殺人への誘い 〜Epilogue:追及〜


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Epilogue【おまけ】: <<怪盗  <<西の探偵  <<東の探偵  *** Epilogue: <<入港 / 正体バレ編: <<痛手  *追及*




 【 ※この話は平次が「快斗=キッド」だと知る章です。嫌な方はお気をつけ下さい 】
 【 ※他エピローグとは繋がりがありません。単体エピローグとしてお楽しみ下さい 】



「――あれ? 西の探偵に言わずじまいか?」

 午前〇時前、甲板にやってきた快斗は、甲板にいるのがコナンだけなのを見て不思議そうに訊く。

「いや? 服部なら、トイレに行ってから来るってさ」

「ああ、それで」

 快斗は頷きながらそう言うと、コナンのいる舳先の方まで歩く。
隣に並ぶように手すりにもたれた快斗を一瞥してから、コナンは片手を快斗の前へ出した。

「服部がすぐに来ねーって言うから、一応持ってきたけど、どうするこれ?」

 コナンの手に握られていたのは、カモフラージュのためにウィリアムが盗ったライラック・サイス。

「オメーが甲板からいなくなってから、ウィリアムさんの部屋を調べたらベッドの下に隠してあってな。
 一応、今のところキッドが盗んだってことになってるから、そっちからゲオルクさんに返すか?
 まあ遅かれ早かれ、宝石の件の疑いは晴れると思うし、わざわざお前の手から返す必要はないだろうけど」

「……そうだな。でもまあ、色々騒がせたわけだし、謝罪の意味も込めてこっちから返すよ。
 もう本人の手には戻ってるだろうけど、ルビー・ローズは盗んだわけだし、
 何もせずに性質の悪い怪盗だとは思われたくねーからな」

 そう言いながら宝石を受け取る快斗を、コナンは怪訝そうに見る。

「性質が悪いから犯罪者なんだろ?」

「いやいや。性質が悪い犯罪者に、あれだけ大勢のファンが付くとでもお思いですかな、探偵君」

 ニッと笑って言う快斗に、コナンはため息をついた。

「自画自賛な傾向にあるのは、キッドの時でも今の時でも同じだな」

「とんでもない! あくまで、事実を述べてるだけです」

「そういうのを、一般的に『自画自賛』っつーんだよ!」

 わざとらしくおどけて言った快斗の言葉に、コナンは面倒くさそうに反論を返す。

「もう少し、寛大に物事を考えられるよう心を広く持っては如何です?」

「寛大になりすぎたら、ただの呑気な人間になるだけじゃねーか」

 コナンの言葉を聞いて、快斗は呆れたように呟いた。

「……オメーの場合は、真面目な話、もう少し呑気になった方が良いだろ。息詰まんない?」

「お前がそう感じるんなら、そっちが呑気すぎるだけだろ。
 大体、死ぬのを前提にあんな無謀な計画考え付く方がどうかしてんだよ」

「無謀な計画? ……ああ、西の探偵を先に帰したあれね」

 軽く笑いながら言ってから、快斗は意味ありげな表情でコナンを見下ろした。

「なあ、あれで死んだと思った?」

 その質問に、コナンは少し驚いた様子で目を見開くが、すぐに難しそうに眉を寄せた。

「……どうかな」

 独り言のように呟くと、腕を組みながら首を傾げる。

「でも、死んだとは思わなかったな」

 その言葉に、快斗は意外そうに目を瞬いた。

「……ほーう? 死んだって思わなかったのは何でまた?」

「オメーの正体がキッドだって知ってんだから、脱出が得意なことは分かってるし、
 爆弾と縄の関係性に気付いてさえいれば、恐らく大丈夫だろうとは思ってたからな。
 第一、服部にその提案した時点で、勝算はあったんだろうし、酷くて大怪我止まりだろってくらいだ」

「へえ? ちょっと意外だな」

「そうか?」

 笑いながら言った快斗を、コナンは不思議そうに見返した。

「だって、それって要はキッドの能力認めてるってことだろ?」

「単純に逃走手段に長けてるだけじゃねーか。何肯定的に解釈してんだよ、この犯罪者」

「犯罪者って……そりゃ事実は事実だけど、こっちは宝石盗むだけだぜ?
 それだって別に懐に収めてるわけじゃねーし、持ち主にだってちゃんと返してんだろ?」

「だからそれとこれとは話が違う――」

 不満げに言う快斗に言葉を返すコナンだったが、途中で不自然に言葉を切った。
心なしか引き攣ったその表情は、ある一点を見つめている。

「何だよ、名探偵。反論があるんなら言ってみろっての」

「――何やえらい態度のデカいコソ泥さんやなァ?」

「……はい!?」

 突如、背後から聞こえた声に、反射的に反応するが上げた声は裏返っている。
快斗が振り返った視線の先にいたのは、刺すような視線で睨む平次の姿。
状況から察するに、直前の二人の会話を聞いて大体のことを把握したのだろう。
快斗は顔は動かさず、目だけ動かしてコナンの様子を窺うと、ひどく困った様子で片手を頭に当てている。

(ですよねぇ……)

 この状況で、すぐさま妙案が思いつけば苦労はしない。それはコナンも同じようだ。
だが、沈黙が続くのも好ましくないのは事実。どこまで通じるかは分からないが、誤魔化して損はない。

「結構早かったんだな、トイレ」

 何とか平静を保ちながら言う快斗だが、平次の態度は至って冷たい。

「アホ。遅いくらいや。工藤が俺の部屋に来た時から、最低でも十分は経っとるわ」

「……そうだっけ? ……まあ探偵君と話してたから、短く――」

「なるほどなァ、それで“名探偵”や“探偵君”なわけか」

 平次は腕を組みながらコナンを見ると、意味ありげに快斗を見やる。

「工藤がアンタのことを名前で呼ばん理由は、普段アンタのことを“キッド”っちゅうてるからなんやな。
 ホンで、アンタはアンタで“キッド”の時に呼んどるんと同じように工藤を呼んでんねや。
 甲板に現れたキッドは工藤の事を“名探偵”ないしは“探偵君”て呼んどったからな」

「……いや、ちょっと待てよ。それだけでキッドにされちゃ――」

「さよか。せやったら何で『盗った宝石を返す』っちゅう、キッドがするような行為をアンタがやる必要があるんや?
 普通あんなセリフ、キッド本人やなかったら言わんはずやろ。納得いく説明してもろても構わへんか?」

「だ、だからそれは……その……」

 予想以上の平次の剣幕に、快斗は無意識に後ずさりする。
次第に語尾が小さくなっていく快斗とは裏腹に、平次の尋問は勢いを増した。

「そう言やそうや。アンタ、今日食堂出たとこで会うた時、工藤の怪我のこと知っとったな。
 犯人とのゴタゴタが片付いて、キャビン戻ったんは三時過ぎや。
 食堂でアンタに会うたんが七時半頃。しかも深夜の四時間足らずの間に、部屋来るわけがあらへん。
 俺と会うまで、工藤の怪我は知らんで当然のはずやのに、何で知っとったんや?」

 その質問に、すっかり黙り込んだ快斗を見て、平次は蔑むような視線を快斗へ送る。

「知っとった理由は一つやわな。アンタも工藤も『事件があってから一回会ってる』言うた。
 事件があってから会うた人物言うたら、まだ犯人とやりあってる時に、甲板やって来たキッドだけや。
 ――どや? どっか間違うてるか? それとも白切り通すか?」

「…………嫌だね」

 平次の問い詰めに、快斗はボソッと呟いた。

「確かにキッドだってことは認めるよ。白切り通しても墓穴掘るだけっぽいし。
 ただし、それ以上の詮索は断る。口答えしたって聞かねーからな」

「詮索するな言うんやったら、せえへん。けどな――」

 平次は快斗の腕を予告なく引っ張った。

「おい!」

 呆気にとられている快斗には構わずに、平次は快斗を引っ張りながら客室へ向かい出す。
――平次がそうした理由はただ一つ。中森警部の所へ連れて行かせるためだ。
その意図が何となく分かって、快斗の顔に焦りの表情が見え始める。

「ちょっ……待っ……!」

 平次の手を振りほどこうにも、かなり強く握ってるらしく振りほどけない。

「――やめろ、服部」

 今までそのやり取りを黙って見ていたコナンが、静かに口を開いた。
だが、その内容に平次は不服そうにコナンを睨み返す。

「何でや? 間違いなくキッドなんやろ? せやったら中森っちゅう警部に――」

「お前がそのまま中森警部の所へ行くんなら、俺はキッドを援護するぜ?」

 予想外の言葉に、平次だけでなく快斗も目を見開いた。

「俺が前からこいつの正体知ってるくせに、中森警部に言わない理由はちゃんとある。
 犯罪者目の前にして、警察に突き出さないってのも変な話だけど、少なくとも今の状況はフェアじゃない。
 捕まえるんなら、そいつの犯行時に、自力で追い詰めた時にしろ」

「せやけどなァ……」

「そもそも、俺の正体知ったところでこいつは何もしていない。
 にもかかわらず、こっちが正体知ったら警察に突き出すってのは、さすがに不公平だろ?」

 続けて言われた言葉に、平次はどこか納得いかない様子でコナンを見るが、
その内に深いため息をつくと、諦めたように快斗の腕を掴んでいた手を放した。

「まあええわ。……それにアンタに負い目もあるしな」

「負い目?」

「アンタの出した提案のんだやろ? あれで危ない目ェに遭わせた原因はこっちにも――」

 平次はそこまで言いかけて言葉を切った。快斗が可笑しそうに笑い出したのだ。

「大丈夫。危ない目には遭ってねーから」

「は?」

 快斗の言葉に、平次は驚いた様子で目を丸くした。

「あの爆発は、かすってすらいませんよ?」

「何やてェ!?」

 思わず声を上げる平次とは違い、コナンは不満げな顔で快斗を睨んだ。

「……要は早い段階から脱出してたってことだよな?」

「そういうこと。第一、あの状況であそこに長いするのは自殺行為だろ」

「だったら何で甲板に姿現したタイミングが大分遅かったんだよ?
 お前の話が事実なら、下手すりゃ服部よりも早い段階で来れたんじゃねーのか?
 助けろって言う気はねーけど、あの時点で生存確認出来てりゃ、こっちだって動き方が変わってたぞ?」

「まあ、こっちにも色々と都合があったもんで」

 ニッコリと笑う快斗に、コナンは呆れたようにため息をつく。

「キッドの衣装取りに行ってたとか、くっだらねー理由じゃないだろうな?」

「……くっだらねー理由で悪かったな」

 眉を上げながらそう言った後、快斗は一転して表情を変えた。
快斗は企むような顔でコナンの方に歩み寄ると、コナンの服を掴んでヒョイッと持ち上げる。
そして、コナンを掴んだ手をそのまま海へ伸ばした。

「ガキの姿で、大人を煽らない方が良いぜ? 探偵君?」

「おい……何やる気だ?」

 服を掴んでいる手を快斗が離せば、そのまま海の中へ落ちることになる。

「この状況見て分からねーか? こうなりゃ、後の行動は一つだろ」

 ニヤッと笑う快斗に、コナンの顔に焦りの色が見え始めた。

「――このまま落とす気かよ!?」

「さーて、どうでしょうかね?」

「ちょっと待て! こっちはまだ昨日の怪我が――」

「行ってらっしゃ〜い♪」

 コナンの言葉を遮って言うと、快斗は躊躇いなく片手を離した。



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