は一緒に来てもらって通訳を頼めばいいんです」

「そ、そりゃそうだが……」

 言っている内容としては理解は出来るが、相手の都合の良いように伝えられないとも限らない。
それを忠告しようと思えど、どうせ無駄なことだと諦めて、コナンは話題を変えた。

「ところで、昨日の発砲事件について教えてほしいんだけど、
 昨日キッドが現れてから、最初の銃声が聞こえるまでにどれ位時間があった?」

「うーんと……十五分から二十分位じゃないかなぁ?」

 歩美が人差し指を顎につけて考えながら答える。
その情報を受けて、コナンは可能性を探った。
――ホールから甲板まではゆっくり歩いても五分もあれば着ける距離だ。
キッドが甲板に現れたのは、大体午後十時十分頃。時間的にキッドの犯行が無理だとすると、
フリーダーを撃った犯人として挙げられる人物は、ある程度絞られる。

「じゃあ現場にいた、ドイツの客人は何人位か覚えてるか?」

「外国人の人たちですか……? 僕が覚えてるので、狙われたフリーダーさんに、その恋人のゲオルクさん。
 後は、通訳の人が二人いた、ということくらいです」

「それ以外だと、ボディーガードが四人いたわよ。
 他には、フリーダーさんと同じ歳位の女性が二人と、男性が一人。それ位かしら?」

「その人たちの配置、覚えてねーか?」

 コナンの言葉に、他のメンバーは驚いた様子で首を振った。

「そうか……。分かった。サンキュ」

 そう言うとコナンは椅子を降りる。
そのままその場を去ろうとするのを見て、歩美が慌てて声をかけた。

「あれ? コナン君、何処行くの? これから皆で捜査するのに……」

「ああ……。悪いけど今はパス。昨日の用がまだ終わってねーんだ」

「えーっ! またですかー!?」

「用が終わったら合流するから、それでいいだろ? ――な?」

 顔の前に片手を立てて、申し訳なさそうに言うコナンに、三人はしぶしぶ頷いた。

「……じゃあ、その用が終わったら絶対来いよ! 抜け駆けは許さねーからな!」

「分かってるって! じゃあな!」

 そう言って足早に去って行くコナンを見て、三人はため息をついた。

「『分かってる』って言う以前に、もう既に抜け駆けですよねぇ……」

「うん。コナン君、いっつも一人で捜査して、一人で解決しちゃうんだもん……」

「アイツ、少年探偵団、って言う自覚あんのかよ!」



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