殺人への誘い 〜第十一章:一つのミス〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





 快斗は肩をすくめながら部屋を出て廊下を歩く。
丁度曲がり角まで来た頃、後ろからの声に呼び止められる。

「――あ! 快斗!!」

「げっ! 青子……」

 後方から聞こえたその声に振り返って、その視線の先を気まずそうに見る。
快斗の反応に、青子は口元をへの字に曲げた。

「何よその反応! こっちは散々船の中捜しまくったんだからね! 何処にいたのよ!」

 馴染みの探偵から、昨夜のキッドに関する事情聴取を受けていた上に、
半ば強制的に発砲事件の捜査に首を突っ込まされているとは、口が裂けても言えまい。

「何処だって良いだろ!? こっちにだって色々と都合があんだよ!」

 事情が事情だけに下手な言い訳もできない。
かと言って、代わりになるような言い訳も出て来ず、文句で返すしかない。
そんな理由は露知らず、訳も分からず怒鳴られて、青子は不満げに口元を膨らませた。

「それがわざわざ船に乗せてあげた人に言うセリフ!?
 快斗が『どうしても』って言うから、青子がお父さんに頼んであげたのに!」

「確かにそれはありがたいと――」

「それならあんな文句言わなくったって良いでしょ!?」

(説明のしようがないんじゃ仕方ねーっての!)

 せめてどちらか一方の事情を話せれば話は別なのだが、
一方はキッド絡み、一方は発砲事件絡みでは、さすがに無茶な話だ。
むしろ被害者の立場だと訴えたいのを我慢して、青子から目を逸らす。
そんな快斗の行動に青子は首を傾げてから、不思議そうに快斗の顔を覗き込んだ。

「でも、ホントにこんな所で何してたの? 快斗の部屋はもっと向こうじゃない」

「……んなもん。せっかくの船旅なわけで、色々見て回らねーと損だろ?」

「昨日もあれだけ散策したのに?」

 ようやく思いついた良い言い訳も、呆れた様子で即座に否定される。

「いや……だからその……」

 しどろもどろになる快斗をよそに、青子は小さく息をついてから快斗の手を引いた。

「お、おい!?」

 目を丸くする快斗に対して、青子は快斗を引っ張って行きながら、クルッと振り返る。

「どうせお昼まだなんでしょ?」

「そりゃ、まあ……」

 食堂に行きかけたところを、突如遭遇した失踪事件で中断されたのだ。
それからそう時間も経ってない現状で、食堂など行っている暇がない。

「だったらホラ! もうお昼過ぎてるし、早く食べちゃおう!」

 グイグイ引っ張って行く青子の行動を止める理由は快斗にはない。
束の間の休息も良いだろうと、快斗はそのまま素直に食堂へ連れて行かれることに決めた。
その途中で、ふと思いついてため息をつくと共に苦笑いする。

(……別に急ぎはしねーけど、呑気に飯、食ってられんのか? 俺……。
 途中であの西の探偵に捜査の手伝いさせられんのは、ゴメンだぜ?)

 しかし、身体とは正直なもので、腹の虫が小さく音を立てた。



 ぼんやりと見える室内。
今はまだ、そこが見慣れた景色なのか、見慣れない景色なのかは分からない。

 かがされた薬のせいで、まだ完全には現状を把握出来ずにいる。
ボーッとする頭の奥で、コナンは何があったのか考えたが、
意外にもすぐに自分がどうなったのかは思い出せた。

 まだ少し重い体を起こして、ゆっくりと自分のいる場所を確かめるように左右を見渡す。
時折、眩暈に近いものが襲っては来るが、最初に比べるとそれほど酷くもない。
意識も段々はっきりしてくる。目を凝らして自分の居場所を確認しようとして、ふと気付いた。

「――あれ?」

 その声に気付いたのか、部屋にいた人物がコナンの方へ近付いてくる。
そして、さも病人にでも声をかけるような口調で、相手が言ったのだ。

「おう、工藤。気ィついたか?」

 視界のぼやけ具合が取れたのと、その声にコナンは目を丸くする。

「って……服部!?」

「他に誰がおんねん」

「いや、そりゃーそうだろうけど……」

 とりあえず、犯人には捕らえられていない。
周りに哀たちもいないし、冷たい床に転がっている、ということもない。
いや。というよりどう見ても、自室のベッドの上にいることには間違いない。
コナンは体を完全に起こすと、キョロキョロと辺りを見渡した。

「確か俺……甲板に着いてしばらくしてから……」

「犯人に薬かがされて眠らされたんやろ?」

「ああ……」

 コナンは狐につままれたような顔で平次を見る。

「何で俺自分の部屋に戻ってんだよ? 確かにあそこで気を失って……」

「俺も事情はよォ分からん」

「……おい」

 首を傾げて、さも他人事のように言う平次に、コナンは途端に呆れ顔になる。

「でもまあ、何にしたかて、あの兄ちゃんには礼、言っとけや?」

「礼?」

 平次の言葉に、コナンは怪訝そうに返した。

「俺は甲板、言うよりはロビーの辺り捜しとったからなァ。
 たまたまあの黒羽っちゅう兄ちゃんが甲板見に行った時に、お前見つけたんやて。
 ホンで丁度薬かがされとったとこやったから、大事にならん内に助け出した言うとったわ」

「へぇー……」

 そう空返事を返してから、コナンは平次に見えないところで不満そうに顔をしかめる。

(…………何か癪だな)

 不貞腐れつつも、コナンは室内を見渡してから平次へ訊く。

「それで? 何処にいるんだよ?」

「……四十分位前やろか? トイレ行く、言うて出て行ったきり帰ってへん」

「四十分前? いくら何でもかかりすぎじゃ……」

 平次はその言葉に大きく頷くと、ドアの方を睨んだ。

「抜け出したんをええことに、逃げよったんとちゃうやろな」

「逃げたって……別に無理に協力させなくったって良いだろ?」

「いーや、あそこまで介入しとんねやったら、協力してもらわなアカン。
 ちょっとその辺捜して来るから、しばらく大人しくしときや」

 そう言って平次はドアの方へ歩いて行く。
それに対して、コナンは別に止めようとも促そうともしなかった。
まだ薬の効果が残っているのかして、本調子ではないと言えばそうなのだ。
コナンは疲れたようにため息をつくと、再度ベッドへ横になる。

(そう言や……。俺を助けたのはともかく、そうやすやすと犯人倒せるのか?
 そりゃ、怪盗キッドやってる位だから運動神経は良いんだろうけど、
 俺や服部みたいに犯人との争いごとに慣れてるって感じはしねーんだよな)

「――おわっ!」

(……ん?)

 ドアの方で短い悲鳴が聞こえた。その声にコナンはベッドから首だけ伸ばすも、
見えるのは平次が驚いて身構えているくらいで、その理由までは分からない。

「おい、服部! 何かあったのかよ?」

 答える代わりに、平次に隠れていた人物がひょこっと顔を出した。

「――あ」

「さすがに薬の効き目は切れてんだな」

 トコトコと入ってくる快斗の背後から、平次がついて行きながら、意外そうに言う。

「自分、逃げたんとちゃうんやな」

「逃げたってどうせ首突っ込ませに強制すんだろ?
 現場に引っ張って行かれる方が面倒だったから戻っただけ」

「ホンなら今まで何しとってん?」

「…………」

 快斗は言いにくそうに目を逸らす。

「何やねん?」

「……怒るなよ?」



「飯、食っとったやと!? お前、何を呑気に飯なん――!」

「怒るなって言わなかったっけ?」

 予想通りと言うべき平次の反応に、快斗は苦笑いする。
それに対して、平次は不満と真面目を混ぜた様子で快斗を見た。

「俺はそれに関しては、肯定も否定もしとらへん」

「それ屁理屈」

 二人のやり取りを見ながら、コナンは疲れたようにため息をつく。

「なあ。事件に無関係な話するなら別なところでやってくれねーか?
 これでもまだ本調子じゃねーんだよ。さすがに耳に響く」

 額に腕を置いて目を瞑るコナンを、平次は不満そうに睨んだ。

「元はと言えば、工藤が犯人に眠らされたからやんけ」

「何で原因がこっちに来るんだよ!?」

 平次の口から出た言葉にコナンが目を丸くした。

「勝手に一人で突っ走って、犯人に連れ去られそうになったんは、誰や?」

 そう言われれば、安易に否定は出来ない。

「……あの時はしゃーねーだろ? さすがにヤバイって思ったんだからよ」

 バツが悪そうに言うと、話題を変えるかのように、コナンは快斗へ目を向ける。

「んで? 俺を眠らせた犯人、何処にいるんだよ?」

「……いたら……何か?」

「何って……。決まってんだろ?
 こんな事件起こした事情聴いた上で、あいつらの居場所訊きだすんだよ」

 呆れたように言うコナンに、快斗は少し顔を引きつらせる。
快斗が答えるより早く、平次が肩をすくめて重いため息をついた。

「その気持ちは分からんことはないんやけど、無理や。絶対に不可能やで」

「……何で?」

「犯人、捕まえてへんねやから」

「はぁっ!? ――おい! ホントかよ?」

 意外な言葉にコナンは目をむくと、快斗の方を見た。

「……ああ」

 言いづらそうに答える快斗に、コナンはがっくりと肩を落とした。



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