殺人への誘い 〜第三章:重なる疑問〜


<<第1章   <<第2章   *第3章*   >>第4章   >>第5章   >>第6章   >>第7章   >>第8章

>>第9章   >>第10章   >>第11章   >>第12章   >>第13章    >>第14章   >>第15章   >>第16章

>>第17章   >>第18章   >>第19章   >>第20章   >>第21章   >>第22章   >>第23章   >>第24章

Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





 コナンは依然として予告状に目をやっている。
平次にしてみれば、何度見てもどう目を凝らしても、予告状に何か意味があるとは思えない。
だが、コナンはどうしても何か引っかかるらしく、時には頭をかきむしりながら、睨み合いを続けていた。
一向に話が進みそうにない状況に、平次は面倒くさそうにため息をもらす。

「おい、工藤。違和感があるないは気の済むまでやったらええわ。
 けどずっと考えこんどってもしゃーないやろ。
 何や飲み物でも買うてきたるし、少し休憩しよや」

 半ばなだめる口調で言われて、コナンはようやく顔を上げる。
そのまま平次に視線を合わせると、一言呟いた。

「なら俺はアイスコーヒーな」



 通路の途中にあった自動販売機。
そこに陳列してある缶を見ながら、コインを入れてボタンを押す。
同じ作業をもう一度繰り返して、手に缶コーヒーを二つ持ってから不満げに毒づいた。

「おごる言うたら反応してきよって……。要領が良い言うか、せこいっちゅーか」

 視線を落としがちに歩きながら、平次は一人愚痴をこねる。
ふと自分の視界が暗くなったのに気付いた瞬間、目の前に出て来た人間とぶつかった。

「――おわっ!?」

 同時に二つの声が響いたのと同じくして、揃ってしりもちをつく。
それぞれが腰を上げた頃、平次が先に声をかけた。

「すんませんなぁ……ちょっと考え事してたもんやから……」

「あ、いえいえ。こちらこそ前をよく見てなくて……」

 平次は謝ろうと相手の方へ顔を上げて言葉を失った。

「……あの?」

 平次の酷く驚いた顔に、相手が何か言いかけたが、後方で聞こえた声に遮られる。

「――ちょっとーっ! 何やってんのー? 早く来なさいよーっ!」

(――ん? ちょ、ちょー待て!)

「あ、それじゃあ失礼します」

 相手が頭を下げてから行きかけるのを、平次は無意識に声をかけていた。

「ちょ、ちょー……」

「え?」

 驚いたように相手が振り返るが、平次は小刻みに顔を横に振る。

「あ……いや。何でもあらへん……スマンな……」

「?」

 不思議そうに首を傾げて相手は去って行く。
平次も同様に首を傾げて顔をしかめると、床に転がった缶コーヒーを拾い上げてから、ロビーへ急いだ。



「――あぁ、サンキュー。服部」

「……おう」

 渡された缶コーヒーを受け取ると、コナンは手に持っていた予告状を横へと置いた。
一息入れようかと、アイスコーヒーを口にするコナンだが、視線に気づいて隣を振り返る。
幽霊でも見るような顔で自分を見ていた平次に、コナンは思わず吹き出した。

「何だよ!? その気の抜けたような顔は!」

「……そんな顔してるか?」

 か細い声でそう言うと、平次は重苦しくため息をつく。

「おい工藤。お前、ずっとここにおったか?」

 疲れ切ったような平次から出た言葉に、コナンは顔をしかめる。

「はぁ? 当たりめーだろ? 他に何処行くんだよ?」

「……せやんなぁ。そらそうに決まっとるやんなァ……」

 ほぼ呟きに終わる平次の言葉に、コナンは不気味そうに平次の様子を窺う。

「……おい、大丈夫か? いつも以上に変じゃねーか?」

「いつも以上、だけ言葉余計や」

 睨み目で言われるコナンだが、その反応にコナンは呆れたように平次を見返した。

「反応普通のくせして、その魂抜け切ったような行動は何だよ?」

 そう言われて、平次は吐き捨てるように息をつくと、いきなりパッと顔を上げた。

「アカン! 訳分からん!」

「訳が分からねーのはオメーの方だ! ――何なんだよ、さっきから!」

「……文句やったら向こうに言えや」

「向こう?」

 平次の事情を知らないコナンは、不思議そうに首をひねる。

「俺とぶつかった相手や。そいつのせいで混乱しとんねんから」

「……何でぶつかったら混乱しなきゃなんねーんだよ?」

 平次はソファに座り直して、コナンの方を見た。

「実はな。さっき、自販機行った帰り、一人の男に会ったん――」

「あ! おった! 平次ーっ!」

 遠くから聞こえてきた声に平次は不満そうに呟いた。

「……何でこうタイミング良く邪魔が入んねん」

 半ば脱力しながら後ろを振り返ると、和葉が息を切らしながら立っていた。

「何の用や、一体」

 和葉は今自分が走ってきた通路の方を指差した。

「何て、ご飯やん」

「……は? め、飯……やて?」

「せやで? もう夜の七時やのに、平次とコナン君だけ食堂におらへんし、
 部屋にもおらへんから、蘭ちゃんと園子ちゃんと手分けして探しとってん」

 和葉はそれだけ言うと、携帯を取り出してボタンを押している。
あらかた二人が見つかったことを、蘭にでも連絡しているのだろう。
和葉のその行動を見て、コナンは平次に小声で訊く。

「で? その会った男がどうしたって?」

「ぶつかった相手、っちゅうんがその男やったんやけど……」

「ああ」

「驚いたことに、そいつが……」

「――何してんの? 二人でコソコソと」

 報告が終わったのか、不思議そうな様子で和葉が二人を眺めている。

「あ……いや……。何でもあらへん。――ホンなら飯食べに行くか!」

 その場を取り繕うように、平次は一人で足早に食堂へと向かい出す。その後を和葉が慌てて追いかけた。

「ちょっ……平次! 待ってぇや!」

 前を行く二人を見てコナンは肩をすくめてから、苦笑いした。

(……中途半端な所で話止められると、気になってしょうがねーんだけど……)



 三人が食堂車に着くと、和葉の言葉の通り、他のメンバーは既に席に座っていた。
テーブルの都合上、一度に座れる人数はせいぜい五〜六人だったため、
必然的に、蘭たちと博士たちの机に別れてはいたが、テーブル自体は隣同士だ。

「コナンくーん!」

「こっちですよ!」

 声のした方を見れば、探偵団の三人が勢いよく手を振っている。

「あ、おう……」

 コナンは三人の方へ走って行く、空いてる席に腰を下ろした。

「遅せぇーぞ、コナン! 俺たちなんて、真っ先に着いてたのによ!」

「そりゃそうですよ! 元太君、夕方の六時過ぎからここに来てるんですよ?」

 光彦の言葉に、元太は照れたように頭をかく。
そんな様子を笑って見ながら、哀が意味ありげにコナンの方へ視線を向けた。

「まあ、江戸川君の場合、三度の飯より事件の方が大事なんでしょうけどね」

「あのなぁ……」

 哀の皮肉にコナンは顔をしかめるが、
その言葉に歩美が思い出した様子で、椅子から身を乗り出した。

「そうそう! 園子お姉さんに聞いたけど、キッドが来るって本当!?」

「ああ、らしいぜ。ホールにいてた中森警部に話を聞いたら、キッドからの予告状が来たってよ」

「ホント!? じゃあ、会えるかな?」

 歩美の嬉しそうな顔にコナンは軽く笑う。

「そりゃ、盗む宝石が展示してあるホールで待っときゃ、見れるんじゃねーか?」

「ホント!?」

 コナンの言葉に三人はお互いの顔を見て歓声を上げる。

「予告時間は午後十時でしたよね!?」

「そんじゃあ、午後十時は全員ホールに集合だぞっ!」

「オーッ!!」

 盛り上がっている三人を、微笑ましさと呆れが混じった顔で見ながら、コナンは園子の方に目を向ける。

「ところで園子姉ちゃん。キッドの狙う宝石持ってるっていう、
 フリーダーさんとゲオルクさんってどんな人なの?」

「ああ。フリーダーさんって言うのは、富豪の長女で、ゲオルクさんは彼女の恋人。
 確か、来年の春に結婚するらしいわよ。二人とも大富豪の家族にしちゃ気さくな人でね、
 今回のこの船旅、一般の人にも触れたらどうだ、って提案したの彼らなのよ」

「ふーん……」

「フリーダーさんはすっごい綺麗な人よ。博学だし優しいし、気品もあるしね。
 ストレートのロングヘアーだから見たらすぐ分かると思うわ。――でねっ!」

 園子は、いきなり胸の前で両手を組んだと思うと、うっとりした様な表情で微笑んだ。

「恋人がまたカッコイイのよ! 笑った顔がすっごい可愛くて、性格も穏やかで紳士的♪
 しかもバイリンガルって言うんだから凄いでしょ? それにね……」

(……また始まったよ)

「――あ、そうそう。これは言っといた方が良いかもね。
 さっき、通訳がいるって言ったけど、この二人はある程度日本語話せるから大丈夫よ。
 ゲオルクさんの方は日本に留学したことがあって、その時に。
 フリーダーさんは、自分の親友の友達に日本人がいて、彼女から教わったらしいの」

「でもそんな詳しいとこまでよく知ってるわね」

 関心したように蘭が言うと園子は笑った。

「そりゃそうよ。私たちの所がフェリーを出したのは、彼らに頼まれたからだもの。
 その時、通訳もなしで日本語話してるから不思議に思って訊いたのよ」

「……え? じかに頼まれたの?」

 園子の言葉に、コナンは驚いた様子で訊く。

「ええ。何か変?」

「へ、変って言うか……。どこで園子姉ちゃんの家のこと知ったんだろう、って……」

 園子は少し考えてから愉快げ言う。

「自家用のフェリー持ってるとこで、うちが一番庶民的だったんじゃない?」

「しょ、庶民的って……」

「で、キッド様からの予告状見せられて、良い手はないか? って訊かれたから
 中森警部のこと話したのよ。そしたら側近の人が話しに行っ――」

「園子姉ちゃんのとこの船を借りる前に届いてたの!? キッドからの予告状!」

 思わずテーブルを両手で叩いたコナンの驚きように、園子は何度か目を瞬いた。

「え、ええ……そうだけど……」

 戸惑いがちに言う園子の言葉に、コナンは園子から目を逸らした。

(――バカな! んなこと絶対不可能だ! でも、それじゃあ一体……)

 コナンはしばらく、テーブルに両手をついたまま考え込むが、
何を思ったのか、椅子からヒョイと飛び降りて、そのまま食堂の出入口へと駆けて行った。

「コ、コナン君!? 何処行くのよ!?」

「ちょっとトイレ!」

 蘭を振り返ってそう返事をすると、コナンはそのまま食堂から姿を消した。
コナンの行動に、残ったメンバーは不思議そうに顔を合わせて首を傾げる。
そのコナンが丁度食堂を出て来たそのタイミングで、食堂へ入ろうとした人間とぶつかりかけた。

「――っと!」

 幸い、相手の方が避けたので平次のように衝突はしなかった。
だが、そんなことには気付いていないのか、コナンは目もくれず通りを駆けて行く。
危うくぶつかられそうになった相手は、コナンの方を顔をしかめながら振り返る。
しかし、相手が見たのは丁度コナンが角を曲がりかけた時。見えたのは後姿だけだ。
相手は肩をすくめてから食堂へ入りかけたが、何かに弾かれたように再度振り返った。

「……待てよ? 今の――」

 相手は一瞬来た道を戻ろうとしたが、隣にいた連れに腕を引っ張られる。

「ちょっと! 何処行く気? お父さん待ってるんだよ?」

「あ、ああ……」

 もう一度食堂の外へ目をやったが、そこにはもう誰もいない。
怪訝そうに廊下を見つめて首を傾げるが、何事もなかったように食堂へと入って行く。

(……まさか乗ってるわけねーか。――にしても今日はよくぶつかる日だぜ)



<<第1章   <<第2章   *第3章*   >>第4章   >>第5章   >>第6章   >>第7章   >>第8章

>>第9章   >>第10章   >>第11章   >>第12章   >>第13章    >>第14章   >>第15章   >>第16章

>>第17章   >>第18章   >>第19章   >>第20章   >>第21章   >>第22章   >>第23章   >>第24章

Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及

*作品トップページへ戻る* >>あとがき(ページ下部)へ




レンタルサーバー広告: