殺人への誘い 〜第十二章:一つの考え〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





「おい、キッド」

 小声でかけられた言葉に、快斗は意外そうにコナンを見る。

「西の探偵の前で、その呼び方するの初めてだな」

「んなこと言ってんじゃねーよ。オメー、ホントに犯人倒したのか?」

「まあ、そうだと言やー、そうなんじゃねーの?」

 少し間を置いて答える快斗に、コナンは疑いのこもった視線を送る。

「……オメー、ホントにそう易々と倒せたのか?
 相手は暗闇でも目的の人物に対して発砲出来る人間だぜ?」

「何だよ? そんなに弱い人間だとでも言いたいのか?」

「いや、弱い人間だとは思っちゃいねーけど、武器持ってるような相手に、
 素手で歯向かって、無傷でいるようなタイプじゃねーだろお前は」

「……少なからずそう思ってんじゃねーか」

 快斗にそう言い返されて、コナンは返す言葉に詰まる。
その様子に快斗は肩をすくめると、顔は動かさずに目だけで平次を追った。
いつの間にかけたのか、かかってきたのかは定かではないが、
部屋の隅で携帯に向かって、何やら険しい表情で会話をしているらしい。

 それを確かめると、快斗はコナンの方に片手を前に出した。
予想外の行動にコナンは驚いた様子で目を丸くする。

「何……だよ?」

「オメー、俺が誰だか忘れちゃいねーか?」

「は?」

 快斗は誇らしげに、ニカッと笑う。

「平成の大泥棒と称された怪盗キッドだぜ?」

「だったらどうした?」

「ついでに、不可能を可能にする怪盗だ」

 コナンはこれを聞いて呆れたように息を吐き出す。

「ただの犯罪者だろ? 胸張って言えるようなことじゃない」

「ホォー? それが助けてやった人間に言う言葉かな? 探偵君?」

「俺から助けてくれ、って言った覚えはねーよ。そっちが勝手に助けたんだろ?」

「そう言うんなら、今から犯人に突き出してやろうか?」

 これにコナンは企むように快斗を見る。

「出来るんならやってみろよ。犯人の居場所も分からねーくせに」

 笑うコナンに快斗は一瞬眉を上げるが、すぐに話題を逸らすように咳払いをする。
その直後、コナンの目の前に出した片手をヒラヒラと揺らした。

「丁度、西の探偵も電話に気を取られることだしな」

「だから、さっきから俺の目の前にやってる手は何なんだよ?」

「俺が無傷で帰ってきた理由だよ」

 その言葉に、コナンは顔をしかめた。
『無傷で帰ってきた理由』として、何もない手を目の前で見せられても、検討がつかない。
だが、快斗はそんなコナンの不思議そうな様子に満足したらしい。

「さて。それでは軽いマジックショーでもご覧に入れるとしましょうか」

「おい……」

「先程から目の前に出している、この左手。至って普通の左手ですよね?」

「あー、はいはい」

 目の前でされている以上、何の反応も示さないというわけにもいかない。
一応反応は返すが、表情と口調で、興味がないということが丸分かりだ。
だがそれを別にそれを気にする様子もなく、快斗は空いている右手をパチンッと鳴らした。
それと同時に、コナンの方へ出している左手に何か物が出てきたと思うと、
快斗は自分の左手に乗った物をコナンの方へ投げた。

「そいつが、俺が犯人倒す時に使った道具」

「道具って……これただのスプレー缶――」

 怪訝そうに言ったコナンだったが、徐々に険しい表情へと変わっていき、しまいには言葉が止まる。

「ちょっと待て……まさかこれ……」

「見りゃ分かるだろ? 丁度、キッドやってたからな」

「そういう問題じゃねーだろ! 大体、キッドやったのは昨日の晩じゃねーか!
 何で未だに催眠スプレー持ってんだよ!?」

 しかめ面でスプレー缶を返すコナンから、快斗はそれを受け取りながら答えた。

「誰が元々持ってたって言いました?
 こんなこともあろうかと、わざわざ一旦部屋に取りに戻ったんですよ。
 場所が甲板だろうってのは、バッジから聞こえてきてた音で大体予想はついてたからな」

「……なぁ」

 眉をひそめて言うコナンを快斗は不思議そうに見る。

「オメー、んなもん部屋に置いてて、もし中森警部に見られたらどうすんだよ?」

「隠してるに決まってるだろ!?」

 苦笑いして即座に返してから、快斗は呆れた表情をコナンへ向けた。

「大体、部屋はオートロック式。俺が部屋にいる以上、警部にバレるようなヘマはしねえっての」

 そう付け加えるが、コナンは依然として怪訝そうに快斗を眺める。
そのまま何かを考えるように首をひねってから、快斗を再度見上げた。

「でもお前あの時どう――」

「せやから、今はそれどころやないて言うとるやろ!?」

 コナンが何か言いかけた途中で、突如聞こえて来た平次の声に遮られた。
あまりにもの大声に、二人は驚いて平次を見るが、当の本人はそれに気付いていないらしく、
声のトーンを変えずに、電話口の相手へ何やら大声で怒鳴っている。

「――え? そら別に構へんけど、何も今やなくてもええんやろ?
 は? ……せやから、もう! 分からんやっちゃなァ! どの道無理なんや!
 知っとるやろ? 俺は今船の――は? ウソ言いなや。俺はちゃんと言うたわ!
 ……ともかく! 今は無理なんや! ええな!? もう切んで!」

 そう言うと、平次は乱暴に携帯の通話ボタンを押す。
それでも尚、文句が言い足りないらしく、携帯に向かって独り言のように何かを呟いている。
しばらくして、ようやく視線に気付いたのか後ろを振り返ると、まるで怯えたように後ずさった。

「な、何やねん! その顔は!」

「それはこっちのセリフだろ? いきなり怒鳴りだすから、何かと思ったんじゃねーか」

「別に怒鳴ったんとちゃうで、文句言うただけや」

 不満を訴えるでもなく、真面目くさった様子で言う平次を、コナンは呆れ見た。

「……どっちも似たようなもんだろうが」

「――何やて?」

「いや、別に。……んで? たかが電話で何そんなに腹立てたんだよ?」

「何や俺もよォ知らんねんけど、東京で世界各国の花の展示販売会を昨日から一週間やってるんやて。
 ホンで、オカンがなるべく早めにそこ寄ってリラ買うて来い、言うねん。
 船旅でどうやってすぐに買うて来れるっちゅうんや……」

 ため息交じりに言った平次の言葉に、コナンと快斗は不思議そうに顔を見合わせた。

「でも服部。言ってなかったのか? 今回の船旅の件」

「言うたで? せやけど、花のことで頭いっぱいになってるんか知らんけど、
 『そんなん聞いてへん!』の一点張りで、花花言うてまあうるさいことうるさいこと。
 それにや! そもそも、男に花買うて来させるんが間違ってんねん。
 そないぎょーさん花がある中で、すぐにリラっちゅう花なんか見つけられると思うか?」

 しかめっ面で言う平次に、コナンは思い出すように目線を上に向けた。

「リラって確か基本はうす紫色の花だけど、確か園芸用には白と桃色の花がある――」

「色だけ言われても分からんわ」

 拗ねたような口調で言う平次に苦笑いするコナンの横で、ならばと快斗が情報を付け加えた。

「リラって言うより、呼び名としちゃライラックの方が一般的。
 一つの花冠自体は小さ目だけど、結構可愛らしい見た目してる花じゃねーかな」

「自分、男のくせに何で花のことなんか知ってんねん?」

「趣味――とはまたちょっと違うけど、結構花に触れる機会が多くてね。
 そっちの知識に関しては、割とある方だと思ってますよ」

 快斗は得々として言ってから、軽く笑いながらコナンに目を向けた。

「それにしても縁があるんだな」

「へ?」

 不思議そうに見返すコナンに快斗は面白そうに話す。

「リラ……と言うよりはこの場合ライラックか。
 二枚の内の一枚にあったんだろ? “ライラック”って名前」

「キッドがよこした、っちゅうあの二枚の予告状のことか?」

 平次の言葉に、快斗は無言で頷いた。

「せやなぁ。確かに、言われてみれば縁があるんかもしれへんな。
 工藤が返されたっちゅう宝石はルビー・ローズ言う宝石で、
 行方が知れへんのはライラック・サイスっちゅう宝石なんやからな」

「でもたかがそれくらいで、縁があるってのも……――そうだ!」

 突然小さく叫ぶと、コナンはベッドから飛び降りる。
平次と快斗が止める間もなく、そのままの勢いでベッド脇の机にある引き出しに手をかけた。
だがその直後に襲った眩暈にふらついて、コナンは机に顔面から頭を打ち付ける。
そのあまりにもの勢いの良さに、外に響かんばかりの低く鈍い音が室内に響き渡った。

「……ってぇ!」

 少し遅れて叫び声を上げると、コナンは打ちつけたばかりのおでこを撫でる。

「バカかよ、お前!? 今まで倒れてたってのに、いきなり動く奴がいるか!?」

 呆れた様子で快斗が声をかけるが、当の本人はそれどころじゃないらしい。
おでこに両手を当てた状態で、その場にうずくまっている。

「……なぁ、大丈夫?」

「相当痛かったんとちゃうか? えらい音したで」

 コナンは、ほとんど手探り状態で寝ていたベッドへ手を伸ばすと、そこに頭を寝かせる。

「ヤベ……。薬かがされて横になってたの、すっかり忘れてた……」

 気だるそうに言うと、コナンは疲れ切ったようにため息をつく。

「どっちでも構わねーから、引き出しにある物出してくれねーか?」

 そう頼まれて、机の近くにいた平次が引き出しを開けると、それをそのままコナンへ渡す。

「……これ例の二枚の予告状か?」

「ああ。ちょっとあること思いついたんだよ」

 コナンはそう言ってから、ゆっくりと頭をベッドから離すと、
今度はベッドへ身体ごともたれながら二人へと目を向けた。

「問題なのは、今も行方の知れないライラック・サイスを盗む、と予告した方の予告状。
 あの日、狙われたのはフリーダーさんだ。だったらこうは考えられねーか?
 そいつが、フリーダーさん殺害予告の犯人からのメッセージだって」

「ちょ、ちょー待て! そうやっちゅう根拠、ちゃんとあるんか?」

「もちろん。根拠もねーのに言うわけないだろ?」



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