殺人への誘い 〜第二章:違和感〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





 船の甲板から自室に戻ったコナンはベッドに腰を下ろした。
室内にあるのは自分の荷物のみ。当然ゆったりくつろげるほどのスペースがある。
と言うのは、園子の「どうせ部屋もあるんだし!」というわけで、大人子供関係なく、一人一部屋を用意していたのだ。

(まあ楽は楽だけどな……)

 一通り部屋を見渡して面白くなさそうにため息をつく。

(ただ一人じゃすることも何もねぇんだよなぁ……)

 船内でも散歩しようかとドアの方へ行きかけると丁度ノック音が聞こえてきた。
不思議そうな顔でドアの方まで足早に行くと、扉を開ける。

「……何か用か?」

 コナンは顔をしかめて、うんざりしたように目の前の人物を見据える。

「何や、その言い方は」

「別に?」

「まあええわ。どうせ暇やったんやろ?」

 ハナから決めつけてかかった平次の言葉に、コナンは眉を寄せた。

「……何でそうなるんだよ?」

「一人一部屋っちゅうたら暇でしょーもないもんやんけ」

「そりゃ、人によって変わるだろ。――まあ、確かに暇だけど……」

「せやったら文句言いなや。――なァ、工藤。何やったらこの船ん中見て回らんか?」

 コナンは返事をする代わりに、平次を無言でしばらく見てから、部屋の奥へと歩いて行く。
手の支えが無くなり閉まりかけたドアに、平次は慌てて手をかけた。

「おい! 工藤? 返事くらい……」

 平次の方に振り返りもせず、コナンは机に手を伸ばす。
そして、何事もなかったように平次の方へ戻ってくると平次を見上げた。

「……邪魔だよ」

 淡々と言うコナンに、平次は目を白黒させる。

「あ、ああ……スマンな」

 平次がドアから手を離すと、コナンは外に出てドアを閉める。
コナンのその行動に、平次は目を丸くした。

「……部屋におるんちゃうんか?」

「え? いや……んなこと言ったかよ?」

 戸惑いがちに言われた平次の言葉に、逆にコナンが不思議がる。

「いや、せやかてお前、最初部屋に戻ったんと……」

「バーロ。船内の部屋、オートロック式だろ?
 鍵取りに行かねーと部屋に戻ってこれねーじゃねーか」

 鍵が閉まっているのを確認してから、コナンは歩き出す。
だが、自分から誘っておいて、ついて来ない平次に気付いて後ろを振り返った。

「おい? 行くんだろ? だったら、突っ立ってないでさっさと……」

「――しもた……」

「あん?」

「鍵、部屋ん中や……」



「ったく……オートロック式だってのに、部屋に鍵置いてくるなよ」

 今二人が歩いているのは船内のロビー。
一旦フロントへ戻り、事情を説明してマスターキーをもらい、平次の部屋へと舞い戻る。
マスターキーで開いた部屋から鍵を取って、ようやく船内散策を開始した。

「フロントで『オートロック式なので部屋を出られる際は鍵をお持ち下さい』
 って鍵もらう時、言われなかったのかよ?」

「うるさいやっちゃなぁっ! 俺かて好きで忘れたんと――」

「好きで忘れたんなら誉めてやるよ」

「……おい、工藤。お前、俺になんか恨み――」

「おい! それはそっちじゃないと言ってんだろ!?」

 文句を最後まで言う前に、近くで聞こえた怒鳴り声に遮られた。

「え?」

 声の発信源は、丁度二人がいる所から少し先にあるホール。
そのホールに二人がそこへ目をやると、各場所で刑事が慌しく動いているのが見える。
二人は顔を見合わせてからホールの前まで行くと、中を覗き込んだ。

「そんなんじゃ、奴はすぐに盗っちまうっつってんだろ!?」

「……そんなに大声張り上げてどうしたの? 中森警部」

「ん?」

 コナンの言葉にようやく後ろに気が付いたらしく、不思議そうに振り返った。

「おお、コナンくん。どうしたんだ? こんなところで」

「この船を提供した人と知り合いで、一緒にどうだって誘われて……」

「ああ、なるほど。――それでそちらの方は……?」

 そう言うと、視線をコナンから平次へと移動させた。

「あ。知り合いの平次兄ちゃん。関西で探偵やってるんだよ」

 コナンにそう言われて平次は中森に軽く会釈をした。

「あ、どうも服部平次です」

「いやいや。こちらこそ。中森です」

 簡単に挨拶と握手を交わす二人を横目で見ながら、コナンは中森に目を向けた。

「それで、中森警部。ここで何やってるの?」

「ああ、それかね」

 中森は呟くようにそう言ってから、ホール内を振り返った。

「ここにドイツのお偉いさんが乗ってるだろ?
 何でもその人が持ってる宝石をキッドの奴が狙うらしくてな。宝石の死守を頼まれたというわけだ」

「……でも何も盗って下さいって言わんばかりに、こんなホールで展示しなくても、
 その人本人が身に付けて、その人を護衛してる方がキッドとしては盗りづらいんじゃないの?」

 不思議そうに訊くコナンに、中森は頷きながら眉を寄せた。

「ワシもそう言ったんだがな。
 ただ、その持ち主がどうしても一般乗客にも見せる機会を設けたい、と言って譲らんもんでな……。
 今はその展示の準備中だ。……まったく。金持ちの気持ちはよく分かんよ。宝石より交流が大事とは」

 中森は呆れた様子で首を左右に振った。
その言葉にコナンは苦笑いで返してから、ホール内の状況を確認しかけて、目線をある一点で止める。
ホールの中央には、宝石が展示されると思しき透明のケースが二つ並んで置いてあった。

「あれ? 宝石が入ったケース、二つあるの?」

「ん? ――ああ、あれか。いやな、最初指令を受けていたのは、
 ライラック・サイスという宝石だけだったんだが、昨晩奴からの新たな予告状が届いてね。
 そこで書かれていた新たな宝石と合わせて、急遽二つ展示することになったんだよ」

 その言葉にコナンは少し考え込んでから、中森に視線を合わせた。

「……ねぇ。中森警部。その二つの予告状、今持ってる?」



「おい、工藤。何も予告状貰わんでも、口頭で内容聞いたらええんちゃうんか?」

 二人は船のロビーへ戻り、置いてあった椅子に腰を落ち着けた。

「それでも構やしねーんだけど、どうもちょっと引っかかってな……」

「引っかかるてどこがや? 泥棒が宝石盗むんに何も変なことあらへんやろ」

「いや、俺だってそこに違和感なんて持ってねーよ」

 平次の言葉に、コナンは呆れて返す。

「言ってるのはそこじゃない。普通に考えてみても変じゃねーか?
 目的の二つの宝石を同一人物が持っていて、そのチャンスがこの船旅だけだとしても
 盗られる宝石が二つあるんなら、警備は尚のこと厳重になる。
 ましてや、ドイツの富豪の持ち物だぜ? 予告状の有無関係なく、展示するだけでも警備は普通厳重。
 それの倍以上の警戒となれば、それだけ盗むのも……」

「せやかてキッドは、いくらごっつい警備でも難なく盗りよるんやろ?
 せやったら別に警備が厳重やったかて向こうは構へんやんけ。
 むしろそっちの方がキッドにしては腕試しになってええんちゃうか?」

「でも……」

「それにや。いくら警備が厳重になったかて、
 チャンスが船旅だけなんやとしたら、同時に盗むしか手はないやんけ」

 ケロリとした様子で言う平次に対し、コナンは難しそうに顔をしかめる。

「それじゃあ逆に訊くけど、この船旅、日帰りじゃねーんだぞ?」

「三泊四日やろ? それぐらい知っとんで? せやかてそれが何の……」

「それなら、初日と最終日に盗みに入れば良いんじゃねーのか?」

「ん?」

 コナンの言葉の意味が分かりかねて、平次は不思議そうにコナンを見た。

「船旅って言ってもチャンスは一度じゃない。船旅の期間は実質四日。
 その間に宝石を二個盗めばいいはずだ。何も捕まる危険を冒してまで同日にする必要はない。
 そもそも日付を限定せず、期間で指定すれば済むはずだろ?
 だが奴はわざわざ同日に宝石を盗むと予告した。何故だと思う?」

「な、何故言われてもなぁ……。面倒なんとちゃうか? いちいち警察の前に現れんのが。
 盗む回数が増えるっちゅうことは、その分捕まる可能性が増えるっちゅうことやろし」

「じゃあどうして最初から、予告状に二つの宝石を盗むと書かなかったんだ?」

「え?」

 コナンの投げかけに、平次は言葉を詰まらせた。

「……そもそも同じ日に二つの宝石を盗むつもりがあったとすれば、予告状を分ける必要はない。
 にもかかわらず、わざわざ日を改めて出した予告状の犯行予定日は、二つとも同じ日。おかしいと思うだろ?」

「それはその……知らんかったんとちゃうんか?もう一つの宝石を持っとるっちゅうことを」

 考えながら言った平次の言葉に、コナンは無言で首を横に振った。

「後から新たな事実が出てくるような、そんな杜撰な下調べ、奴がするとは思えない」

「……そない気になるんやったら、変な憶測する前に、予告状見たらどうやねん」

 それ以上の反論の言葉が思い浮かばず、平次は投げやりな口調で言う。
だが、その言葉を受けて、コナンはようやく予告状の一つに目を落とした。
それぞれの内容はこうだ――。


 【 ader Juli zwanzig/ zweiundzwanzig

   7月20より鈴木家の船で船旅されるフリーダー嬢の
   ルビー・ローズを頂きに参ります。

                       怪盗キッド 】


「ドイツ語やな。……数字やったっけ?」

「数字と月だよ。Juliは日本語で七月。zwanzigは二十。
 んで? その隣のzweiundzwanzigってーのが二十二。
 流れからして七月二十日の二十二時ってこと。相手がドイツの富豪だから
 洒落てドイツ語で日時と時間、書いてんだよ。で、次が……」


 【 Zur gleichen Zeit und Ort

    7月20日より鈴木家の船で船旅されるゲオルク氏の
    ライラック・サイスを頂きに参ります。

                           怪盗キッド 】

「同日、同場所か。内容は同じだな……」

「ホレ、見てみィや。別に何もおかしいとこあらへんやんけ。
 普通の予告状にしかどう考えたかて見えへんで。
 お前はいちいち考えすぎなんや。素直に現状受け入れたらええんやて」

 そう言ってからコナンの様子を窺って、平次は不思議そうに首を傾げた。
一見して何もないように思えるその予告状を、コナンはただひたすら難しそうに睨んでいる。



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