殺人への誘い 〜第一章:集結〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





 カラッと晴れた日の朝。大型の船に大勢の人間が乗り込んでくる。
一足先に乗船したコナンは、甲板からタラップを見下ろして、乗り込んで来る乗客達を眺めていた。

「あれ?」

 何気なく眺めていた乗船客の中に珍しい人物を見つけるが、
それもすぐに視界から消えてしまい、コナンはそれ以上目線で追うのを諦めた。
直後に吹いた潮風に、コナンは後ろを振り返る。船の甲板越しに見えるのは果てしなく広がる大海原。
その少し手前に視線を動かすと、蘭と園子が何やら楽しげに話している。

(……ったく。ホントに思いつきで行動する奴だよなぁ……)

 園子の姿を見て、コナンは今自分たちがここに来た経緯を思い出す。
何を思ったのか、何の前触れもなく『船旅に行くわよ!』と言い出した園子を誰が止められると言うのか――。
船旅自体が嫌いなわけではないが、今回の計画を思い出して、コナンはついため息をもらした。

(別に蘭たちだけなら構わねーんだよ。三泊四日の船旅だろ? 何でよりによって……)

「蘭ちゃーん! 園子ちゃーん!」

 遠くの方から声が聞こえて来たと思うと、和葉が手を振りながらタラップから船へ乗り込んでくる。

「あ。和葉ちゃん!」

「ゴメンな。わざわざ誘ってもろて」

 申し訳なさと嬉しさが入り混じったような和葉に、園子は手を前後させる。

「いいのよ!旅行なんて大勢の方が楽しいんだから!」

 そう言うと園子は持ってきていたスーツケースを手に取った。

「それじゃあ部屋まで案内するわね」

「あれ? まだ荷物部屋に運んでへんかったん?」

「うん、和葉ちゃん来るの待ってたのよ。園子が『どうせ三人隣同士だから』って」

 三人がそんなことを話しながら去っていくのを、コナンは横目に眺めていた。
その直後に、背後に人の気配を感じたが、振り向こうとはしない。
その代わりに、疲れきったようにため息をもらす。

「……何やねん。姉ちゃんらとはえらい違いの出迎え方やな」

 不服そうに言う平次だが、コナンはそのまま海を眺めたままでいる。

「バーロ。大体、俺は呼んでねーよ。蘭の誘いに勝手にノッてきただけじゃねーか」

「何や、冷たいのォ。もう少し、こう歓迎の意を示そうと――」

「荷物まだ部屋に置いてねーんだろ? とっととフロントで鍵もらって置いてこいよ」

 不機嫌に睨むコナンに諦めて、平次は無言でその場を去る。
それを面倒臭そうに眺めていたコナンだったが、急に探偵バッチが音を立てた。

「――よう。どうした?」

 面白そうに返事を返すコナンの口調に、バッチの向こうでは不満そうな声が上がった。

『おい、コナン! オメー今何処にいんだよ?』

『皆で遊びに行こうと思ったのに、コナンくんトコ行っても誰もいないんだもん』

「そりゃそうさ。全員出かけて――」

『だと思ったから連絡したんじゃないですか。何処にいるんですか?』

 コナンは少し間をおいてから、からかうように笑って言う。

「……船の上」

『船の上っ!?』

「ああ。夏休みだからって、園子姉ちゃんが三泊四日の船旅することを決めたんだよ。
 で、蘭姉ちゃんに誘いがかかったから俺も一緒に――」

『ええええっっ!?』

 三人はバッチが壊れんばかりの大声で叫ぶ。
そのあまりにも予想外の大声に、コナンは思わずバッチを遠ざけた。

『どうして誘ってくれないんですか!』

『そうだぞ! オメー、いつも抜け駆けばっかりしやがって!』

「今更言ったって仕方ねーだろ? まあ、今度こんなことがあったら誘――」

 コナンの言葉を無視するように、バッジの奥の抗議の声は止まらない。

『その船、いつ出るんですか?』

「――え? いつって……」

 コナンは時計に目を落とした。時計は三時を指している。

「後三十分かな?」

『場所は!?』

「場所は――って、ちょっと待て! オメーら今から来る気じゃねーだろうな!?」

 コナンは無意識に居場所を伝えかけて、慌てて言葉を飲み込んだ。

『だったらどうだって言うんだよ?』

「ど、どうって……」

『――分かりました。コナン君! コナン君が場所を教える気がないんなら、僕たちで探しますよ』

 その言葉に、コナンは苦笑いする。

「ハハ……。いくらなんでもそりゃ無理だよ。
 三十分以内に東京にある海岸沿い、手当たり次第に当たっても見つかる確率は――」

『じゃあ、私たちがもし三十分以内にコナン君の乗ってる船見つけたら、中に入れてくれる?』

「えぇっ!?」

 ますます悪化していく予想外の展開に、コナンは驚いて声を上げた。

「でもな……この船仕切ってるのは俺じゃねーし、そりゃ……」

 そこまで言いかけたところで、コナンの背後から手が伸びた。
コナンが振り向くより先に、手にしていた探偵バッジが取り上げられる。

「いいわよ! 三十分以内に見つけられるもんなら、見つけてごらんなさい!
 まあ……そうね。見つけられたときを考慮して、
 三泊四日泊まるのに不便しないような用意位してらっしゃいよ?
 船には着替えなんてないんだから。まあ、せいぜい頑張りなさい!」

「……そ、園子姉ちゃん?」

 バッジを取られてから、コナンが振り向いた先にいたのは、おおよそ財閥の娘とは言えない令嬢。
彼女の言葉に唖然として瞬きもしないコナンに、園子は愉快そうにバッジを返す。

「いいじゃない。こういう一種のゲームみたいなのは好きよ♪
 それに、部屋はまだ残ってるんだから、困んないしね。だから大丈夫よ」

(そっちが困らなくても、こっちが困んだよ!)

 だが、その理由を素直に言えるはずもない。

『おい、コナン! じゃあ俺たち行っても良いんだな!?』

 そんなコナンの愚痴もいざ知らず、バッジの奥からは歓喜の悲鳴が上がる。
急激な自体の進展に、ついにはコナンも諦めた。

「……見つけられれば、だぞ?」

『なめないで下さい。コナン君! 僕たちは少年探偵団ですよ?
 これ位のこと出来ないでどうするんですか!』

『じゃあ、コナン君! 絶対三十分以内に船動かしちゃダメだからね!』

 そう言った途端、勢いよくバッジの電源が切られた。
見つかるわけがないと思う反面、やりかねないという気持ちがそれぞれ交錯して、
安堵感と気の重さのあまり、コナンは無意識に首を左右に小さく振った。



「でもコナン君。歩美ちゃん達に言ってなかったの? 今日のこと」

「え? あ……うん」

「どうして? 呼んだらよかったのに……」

 ――気が重いから。
などとは口が裂けても言えまい。

「えーっと……あ、ホラ。蘭姉ちゃん、和葉姉ちゃんたち呼んでたから、
 後五人もスペースないかなぁ、と思ったんだよ」

「へぇ? そんなちっぽけな船しか持ってないとでも思ったの?」

 企むような冷たい視線で園子に見下ろされ、コナンは顔を引きつらせて後ずさる。

「いや……その……。僕たちの他にもお客さんいる、って聞いてたから……」

「そう言えば園子、そう言ってたよね? 他のお客さんって誰なの?」

 蘭に訊かれて、園子は少し考え込むように顎を上げると、そこへ人差し指を当てた。

「えーっとね……確かドイツだったっけ? そこの富豪とその側近が旅行するとかでね。
 それぞれの国、都市で船借りて船旅してるんだって。で、東京は私たちの船を貸すことになったのよ。
 そしたら日本の文化に触れたいとかで、一般人である私たちも船に同乗してほしい、って頼まれて……。
 私だけじゃ楽しくないし、と思ってそれで蘭たちも誘ったのよ」

「ド、ドイツからのお客さんなんっ!?」

「ああ。心配しなくっても、ちゃんと通訳の人は……」

「ちゃうて……! そんな偉いさんと一緒の船に乗ってるん!?」

「やーね!偉い人って言ったって、せいぜい会って食事の時くらいじゃない?」

 片手を上下させて笑いながら言葉を返す。
そんな様子を、いつの間に戻ってきたのか、平次が遠めに見ながら感心した様子で呟いた。

「……度胸あんなぁ、あの姉ちゃん。さすがエエとこの令嬢やで」

「いや。園子の場合、度胸あるって言うよりは、怖いもの知らずなだけだよ」

「おい工藤。お前も十分落ち着いとらんか?」

 怪訝そうに言う平次に対し、コナンは苦笑いして肩をすくめる。

「ガキの姿な分、気が楽なだけさ。それより俺が気になるのは……ねぇ、園子姉ちゃん!」

 不安からか、心配そうに何かを言っているらしい蘭たちから視線を変えて、
園子は、応答に答えるかのように、コナンの方を振り返った。

「さっき、中森警部見かけたんだけど、中森警部も呼んだの?」

「中森警部? ――呼んだには変わりないけど、彼を呼んだのは側近の人でしょ?」

「側近の人が? 何でわざわざ中森警部を? 狙われる心配とかがあるんなら、捜査一課の……」

「捜査一課じゃダメよ。狙われるのは人じゃなくて宝石だもの!」

「え……? それじゃあ、もしかして……」

 心なしか、そう言う園子の目が輝いている。
その様子と、園子の言葉から、コナンは一つの考えを思いつく。
しかし、それを確かめるより早く、船の下方で声が聞こえて来た。

「あ! いたーっ! ――コナンくーん!!」

 コナンがその声に驚いて船から下を覗くと、歩美たちが手を振っている。
五人中三人は、してやったりなニンマリとした表情を浮かべながら。

(げっ……!?)

「へぇ。結構、短時間で見つけれるもんね」

 少し驚いたように呟いてから、園子は船から顔を出した。

「それじゃあ入ってらっしゃい!」



 歩美たちが乗り込むと、我先にと言わんばかりに、船内を駆け巡りだした。
そのあまりにも予測していた行動に、コナンは顔に手を当てると、勢いよく肩を落とす。

「――ご愁傷様」

 からかい気味にかけられた言葉に、コナンは顔を上げた。
その先にいた、哀と博士にコナンは疲れきったように訊く。

「大した勘だな。何回目で……」

「あら。勘でもなんでもないわよ。ここの港へ最初に来たんだから」

「えっ!?」

 コナンが目を丸くして哀を見る。

「まっすぐって……。何で分かったんだよ? ヒントになるようなことは一つも……」

「探偵バッチの電源、入れたままでしょ?」

「え……? ああ……」

「だからすんなり辿り着いたのよ。――ホラ、これ」

 そう言って哀はポケットからメガネを出してみせた。

「――っ! それ……」

「私が持ったままなのよ。追跡メガネのスペア」

「そいつがあったのかよ……。おい、灰原それこっちに……」

 コナンが手を伸ばしかけると、哀はメガネを持っていた手を引っ込めた。

「……おい?」

「嫌よ。これを取り上げでもしないと、あなた本当に組織へ一人で行く気でしょ?」

「っのなぁ! オメーあの時、こいつがあったからヤバイ目に……」

「私よりはあなたの方が危ない目に遭ってるはずよ。ともかく当分は返さないわ」

 そう言うと、船の中を駆け巡っている三人の方へ歩いて行った。

「おい! 灰原!!」

 後を追おうとするコナンを博士が止める。

「スペアが必要な時はワシがいつでも作ってやるよ」

「……いや。そういうことを言ってるんじゃ……」

「まあ、今回はええやんけ。あのちっこい姉ちゃんが言うことにも一理あるし、な?」

「……」

 二人に言われ、コナンは不満そうにそっぽを向いて海を眺めた。



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