殺人への誘い 〜第八章:探偵と怪盗〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





「ところで探偵君。ちょっと一つ確認しても良いでしょうか?」

「急に何だよ?」

 コナンの顔色を窺いながら訊ねる快斗を、コナンは不思議そうに見た。

「ここまで介入してて訊くのもなんだけど……その、手伝わさねーよな?」

 おずおずと訊く快斗を見て、コナンは不思議そうに目を瞬いた。

「好きにしろよ、んなこと。第一、あえて強制しようとも思わねーし」

「強制はしないって……。なら、前俺に捜査を手伝わせたのはなんなんですか!」

 平然とした様子で答えるコナンに、コナンは悲鳴に近い声を上げる。

「あれは一人で捜査するより、二人の方が手間が省けるかと思っただけだよ。
 今回は俺の知り合いもいるし、それにこの状況でお前に協力願っても周りが不審がるだろ。
 ――あ、そうそう。俺からももう一つ。オメー、予告時間間際になって、現場の状況確認したんだろ?」

「へ? ああ、まあ……」

「それどっから確認した?」

 コナンの何気ない質問に、快斗は露骨に嫌そうな顔をする。

「……何でわざわざ自分を捕まえようとしてる奴に、偵察方法と進入方法教えないとダメなんですか?」

「バーロ。俺は自分自身の推理でオメーを追い詰めた時でなきゃ捕まえる気しねーし、
 第一、今はそれに関して訊いてんじゃなくて、事件に関して訊いてんだよ」

 苦笑いして言うコナンだが、快斗は依然しかめっ面のままで、無愛想にそっぽを向いた。

「ほーう? 私の偵察方法と事件と、一体どんな関係があるんでしょうかね? 探偵君?」

 渋る快斗にコナンはため息をついた。

「分かったよ。言い方変えりゃ良いんだろ? オメーが室内見渡した時に――」

 そう言いかけてコナンは言葉を切った。
二人がいる部屋のドアをノックする音が、遠くから聞こえてきたのだ。
コナンは腰掛けていた椅子から降りて、ドアまで行きかけたが途中で足を止めた。
その行動に快斗はキョトンとして、首だけドアの方へ覗かせてコナンへ言う。

「なあ? 客人なんじゃねーの? 出れば?」

 そう言われるも、コナンは力なく首を横振る。
そのまま、近場の壁に背を持たれると、疲れきったようにため息をついた。

「今言いかけたこと先に訊いてからにしとくよ。
 応対したらいつ訊けるか分からねーから」

「はあ?」

 快斗は怪訝そうにコナンを見てから、
ドアからかすかに聞こえる声に耳を傾ける。しかし、一向に何も聞き取れない。
コナンはノック音を無視して、質問を続けようと口を開くが、再び音に遮られた。――人の声ではない。電子音だ。

「……携帯か?」

 快斗の質問に、コナンは顔をしかめながら返事を返す。

「ああ……。でもこれ知ってるのは限られてるし、第一知ってる奴は全員船の――げっ!」

 携帯の液晶を見て慌てたように声を上げるコナンに、快斗は少々呆れ返ったように言う。

「何なんだよ? そのさっきから奇妙な行動に言動は?」

 当の本人はその言葉に気付いてるのか、気付いていないのか反応がない。
おまけに、通話ボタンを押さず、電話を拒否したらしく電話に出る気配もない。
どうしようか迷っている様子のコナンに追い討ちをかけるかのように、
先程まではかすかにしか聞こえてこなかったドアからの声が、
今度ははっきりと快斗の耳まで聞こえてきた。

「おい、こら工藤! おるんやったら出て来んかい! 居留守なんは分かってんねんぞ!」

 傍から聞いていれば、まるでの借金の取立人だ。
ドアの奥で聞こえた、コナンの呼び方に、快斗は驚いたようにコナンを見やる。

「あれ? 外にいる奴、オメーのこと知ってんの?」

「ああ……。大概、俺を呼ぶ時は本名で呼ぶもんだから、
 こいつがいる時は、いつ正体バレるか気が気じゃねーよ」

「でも出れば良いだろ? 幸か不幸か俺はオメーのこと知ってるし、別に問題はないだろ?」

 この快斗の言葉にコナンはジロッと快斗を睨んだ。

「な、何だよ……?」

「俺が外に出るの渋ってる一番の理由、分かってねーだろ?」

「……え?」

 不思議そうに返す快斗を見て、コナンは肩をすくめた。

「最初に言っとくが、俺はどうなろうと、知らねーからな?」

 半ば脅すような口調で快斗にそう言った後、
コナンは重たい足取りでドアまで歩くと、少しだけドアを開けた。

 コナンは面倒臭そうに部屋のドアを開けた。

「……何の用だよ?」

「何や、その態度。俺に訊く前に、居留守使た理由教えてもらおか」

 睨み目で見下ろされて、コナンはため息をついてから平次を見上げた。

「昨日も言っただろ? ちょっと用があるって。
 でも時間も遅かったから、結局昨日は中止して今日に回したんだよ」

「それと居留守とどんな関係があんねん?」

「出ようとは思ったぞ? でも後一つ訊けばで事足りるから、それが終わってから、と思ったんだよ。
 それを携帯で俺が室内にいるか確かめて、オメーが、勝手に居留守だと思ったんだろ?」

 呆れたように言うコナンの言葉に、平次は返す言葉を無くす。

「――で? お前は一体何の用なんだよ?」

「……ああ、それか?」

 平次は重々しくため息をつくと、何も言わないで部屋へ上がりこんだ。
ズカズカと室内に入る平次を見て、コナンは慌てて止める。

「お、おい……!? ちょっと待てっ……!」

「ええやんけ。誰のせいでこない疲れてると思てんねん……」

 ため息交じりに言う平次に、コナンは最初こそ首をひねるが、
その理由に見当がついて、納得したように笑った。

「ああ、もしかしてあいつら――」

「おい、工藤!」

 呟きかけたコナンの言葉に割り込む形で、平次はコナンを振り返った。
その態度にコナンは特に驚くこともなく、静かに肩をすくめた。

「言っただろ? 訊きたいことがあったから、ドア開けなかったんだ、って」

「訊く相手ってアイツか? どう考えたかて普通の一般乗客――」

「そいつはどうかな?」

 コナンは意味ありげにそう言うと、平次の横を通って先程まで腰掛けていた椅子に再び腰を落ち着ける。

「訊きてーんなら、本人に訊きゃーいいだろ?」

 コナンの対応に、平次は少々驚いた様子でコナンを見ていたが、
快斗の方をしばらく見て、やがて思いついたように手を叩いた。

「せや! アンタどっかで見た思たら、自販機んトコでぶつかった兄ちゃんちゃうか?」

「――へ?」

 この言葉が快斗には予想外だったらしく、快斗は驚いた表情を平次へ向ける。
言われた時の状況を思い出そうと、平次を窺うように見てから、声を上げた。

「ああ! そう言えば確かに。――じゃあ、コイツ名探偵の知り合いだったってわけ?」

 快斗の言葉にコナンは一瞬だけ目を見開くが、すぐに表情を戻した。

「……まあな」

「一瞬驚いたんやで? ぶつかった相手が工藤やと思たんやから」

 これにコナンと快斗が顔を見合わせる。

「何で間違う必要があるんだよ?」

「似とるやんけ。違う、言うたら髪型くらいやで」

 言われて快斗は肩をすくめると、不思議そうに言う。

「それは初めて言われたな。まあこいつと似てるってのは、俺は否定はしないけど」

 言いながら、コナンに向かって顎をしゃくる快斗に、
コナンは、はち切れんばかりに目を見開くと声にならない声を出す。

「そら性格は違うかも知らんけど、外見が――って、ちょー待て」

 言いかけて途中で言葉を切ると、平次は快斗を二度見した。
それを見てコナンは、長いため息をついてから、片手を顔に当てて目を瞑る。

(知らねーぞ、俺は……)

 平次も快斗もコナンの動きには気付いていない。
不思議そうに平次を見る快斗とは反対に、平次は険しい表情で快斗を睨んだ。

「お前、何で分かってん。俺が言ってる相手がこのボウズやて……」

「え……?」

 平次に言われて、快斗は初めて事の重大性に気が付いたらしい。
一瞬大きく目を見開いて、すぐに平次から目を逸らして、こっそりとコナンの様子を窺うが、
目が合っても、しかめっ面で首を横に振られるだけで、それ以外は何もない。

「そう言や、お前最初にコイツのこと『名探偵』て言うとったな」

「あ……いや、だからそれは……。アイツが自分のこと『探偵』って言ってたし……」

「アホ。それ位で『名探偵』て言うかいな。『探偵ボウズ』で十分や。
 それに加えて、俺が見間違えた相手っちゅうんがコイツやて分かっとる」

「いや、だからそれは……言葉の綾ってやつで……」

「この状況でそないな言い訳が通用するかい!」

 全ての言葉が後手後手になる快斗に、平次は間髪入れずに詰め寄った。

「よほどのことがない限り、コイツは自分のことなんて言わんはずやで。
 それやのに、お前は知っとるんやな、コイツの事情」

「何のことだか……」

「探偵なめんなや? その顔でとぼけても、肯定してるんと同じや。白状せえや」

 これ以上はどうあがいても無理だと悟って、快斗はコナンの方を振り向いた。

「おい! オメーが否定しないんじゃ、こいつ信用――」

「こっちが出るの渋ってた理由を理解しないで、対応促したのはオメーだろ?」

 呆れたように言われた言葉に、快斗は驚いて目を丸くする。

「さっきの言葉はこれのことかよ!?」

「――おい、こら。はぐらかすんとちゃうで。どうやねん?」

 事実を追及する平次と、詰め寄られて困り果てる快斗を、コナンは交互に見ながらため息をつく。

(仮にも服部は探偵だ。こっちが意図しないまでも、何らかのタイミングで言葉じりを捉えて、
 下手したら正体がキッドだってバレる可能性もあると思ったから、出るの渋ったってのに……。
 まさか瞬間的に自分で墓穴掘って首絞めてりゃ、世話ねーぞ。……とは言え、このままだと埒が明かねーか)

「――だったら交換条件にすれば?」

「は……?」

 突如飛び出したコナンの言葉に、二人は不思議そうにコナンを見た。

「真偽を正直に話す代わりに、それ以上の追及はなしにする。――それでどう?」

 コナンの出した提案に二人はしばらく唸る。
だが、条件としては双方にとって悪くはないはずだ。

「……まあ、この際それでも構へんわ」

「お前は?」

 それなりにすんなりと了承した平次とは違い、快斗は答えを渋る。
だが、ここで否定したところで何も変わらないと諦めて、快斗は大きく息を吐き出した。

「……まあ良いか」

 半ば呟くようにポツリと言うと、快斗は改めて平次の方へ向き直る。

「探偵君の正体に関しては知ってるよ。
 ただ、アンタはさっき事情知ってるみたいなこと言ってたけど、そこは否定しとく。
 俺は詳しい事情は全く知らねーし、本人に訊こうと思ったこともねーし、訊いてもいなけりゃ興味もない。
 ついでに言うと、正体に関してはこいつから話されたわけじゃない」

 やけっぱち半分にそう言ってから、快斗はコナンへ目を向けた。

「だから、探偵君の方は、自分の正体が何でバレたのかは知らないはず。――だろ?」

「まあな。でもどうせ付け加えるんなら、ついでに理由も教えろよ」

「ハハ。ま、そいつは守秘義務ってやつだ」

 陽気に流す快斗の横で、平次は二人を交互に見ながら不思議そうに訊く。

「せやけど何処で知り合うてん?」

「――ストップ」

「は?」

 平次の言葉に対し、快斗は即座に片方の掌を上げた。

「『真偽を正直に話す代わりに、それ以上の追及はなし』っていう交換条件だろ?
 簡単な誘導尋問は癖なのかもしんねーけど、それすると反則なんじゃね?」

 正論すぎる言葉に、今度は平次が言葉を詰まらせた。
快斗に文句を言う代わりに、、平次は疎ましそうな表情をコナンに見せる。
それに気付いて、コナンは肩をすくめると笑いながら言った。

「諦めな、服部。そいつ、そういう奴だから」



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