殺人への誘い 〜第二十二章:真相〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





「何を言い出すかと思えば……何のことかな?」

 優しく笑いかけながら言うウィリアムに、
コナンは表情一つ変えないで、ウィリアムを凝視する。

「しらばっくれるつもりなら、こっちから話してやるよ。
 まずあんたは、ゲオルクさんたちの結婚記念日の前日に、
 “キッドからの予告状”と称した暗殺予告をゲオルクさんたちの元へ送った」

「送ったって……。でも予告状は本人から出されたんだろう?
 それに、仮に送ったのが本人じゃなくても、そんな物を出す理由が――」

「犯行当日、船内の明かりが消されても不自然に思わせないためさ。
 まあ、今回展示してた宝石はビッグジュエル。奴が狙う類の宝石だ。
 都合良く本物のキッドが現れ、奴が仕組んだ暗闇の中、
 あんたは計画通りにフリーダーさんへ発砲したが、あの暗闇だ。
 発砲はしたものの、急所は外れフリーダーさんは助かった」

 そう言ってから、コナンは勝気な笑みを浮かべて話を続ける。

「機会を見つけて再度彼女を殺そうとしていたのかは知らねーが、
 あんたにとって、思わぬ邪魔が入ったことを知ったんだ。
 予想外なことに俺も含めて、合計七人がこの発砲事件の犯人を調べ始めちまったのさ。
 そして、それに気付いたあんたは捜査を始めた人間を殺害しようと考えた」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ……。
 もし俺が犯人だとしたら、いくらなんでも捜査を始めたくらいで、その人たちを殺さないよ。
 それに、子供たちを殺すなんてことは――」

「だから帰したんだろ? 本来あんたが殺そうと思ってた人物は、大人である二人だけのはず。
 普通に考えて、子供が真相に辿り着くとは考えがたいが、大人なら話は別。
 特に一人は高校生探偵と言われてる人物だ。真相に辿り着いてしまう危険性は、充分にある」

「……だけど、それならどうして子供たちを誘拐しないとダメなんだい?」

「そこさ。最初俺もそこが引っかかってたよ。
 いくら犯人の特徴をあまり掴んでいないからと言っても、わざわざ人質を帰す必要はない」

「なら……」

 不思議そうに言うウィリアムに、コナンはニッと笑ってみせる。

「言っただろ? “殺そうと思ってたのは大人二人だけ”ってな。
 あんたにとって不都合だったのは、俺も入れた三人で捜査してたことさ。
 大人がそうそうすんなり誘拐できるとは思えねーし、
 まして、二人同時に誘拐するのはほぼ不可能に近い。
 そこであんたは囮として、甲板にいた子供四人を利用したんだ」

「……利用?」

 コナンの言葉に、キョトンとした様子でオウム返しする。

「そう。拳銃を手にし、甲板で怒鳴ってたというのは、あんたの狂言。
 そんな場面を見せられたら、俺か他の二人にどんな形であるにしろ知らせると踏んだんだ。
 そして、俺たちがバラバラになってあいつらを捜すという機会を待った。
 たまたま甲板にやって来た俺を見て、あいつらと一緒に監禁しようとしたんだろ」

 そう言うとコナンは、息をつきながら肩をすくめた。

「まあ、あの時バラバラになり、甲板にあいつらを捜しに行ったのは俺だけ。
 最初の計画に失敗したあんたは、他の二人が一人になる時をずっと狙ってたんだ。
 そして、一人になったのを見ると迷わず何処かへ監禁した」

「でも監禁しているのなら、監視が必要な筈だろう?」

「ああ。気になったのはそこさ。合計六人も監禁してるってのに、あんたは頻繁に自室へ戻ってる。
 普通六人も監禁して、見張り一人いないって状況は作らないはずだ。
 俺と服部が、あんたに事情聴取してた時間帯、既に監禁されてた五人は、
 隣の部屋からもれて来た話し声を聞いているってことは、
 あんた以外に、見張り役として常に監禁場所の隣室に誰かいるってこと」

「……しかし。今の君の言い方じゃ、共犯者がいるにしても、
 同じような理由で無理だということになると思うけど?」

 苦笑いして言うウィリアムに、コナンは短く首を横に振った。

「いや。さっき、監禁されてたやつらに訊いてみたけど、一瞬見えた監視役の後姿。
 がっちりした体系だっつってたんだよ。この船内にいる人物でそんな体系してる人間は、
 ゲオルクさん達と一緒に来たボディーガードぐらいなもんだ。
 キッドが現れた時は、ゲオルクさん達を警護するように傍にいたが、
 夕飯を食べに食堂へ来た時にはいなかったんだ。一人もな。
 その辺を考えれば、監視役にボディーガードを使ってるってことくらい容易に考え付く」

「だが、事件に関係のない人物を次々に連れて来れば、疑うだろう?」

 しかめ面で言うウィリムを、コナンは鼻で笑う。

「そんなもの。『事件の捜査をして、犯人に殺されそうになっているから、
 犯人から彼らを守るために、ここで保護しておいてやってくれ。
 外へ出せばきっと殺されてしまうだろうから、何を言われても外へ出さないほうが良い』
 とでも言えばどうにでもなるさ。監視役と監禁された側とは、言葉が通じないんだからな」

「だが、それを俺がやったとは……」

 コナンはその言葉を聞いて、ズボンのポケットからハンカチでくるまれた布切れを見せた。
快斗が襲われたトイレのゴミ箱で見つけた布切れである。
見せられた一瞬だけ目を見開いたウィリアムだったが、すぐに表情を戻した。

「……何だい、それは」

「手袋さ。切り刻んであって最初は何だか分からないが、
 切れ端を集めて繋ぎ合わせたらすぐに目星はついたよ」

「……しかし、それが一体何の――」

「あの二人で先に襲われた方は、何かで殴られるかしたんだろ。
 最初に俺たちが、事件があったトイレへ行った時には血痕が残ってたんだが、
 しばらく経って俺がトイレへ行った時にはなくなっていた。
 あった血痕がなくなっていたということは、誰かが拭ったということ」

「それはきっと清掃員が――」

「船内には清掃員もいない。タイルの汚れに気付き、それをわざわざ拭う人間なんてそうそういやしねーよ。
 考えられるのは、事件発覚を恐れ犯人が拭うケース。
 トイレのゴミ箱を調べたら入ってたよ。血の付いたタオルと、この布切れが。
 おそらく、タオルを素手で触り指紋がつくのを恐れ、
 この手袋をした状態で、床のタイルについた血痕を拭ったんだろうが、
 元々、タオルのような荒い繊維質は、基本的には正確な指紋は残らない」

 その言葉に、ウィリアムは驚いた様子で目を見張った。

「一応念のために、切り刻んだ状態でトイレのゴミ箱へ捨てたんだろうけど、
 そんなもの、後でちゃんと繋ぎ合わせれば元の手袋に戻る。
 それに、手袋をする前に指紋が残らないよう、二重に手袋をする奴はいない。
 となると、この手袋にはしっかり残ってるはずさ。犯人であるあんたの指紋がな。
 あんたのミスは、わざわざ手袋を切り刻んでトイレのゴミ箱へ捨てたこと。
 部屋に持って帰るか、そのままトイレで流すかすればこんな証拠――」

「……しようと思ったさ。だが、その手袋を切り刻んでいる最中に、
 ゲオルクがトイレへやって来たのさ。その時に慌ててゴミ箱へ入れたんだよ。
 取り出そうと思ったが、まさか分かる奴もいないだろうと高をくくってそのまま……」

 ウィリアムは恨めしそうにコナンを見る。

「まさかお前みたいな子供に暴かれるとは思わなかったよ。
 ……だが、よく分かったな。怪盗キッドの予告状に似せて作ったつもりの予告状が、暗殺予告だと」

「一枚目の予告状の割に“同日・同場所”じゃ、いつ、何処でやるのか分からねーよ。
 にもかかわらず、出港当日、ホールには展示品の準備が出来ている。
 それで思ったんだよ。中森警部へ最初に渡された予告状と、
 船が出港してから中森警部がゲオルクさんから渡された予告状が、別の物なんじゃないか、ってな。
 わざわざそんなことをするってことは、恐らく一枚目の予告状に何かあると思い、
 宝石の名前を日本語へ直してみたら、都合良く暗殺予告めいた文が出てきたってわけさ」

「しかし、それだけじゃ誰がやったかまで検討は……」

「――暗殺を示唆した文章。元の単語は、ドイツ語と英語に分かれていた。
 最初は、勘付かれないように、あえて犯人が二ヶ国語を使ったんだと思ったんだが、
 後でフリーダーさんから、たまにやるという“言い換えクイズ”のことを聞いたんだ。
 その際にあんたがよく英語以外の言い換えを間違えてた、ってのを知らされた時、
 もしかしたら、わざとじゃなく無意識の内に間違えたんじゃねーかと思い始めたのさ」

 これを聞いても、ウィリアムは不思議そうに首を傾げる。

「それがどうやったら、確信に変わるんだ?」

「ゲオルクさんが、一枚目の予告状が届いた当日に予告状を見た時と、しばらく経ってから見た時。
 どこかはよく分からないけど、違和感を覚えたみたいでね。
 二度目にゲオルクさんが予告状を見る以前に、パーティーに呼ばれた人間には、
 その時に予告状をすり替えようと思えば、いくらでも機会はあったはずさ」

「しかし、それだけなら確信には至らないんじゃないか?」

「ああ、確かに。でも、中森警部から聞いた言葉で確信を持てたよ。
 『予告状を持ってきたのは、側近とよく聞く名前の通訳』
 二人いる内の通訳で、よく聞く名前っつったら、断然英名のウィリアムの方だ。
 警部が、最初に渡された予告状がコピーだった、と言った時から少し奇妙に思ったんだ。
 別に実物を渡しても差し支えはないはずなのに」

「だが、どうして予告状がすり替わってると勘付いた?」

「簡単さ。船を提供したのが園子の所だという情報がテレビで流れる以前に、一枚目の予告状は届いていた。
 しかし、二枚目の予告状が届いたのは、この船が出港する前日のしかも晩。
 色々情報を手に入れるのに手間取ったのであれば、予告状を出すのがギリギリでも説明はつく。
 もし情報が手に入らず、ギリギリで予告状を出したんなら、
 一枚目の予告状に“鈴木家の船で”なんて書けるわけがない」

 コナンの推理に、ウィリアムは感心したように頷いてから腕を組んだ。

「なるほど。でももう一つ。君の理屈では一枚目の予告状が暗殺予告らしいね。
 にも関わらず、怪盗キッドが盗むと予告した“ルビー・ローズ”以外に、
 “ライラック・サイス”も盗まれているのは、一体どう説明する?」

「ああ、あれか? あれは、奴が現われてホール内が混乱してるのを良いことに、
 あんたがショーケースを壊して盗っただけのこと。奴が出した予告状が二枚目だけなら、
 犯行後“ライラック・サイス”はショーケースに残ったままだからな。
 奴は予告した物は残らず盗って行くし、現場に宝石が残っていれば、いずれ誰かが不審に思う。
 自分に疑いがかかるとヤバイから、自分でしまったんだろ?」

「それを見ていたとでも?」

 挑戦的な笑みを浮かべながら言うウィリアムに、コナンは首をゆっくり横に振る。

「いや? だが、あんたの部屋を調べりゃ、すぐに出てくるさ。
 宝石を海へ投げ捨て、証拠を隠滅するってことも可能だろうけど、
 ナイフや拳銃と違って金になるからな。捨てるよりは、ほとぼりが冷めた頃に
 ブローカーにでも売った方が、あんたにとって好都合だろ?」

 そう言った後で、コナンは子供らしからぬ威圧のこもった表情を見せる。
その様子に言い知れぬ恐怖を感じ取るものの、ウィリアムは強気な姿勢を崩さない。

「……あの時、もう少し注意深く君を捕まえた方が良かったらしいね」

「残念だったな。人生、そんなに何もかも思い通りには行かねーんだよ」

「ああ、まあそうらしいが、君の方も勝ったような気になるんじゃ、まだまださ」

 そういうや否や、ウィリアムは上着の内ポケットから拳銃を取り出して、
間髪入れずに、キョトンとしているコナン目掛けて引き金を引いた。



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