殺人への誘い 〜第十章:背後からの影〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





「つーか、何でこう探偵ってのは強情なわけ?」

 話もとりあえずまとまったということで、遅めの昼食でも行こうかと、三人は部屋を出た。
食堂へ向かう途中で、半ば強制的に参加させられた捜査協力に、快斗は小声でコナンに毒づく。
その言葉に、コナンは不満そうに快斗を睨み返した。

「別に俺は強制してねーだろ」

「今回に限っては、な。前の二件のことを含めて言ってんだよ」

「バーロ。最初の事件は、オメーが当事者だったからだろうが。
 そもそもあの時は、オメーの容疑に関してがグレーの状態。
 こっちに何の利点もないのに、何で俺だけが動かないとダメなんだよ。
 それにもう一つの事件に関しては、依頼して来たのそっちだろ? 俺が呼びつけたんじゃない」

 言い切るコナンを、快斗は納得が行かない様子で見る。

「その、いかにも正論っぽい言い方で、こじつけるのは卑怯なんじゃないんですかね?」

「ただの事実だろ?」

 呆れたように言い返すと、それ以上の不満は無視するように、コナンは快斗から目を逸らした。
快斗は尚も腹立たしげにコナンを睨むが、その内に諦めてため息をつくと、二人の後を追いかける。

「そう言や、工藤。お前、普段あの兄ちゃんのこと何て呼んでんねん?」

「は?」

「名前や名前。まさか何の名前も呼んどらん、なんてことはないんやろ?」

「あー……」

 平次の言葉に、コナンは苦笑いしながら首をひねった。

「一つだけあるっちゃあるけど……」

 言葉を濁らせて、コナン意見を窺うように快斗へ視線を動かすが、
それに気付いた快斗は、目を見開いて顔を左右に激しく振った。

「……だろうな」

「何がや?」

 コナンの呟きに平次は不思議そうに問うが、コナンはそれに答える代わりに肩をすくめた。

「悪い。さすがにそれは無理だな」

「やから何がや!?」

「俺が普段こいつを呼んでる呼び名だよ。一つだけあるけど、さすがにちょっと言えそうにない」

 苦笑いして言うコナンに、平次は不思議そうに眉を寄せるが、すぐに息をついた。

「まあそれやったらそれで構へんけど、せやったら――」

 言いかけた平次の言葉が、突如鳴った電子音に遮られる。
その音に慌ててコナンが、探偵バッジを取り出した。

「――何だ、どうした?」

『あ、コナン君! 大変なんです!』

 いきなりの連絡に、コナンは顔をしかめながらそう訊くが、
妙に押し殺した声がバッジから聞こえてきたことに、コナンは顔を曇らせる。

「おい! 自分たちだけで危ないことには首突っ込むなって――!」

『……でもそのお陰で犯人見つかったかもしれないんだよ?』

「何っ!?」

 バッジから聞こえてくる声は、当然コナンの傍にいる、平次と快斗にも聞こえている。
歩美の言葉を聞いた途端、平次がコナンの横からバッジを取った。

「――おい! そらどういう事や!?」

『そ、それがですね……』

『俺たちが船の中歩いてたら話し声が聞こえてよ』

『何言ってるか分からないんだけど、柱の影から覗いてたら見えたの』

「見えた?」

『うん……。怒鳴ってる方の一人が、ポケットに手を入れてたんだけど、
 そこからチラッと黒っぽい何かが見えたんだ』

 コナン達三人はこれに目を見張る。

「黒っぽい何かって……おい! まさかそれ――!」

『恐らくは拳銃でしょうね。多分、昨日の発砲事件があった時のじゃないかしら』

「何だと!? ――おい、そいつ誰か分からねーか!?」

『そうね……分かるのは……』

『――あっ!!』

 短い叫び声が聞こえたと思うと、バッジの奥で何かの破壊音が鳴った。
耳につく高い音が一瞬聞こえたのを最後に、バッジからの反応がない。

「おい……?」

 予想される事態にコナンは茫然として立ち尽くすが、すぐに先程平次に取られたバッジを乱暴に引っ手繰った。

「――どうした! 返事しろ!! おいっ!!」

 バッジに向かってそう怒鳴るが、雑音すらも返って来ない。

「――くそっ!」

 そう吐き捨てると、コナンは平次の方へ部屋の鍵を投げてロビーの方へと走り出す。
いきなり投げられた鍵を平次は慌てて掴んでから、コナンに向かって大声を上げた。

「工藤! 何処行くねん!!」

「捜してくる!」

 コナンの姿が小さくなるのを見ながら、平次は顔をしかめながら呟いた。

「捜してくる言うたかて、当てがあるんかいな?」

「当てがないから、捜すって言うんじゃねーの?」

 平然と言う快斗を、平次は不満そうに睨むが、その直後思いついたように快斗へ訊いた。

「せや、兄ちゃん、結局自分何つーねん?」

「……何が?」

 平次の言葉に快斗は目を丸くする。

「名前や名前。呼ぼ思ても工藤がアンタの名前呼ばへんから、分からんねや」

「ああ……。黒羽だよ。黒羽快斗」

「さよか。――おっしゃ、ホンなら手分けして工藤とあのガキら捜すか。
 腹も減ったけど、昼食はこら後回しやな」

 平次の言葉に快斗は無言で頷くと、コナンの走って行った方を指差した。

「じゃあ、そっちの方向は西の探偵君に任せるよ。俺は反対方向から捜してみるから」

「おう、頼んだで!」

 平次は快斗が行くのを見送ってから、コナンの走って行った廊下を走り出す。
だが、すぐに足を止めて快斗が行った方向を振り返った。

(待てや? 俺、自分から『西の高校生探偵』て言われてる話したか?
 ――いや、ちゅうより、工藤が俺の名字呼んだくらいで、俺は自分から本名名乗っとらん。
 ホンなら何でアイツ……俺が『西の高校生探偵』言われてるて分かったんや?)

 快斗の言動に不信感を覚えて、後を追いかけようかと走りかけるが、動きを止める。
しばらく何かを考えた後、平次は踵を返すと、コナンの駆けて行った方向へ走り出した。

 足音が遠ざかったのを確認してから、快斗は角からひょっこりと顔を出して、廊下を確かめる。
既に平次の姿がなくなったことに安堵すると、ゆっくりと息を吐き出した。

「……また何か墓穴掘ったかな、俺」

 おっかねえと肩を縮めると、快斗はそのまま平次とは反対方向に駆けて行く。
――実は、平次にコナンの向かった方へ行かせたのには理由がある。
そうすることで、その廊下を辿った先で、自分の宿泊部屋の前を通るのだ。
快斗は躊躇うことなく自室に戻ると、スーツケースの中を開けた。



「なあ、蘭ちゃん、園子ちゃん?」

 蘭と和葉それに園子の三人は、食堂にて昼食中。
だが、周りにはボーイかメイドしかいないという静まりようだ。

「ここ、誰もおらへんけど、平次らまだ捜査してるんやろか?」

「……そうじゃないかな? それ以外に考えられないし」

 蘭の言葉に和葉は肩をすくめた。

「事件に夢中でご飯も食べへんやなんて……」

「でも蘭? それじゃあコナン君もまだ捜査してるの?」

「……多分」

 蘭は苦笑いしながら答える。その言葉に、和葉は両手をテーブルについて身を乗り出した。

「蘭ちゃん! 適当にコナン君止めな、将来大変なことになんで! 
 平次みたいに、女のことすっぽかして事件中心な人間になるんちゃう?」

「まさか!」

 真面目な顔で言う和葉に、蘭は可笑しげに言う。
だが、和葉の言葉に園子は意味ありげに顎へ手をやった。

「そうねぇ。蘭みたいに旦那を健気に待ってる人じゃなかったら、大変かもねぇ」

「――誰が旦那よ! 大体、私は別に新一を待ってるわけじゃないわよ!」

 ムキになって言い返した蘭に園子は目を細めると、ニンマリと笑う。

「べっつにー? 新一君なんて、一言も言ってないんだけど? そっか、やっぱり蘭は旦那=新一君なんだ♪」

「園子!!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る蘭に、園子は大笑いしながら片手を振った。



「――あった! これだ!」

 昨晩、キッドと会った甲板。廊下から走って一目散にコナンがやって来たのはそこだった。
歩美の言った柱という言葉とバッジの奥から聞こえてきていた波音。
それを頼りに、大体の目星をつけてイチかバチかここへ向かったのだ。
昨日キッドと対峙した際、その傍に柱が立っていたのと、しっかり聞こえた波音。
バッジから聞こえてきたその音が似ていたために、ある程度の見当はついた。

 直前に子供たちがいたであろう柱周辺を見渡して、
その近くに、砕け散った何かの破片が散在しているのを目に止めると身をかがめた。
その破片の一部に、見慣れたデザインの破片を見つけて舌打ちする。

「……やっぱりか」

 コナンは悔しそうに呟いた。
交信中に聞こえた高音は、バッジを壊されたことによる衝撃音。
それ以降、雑音すら聞こえなくなった時点で、犯人に襲われたことは予想がついた。
自発的にバッジの電源を切った可能性もあったが、交信中にそれをするとは思えない。
特に、緊急的に自ら連絡をしてきたのであれば尚のことだ。

 だが、散らばった破片を見るに、壊されたバッジは一つのみ。
他の三つがまだ生きているとすれば、捜索は可能だ。
追跡メガネで後を追おうと、メガネのツルに触れる。

 丁度その時だ。
頭に衝撃を受けて、コナンはその場に倒れ込んだ。
――だが意識はある。痛む頭を押さえながら、後ろを振り向こうとしたコナンの口を何かが塞いだ。

(……このっ!)

 睡眠薬入りの布。それはすぐに分かった。
何とか逃れようとその場でもがくが、どうにも抜け出せない。
おまけに、逃れようと激しく動く度に、殴られた頭の痛みと眩暈に襲われ悪化の一途。

 さすがに抵抗し続けるのにも限度がある。
朦朧としかけた意識の中で、何とか事態を打開しようと、
止む無く麻酔銃に手を伸ばすが、それを撃つよりも早くコナンの意識が途絶えた。



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