殺人への誘い 〜Epilogue:怪盗〜


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Epilogue【おまけ】: *怪盗*  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





 カーテンから漏れる日差しが部屋へ差し込んだ。
その光が閉じている瞼に当たって、快斗は無意識の内に顔をしかめる。
それを遮るように、掛け布団を頭まですっぽり覆うように、深くかぶった。
暑苦しいと言えばそうなのだが、睡眠時間が少ない本人にしてみると、少しでも多く寝ておきたい。
そのまま再びうとうとと眠りに入りだす。

 丁度その頃だろうか。部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。
――寝かけたところだ! と心で文句を言っても、相手には聞こえるわけがない。
しばらくすれば、諦めて部屋か何処かに戻るだろうと見越して、そのまま寝入り始める。
それを知ってか知らずか、ずっと聞こえていたノック音がピタリと止んだ。
その状況に、快斗は安堵のため息をもらす。

 これからまたゆっくりと寝られると安心したのも束の間。
止んでいたと思われたノック音が再び聞こえ出した。それも、先ほどより大きな音だ。
寝起き――ましてや今まさに二度寝を決め込んだ人間にとってみれば、アラーム音よりも耳障りになる。
だが、そのノック音はどうやら本人が出てくるまで、とてもじゃないが止みそうにない。
仕方なく、ベッドから這い出すと、傍に置いてある時計に目をやった。

(何だよ? まだ七時過ぎたばっかじゃねーか……)

 寝転んでいた重い身体を、ベッドの上へ起こすと、欠伸を一つ。
背伸びをしてから疲れたようにため息をつくと、重たい足取りでドアを開ける。

「――あ! やっぱりいた!」

「は?」

 寝惚け眼で目の前に立っている人物を見る。

「昨日、お昼食べてから全然見かけないんだもん」

「だからってこんな朝っぱらから来るなよ……」

 睡眠不足の不機嫌さも手伝って、快斗は少々ぶっきらぼうに返事を返す。

「だってー、朝一にでも来ないと、快斗逃げるかもしれないし……」

「逃げるかよ! わざわざ!」

 口を尖らせ気味に言う青子に、快斗は苦笑いする。

「じゃあ、何で昨日ずっと姿見せなかったの? 携帯に連絡したって、返事来なかったよ?」

 あの状況で、どうにか連絡が取れる人間がいるのであれば、むしろこちらが会いたいぐらいだ。

「まあ、それは話すと長げーから、適当に考えといてくれ。それじゃあ――」

 そう言って、ドアを閉めようとする快斗を見て、青子はドアに足をかける。

「何よそれ! それで青子が納得するとでも思ってるの!?
 ちゃんと理由言わないんなら、足どけないから!」

「……分かったよ。後で説明してやるから、閉めさせてくれ……」

 言いながら快斗は心底だるそうにため息をつく。
いつもと違う快斗の様子に、青子は不思議そうに首を傾げた。

「何で?」

「寝てーんだよ! こっちは!」

 悲痛な叫び声と共に快斗は青子に訴えるも、青子は不思議そうに首を傾げる。

「今、七時だよ? 普通は起きる時間でしょー?」

「そりゃ“普通は”の話だろ? 俺は三時前にこの部屋に戻ってきたんだよ。だから――」

「……そんな遅い時間まで何やってたの?」

 当然出てきた質問に、快斗は返す言葉を詰まらせた。

「――ともかく! 後三十分で良いから、寝かせてくれ!」

「ダメ!」

 即答で返しては、青子は引き下がろうとしない。

「そんなこと言って、どうせまだ寝たいだけなんでしょ!」

「いや……ホントに……って、おい! 何やってんの!?」

 快斗の言葉を無視して、青子は部屋の中へと上がりこんだ。
それだけならまだ良いのだが、旅行鞄から何やら着衣を引っ張り出す。

「食堂行くなら、着替えなきゃダメでしょ?」

「だから、俺は寝るって……」

「ご飯食べてからだって寝ようと思えば寝れるじゃない」

 あっさり言う青子に、快斗は目を丸くして抗議する。

「バカ言え! 食事しちまったら、目が覚めるっての!」

「それならそれで、ちょうど良いの! ――はい!」

 そう言うと青子は、快斗の手に服を押し付けた。

「いくらなんでも食堂行くのに寝間着じゃダメだし」

「だから……」

「一分で出てこないと、ドア破って中に入るからね!」

「はぁっ!? いや、ちょっと待て! さすがにそれは短す――!」

 抗議空しく、最後まで言い終わる前に勢いよくドアが閉められる。
当然のように勢い良く閉まったドアの衝撃が、快斗の顔面に直撃した。

「――いってぇぇぇっ!!」



「ねー、快斗。疲れてるの?」

 青子は食堂へ行きかけている最中、しきりに欠伸ばかりする快斗に訊ねた。

「言ってんだろ? ろくに寝てないって」

「……ホントなの?」

 意外そうに言う青子に、快斗は一瞬眉を吊り上げた。

「何でいちいちウソ言わねーとダメなんだよ?」

「それはそうだけど……。それじゃそんな遅くまで何があったのよ?」

 先程と同じような質問に、快斗は難しそうな顔で青子に目を向けた。

「……詳しく問い詰めないっつーんなら、話してやるよ」

「詳しく問い詰めたらどーなんのよ?」

「何処からともなくモップが飛んでくる」

「何よ、それ!」

 快斗の回答に青子は憤慨したように怒鳴るが、その後も黙ったままな快斗に、青子は唸りながらも提案した。

「分かった! モップ飛ばさないから、詳しく問い詰めて良い?」

 青子の考えは実に合理的な答えだ。だが快斗がそれを了承するはずもない。

「無理だな」

「何でよー!」

「モップが飛ばないっつー保証がねえ」

 苦笑いしながら言う快斗に、青子は口を膨らませた。

「そんなの簡単じゃない」

 青子の口から出た言葉に、快斗は怪訝そうに青子を見る。

「どこがどう簡単なんだよ?」

「青子を信用すればいいのよ!」

 胸を張って言われた言葉に、快斗はキョトンとした様子を見せる。

「なあ、青子」

「何?」

「寝言は寝てから言うものだ、っての知ってるか?」

 言われた瞬間は何のことか分かっていない様子の青子を見て、快斗はニヤリと笑う。

「――そうか。分からなくて当然か。アホ子だもんな、オメー」

 二言目でその意味を理解した青子は、両手にこぶしを作って快斗を殴りかけるが、すぐに動きを止めた。
その直後、快斗の方に目を向けてニンマリと笑う。

「あっそう? それじゃあ、朝ごはんは魚コースを二人分頼んであげる♪」

「……げっ!!」

 青子の言葉に、快斗は目を見張る。

「ちょっ……それは……!」

「嫌?」

「嫌に決まってんだろーが! 何でわざわざ――!」

「うーん、そっかぁ……じゃあ仕方ないなー……」

 わざとらしく残念そうに言ってから、青子は快斗の前に出てきて足を止めた。

「快斗の分だけ、魚大盛りで頼んであげる!」

「――おい!」

「すみませーん!」

 あえて注文内容を叫びながら食堂に入っていく青子を、
快斗は顔を青くしながら慌てて追いかけて行った。

「おい待て、青子! ――謝るから! 謝るからそれだけはホントやめて下さい!」



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