殺人への誘い 〜第十七章:残された探偵〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





 快斗との電話のやり取りを終え、自室に戻ったコナンは、疲れ切ったようにベッドへ倒れこんだ。

「――ったく。いい加減にしろよ」

 ため息が出ると同時に、自然と口から愚痴がこぼれる。

「でもまあ、あの二人がいるんなら、当分心配ねーだろうけど」

 コナンはぼんやり天井を見ながら息を吐き出すと、ベッドの上に起き上がった。

「このままボーッとしてるわけにも行かねーか」

 子供四人に加え、機敏であろうはずの探偵と怪盗も含め、合計六人が誘拐されているのだ。
今一番自由に動けて、事態を把握しているのは自分しかいない。
コナンは、ベッド脇の机に置きっぱなしだった二枚の予告状を手に取った。

 事件の発端はこの二枚の予告状だ。
二枚目の予告状は確実にキッドがよこした物だが、一枚目に関しては正確なことは言えない。
本人が違うと言うように、キッドが本当に出していないという可能性、
平次が言うように、キッド本人が出したという二つの可能性。その両方が考えられる。

 仮にキッド本人の意見を信用すれば、一枚目は予告状に見せかけた暗殺予告の可能性が高い。
だが、そうでないのなら、ただの予告状。実際のところ予告状通り宝石は二つ盗まれているのだ。
それを踏まえると、二枚ともキッド本人が出したと考えるのが筋であろう。

 しかし、それはそれで別の疑問が残る。それが快斗の行動だ。
キッドがルビー・ローズをコナンに渡した時に、何か隠し立てしてるような雰囲気はなかった。
もう一つは、コナンが予告状の差出人の件に関して、疑ったように見せた時の反応や言動。
平次が、キッドが宝石を二つとも盗んだと言った時も同じである。

 あの時快斗自身は、宝石を一つしか盗まなかったと考えられる根拠をわざわざ言っている。
その真偽について、コナンが小声で快斗へ訊いた時も、隠す様子は一切なく否定した。

(……たかが予告状一枚に、そこまで誤魔化す必要があるか?
 この予告状が事件に関わってる可能性があるって知ってるのなら、
 嘘なら嘘だと言っても、別に支障は――待てよ? 確か……あの時に確か……)

 コナンは目を瞑ると、あれこれと思考を巡らせた。
そして、パッと目を開くや否や、ルームキーを手に取り部屋を後にした。



 目の前にあるのが「201」と書かれたドアであることを確認すると、コナンはその部屋を軽く叩いた。

「はーい?」

 中で声がして、しばらくするとドアが開き園子が顔を出した。

「あら、ガキんちょ。蘭の部屋なら隣の202よ? ――まあ、今はこっちに……」

「違うよ。ちょっと園子姉ちゃんに用があったんだ」

「へぇ。やけに珍しいじゃない。私に用なんて」

 皮肉交じりに言う園子から少し離れたところで、声が聞こえた。

「コナンくん、何なら部屋上がってきたら?」

「せや、せや! 廊下で用件話さんかて、別に中で話しても構へんねやろ?」

 それを聞いて、園子は室内の方を指差しながらコナンへ訊ねる。

「――だって。どうする? 中で話す?」

「……あ、うん」

 コナンは少しまごつきながら答えた。



「――え? ゲオルクさん達から、フェリーの件を頼まれたのは、
 ホントに二人が初めて訪ねて来た時だったか、って?」

 コーヒーカップを机の上に置くと、園子は不思議そうに返す。
他の二人の前にもカップが置かれ、コナンの前にも同様にジュースが用意されていた。

「うん。ゲオルクさん達が初めて園子姉ちゃん家に来た時に、
 フェリーの件を頼まれたって言ったでしょ? それ以前にフェリーの件頼まれたりしてない?」

 コナンの質問に、園子は眉を寄せると人差し指を顎に当てた。

「そうねぇ……。そりゃ、最初に電話でアポくらい取ってたわよ? でもその時に用件聞いたわけじゃないし。
 やっぱりこっちに初めて来た時にフェリーの件は頼まれたはずよ。
 もっとも、私はパパの隣で話を聞いてただけだけど」

「じゃあ、キッドからの予告状を見せられたのは?」

 コナンの質問に、園子は不思議そうに目を瞬いた。

「――あれ? 言わなかったっけ?
 キッド様からの予告状見せられたのは、フェリーの件を承諾した後。
 『それから、実はこんなものが届いたのですが』ってね」

「……見せられたのは同じ日?」

「フェリーの件を頼みに来た日かってこと? ――そりゃそうよ!
 私がこのフェリー内でゲオルクさんたちと会ったのが二回目よ?
 フェリーの件を頼みに家に訪ねて来てから以降は、家じゃ一回も会ってないんだから」

「……そう」

 意味深に呟くコナンを見て、園子は大きく乗り出すと興味津々に訊ねた。

「ねえ、コナン君。例の発砲事件と、キッド様の予告状と何か関係があるの?」

「へ? あ……いや……関係あるかどうかはこれから……」

「私はね、無関係だと思うわよ!」

 ピッと人差し指を立てて、園子はいやに自信満々に言ってのける。
そのあまりにも自信に、何か根拠でもあるのかと、コナンは興味深げに訊いた。

「決まってるじゃない! 私のキッド様が、殺人犯すようなことするわけないもの!」

(そういう理由……)

 意気込んで言った園子に、事件の進展を少しでも期待した自分が恨めしい。
返す気力さえなくして、いい加減帰ろうと思った矢先、蘭が声をかけた。

「あ、そうだ。ねえコナン君?」

 自分の方を向いたコナンに、蘭は咎めるような口調で続けた。

「危ないことに首突っ込んじゃダメよ?」

「あ……うん……」

 蘭の忠告にコナンは苦笑いする。
よもや危うく犯人に連れ去られそうになったなどと、口が裂けても言えやしない。

「そう言や、コナン君。事件の捜査してるんやろ?」

「うん、そうだけど」

「平次一緒におらへんの?」

「え……?」

 大して疑いもなく訊ねる和葉に、コナンは返す言葉を探した。

「それもそうよね。事件の捜査する時は、いつも二人一緒にいるのに。――どうして?」

「ど、どうしてって……」

 立て続けに訊かれ、コナンはバツが悪そうに視線を逸らす。

(殺されてないとは言え、犯人に連れ去られたなんて言えるわけねーし……)

 いざ訊かれてみると、平次がいない他の理由がなかなか出てこない。
だからと言って、このまま黙っていたのでは、逆に不審がられてしまう。

「……あ! ホラ! 平次兄ちゃん、ドイツから来たお客さんに話聞きに行ってるんだよ!
 僕は英語分からないから、平次兄ちゃんに頼まれたこと訊きに来ただけで……」

「あ、ホンならそれでやな」

 それ以上、何も突っ込まれなかったことに、安堵しつつ、
感想らしいものを口にした和葉の言葉に、コナンは不思議そうに首を傾げた。

「和葉ちゃん、さっき服部君の携帯に電話したのよ」

「けど、あのアホ全然出ェーへんねん。せやから何かあったんちゃうか思てたんやけど。
 聞き込みやってるんやったら、電源切ってたかておかしないよな」

「……そ、それじゃあ後で平次兄ちゃんと会った時、言っとくよ」

 心持裏返ったコナンの声だったが、三人は気にならなかったらしい。
そのまま何事もなかったかのように言葉を続けた。

「ホンマ? ホンなら頼むわ、コナン君。たまにはこっちに顔出しに来ィ、言うといて」

「うん……」

 苦笑い半分に、コナンは残っていたジュースを飲み干した。



 園子の部屋を出て、一階へ通じる階段へ降りながらコナンはため息をついた。

(ったく。何で俺がいちいち、フォローしねーとダメなんだよ)

 心でそう愚痴ると、コナンは今まで訊いてきたことを頭で整理し始めた。

(一枚目の予告状はゲオルクさん達が園子の家へ、フェリーの件を頼みに行った時点で既に届いている。
 この船旅のことがニュースで流れたのは、ゲオルクさん達が園子の家を訪れた後。
 キッドがこの船旅を知ったのはニュースのはず。それを信じるのなら、一枚目の予告状をキッドが出せた可能性は低い。
 宝石を盗むだけなら可能だろうが……今回の場合は何かと無理がある)

 一階へ降りて、コナンはキョロキョロと左右を見渡した。
視線の先に、一階案内図を見つけると、そこで室内番号を確かめる。

(……確かあの時、中森警部の部屋が右隣にあるっつってたよな?
 となると、部屋番号は113。――左の方向か)



 コナンは113号室の前へ行き、数回部屋をノックしたのだが、
返って来るのは静寂くらいなもので、目当ての人物が出てくる気配がない。

(……いねーのか?)

 首を傾げつつ、再度ノックした上で声をかけるが、しばらくしても誰も出てこない。
コナンは諦めて肩をすくめた。諦めて、来た道を戻りかけたコナンに後ろから声がかかる。

「――ここの人に用?」

「へ?」

 声のした方を振り返ると、113号室のさらに右隣である114号室の扉が開いている。
そこからひょっこりと女子高生らしい人物が顔を出していた。
不思議そうに自分を眺めるコナンを見て、その人物は廊下へと出てきた。

「どうかした?」

 キョトンとした様子で訊ねる女性に、コナンは慌てて言う。

「あ、ううん……。ちょっと知り合いに似てて……」

「へぇー。初めて言われたな、そんなこと。――そうだ、それでお父さんに用?」

 そう言って女性は、今までコナンがノックしていた113号室を指差す。

「うん。大したことじゃないんだけど。……って、あれ?
 “お父さん”ってことは、お姉さん中森警部の……」

「うん。娘の青子だよ。よろしくね」

「あ。……僕は江戸川コナン」

 少し遅めの自己紹介を簡単に済ましたところで、青子は携帯を取り出した。

「コナン君ね。ちょっと待ってて、お父さんに電話してみるから。
 ――もしもし、お父さん? 青子ー」

『おぉ、青子か。どうした? 』

「用がある、ってお父さんの部屋の前まで来てる子がいるんだけど、今何処にいるの?」

『今か? ホールだが?』

「ホール?」

 中森の言葉に、青子は顔をしかめながら不思議そうに言う。

「どーしてホールなんかにいるの? キッドはもう現れて、どっか逃げたんでしょ?」

『発砲事件があっただろう。警察関係者がワシしかおらんからな。現場検証をだよ』

「ええ? だって、あれキッドなんじゃないの?」

『いや、奴が無意味に発砲するとは思えんよ』

 電話口から否定の言葉が返って来て、青子は不満そうに口を膨らました。

「何よー、キッドは犯罪者でしょー? お父さんまで肩持つ気なのー?」

 ――ねぇ? とコナンに小声で声をかけてから、青子は再び携帯に向かって話す。

「それで? 行ってもらったら良いの?」

『ああ、それで相手が構わないならな。ワシが行っても構わんが』

「あ、ちょっと待って。訊いてみるよ」

 そう言うと、青子は通話口に手を当ててから、コナンに訊ねる。

「ね。コナン君。お父さんホールに居るみたいなんだけど、コナン君が行く?
 それともお父さんに来てもらおうか?」

 そう訊かれて、コナンは首を左右に振った。

「僕がホールに行くよ」

「そう? ――お父さん? こっちから行きます、って。――あ! そうだ。ねぇ、お父さん!
 快斗知らない? お昼ご飯食べてからどっか行っちゃって、それ以降見かけないの」

『快斗君か? いや……わしは見かけんが……』

「そう……あ、うん。ありがとう。それじゃあね」

 電話を切ると、青子はため息をついて、快斗の部屋の方へ目を向ける。

「もー! せっかく、青子がお父さんに頼んであげたのに、何で姿見せないのよー!?」

「……ね、ねぇ。青子姉ちゃん。今言ってた人って…………」

「あ、そっか。知らないよね。……頭ツンツンしたお兄ちゃんなんだけど、
 コナン君そういう人見かけなかった?」

「さ、さぁ……」

 不自然に笑みを作って誤魔化すと、青子は大きく息を吐き出した。

「全く。ホントに何処行ってるんだろ。……ちょっと捜して来ようかな」

 青子は甲板の方へ行きかけて、コナンの方を振り向いた。

「そうだ、コナン君。それらしいお兄ちゃん見かけたら知らせてね」

「あ、うん……」

「それじゃあね」

 バイバイと、軽く手を振りながらかけて行く青子を見送った後、
コナンは疲れ切ったようにため息をもらした。

(何でさっきからこういう役回りばっかりなんだよ……)



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