殺人への誘い 〜第十四章:消失〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





 フリーダーとゲオルクの部屋まで来たコナン達。
ドアを開けたゲオルクに事情を話すと、快くコナン達を室内へと招き入れた。
フリーダーの方は、昨晩の事件のせいか、起きてはいるものの、ベッドへ横になっている。
ゲオルクは、コナン達を手短な場所に腰掛けるように言うと、自分も傍の椅子に腰をかけた。

「……恨まれることか。
 どうだろう? 僕には心当たりは無いが……。どうだい? フリーダー」

「……そうね」

 呟くように言ってから、ゆっくり首を横に振る。

「こういう時は本当のことを言った方がいいんでしょうけど、本当に心当たりがないの。
 気付かない内に敵を作っているっていう可能性ももちろんあるけど、想像がつかなくて。ごめんなさいね」

「さよか……」

 唸るようにため息をつく平次の横で、コナンが別の話題を振った。

「じゃあ、今回この船に招待した人たちが何人かいるでしょ?」

「ええ」

「その人たちの関係、詳しく教えてくれない?」

 コナンの言葉に、ゲオルクとフリーダーの二人は、驚いたように顔を見合わせた。

「……そうね、私が招待したのはマリアとイザベラよ。私、大学時代は寮に入ってたの。
 家でのお高く止まった生活が気に入らなくってね。親と大喧嘩してまでの寮生活。
 そこがたまたま三人部屋で、他の二人がマリアとイザベラだったのよ。
 三人とも性格バラバラで、よくもここまで気が合ったわね、と思うくらい」

 フリーダーはそう言うと楽しげに笑った。

「もちろん、数え切れないほどのケンカもしたし、一時期は『絶縁よ!』なんて言ってたわね。
 でも、やっぱり三人それぞれが、一番気が許せて分かり合える間柄だったのね。
 卒業して何年も経った今でもこうして仲が良いままなんだもの」

「次は僕だね。“旅行を楽しむ”という形で招待したのは、アルベルトだ。
 “旅行を楽しむ”に“仕事”を加えた形で招待したのが、通訳のヨハンとウィリアム。
 通訳の二人に関しての僕との関係は、朝、平次君が数人の子供たちと一緒にこの部屋へ来た際に話した通り、
 小学校時代からの旧友兼悪友、ってところだね。アルベルトは、大学時代に住んでいた寮のルームメートさ」

「……あれ? だったらもしかして、ゲオルクさんとフリーダーさんは大学が一緒だったの?」

 コナンの質問に、ゲオルクとフリーダーは同時に頷いた。

「そうだよ。フリーダーとは大学が同じだったんだ。……まあ、学年は違ったがね」

「取ってた学部が同じだったのよ、私たち。
 その関係で、受けてた講義で、いくつかかぶってるものがあってね。
 また会いましたね、から始まって、それ以降たまに皆で会うようになって、
 結果的に私はゲオルクと、マリアはアルベルトと意気投合して結婚した、ってわけ」

「イザベラさんは?」

「ああ、イザベラも大学で知り合ったゲオルクのルームメートと結婚したわよ。
 今回は仕事の都合で来れなかっただけ」

「ホンならもう一個訊いて構へんか?」

「ええ、どうぞ?」

 平次は少し申し訳なさそうに言った。

「気ィ悪くせんといてや。アンタらが招待した人間の中に、宝石盗みそうな奴ておるか?」

「え?」

 平次の言葉に二人は目を丸くして顔を見合わせた後、顔をしかめながら肩をすくめた。

「……どうだろう? 全員興味はあるとは思うが……」

「盗みそうな人には心当たりは無いわ。そんなことするような人たちじゃないもの。
 それに親友みたいなものなんだから、欲しかったら直接言うんじゃないかしら?」

「やろなぁ、普通は……」

 平次は難しそうな顔をして、髪を掻き上げると、コナンの方に小声で話した。

「なぁ、工藤。やっぱり二個共、キッドが盗んだんとちゃうか? そう考えた方が、話スムーズに行くで」

「そりゃ奴が二個共の宝石盗んだ、って考える方がスムーズに決まってんじゃねーか」

「それにや。恨まれる憶えはあらへん言うてるし……。
 そら確かに工藤が言うことにも一理あるとは思うで。予告状の違和感は事実や。
 せやけど、予告状にしても発砲事件にしても、偶然やっちゅうことかて考えられんで」

「まあそりゃ、そういう考え方も出来なくはねーが……」

 そうは言うものの、コナンは難しそうに首を傾げる。
厄介そうに推理を繰り広げている二人の探偵を、快斗は無表情に眺めると話しかけた。

「なぁ東西探偵。話してるとこ悪い――」

「おい。まとめて呼ぶにしたって、もっとマシな略し方があるだろうが」

 不満そうに言うコナンを見て、快斗は面白そうに口元で笑う。

「おや。嘘でも言いましたか? 探偵君」

 そう返され、コナンは恨みたっぷりに快斗を睨み返す。
それには涼しい顔で無視すると、快斗は平次に視線を合わせた。

「そっちは黙って出りゃ、また何か文句言いそうだからな。
 五分か十分くらい席外しても構わねえ?」

「五分か十分て……そんな短い時間外に出て何する気やねん?」

 怪訝そうに言う平次に対して、快斗は不思議そうに答えた。

「何って、トイレ行くのに、普通それ以上の時間かけますか?」

「――あ、トイレなら室内についてるから、それ使ってもらって構わないよ?」

 快斗の言葉に反応して、ゲオルクが声をかけるが、快斗は苦笑いして片手を横に振った。

「いや、良いんです。気になさらないで下さい」

「あら。別に遠慮しなくても良いのに」

「いえ……ホントにそんなんじゃないので……」

 そう言うと、二人に見えないところで、そっとため息をもらす。

(……そもそも俺はこういう事件の捜査っつーもんは落ち着かねーんだよ。
 好きでやってるわけじゃねーし。たまにはこの探偵達から解放されたくなるっての!)

 快斗はゲオルク達の方に軽く会釈をすると、ドアへと向かう。

「――あ、ちょっと!」

 快斗がドアの方へ行きかけてすぐ、コナンが慌てたように言った。
その声に、快斗は不審そうに振り向いてコナンを見る。

「何?」

「いや……」

 自分で呼び止めたにもかかわらず、何故か踏ん切りがつかないようで何やら言い淀んでいる。

「ないんなら行くぞ?」

 肩をすくめながらそう言うと、そのまま再びドアの方まで歩き出す。
快斗がドアノブに手をかけた頃に、先程と同様にコナンの声がかかった。

「――気をつけろよ」

「は?」

 コナンの口から出た予想のつかない言葉に、快斗は狐につままれたような顔で、言葉を返した。

「どういう意味だよ?」

「いや……何となく。――行くんだろ? さっさと行ってこいよ」

 快斗は、訳が分からなさそうに顔をしかめると、そのまま外へ出て行った。
快斗が出て行ったのを見ると、平次は不思議そうに訊ねる。

「何でまた、あんな奇妙なこと言うたんや?」

「さっき部屋出た時からちょっと気になることがあってな……」



「……ったく。言い淀んでるから、よっぽど深刻なことかと思えば『気をつけろ』とか、俺はガキですか」

 言いながら、快斗は洗面所の蛇口をひねって水を止めた。

「要するに『まんまと犯人に捕まんな』ってことだろ?
 気をつけてなくて犯人に捕まりそうになったのは、どっちだっての。
 ――さてーと。向こう戻る前に、息抜きがてら甲板にでも行くとしますかね!」

 緊張がほぐれたように言うと、思いっ切り背伸びをする。
その後で、トイレから出ようと後ろを振り返って、人とぶつかりかけた。

「あ、すみませ――」

 謝る際に軽く頭を下げて、一瞬行動が止まる。
目に留まったのは、相手が握っている長い棒。――鉄パイプだ。
慌てて身構えかけるも、相手の反応の方が早かった。
脇腹に走った痛みに思わずしゃがみかけた快斗の肩を、犯人は力の限り鉄パイプで殴りつけた。



「――そうよ。今でもだけど、昔から遊ぶの凄く好きだったからね。
 それも決まって知恵比べ。ドイツ語を英語に言い換えたら何て言う? とか、
 じゃあ、フランス語では? 日本語では? とか、そういう言い換えクイズ。
 そんなのばっかりだったけど。今でもたまにやったりするわね」

 とりあえず訊きたいことも訊き終わった、というわけで、お互いの日々の過ごし方やら、趣味や風習。
そんな雑談を快斗が戻ってくるまでの間、繰り広げられていた。

「じゃあ、誰が一番正解率高かったの?」

「そりゃ何ヶ国語も話せるっていう特技のある、ヨハンとウィリアムさ。
 特に元々イギリスで生まれたウィリアムは、英語からの言い換えに関しては、ほぼパーフェクトだったね」

「だから“英語からの言い換えでウィリアムに勝ったら、何かおごってもらう”
 っていう決まりが、いつの間にか出来てたりしたのよ」

「でも、全体的に正解率が高かったのはヨハンの方だね。
 ウィリアムは、たまに英語以外の言い換えを間違えていたから」

 言いながら、その時を思い出したのか、ゲオルクとフリーダーは声を揃えて笑う。
その後で、不意に時計に目を落としたフリーダーが、思いついたように言った。

「――そう言えば遅いわね、快斗君。彼が出て行ってから、三十分近く経ってるのに……」

「あ、じゃあちょっと見てくるよ」

 腰を上げるコナンを見て、平次が慌てて声をかけた。

「ホンなら俺も行くわ」



 ゲオルク達の部屋を出ると、走りながら近くのトイレへと向かい出した。

「なあ、工藤。一つ訊いてええか?」

「ん?」

「お前がさっき言うとった『引っかかること』て何なんや?
 あの兄ちゃんがなかなか帰って来ェーへん、言われた時、すぐに行動したやろ?
 今も何や急いでるみたいやし。もしかしたら、何か心当たりがあって、それと関係――」

「ああ……」

 コナンは顔を曇らせながら続ける。

「ゲオルクさん達の部屋へ行こうと、俺の部屋を出た時だ。俺が後ろを振り返ったのは憶えてるよな?」

「あれか? 憶えてんで」

「……あの時はあえて言わなかったけど、殺気立った人間の気配がしたんだよ。
 ただ、振り返っても人影も無かった。俺の気のせいかとも思ったんだが、
 念のために、アイツが一人で外へ行こうとした時に釘を刺したってわけさ。
 まあ、そこまでヘマするようなタイプには思えないから、大丈夫とは思ったんだけどな」

 不安を残したコナンの口調に、平次は顔色を変えた。

「ちょー待て! ホンマに誰かが俺らの後つけて来てたんやとしたら、そいつは――」

「恐らく、俺を捕らえようとした奴だ。突き詰めれば、発砲事件の犯人か、その一味。
 もしそいつが本当に犯人か、その一味で、俺たちの後をつけていたとすれば、
 外へ一人で出たアイツが帰ってこないのは、捕らえられた可能性が高い」

「何やてェ!?」



 しばらくしてトイレへ着いた二人だが、どのドアも開けっ放しで人のいる気配は無い。

「やっぱりいねーか」

 一通り中を見渡すとコナンは肩をすくめた。

「なあ工藤。もしかしたら自分の部屋に戻っとったり、甲板にでも行って――」

 平次はそう言いかけて突然言葉を切った。
偶然目を落としたタイルの一部が赤く光っている。

「どうかしたか?」

「ちょー見てみ」

 そう言うと、今まで見ていたタイルの一部を指差す。
コナンはかがみこむと、それを指先に軽くつけた。

「血だな。しかも、全く乾いちゃいねーから、付着したのはごく最近だろ」

「ホンならその血痕、あの兄ちゃんのやな。っちゅうことはや……」

「捕まったな、確実に」

 コナンと平次はお互いに顔を見合わせると、ため息をついた。

(――ったく。あいつらもまだ助けてねぇっつーのに……。手間増やすなよ)



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