殺人への誘い 〜第十五章:繋がらない電話〜


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Epilogue【おまけ】: >>怪盗  >>西の探偵  >>東の探偵  *** Epilogue: >>入港 / 正体バレ編: >>痛手  >>追及





 恐らく快斗も犯人に捕まったのだろうと推測した後、コナンと平次は甲板へと向かった。

「おい、工藤。どないする?
 あの妙にはしゃいどったガキらもそうやけど、万が一殺されとったら――」

「いや。恐らくそれは大丈夫だ」

 言い切るコナンを平次は不思議そうに目をやる。それに気付いたコナンは、軽く笑って平次を見返した。

「その根拠、訊きたそうだな」

「そらそうやろ。『大丈夫やと思う』とかやったらまだ分かるけどやな」

「別に深い意味はねーよ、感覚的に何となくな。たとえ殺されそうになっていたとしても、
 いざとなったら、自分たちで何とかする奴らだし、どうにか切り抜けてるさ。それに――」

 途中で言葉を切ると、かけているメガネのふちを軽くトントンと叩いた。

「最悪の場合、これであいつらの居場所分かるからな。一大事には――」

「ちょー待て! それやったら、何で最初からそれ使て、あのガキら助けんかってん!?」

 コナンの言葉を遮る形で驚いて言う平次に、コナンは呆れた視線を向けた。

「バーロ。単独犯か、複数犯かも分からねーのに、準備なしに監禁場所へ潜り込めるかよ?
 もしそれで逆にこっちが犯人に捕まった場合、誰があいつら助けんだ?」

「そ、そらそうやけど……」

「――とりあえず、問題は犯人の割り出しだな。
 被害者であるフリーダーさんは除くとして、容疑者は六人。
 ただ、犯人が単独犯なのであれば、ゲオルクさんは除外されるか」

「せやな。あの兄ちゃんが襲われた時には、俺らと一緒におった。
 あのガキらにしても、工藤にしても、兄ちゃんにしても、
 何らかの形で、フリーダーさん殺人未遂の手がかりになるようなモンを見つけた、て
 向こうが思い込んで起こした犯行に、まず間違いあらへんからな」

「となると……また容疑者に話聞きに行かねーとダメか……。おい、服部」

 平次は顔をしかめると不満そうに言う。

「分かっとるわ、聞き込みに行くことくらい」

「いや、そうじゃねーよ。
 後で合流するから、聞き込み、先にやっといてくれっつったらどうする?」

「せやなぁ……」

 平次は少し考えた様子を見せてから、コナンを見て面白そうに言った。

「合流する前に何すんねん? って訊こか?」

「あのな、俺が訊いてるのは……」

 呆れたように返すコナンに、平次は楽しそうに笑う。

「冗談や、冗談。別に他の用事があるんやったら、何人か先に訊いとったんで」

「悪いな」

「けど、ホンマに何の用があんねん?」

 不思議そうに訊ねる平次に、コナンは難しそうな顔をしながら答えた。

「……ちょっと、考えたいことがあってな」



 平次が船内に戻って行くと、コナンは甲板から難しそうな顔で海を眺めた。

(……単独犯じゃねーだろうな、この事件。誘拐されたのは合計五人。
 そんな大人数を一人で見張ることが可能だとは思えない。常に見張ってるならまだしも、
 知り合いがその人物を全く見かけなかったら、いくらか不思議がるだろ。それに――)

 一旦そこで思考を止めて後ろを振り返った。
今自分がいるのは、子供四人との交信が途絶え、すぐさま向かった甲板。
そこにあった壊れた探偵バッジの破片と、自分が襲われたその一点を見つめる。

(あいつらが犯人に捕まったかもしれないと俺が勘付いて、甲板に駆けつける時間は五分とかかってない。
 そんな短時間で、監禁場所に人を連れて行き、また戻ってくるなんて芸当普通は無理だ。
 もしそれが可能であるなら、この甲板に子供四人も隠せるスペースがある場合だが……)

 念のため甲板をくまなく調べてみても、隠しスペースはおろか、収納スペースも見当たらない。
仮にからくり屋敷のように、何か仕掛けがあるとしても、この船は鈴木家自前のものだ。
今回初めて乗った人間が、その仕掛けを熟知しているとも到底思えまい。

(だとすると、犯人は二人以上としか……でも待てよ?
 事を起こしてる犯人が一人で、他の人間は何も知らされず手伝わされている、
 なんてことは――って、んなこと不可能に決まってるか。
 事件とは関係なさそうなガキを監禁してる時点で、気付くよな、普通……)

 良案だと思いつくが、冷静に考えて不可能なことに気付く。
コナンは軽くうなだれると、深々とため息をついた。

(……考えててもしゃーねーか。とりあえず――)

 コナンは携帯を取り出すとボタンを押す。
受話器の奥でしばらく呼び出し音が聞こえた後、相手が出た。

『――おう、何や?』

「服部か? 今から合流しようかと思うんだけど、オメー今何処にいる?」

『今か? ゲオルクさんらと、通訳の兄ちゃんらが終わって、
 丁度アルベルトっちゅう兄ちゃんトコに向かってんねや。せやから……』

 平次が辺りを見渡すと、食堂が目に入ってくる。

「せやな! 今、食堂の傍におるし、そこで待っといたるから、そこ来いや」



 コナンは食堂で平次と合流してから、アルベルトの部屋へと向かった。

「――あ、そうだ。ゲオルクさんたちのアリバイどうだったんだ?」

「アリバイか? 誰もあらへん。まあ、あの兄ちゃんの一件に限って言うたら、
 ゲオルクさんはアリバイ成立やろうけどな。
 さっき工藤が言うてたように、複数犯やったらアリバイあっても同じことやけど……」

「……そのことなんだけど、単独犯だとしたら色々無理な点があんだよ」

「無理な点?」

 不思議そうに訊き返す平次に、コナンは今しがた思いついた考えを説明する。

「まあ言われればそうやけど……。
 あのガキらの一件は、犯人の方がどうせ工藤が来るて読めたやろ?」

「そりゃ、そうだろうな。でなきゃ、甲板になんて戻って来ねーだろうし」

「それ分かっとったら、あのガキらをどっか死角になるような所に運んどって、
 工藤が来てから、どうにかするつもりやったっちゅうことも可能やで」

 これに、コナンは呆れたように言葉を返す。

「俺が甲板に着くまで五分もかかってねーんだぞ? かかってせいぜい二〜三分だ。
 そんな短時間で、子供四人も何処かに運んで行けるか? しかも一人で」

「……工藤、お前どうしても複数犯にしたいんか?」

 怪訝そうに訊く平次に、コナンは不満そうに答える。

「何でそうなるんだよ?」

「せやかて、単独犯の犯行や、みたいなこと言わへんやないか」

「確かに今回の事件、俺は単独犯の犯行には否定的さ。
 単独犯にしちゃ、不可解な点が多すぎんだよ。
 でもだからと言って、単独犯だという可能性を捨てたわけじゃない」

 平次はチラッとコナンを見やってから、視線を元に戻して呟くように言った。

「単独犯か複数犯か、確実やあらへんけど、決める方法はあるけどなァ……」

「――えっ!?」

 目を丸くするコナンに、平次は困ったように顔をしかめて頭を掻いた。

「けど、そないな偶然が重なる時がある時はあるやろうから、確かやとは言えんけどな」

「どんな方法なんだよ?」

 そう訊ねたコナンを、平次は煮え切らない表情で見た。



「――全員、アリバイなしやな」

 一通り聞き込みが終わり、ロビーに来たコナンと平次。
とりあえず二人は、置いてあるソファに腰を下ろして一息つくことにした。

「ああ。おまけに都合良く、全員自室にいたわけだけど……」

「自室におったんは、たまたまやっちゅう可能性があるにしたかて、
 誰もが誰も都合良く部屋におるっちゅうんもまた考えもんやで。
 ――どや? 複数犯やと思うか?」

「俺は元々、複数犯の可能性が高いってのを推してるよ。
 ただ、自室に全員がいたとなると、一つ妙な点があるな」

 平次はこれに、不思議そうな様子で目を瞬いた。

「オメーがさっき言ったように、聞き込みの際、全員が自室にいた場合、
 複数犯の可能性が高い、っつーのは確かだ。
 仮に犯人が二人だとして、常に自室に滞在している犯人が一人。
 今みたいに聞き込みがあった時、携帯か何かで連絡し、自室に戻るよう促す役目としてな」

「聞き込みの際に自室におったら、少なくとも監禁場所にはおらんっちゅうこっちゃ。
 発砲事件のアリバイはないにしても、誘拐事件に関しては無関係やて言い張れる。
 『誘拐されている時には、自室にいましたよ』とでも言うんやろな。
 ――ホンで? それのどこが妙やねん?」

「全員が自室に戻ってんなら、誰が見張りをするんだよ?
 いくら自分の聞き込みが終わったからといって、俺たちがもう訪れないという確証はないはず。
 確認か何かのためにまた訊きにくるかもしれないからな。
 『その時に部屋にいなくて、変に何かを勘ぐられたら……』とか思うだろ?
 仲間の一人が自室で待機してる、っつー工作をするくらいの奴らなんだとしたら、
 捜査してる人間の裏をかこうとするさ。だとすると、少しの間は自室に残ってるはずだよ」

「監禁場所に見張りがおらへん間に、あのガキらが逃げ出す危険を冒してまで、
 そないなことはせぇへんっちゅうわけか?」

「おそらくはな。例えばオメーが犯人だった場合、
 見張りがいないってのに、監禁場所から離れたりするか?」

 提案されて、平次は少し唸った。

「……まあ時と場合によるやろうけど、大概は、見張りあらへんのに、
 人質そのままほっぽってどっか行くっちゅうんはまずないやろな。
 万一、逃げられて真相話されたらシャレにならんし」

「だろ? 犯人が全員そういう行動をしているとしたら、辻褄が合わねーんだ。
 周りに、犯人がいないのなら、何とかして逃げ出そうとするさ。
 少なくとも、バッジで連絡くらい出来る。それが無いってことは、未だに捕まってる可能性が高い。
 逃げるチャンスはいくらだってあるにもかかわらず、な」

「見張りが誰かおる、っちゅう解釈も出来んことはないやろうけど、
 容疑者全員部屋におったしな」

 コナンと平次は顔を見合わせて、肩を落とすとため息をついた。

「まだ見通しつきそうにねーか……」

「監禁されとる誰かに連絡取れたらええんやけど――って、おい工藤」

 腰を下ろしていたソファから立ち上がり、何処かへ行きかけたコナンに、
平次が不思議そうに声をかける。

「何処行くねん?」

「何処って……トイレだよ」

 キョトンとした様子でコナンは言葉を返した。

「……さよか。――あ、けど気ィつけや」

「誰がアイツみたいに襲われるかよ」

「よー言うわ。三人ん中で真っ先に襲われたんは誰や?」

 コナンはムッとして何かを言いかけたが、内容自体は確かに事実だ。
文句を言うのを諦めて、そのまま無言でトイレへと向かった。



 向かったトイレが、快斗が襲われたと思われるトイレだったことに、コナンはトイレを出てから気が付いた。
その時の違和感を思い出して、コナンはトイレへ戻るとタイルに視線を落とした。
やはり何かが気になって、コナンはその場にしゃがみ込む。
そのまま床全体を見渡すが、一切の汚れが見当たらないことに、コナンは首をひねった。

(確かあの時はあったはずだよな……?
 誘拐した痕跡を消すために、血を拭った可能性が高いけど、何でわざわざ……?)

 奇妙に思いつつも、ロビーへ戻ったコナンは、そこで別の違和感に気付く。
ロビーに戻ると、今までいたはずの平次の姿も見えなかったのだ。
別のトイレにでも行ったのかと、しばらく待った。

 ――十分、十五分。いくら待っても平次が現れる気配がない。
不思議に思って、平次の携帯に電話をかけてみたコナンだったが、
呼び出し音が途切れた後に聞こえてきたのは、期待していたものではなかった。

『お客様のおかけになった電話番号は、電源が切られているか、
 電波の届かないところにあるため会話が出来ません』

 コナンはそれを聞くと、携帯を閉じた。
それと同時に、苦い顔をしながら軽くため息をもらす。

「……冗談じゃねーぞ。これ以上」



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